第四十六話 少年Aと人獣戦争終戦
前回までのあらすじ
平和に暮らしていたある日、神を名乗る者からクラスメートごと異世界に飛ばされた慎也は『近神者』という特殊能力を手にし、冒険者としての生活を歩み始める。その中途での地球での親友との出会いと別れ、邪神教団との戦いを終えた彼は、次に人間国と獣人国との戦争が発生することを聞き、春香のことを心配して戦場へ訪れる。
その戦争を(春香を傷つけさせないために)終わらせようとするために、陸を二つに割り、その二つを結ぶ場所を守り、降伏を促すための戦いをする。その途中で慎也は、元クラスメートの田中と死闘を繰り広げ、途中に気を失うが、謎の力によってこれを退けた・・・。
「・・・・さん!!・・・・・・・さん!!!・・・・・・さい!!」
・・・うるさい。俺は眠いんだ。
「・・・・さん!!・・・・・ヤさん!!!」
・・・・しつこい。今日は大体休日だろうに・・・。眠すぎる・・・から、寝かせろ・・・・。
「・・ンヤさん!!・・・・ください!!!・・・・礼します!!!」
「・・・!?げほっ!ごほっ!!!」
バシャっと水を顔にかけられる感覚とともに俺は目を覚ました。びしょぬれとなった前髪の中から前方を見ると・・・何故か目に涙に貯めた、バケツのような何かを抱えたアンがいた。
「おい、アン何を・・・・」
「シンヤ様!!」
怒りがこみ上げ文句を言おうとしたところ、急に懐にアンが飛び込んでくる。「ぐぉっ」とくぐもった声を出しながら起き上った寝袋に倒れこむ。・・・寝袋が濡れて気持ち悪い。・・・ではなく
「・・・待て。一体何があった」
よくよく考えると、自分が昨日の食事を覚えてなかった。もっと言うのであれば、このテント地に返ってきた覚えがない。
抱き付いたまま離れないアンは役に立たないとそのままに、視線を上に上げると、そこには直立不動のエルがいた。
「・・・おい、エル。戦争はどうなった?」
「戦争は、獣人軍の撤退で終戦でございます。マスターは昨日は突然フラフラとしながらテント地にたどり着いたあと、食事の時間にも起きてこられることはなかったのでございます」
一つの質問でほしい答えを的確に返してくるエルに満足してから、未だに抱き付くアンの頭を(無強化で)はたく。
「きゃうっ!!」
「・・・さっさと離れろ馬鹿」
「・・・ぅ・・・そんな言い方・・・・」
むっとしたアンを無理やり引きはがし、びしょびしょに濡れている寝袋から脱出し床に直に座る。すると、腹の虫がその存在を主張し始めた。
「・・・とりあえず、飯をよこせ」
####
相変わらずむっとしているアンから飯を受け取りつつ昨日のことを考える・・・が
「・・・アン」
「・・・なんですか」
「昨日の俺は敵の前で気絶したはずだが、なんで生きてるんだ?」
「・・・」
嫌な沈黙。チラリ・・・とアンをみると、また涙目だった。そして、ぽつり・・・
「覚えてませんか?」
とだけ言う。
「覚えているわけがないだろう。意識のない時の記憶があるなら、それは意識がないとは言えない」
若干のいら立ちを込めてそう言う。そう、俺は何故か、いらだっている。だが、一体何にだろうか。何も分からないからか、敵前で気を失うほどおろかな自分に対してなのか、はたまた、気を失っている間に起きた出来事についてなのか。ぐるぐるとした思考の中、ふと春香のことが頭をよぎる。
「アン、俺は一体どうなった?」
その言葉を聞いたアンは、瞳を伏せてから、ぽつぽつと言葉を紡ぎだした。
「最初、シンヤ様は気を失われたようでした。しかし、あの男はシンヤ様でなく近くにいた人間種の女に大槌を叩き付けようとした時、一瞬で、シンヤ様がその女の元へと転移・・・のようなことをされて、男は吹き飛ばされました。その時のシンヤ様は、黒い髪が白くなって、瞳は金色へと変わり背中からは漆黒の翼が生えていたのです」
「待て、白い髪?金色の目に漆黒の翼?俺は、肉体の構造的には人間のはずだぞ?」
アンの言葉に疑問を覚えた俺はそう言う。しかし、アンは確かにその眼で見たといった。
「事実、シンヤ様は何かに変わったような・・・まるで、違う種へと生まれ変わったようでした。そして、あの男を白い何かで包み込み、消してしまわれたのです」
「・・・白い何か?消した・・・?」
アンの言葉からその光景を思い出すように反芻してみるが、一向に記憶が戻ることはなかった。そして、はたと気づく。
「・・・待て、アン。あの男って・・・まさか、黒髪黒目の赤マントの眼鏡を掛けた男か?」
「はい、そうです」
訝しげに肯定するアンに慎也は頭の中がぐるぐると巡るのを感じる。田中、あいつとはただのクラスメートだ。所詮は他人だ。そんな声が脳裏にこだまする。だが、その声をかき消すかのような苦しさが胸の奥からせりあがってきた。
カチャン、と手に持っていた食器を取り落した。そして、俺は我に返った。どうしようもないほどの吐き気をこらえて、深く息をつく。
「・・・は、殺しに対する嫌悪感は消えたと思ってたが、所詮はこんなもんか」
自嘲気味に薄く笑うが、きっと今の自分は酷い顔をしているのだろう、慎也はそう思う。胸の中に生まれたムカつきは今しばらくは収まることがなさそうだ。
と、その時だった。がさがさという音とともにテントの前に人が立つのを感じ、俺は即座に小声で黒刀ブランを召喚びだす。そして、その人物がテントの入り口にある蚊帳がわりの布を取り払った瞬間、黒刀ブランを突きつける・・・と。
「な、な・・・な・・・!?」
「ん・・・?・・・なんだお前か」
現状、この結界内には俺の許可を得たものしか入れないので、今いるのは俺を除きアンとエルだけかと思っていたのだが・・・そういえば『世界の漂流者たち』の一員であるナツメもいたことを思い出す。戦場で戦ってもいないし、特に接点もないのですっかり忘れていたが、存在を認知されなかったのは俺の所為ではなく、こいつの実力というやつだろう。それは、ともかくとして。
「どうした、そんなに急いで。俺は今、虫の居所が悪いんだが」
相手が別に敵でもないと分かり、かつ今刀を向けた相手が地球人であることを認識して再び湧き上がってきたムカつきをこらえつつぶっきらぼうにいうと、ナツキはその言葉に一瞬激昂したかのように顔を真っ赤にした後に、すぐに顔色を変えていった。
「って、何よその顔!大丈夫なの!?」
「・・・だから、虫の居所が悪いといってるだろうが」
まるで頭痛の時に、耳元で大声を出されているような不快感を覚えながら俺は言い返す。すると、ナツキは何かを思い出したかのように「あっ」と声を上げて言う。
「今、外に人間国の国王から使者が来てるわよ!」
「・・・なんて言ってるんだ?」
「王宮に来てくれって」
「それだけか?」
「・・・ええ」
それを聞き、俺は先ほどの比喩ではないが頭が痛くなる思いだった。こめかみを抑えつつ考える。普通、相手の軍も自分の軍も蟻のように蹴散らせる奴がいて、そいつに向かって高圧的に「来い」と命令できる奴が果たしているだろうかと。・・・いるからこのような事態になっているのだが。
しかし、あちらには用があるのだ。だから、この誘いは願ってもない。
「・・・今から行く。エル、アン、ついて来い」
「・・・了解でございます」
「はい、わかりました」
####
その後、ナツメは「リーダーと合流しないといけないし」とかなんとか理由をつけて別れた。正直、前の世代の勇者の仲間を連れて行っても余計なトラブルしか生まないだろうことがよく分かっていただけに助かった。そして、俺たちは使者とともに迎えの馬車に乗り王都にやってきた。だが、その馬車は一見ただの馬車にしか見えず、そして見た目に違わずただの馬車だった。いよいよをもってこの国の王の下種さを垣間見たような気がした。
そして、やがて謁見の間にたどり着いた。
「では、こちらに武器を・・・」
「おい、お前はアホか?」
「あ、アホ・・・?」
「それとも馬鹿か?まあ、どっちでもいいがな。お前らが俺らなら、敵の本拠地ではいそうですかと武器を手放せるのかよ?」
「は・・・?敵・・・?」
「・・・あん?」
扉の前の兵士の対応に首をかしげつつ、その呆然とした兵士を置いて勝手に扉を開く。「お、お待ちを・・・」と聞こえたが、もう遅い。俺はすでに謁見の間に入っていた。
ずらっと左右に並ぶ甲冑を着込んだ騎士、その後ろにいるたくさんの、でっぷりと太ったり、その身を飾り切ったりしているおっさん共、そして高い高い階段のような段の続く先にある玉座の上には小太りのおっさんが座っている。その頭の上には色とりどりの宝石が飾られている王冠があり、こいつが王であることを俺は悟った。・・・実に意地汚い顔をしている。そして、そのおっさんは俺が入ってきたのを見るなり言葉を発した。
「ふん、我が軍門に降るがよい」
・・・一瞬我が耳を疑った。一体こいつは何を言ったんだと。確かに、何かを言ったのは分かったが、あまりに想定外すぎて頭が真っ白になる。
「・・・聞こえなかったのか?我が軍門に降れといったのだ、『シェーテルの英雄』。尊大な余が許しているのだ。頭を深く垂れ、感涙に咽ぶのをも許可してやる」
ふたたび繰り返されろことによって俺はようやく先ほどの言葉が真実で、しかもこの国王が本気なのもわかった。・・・本当に、本当に救いがなさすぎる。俺には関係のない話だったが『世界の漂流者たち』は、こんな奴にいいように使われていたのか。そして、こいつらは春香をも・・・。
「・・・おい、おいおいおい」
思わず、俺は声を出していた。王が怪訝そうに俺を見ているが、そんなこと、気にしてる余裕すらなかった。
「マジなのか。これは、何かの茶番だったりしないのか?」
「・・・なるほど、如何に『シェーテルの英雄』といえど、平民の出であるものが我が兵士にふさわしくないと思う気持ちは確かにわかるがの、それを踏まえての提案じゃ。もちろん、これが冗談であるなんてことはない」
何かを納得したかのように頷く王を見て俺は本当に絶句した。
「こんな間抜けが人間の王?本当に悪い冗談だ」
そして、スルリと口から飛び出す言葉に王は顔を歪める。
「なに?余が間抜けだと?・・・よかろう、如何に『英雄』といえど、余のことを侮辱するのであれば、極刑あるのみ、騎士よ構えよ!魔法使いよ詠唱せよ!その男を処刑せ!」
瞬時に射られる矢や、投げられる槍に魔法は一切俺に通用しない。だが、俺はその光景に怒りすら覚えず呆然としていた。
「これは・・・いっそ愚かを通り越して哀れだな」
そんな中、周りを見渡していると、たくさんいる人間の中から春香を見つけた。彼女はこちらをじっと見つめている。それは、困惑の色が強かったが、あの日、俺がこちらに来ることを誘ったのを断った時と同じ目をしていた。今回も誘ってもおそらく無駄になるだろう。ならば
「・・・アン、エル、帰るぞ。用事は済んだ」
「・・・いいのですか?」
踵を返した俺にアンがそう尋ねてくるが、俺が何も言わずに歩き出すとそれに追従するようにアンもついてくる。
「兵よ!!疾くあの痴れ者を捕えよ!!」
後ろで何やら間抜けが怒鳴っているのが聞こえたが俺は、振り返ることも、邪魔されることもなく王城を去った。
そして、王城からでて数分後、空から四人・・・の何かが空から降りてきた。
一人は、金髪で白い翼を背中に生やした、優男。
一人は、白い翼を背中に生やした、銀髪でぼさぼさ頭の険しい目を持った男。
一人は、小さな体に大きな白い翼を生やした、青い髪の無邪気な表情を浮かべた少年。
一人は、白い翼を背中に生やした、この四人の中で一番年上のように見える白髪の男。
「主よ、お迎えにあがりました」
「俺らの忠誠を受け入れてくれるんなら」
「ボクら、この身を粉にしてでもー」
「主に使えることを誓約いたします」
そして、目の前にかしずく四人を目の前にして、俺の口から自然に言葉が滑り落ちる。
「なれば、我は汝らの忠誠を受け入れよう。連いて来い」
そして、俺が手を伸ばし、金髪の男が俺の手を取って・・・
人間国ケラトニックから俺たちは去った。
どうも、みなさん一か月ぶりです(白目)。予定に次ぐ予定に対応していたらこんなにも更新が滞っていました。まさか・・・予定が終わるたびに違う予定をねじ込んでくる輩がいようとは・・・バイトの話です。しかも、バイトの緊急シフト地獄が終わったと思えば次は大学のテスト期間・・・しかし、それも一昨日で終わり!・・・え?昨日ですか?・・・申し訳ありません、打ち上げという名の強制拉致にとほほ・・・。
しかし、何はともあれ夏休みに入りましたので今までより更新スペース上がる・・・といいなと思ってます。頑張って書きます!
では、最後に一言。お待たせしまくって本当に申し訳ございません!!




