第四十五話 少年Aと人獣戦争5日目5
何度も何度もすみません!今回も難産でした!!・・・戦争編に色んなのを詰め込みすぎましたね。自身の力量を鑑みてやるべきでした。では、本編はじまります
※遅まきながら話数が四十になっていたので修正しました(H27.7.23)
「ウォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!」
そう雄たけびを上げたヴォルフは、地面を蹴ってエルの方へ突進する。大きく口を開け、エルを一口で飲み込まんとする。
しかし、エルはそれを見て、むしろ足を前に進める。自棄を起こしたのではない。勝算があってのことだ。
エルは、そのまま大きく開けた口に大暗剣ベルゼンを突き刺すように突き出す。
「・・・なっ」
その時、彼女は息を飲んだ。ヴォルフは、『神獣化』を解除し、人と獣の入り交じった獣人形態に戻ったのだ。つまり、一気に縮んだことによって、攻撃をかわした。一撃で決める気であったエルの胴体はがら空き。そこへ、彼は右手で掴む。
「ぐ・・・ぁっ・・・!!!」
「・・・今度こそ、捕まえたぞ!」
彼は獣人種。その膂力は人間種を軽く超える。そのような彼の手が本気で腰を掴んだ以上、エルは離れられない。
そして、間合いが零の状況において、刀身の長く小回りの利かない彼女の大剣は全くの役に立たない。この状況において、相手は狼の獣人。つまり、相手は喉笛を食い破るだけでこの勝負は決着がつく。だが絶体絶命のはずの状況で、エルは不敵に笑った。
「ようやく、ここまでたどり着いたのでございますね」
その言葉を聞いたヴォルフは獰猛な笑みを浮かべる。『ここ』と言う言葉を、「これほどの強さ」という意味に取ったのだ。そして、
「ああ。俺の・・・ゴフッ・・・」
勝ち名乗りを上げる、その瞬間に彼は血を吐いた。
「な・・・にが・・・?」
びちゃびちゃ・・・と地面に血液が流れ落ちる。だが、それはエルのものではなかった。その血は、彼の腹から流れていた。もっと言うのであれば、背中から腹を貫いた漆黒の大剣――千呪の剣――を伝って流れていた。
「『絶死陣の呪い』。ちょうど、発動したようでございますね」
「な、何故・・・、我が『先見』が・・・?!」
ヴォルフがそう呟いた後、徐にヴォルフの腕をつかみ、握りつぶす。それだけの圧倒的なレベルの差があった。だらんと力なく垂れ下がる腕をエルは離し、強くつかまれていた脇腹を解放する。
そして、ドサリとヴォルフは崩れ落ちた。そのヴォルフの姿を彼女は見た。そして、その彼に向かって彼女は大暗剣ベルゼンを向ける。
「最初、貴方を切り付けたときに、『不見の呪い』を発動させたのでございます。効果は、『未来視』系に限らず、視覚に何らかの効果を及ぼの特殊能力の発動の妨害・・・でございます」
「・・・なるほど・・・だから・・・我が特殊能力は・・・」
納得したようにヴォルフは瞑目した。そして、ややして口を開く。
「・・・ならば・・・早くとどめを・・・刺すがいい・・・」
「そうでございますね。『闇の揺り籠』」
そう唱えた瞬間、地面からしみだすように湧き出た黒い何かがヴォルフの死体を包み込む。そして、長方形の、まるで棺桶のような形を作った。
「この固有能力には、一切の殺傷力はございません。ただ、包み込み、どこかへと送るためのものでございます。・・・まずは、見事でございました。これほどの手傷を負わされたのは、両腕を切断されたのは、幼き日を除けば、兄に斬られたとき以来でございます。それだけに、貴方は真の強者であると称えることができるのでございます。圧倒的強者に立ち向かう勇気、感服でございます。・・・一つ、惜しむことがございますならば、成長した貴方との戦闘・・・ではございますが、相手を殺すのは戦場の定めでございますれば致し方ないことでございます。貴方の魂の安寧を・・・願わせてもらうでございます」
ずずず・・・と棺桶が沈み行くのを静かに見守って、その棺桶のあった場に彼の剣を突き立てた。
「さて、ではお次はどなたがワタクシと決闘するのでございましょうか?」
そして、彼女は彼女の周りを囲む獣人たちにそう尋ねた。
「・・・いや、俺たちはヴォルフさんを倒したお前に一対一で挑むなんて命知らずな真似はしない」
「そうでございますか?彼のように勇敢に戦うことこそが獣人の誇りでございましたとワタクシは記憶しているのでございますが?」
「ああ。確かにそうだが、悔しいことにお前が正しいが、戦争である以上、重要なのは俺らのプライドではなく、祖国の勝利だ」
「・・・なるほど、よく訓練された兵士でございますね」
「ほめ言葉だな、それは」
「・・・ひかないのでございますなら、力ずくで通させて頂く所存でございます」
「いいだろう。ならば・・・野郎ども!卑怯と罵られてもいい!こいつを討て!!」
「「「オォー!!!!!」」」
指揮官と思われる獣人が号令をかけた瞬間、前後左右から・・・いや、上空からも獣人たちがエルに迫り来る。
「では、力づくでございますね」
そう言って、彼女は黒い大剣を一回、振る。その瞬間、砂埃が・・・いや、そんな生半可なものではなかった。砂嵐が巻き起こり、空に飛ぶ獣人たちを吹き飛ばしていく。だが、地上にはそこまで多くの被害は出ていなかった。故に、彼女のもとへ到達するものもいた。
「フハハハハ!!!我こそは、いずれ第一位強食者と上り詰めるもの、ガランディだ!!いざ、尋・・・」
「邪魔でございます」
しかし、名乗りを上げる間にエルに切り捨てられる。しかし、地上を駆ける獣人は数多く存在する。だから、次から次へと襲い掛かってくるが・・・、エルに次々と切り捨てられていく。
まさしく、鎧袖一触。獣人たちは、エルの大剣に触れた瞬間何の抵抗もなく切られていく。そのさまはまるで、よくできた殺陣のようだった。
「・・・何故だ!なぜ、止められない!!今、死闘を果たしたばかりだろう!!!なぜ、動きが鈍らない!!」
司令官らしき人物が声を荒げてエルを睨みつける。だが、その視線をエルは一顧だにせず自らに襲い来る獣人たちを切り捨てている。だが、その時、最初の砂嵐に飛ばされて、ようやく治癒魔法により復帰した空を飛べる鳥系の獣人たちが再び空から襲い掛かる。
「牙地の呪い」
しかし、その瞬間、地面から巨大な化け物の顔が飛び出る。それは、狼のような顔をしていた。それは、空中に群がる翼を持つ獣人種たちに向かって、大きく口を開く。それは、あまりに一瞬の出来事で、彼らは反応できず食われた。
「な・・・!?」
そして、残ったのは偉そうに命令を飛ばしていた指揮官のみとなった。
「・・・さて、貴方は如何なさいますのでございましょうか?ワタクシと戦いなさるのでございますか?」
ただ、平坦にエルはそう尋ねる。それに対して、指揮官は・・・ガクガク震えながら腰から剣を抜く。そして・・・・
――カランッ――
剣を地面に捨てる。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!ゆ、許してぇぇぇぇえぇぇえぇ!!!!」
そう半狂乱に泣き叫びながら指揮官は土下座する。その声は涙に満ち溢れていて、とても、戦場で戦う戦士のように見えず、エルは・・・戦意を喪失した。故に、彼女はただ踵を返して告げる。
「ならば、哀れな子犬のように尻尾を巻いて逃げかえるとよいでございましょう」
そして、司令官を一瞥だにせず、歩いていく。だが
「・・・クヒヒ、油断したな馬鹿め!!」
その瞬間、土下座していたのが嘘のように瞬時に立ち上がりいつの間にか手に持ったまがまがしい剣をエルに向かって振り下ろしたが、その剣が彼女を傷つけることはなかった。
その剣は、いつの間にか抜かれていた黒い大剣に防がれていた。ほかならぬ、エルによって。
「な・・・なんで、見えるんだ・・・?」
「・・・貴方の如き者の考えるものなど、手に取るように理解できるのでございます。したがって、このような行動に出ることも予想が容易でございます」
呆然とつぶやく司令官に、エルは淡々とそう返して、無造作に剣を振るう。それだけで、司令官の人生は終わった。
「・・・さて、こちらは粗方殲滅できたようでございます。これ以上攻めては、来ないようでございますね」
チラリとだけ、獣人軍の本部があるところへ視線を送ってから、エルは悠々とした足取りでテントの元へと戻って行った。
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「グ、ォォォォオオオ・・・・」
慎也が倒れた後、そこに残っていたのは黒い姿に光る眼を持ったかつて、田中だったモノだ。それは、意識を失った慎也に興味を失って周りを見渡した。
すると、そこには北見春香がいた。
もし、これが、田中のままであるのであれば、その時は肉欲に目を眩ませて飛びかかったかもしれないが、幸か不幸か、ソレの目に宿ったのは、ただの、殺意だった。
「グ、グルォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」
ソレには既に田中などという人間の残滓は残っていなかった。残ったのは、野生の獣の如き本能と、全てを呪う漆黒の意思だけであった。故に、それは、たまたま近くにいたという理由だけで彼女を狙い、そして行動を開始する。
グググ・・・っと足に力を込めて地面を蹴る。その瞬間、ソレの体は重力の呪縛から解き放たれて目にも留まらぬ速度で春香に迫る。
だが、彼女は呆然としたまま、倒れたままの慎也を見つめていた。
「そん・・・な・・?シン・・・?」
そんな彼女は格好の獲物で、田中だったモノは何の遠慮もせず、その右手に持った大槌をたたきつけようとした。
しかし、そんな彼は横っ飛びに吹き飛ばされた。そこに立っていたのは、白い髪を持ち、目は金に輝き、背中から黒い翼を生やした、どこか神々しさを放つ人物だった。だが、春香はその人物の顔を見て・・・つい、言葉が零れ落ちた。
「え・・・?シン・・・?」
雨川慎也は生粋の日本人である。故に、その髪の色は黒であるし、目も黒。むろん、翼なんて持っているはずもない。しかし、その人物は彼の面影を持ち、さらに慎也は先ほどの倒れているところから消えていた。じっと見ていたはずの春香すら、その動きは見えなかった。
そして、その人物はチラリと春香の方を向くと、短く告げる。
「女、下がれ。戦場に弱者 は不要であるぞ」
その声は、まさしく慎也の声であったが、その声の中に込められた感情はまったく別種であった。普段の慎也であれば、多少は混ざる親愛の情が、この時はなく、代わりに無関心さを宿していた。その事実に彼女は混乱したが、その人物は彼女を一顧だにせず先ほど田中だったモノが吹き飛んでいった方向へと視線を向ける。すると、次の瞬間、再び目にも止まらぬ速度でソレは突っ込んできた。だが、しかし
「ほう、中々に早いな。主、己を鍛えぬいた者か」
そう呟くと、ソレが振るう大槌を片手で受け止める。だが、そこで彼は自身の相対する人物をよく見て顔をしかめる。その眼には侮蔑の感情が宿っていた。
「・・・なんじゃ、心を壊し、暴走しておるだけか。・・・がっかりさせおってからに」
そう吐き捨てると、大槌を中心として蹴りを放とうとするソレの蹴りが届く前に、蹴りを放つ。それは、傍目から見れば、幼児や小学生がやるような威力のなさそうなものだったが、蹴りを喰らった瞬間、ソレは真上に吹っ飛ぶ。
だが、ソレは重力を操ることができる。すぐに重力で威力を中和し、空中で停止し態勢をを整えたが、その目の前には既に彼がいた。
「心弱き者に興味なぞない。なぜなら、運命は強い意志を持つ者にこそ拓かれるものであるからな」
次の瞬間には、田中だったモノの頭上に彼の踵があった。踵落としである。
「グォウッ!!!」
流石に頭上に踵落としはダメージがあったのか低く唸りつつソレは落ちる。そして、地面に叩き付けられた。バキバキバキとソレが落ちた地点から地割れが起こる。その近くに彼は舞い降りた。
「ほう、生きておるか。しかし、それも終わりよ」
そして、彼は歩き出そうとするが体の動きが鈍い。それを見て、田中だったモノは立ち上がる。その眼は罠をかかった獲物を見るような眼であった。
瞬間、彼の近くに黒色の玉・・・重力場が形成される。
「・・・ほう、重力で我を縛ろうというか?」
それに対し、彼は底冷えのするような視線を送る。すると、ソレは気圧されたかのように二三歩さがるが、すぐに襲い掛かってきた。
「・・・よかろう、主のようなモノには罰が似合いだ。故に喰らえ、『神罰』」
バキリと、何かが砕けるような音とともに彼は手をソレに向ける。その音は、鎖の砕ける音のようであった。
そして、その手のひらから白い何かが放射され田中だったモノを包む。
「グォ!?グガァァァァッァァァ!!!!」
それが危険なものと認識したのかソレは避けようとするが時すでに遅し。白い何かがソレの動きを阻害しているかのように、ソレの動きは鈍くなっており、そして新たに発生する何かがさらにソレを包み込む。やがて、大きくなった白い何かは球体の形になる。半径三メートルほどの球体に。
「永遠に、無へと還れ」
そして、彼は拳を作るようにギュッと、手を握る。その瞬間、白い球体は収縮し、消え去った。
それを見た彼は、キョロキョロと周りを見たうえで、慎也たちのテントを見つけた。
「ふむ、あそこがこの肉体の休息所か。なれば、戻るか」
そして、彼はそちらを歩いていく。それを春香は呆然として見送る。慎也の声で放たれた無関心な言葉、敵とはいえ元クラスメイトの消滅、そして、慎也の遂げた意味の分からない変化で頭が混乱していたのだ。そして、彼女も意識を失う。
人獣戦争五日目、獣人軍側はエルセリアに一部隊を殲滅され、人間軍は結界を超えてきた田中により数人を殺されて幕を閉じる。そう、二国の王は理解したのだ。自分たちが束になってもかなわないことを。そして、獣人軍は撤退を決めて、人間国の王は彼の慎也を呼び会談を開くことを決意する。
かくして、血を流す意味での戦争は終わった。大量の血を流してようやく。
余計なことを入れ過ぎた戦争編も今回で大体が終わりです。次回が(おそらく)戦争編のラストです。うん・・・、余計なことは対してないか・・・と。次は短めに纏め、れるといいですね。今回出た、慎也の変化みたいなのの正体は・・・まあ、楽しみにしてください。そのうちに出すと思います。
えっと、長くなりましたね。更新遅れ申し訳ございません。夏休みには・・・ためるんや・・・とか言ってるとフラグっぽいんで真面目にためていこうと思います。・・・時間、時間がほしい・・・。
次回更新予定は未定です。早く終わらせたいものです。




