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少年Aの異世界漂流  作者: 樹実源峰
第一章 第三部 人獣戦争編
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第四十四話 少年Aと人獣戦争5日目4

 ドクンと、何かが脈動した。じゅわ・・・と何かが焼けた。・・・コポリと何かが零れ落ちた。ブチリと何かが千切れた。そして、ドシリ(・・・)と何かが降り立った。


「コォォォォオォォォォ・・・・」


 それはまごう事なき黒だった。それはニンゲンの形をしていた。そして、それは二つの光る眼のようなものを持っていた。全身を黒く染め、もはや前の原型を留めていない田中がそこにいた。


「なんだこれは・・・?」


 思わず慎也はそうつぶやいていた。その言葉に反応したのか、田中だったものは慎也に向かって走ってくる。振りかぶる大槌は自身の最大の防御手段であるスロット2を破りうる力を持っている。だから、喰らってやるわけにはいかないと、避けるため足に力を込めようとする。だが・・・


「・・・ぐっ!?」


 全身が急激に重くなり、慎也は地面に膝をついた。そして、大槌は容赦なく慎也に振るわれる。


 バキリ・・・!!


 そんな音とともに、再び自身の盾にひびが入る感覚を慎也は味わった。


(持って、あと二発か・・・?)


 だが、そのような中でも彼は冷静さを失わない。いや、動揺がこれ以上大きくならない・・・といったところか。親しくない奴とはいえ、知り合いがいきなり何かに変貌したのだ。動揺するなという方が無理な話だ。むしろ、脳が理解を拒んで行動不能になってない分彼は褒められるべきだろう。


 もっとも、戦場においてはそのような事情など関係なく死神は微笑むのだが。


 バキン!!!


 一際大きい音とともに、スロット2は破られる。だが、慎也は冷静に判断を下していた。以前にも似たような状況にあったことを意識して。


「『秩序なき世界(タイム・レジスト)』」


 そして、時は止まる。雨川慎也、彼一人を置き去りにして。だが、時に縛られない重力だけは彼にもどうしようはなかった。つまり、この攻撃は絶対不可避。しかし、逸らすのはどうだ?


「・・・」


 地面に落ちている石をできるだけ拾い上げ田中に放つ。当然、止まった時の中では手から離れた瞬間に停止してしまうが、時が動き出せば関係ない。その時は、自身の特殊能力スキルで高速化された石たちが相手や相手の大槌を弾いてくれるだろう、と彼は計算する。そして、


「『純白の生(ホワイトバース)』」


 左手に持ったままだった白刀ブランの固有能力である『純白の生(ホワイトバース)』――一定期間、無限に回復し続ける――を使用する。言うなれば、これは保険である。今から犯す危険への。


 グググっと膝に力を込めて腰を浮かせる。それは、まるで反復横跳びをする時の姿勢、あるいは四股を踏むときの姿勢に似ていたが、これは飽くまで重力によって押し付けられている結果による。だが・・・


 ビヂッ・・・ミシミシ・・・・


 何かがちぎれるような音が慎也の足から聞こえてきた。・・・単純な話である。無理な重力に逆らった結果、足の筋肉が断裂しているのだ。だが、断裂したそれも白刀ブランの固有能力によって治される。・・・とはいえ、痛みがないわけではないが、死ぬよりはマシだと慎也は吐き捨てた。


 だが、時を止めるのは『近神者』である彼をもってしても体感時間で数秒が限界。満足な姿勢をとれないまま、再び時は流れ出した。


 慎也に振り下ろされていた槌は無数の小石によって弾かれる。そして、田中は・・・・


「な・・・?!」


 まるで黒く染まったその身こそが鎧だとでもいうように小石の弾幕をすべて受け止める。普通の人間なら、蜂の巣となっても仕方ないほどの攻撃は・・・無効だった。


 ブンッ!と目の前を通り過ぎていく大槌を握っていない拳を見ながら慎也は前に敢えて突っ込む。そして、田中をタックルするが・・・動かない。ATKブーストによってかなり脚力を増してのタックルが、まったく聞かなかった。


「くっそ・・・・面倒だ・・・・」


 そして、懐に入った相手をいつまでもそのままにしておく相手はいるあろうか?いるはずがない。慎也は、腹を膝で蹴られて吹き飛ぶ。


「が・・・・っは、げほ・・・」


 つーっと頭頂部から垂れてくる血が、口に入る。口の中に広がる鉄の味と、鼻にくる鉄の匂い。その時、慎也は『死』を感じた。


(死・・・?死ぬのか・・・?こんなところで?まだ、約束も果たせてない・・・のに・・・。くそ、目が・・・・・・・瞼が・・・・重い・・・・・・。どうなって・・・・)


 スイッチが切れるように、慎也は気を失った。


####


「ウォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!」


 吠えたける巨大な狼に相対するは、浅黒い肌を持つ、山羊のような角を持つ悪魔族デビルの女。絶体絶命なはずの状況に於いて、彼女はただ笑っていた。口の端をあげてこれ以上なく、飢えた獣のような笑みを浮かべ、ターゲットを見つけた肉食獣のようなぎらついた目をして、巨大な生き物の歯のような黒剣をもった、彼女の姿は、地獄からやってきた、嗜虐を好む地獄の獄卒のようであった。


「ウォン!」


 狼は、いや、ヴォルフは短く声を発し、地面に蹴り自身よりもかなり小さな女を噛み千切らんと大きく口を開ける。だが、


「『黒刃一閃』」


 スバッと、黒い線が走りヴォルフは両頬を裂かれた。だらん、と下がる下顎にエルは剣を突き立てようとするが、ヴォルフはその身に合わぬ敏捷さで飛び退いた。しかも、頬の裂傷は再生済み。さっき斬ったのがまるで夢のようだ。


「・・・自然治癒力もそこまで高まるのでございますか」


 剣に付いた血を払い、ジッとヴォルフを見るエル。その顔に敗北の色はなく、あるのはどうすれば勝てるかと考えている戦闘狂の顔だった。


「しかし、『神獣化』した雑魚(・・)は何匹か切り殺したこともございますが、さすがにそれとはくらべものにならないほどに強化されているのでございますね。やはり、地力の差でございますかね」


 己の脳裏に、かつて戦った『神獣化』した獣人族ビーストとの戦いが浮かぶ。それは、何年前だったか、百年前か、はたまた五か月前か・・・思い出せないくらいには強くもなかった気がすると彼女は思った。だが、それに引き換え、目の前のそれは確実に記憶に残るだろう強さを誇る。慎也に背後を取られたとき以来の興奮が湧き出した。


 ふと、己の持つ大剣に目を向けた。その漆黒の大剣の名は『千呪の剣』。その漆黒は、千の呪いを内包している証である。この剣が秘めている力は強大なもので、過去に封じられようとされたらしいが、その時も中の呪いが封印を打ち破ったと、前の持ち主である老人は言っていた。


『ふぉふぉ・・・じゃから、こやつの扱いは気を付けるこったな・・・。でなければ、ぬし、わしのように呪われてしまうぞ?』


 とどめに心臓を一突きにされた格好のまま、前の持ち主の老人が発した最期の言葉を思い出す。その時は、呪いなど恐ろしくもなく、あっさりと老人の亡骸からこの大剣をいただき、ともに闘争を生き抜いてきたが・・・何故か、今は邪魔だと思った。だから、彼女はその剣を捨てる。そして、右腰に吊ってあったもう一つの大剣を抜く。


 こちらもまた漆黒の大剣。だが、その幅は先ほどのものより、すこし狭かった。だが、その刃の威力は、先ほどの剣に勝るとも劣らない。名を、『大暗剣ベルゼン』。闇属性を宿す、魔法武器であった。


 それをブンブンと振り回しているエル。その姿は隙があった。だから、ヴォルフは飛びかかろうとした。だがしかし、野生の勘とでもいうべきものが働き、瞬時に飛びのく。瞬間、空からドロッとした黒いものが、先ほどヴォルフの居たところへと落ちてきた。それは、黒い泥のようであったが、地面に当たるとまるで砂漠に落ちた水のように瞬時に消えていった。


「『盲たる闇底(ダークネス・ステージ)』を避けるのでございますか」


 見事に避けたヴォルフを見て、エルはつぶやく。しかし、その口は弧を描いていた。


「『双閃』」


 ブン、と素早くエルは剣を振る。その瞬間、二つの斬撃がヴォルフへと飛んでいった。一つは、ヴォルフの足へ向かい、もう片方はヴォルフの首を狙って。足元のものを避けるのであれば飛び上ればいい、しかしその時は喉元へ向かっていた斬撃が己の身を裂く。首を狙うそれを避けるために身を伏せるなら、足を狙った斬撃がその身を裂く。故に、この二つの斬撃を完璧に避けるには、一瞬で地面のそこへ潜るか、首を狙う斬撃が足を切り裂けないほど高く飛ぶしかない。


 そして、エルはこの数瞬の争いで大体の実力を量り、跳び上るだけならギリギリ(・・・・)できると踏んだ。


 だが、彼女の思惑は外れた。


 ヴォルフは大きく息を吸い、そして吠えた。すると、彼の口から衝撃波が迸り、飛んだ斬撃を散らす。どころか、そのままの威力を保ったままエルのもとに跳ね返ってきた。エルは、それを大剣でガードする。


「・・・・なかなか、予想を超える実力でございますね」


 少しヒビの入った大剣に魔力を流し修復を施して、エルはヴォルフをまっすぐに見た。

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