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少年Aの異世界漂流  作者: 樹実源峰
第一章 第三部 人獣戦争編
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第四十三話 人獣戦争5日目3

ちょっと短めです・・・早いとこ人獣戦争編終わらせないと・・・。


前回のあらすじ:もしかして:ピンチ

「・・・で、どうしたんだ雨川ぁ。同じ重力を操る特殊能力スキルを持ってるならこのくらい朝飯前だろう?それとも、MPでも切れたのかぁ?」


 ニヤッと口角を上げて、こちらを挑発するように――いや、実際に挑発しているのだろう――声をかけてくる田中に慎也は思わずイラッとしたが、なんとか思いとどまる。折角相手が自分の能力を勘違いしているのにわざわざそれを訂正し己の能力を晒すことで自身を不利にする意味もないからだ。

 ・・・とはいえ、このままでは癪に障るのも事実。故に慎也は足元で拾った小石を投げつける。


「・・・むっ!」


 だが、何かに感づいたらしい田中は、それをよけた。


「・・・なるほど、今の物体を引き付ける重力を俺の後ろに発生させて投げたのか?だったら余計な制御は考えなくてもいいからな」


 そして、相手も今の攻撃の方法を見破った。・・・実際には物体の速度を速めたので若干事実は違うがそれでも『速度を加速させる』という一点においては間違っていないので田中は遠距離攻撃の方法もあることを確信して・・・近接戦闘へと切り替えた。


「ドォォォォリャッ!!!!」


 再び、恐ろしいほどの速度で迫ってきた田中の大槌を、今度はちゃんと反応できた慎也は氷刀アイシアではじく。だが・・・・


 バリン!!


「・・・なっ」


 氷が割れるような音とともに氷刀アイシアは弾け散りそのまま慎也に――慎也を守るスロット2の障壁へとぶつかる。バキ、という嫌な音がした。


 その瞬間、慎也は地面を蹴って後退する。と、同時にいくつか石を投げつけた。しかし、再び田中によけられる。


「・・・召喚(来い)、氷刀アイシア」


 そうつぶやいた瞬間、砕かれる前と寸分たがわぬ氷刀アイシアが手元に現れた。


 魔法武器は、魔力を元にして作られている武器である。だから、壊されても再生できるのだが、その再生には多大な魔力を必要とするために戦闘中というもっとも神経を研ぎ澄ます必要のある場面では、壊されることが命取りになる。・・・それ抜きにしても十分に丈夫なのだが、こういう魔法武器同士の激突の際はやはり一撃に込められた衝撃によって折られる場合がある。この場合、破壊力などで重宝される大槌が重力などで強化された一撃を、日本刀のようなもので弾こうとしたので耐久力が足りず破壊されてしまったようだ。


 武器の不利。・・・言ってしまえばそういうことだが、だからと言ってはいそうですかと死ぬほど、慎也は殊勝な男ではない。活路を探そうとして見る・・・が


「オラァッ!潰れろッ!!!」


「・・・ぐっ」


 一瞬で距離を詰めてくる田中が邪魔で中々思考を固められず苦労していた。そして、またしても大槌が氷刀アイシアを砕き、スロット2に叩き付けられる。バキ、という音とともにヒビは入る。だが、このスロット2はしっかり仕事をしているので田中は続けて二撃目を放つことはできない。その隙をついて小石をばら撒きつつ今度は後退せず、『ATKブースト』で強化された蹴りを放つ。・・・それは見事に入って田中は吹き飛んだ。・・・その方向は獣人軍と人間軍を阻むテント兼慎也たちの本部がある場所――つまり、完全物理反射障壁がある場所。


「が・・・・ぐあっ!?」


 障壁に叩き付けられた田中はその直後、効力を発揮した反射障壁によって再び吹き飛ばされて吹き飛んできた方向、つまり慎也の方へ飛んでくる。その瞬間、慎也は手元に黒刀ノワールを再召喚して構える。相手の飛んでいく道筋に黒刀ノワールを置く、それだけで決着がつくと分かったからだ。


 だが、その直前に田中は突如地面に叩き付けられた。慎也は何もしていない。だが、何が起こったのかは理解した。田中は、無理やり地面に重力を発生させ、あえて自分を地面に叩き付けたのだ。このまま吹き飛んだままであれば慎也に斬られると理解したから。だが、それによって自身にダメージを与えたことは相違ない。だから、田中は・・・


「あ、アァァッァァァアアア!!!!許さん、許さないぞ、雨川ぁ!!!!」


 キレた。そして、どこからか取り出した瓶の中の液体を飲み干す。そして、彼の耳や鼻や口などの体中の穴という穴から煙が吹き出し彼を包んでいく。


「ウアァァァァァァァァァ!!!!!!!!」


 噴き出すかのように強まった敵意を肌で感じつつ慎也は石を数個投げつける。だが、それは煙に弾かれ地面に落ちた。


「・・・っち、今度は一体何なんだ」


 辟易とした表情で慎也はそれを見つめた。


####


「腕のない剣士など敵ではない。この戦い、俺の勝ちだ」


 勝ち名乗りを上げたヴォルフ。それに呼応するように周りの獣人たちからも歓声が上がる。『強者食らいジャイアント・イーター』エルセリアを倒したということは獣人種ビーストにとって、誇れることである。だから、彼らは歓喜した・・・のだが。

 勝ち名乗りを上げるヴォルフをエルは冷えた瞳で見つめる。その眼には生に対する執着も、悔しさも、怨嗟も、悔恨もなにもなかった。そして、ただ、一言口を開く。


「・・・だというのであればさっさと首を刎ないのでございますか?」


 ピシリと、空気が凍る。次いで、どの獣人種ビーストもエルを睨みつける。「こいつは何を言っているんだ」とでも言いたいように半眼で睨むものもいた。だが、それらをすべて無視してエルはただ一言、言う。


「とどめは刺さないのでございますか?」


「・・・上等だ。今すぐその首を跳ねよう」


 獣人の持つ強靭な脚力を駆使して一瞬で距離を詰めたヴォルフ、瞬間蹴りを受ける未来を見たが、その程度で自分が死ぬわけはない。とはいえ、死にかけの者に一発喰らうのは癪である。だから、彼はその未来を変えるために振るう刃に力を込めて少しでも首を跳ねることを早くしようと力を込める。


 『未来視』によって空が見えたとヴォルフが思った直後、顎を蹴りぬかれる。かと思った直後、未来視によるヴィジョンを得ぬまま、腹に蹴りを喰らう。


「がぶ・・・っ!!!」


 エルは、ヴォルフの腹を両脚で蹴ったあとその勢いを利用して後退する。そして、地面に突き刺さった自身の剣に近寄ってただ、詠唱する。


「『不死の呪い』」


 その瞬間、エルの腕の切断面から傷一つない腕が生える。両腕が生え変わったエルはその腕で地面に刺さった黒い大剣を引き抜いて左右にふる。そして、剣の間合いに入ってないはずの獣人が何人か、胸から血を吹いて倒れた。


「大変甘うございます。討てる時に敵を討てと教わらなかったのでございますか?――そして」


 そして、エルは立ち上がろうとするヴォルフに肉薄する。そして、一閃。


「やらせんっ!!」


 それは、横から入ってきた者の持つ盾に弾かれる。だが、


「邪魔でございます」


 もう一閃でその者は盾ごと断ち切られた。


「な・・・何故、貴様・・・!!」


「ウォォォォォ!!!死ねェェェェェェ!!!」


 ヴォルフを斬ろうとするエルに獣人族たちは切りかかる。彼女がヴォルフを斬ろうとするなら、盾を持ってそれを一度阻み、その隙を数多の剣士が狙う。だが、そのたびに一人、一人、散っていく。


「ヴォルフ・・・さん・・・・勝ってください」

「・・・奴は、王の・・・・・・敵」

「・・・・・・・・俺ら・・・・無理・・・・・・・・・・・・」


 そう言葉を発して散っていく。


「き、貴様たち・・・・ウ、ウォォォォォ!!!!!」


 そう、雄たけびを上げるヴォルフに光が集まる。そして


「ウォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!」


 黒い毛並みの巨大狼が戦場にあらわれた。その全長は優に10mを超える。その犬歯は鋭く、まるで一本一本が名匠に鍛えられた名剣のようであり、その真黒な体毛は闇のようだった。


「・・・なるほど、『獣神化』でございますか」


 通常、獣人族の『獣化』は人間と獣が入り混じったような獣人の時のサイズと相違ないサイズの獣として変身する。


 だが、この『獣神化』はそれとは違う。これは、己の命と引き換えに発動できる能力である。その能力を使うと通常よりかなり大きく、かつ強く、そして凶暴な獣に生まれ変わる。それは、まさに『獣神』と呼べるだけの力を備え、亜人種髄一の強さを誇る種族の悪魔族デビルですら三人以上でないと容易に退けられるほどの相手である。


 しかし、それは一般兵レベルの『獣神』の話だ。今回の使い手は、獣人族ビーストの最高戦力の一人である第一位強食者、ヴォルフ。その、『獣神化』による力は、そんなものでは済まない。


「・・・確かにこれは・・・」


 その威容を見て、エルは舌なめずりをした。


「倒し甲斐のありそうな獣でございます」

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