第四十二話 少年Aと人獣戦争5日目2
五日目戦闘開始です。昨日は更新できず申し訳ございません。難産でした・・・。
前回のあらすじ:何百Gという重力を受けた慎也。どうなる!?(黒いGではない)
「な・・・!?なんで潰れない・・・!?」
何百Gというもの重力を浴びたはずの慎也はしかし、重力に押しつぶされることはなかった。一瞬失敗したかと田中は考えたが、全身を支配する倦怠感は紛れもなくMPを消費した証。なら、なぜ相手は潰れないのか・・・そう田中が考えたとき、たった一つありえない答えを導き出した。だが、そんなことありえるはずがない・・・そんな田中の心を読み取ったかのように慎也は答えた。
「単純な話だ。地面下方向へお前が重力源を作ったというのなら、それとは逆に俺自身にかかる重力を低くすればいい」
田中は我が耳を疑った。彼とて重力は多少操れるものだが、そこまで融通の利くものではないと知っていたからだ。せいぜい、モノにかかる重力を強めたり弱めたりはできるが、瞬時に何百倍という重力を相殺するようなことができるなどということは不可能だと悟ったからだ。相殺に失敗すれば、己の体は真っ二つになるか、もしくはいずれかの重力源に水潰される、あるいは反応もできずにそのまま潰される。そのくらい精密な動作を行った慎也を田中は正しく強敵と認識し、意識をクールダウンさせる。
「チッ、面倒だ」
それを見て慎也は舌打ちをするが、それで事態は好転するわけでない。むしろ、今のを防いだせいで却って面倒なことになったと感じていた。一度激昂して冷静になれたものは挑発しても無駄だと知っていたからである。・・・もちろん、それに限らないこともあるのだが。
「・・・で、押しつぶせないなら俺を浮かしてみるか?」
「それも相殺するだろ、お前は」
やはり乗ってこないかと慎也は苦々しい気持ちとなる。彼の立てた作戦はこうだ。まず、相手に特殊能力を使うように挑発しておいてから、それを発動するために意識を集中してる間に距離を詰めて取り押さえようというものだったが、やはり無理であったようだ。こうなったら一筋縄ではいかないだろう。そう思った矢先に、田中は手を伸ばした。また、攻撃かと思った慎也はその予想が外れてできた光景に舌打ちをした。
手を伸ばした田中の手には緑の粒子のようなものが集まり何かを形作っていった。やがて、その場に出来上がったのは、緑色の大槌である。その現れ方からして慎也は魔法武器だと推測する。そして、それを構えた田中は・・・
「・・・なっ!」
重そうな大槌を持ちながらも恐ろしいまでの速度で迫ってきた。そして、それを物凄い勢いで慎也にたたきつける・・・が、それはスロット2の効力によって阻まれる。だが、ピシリと嫌な音慎也のが頭の中に響く。
つまるところ、この槌には特殊能力を無効化する固有能力を持っているのだろう。そうでなければこのスロット2を打倒しえないとはエルとの戦闘で身に染みていた。・・・もちろん、本人自身がそのような特殊能力を持っていることを否定することもできないが。その場合、田中は複数個特殊能力を持つ漂流者ということになる。そんな厄介なものに挑むほど慎也は戦闘狂ではないが、この場には春香がいる。彼女に危害を加えうる可能性がある相手なので退くことはできない。だから、慎也は
「召喚、黒刀ノワール、白刀ブラン」
刀を抜き、切りかかった。だが、それは大槌に弾かれる。しかし、
「召喚、氷刀アイシア。『氷結斬撃』」
慎也は肉を切らせて骨を切る・・・というには肉を切らせてはないが瞬時に召喚した氷刀アイシアを振るう。決まったと慎也が思ったときには、田中はまるで、空中落下でもするかのように後ろの方へ『落ちていった』。
そして、そのせいで彼の攻撃は外れた。
「・・・ちっ、重力はやっかいだな」
それを見て慎也はすぐに今の回避方法を看破した。
今、田中は自身の後方に重力源を発生させて、まるで空中から落下するかのように背後に落下することによって攻撃を回避したのだ。実に便利だな・・・と内心思いながらも自身ならここまでスムーズにこの回避方法を使用することは無理だろうなと考えた。当然、スロットでトリガーとなるアクションやワードを登録しておけば簡単だろうが、重力の強さによっては回避速度がでないだろうし、ちゃんと重力を消す設定もしておかないと自身が潰されるのが関の山だからだ。準備なしの時の即効性のなさ、これが彼の『近神者』の弱点だともいえよう。逆に言えば、限定的であるが故に即効性はあるのが田中の重力の特殊能力の強みだが。
「・・・くそっ、本当に面倒だな」
相手の能力からそれなりの戦い方を模索した慎也は、相手の能力の厄介さを再認識してそう毒づいた。
####
さて、時間は少し巻き戻り、慎也と春香が開港したころと同時刻、反対側の獣人軍側では、昨日と同じくエルが立っていた。
周りを囲まれて。
「確かに獣にしては知能が回るようでございますね。なるほど、故に獣人でございますか」
だが、エルは死は恐れない。むしろ死を感じさせる闘争を望む戦闘狂の節があるのでこのような状況は願ったりもないものだが・・・・
「しかし、雑魚がいくら群れようとも胸弾むことはないのでございます」
そう言い放つ。そして、その周りを二重三重と取り囲む男達から孤立するかのようにただ一人立つ、筋骨隆々で漆黒の尻尾と狼耳を持つ男、ヴォルフをエルは見た。
「・・・まあ、そちらのイヌは少しはやるようでございますが」
そのエルの言葉に周りの獣人たちがざわめく中、第一位強食者筆頭の肩書を持つ黒狼族のヴォルフは鋭い瞳でエルをにらみつつ、口を開く。
「貴様に尋ねる。貴様の名は、『強者喰らい』エルセリアで相違ないか?」
それを聞いたエルは記憶をたどるように首を傾げて「ああ」と声を上げた。
「確かに昔、そう呼ばれたこともございました。どこでまでかは記憶の彼方でございますが、それがどうかなされたのでございますか?」
その返答にヴォルフは瞳を伏せて「そうか・・・」と小さくつぶやいてから、力強く顔を上げた。その顔はまるで死に行く戦士のように晴れやかな顔だった。
「第一位強食者筆頭、ヴォルフ・ゼリズ、『強者喰らい』に一騎打ちを申し込む」
「承諾でございます。死ぬ気でかかって来ると良いでございます」
瞬間、ヴォルフは後ろへ飛んだ。何故か、理由は簡単だ。一瞬で距離を詰めたエルが剣を一閃していたのを見てほかの兵士は悟る。目に留まらぬほどの一撃を避けたのだと。
「む、それなりにできるでございます」
そういって今度は、ヴォルフの背後を取ったエルだったが、振り下ろした剣はいつの間にかヴォルフが手にしていた小楯によって阻まれる。それによって剣をはじかれたエルは無防備な姿を見せ、ヴォルフは片手で持った剣をエルに向かって一閃する。
「・・・浅いか」
だが、エルは瞬間後ろに飛びのいたお蔭で重賞は免れたが、服に一線が入り奥の素肌がのぞいていた。そう、浅いとはいえ一撃を入れたのであった。
「・・・謝罪、でございます」
「・・・何がだ」
「・・・正直、ワタクシはアナタを見縊っていたのでございました。ですが、ここからは本気でございます。『強制行動の呪い』」
ズズズッとエルの持つ剣から滲むように噴出した黒い何かは彼女の体に纏わりつく。そして、瞬時に距離を詰めて剣を振るうがそれはあっさりとヴォルフによけられてしまう。まるでこうなることが分かっていたかのように。
だが、エルはそのようなことを気にしない。よけた先へと剣を振るうが今度は小楯ではじかれるが、はじかれる前提で剣を振るっていた彼女は横蹴りを放ちヴォルフはそれを喰らってしまった。
「ぐっ・・・!?」
ざざざ・・・と地面を滑りつつも転倒は避けたヴォルフだが、当然エルはその隙を見逃さない。今度こそはと首を狙って剣劇を放ったが・・・逆に後ろへ倒れるような格好で倒れたヴォルフに避けられる。そして、
「・・・なるほど」
ドサ、ザクリ・・・という音を立てて遠くの方へ突き刺さる漆黒の剣とそれを握る自身の両腕を見やったエルはつぶやいた。
「アナタの特殊能力は未来視系のものですか」
「ああ、そうだ。そして」
そして、後ろへ倒れこむ姿勢のままエルの両腕を切断したヴォルフはニヤリと口角を釣り上げて笑った。
「腕のない剣士など敵ではない。この戦い、俺の勝ちだ」




