第四十話 少年Aと人獣戦争四日目3
こんにちはー!一週間ぶりですね!
前回のあらすじ:エルが勝利。
「・・・で、まだあきらめないのか?」
「・・・ええ、諦められないわね」
後に地獄の扉と呼ばれるようになる大きな裂け目に唯一かかる橋のような場所の前で、その『橋』を守っている慎也は、春香と対峙する。
勇者三人が無力化され、戦える勇者がたった一人のままであるいま、全人間種の期待を一身に背負う春香は己の中に眠る矛盾を抑圧し、慎也に相対した。
相手が春香である以上、手荒に責めない慎也なので戦況は拮抗しているように見えるが実際はそんなことはなかった。
春香たち人間軍は肩で息をしているのに対し、慎也はただ立っていた。息も乱さず、平常の状態で。しかも、人間軍は指揮官が数人殺されているが、慎也はすべての攻撃をはじき返し無傷のまま。
隔絶などという言葉では言い表せないほどの大きい壁が彼らの前には立ちはだかっていた。それ故に、慎也は尋ねたのだ、「あきらめないのか?」と。
そして、春香は「否」をたたきつける。
「「「・・・ケリス・テリナ・アク・ベルティ・スクレーシア・アイス・ランス!!」」」
と、その時、魔術師部隊から一斉に氷の槍が発射され、それが多人数詠唱による特別なダメージボーナスを得て慎也の防御壁を突き破る・・・そう思っていた。だが、実際は
「・・・フン」
刀を一閃するだけであっさり砕かれてしまう。
「化け・・・もの・・・」
MPを使い果たした魔術師たちは倒れこむ。
だが・・・
「・・・フラッシュ!」
初級魔法のフラッシュによって司会を奪われた慎也に向かって二人の冒険者が剣をたたきつける。だが、その剣は空中でなにかに受け止められたような感覚を覚え、そのあと、慎也が刀の鞘を使って吹っ飛ばした。
完全な奇襲だったがゆえに、スロット2は確実に作動する。
「・・・で、まだ続けるのか?」
そして、目くらましから回復した慎也は再度尋ねた。だが、どうせあきらめないだろうと思って腕に付けた時計をみると・・・正午を過ぎていた。
「・・・腹が減ったな。戻るか」
「・・・え?」
そして、あろうことかテントの方に戻ろうとしていた。殺し合いをしていたのに平然と腹が減ったと言って飯を食べに行くのだ。
背中を向けてテントに向かう彼に当然、チャンスと思った連中は魔法や矢や槍を放つがすべては跳ね返され受け止められなかったものは自身の攻撃にやられた。ならば、と思ってテントに攻め込もうとするが、その前には障壁があって入ることはできなかった。
「なっ!?どうなってる!?」
「ま、魔法だ!!魔法を放て!!」
そしてドンドンと放たれる魔法の音に慎也の怒りのボルテージが上がる。
「煩いぞ・・・平民とか兵士とか関係なく殺すぞ?」
そして、慎也の本気の殺意がこもった睨みにすごすごと全軍撤退していった。
かくして人間軍の四日目は終わった。
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ドサと、音を立てて落ちてきたものを見た兵士たちは自分たちの目を疑った。なぜなら、その落ちてきたものは人の頭で、それは軍の主力の男の頭だったからだ。その顔はまるで、今なお敵と対峙しているかのように獰猛な表情であった。
ブンと漆黒の剣をふり、血を払ったエルは兵士たちに告げた。
「それで、もう降参でございますか?」
淡々と告げるその言葉は、兵士たちに死の恐怖を与えるに十分なものだった。
「う、うぉぉぉぉぉぉぉっぉ!!!!!!!!!!!!!」
エルの威圧感に耐え切れなかった彼らは逃走を決めた。だが、それと同時に背を向けたらすぐに切り殺されると感じた彼らのうちの何人かが飛び出した。
一般兵三人、第三位強食者が二人、第二位強食者が一人。誰もが抑えられるはずだと思った。だが、彼らはあっさりと上半身と下半身が分かれてしまった。
「なっ・・・!!」
先ほどのガルハダよりは弱いとはいえ、自分たちの主力である第二位強食者が歯牙にもかけずにころされた。動揺しない兵士はいなかった。
そして、その後、死にたくないと思った本能と、自分が犠牲になってでもあの女を止めなければならないと感じた彼らは無謀だと諌める理性を振り切って、己を鼓舞するように雄たけびをあげて彼女に襲い掛かり、そして散っていった。
この日、獣人軍は多大な兵力を消費した。
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「な!?全滅・・・だと!?」
獣人軍総本部に獣王の大声が鳴り響く。その叫びは先ほどの戦いに参加した兵士たちが誰一人残らず、死亡したというもので、兵士全体に動くこともはばかれるほどに緊張感が走った。
体毛がすべて逆立ちそうな緊張感の中、第一位強食者のヴォルフは声を上げる。
「ですが、陛下・・・」
「なんだ、ヴォルフ!」
あまりもの縦横の権幕にみんながおびえる中、彼はおびえずに言葉を続ける。
「これは人間軍の仕業ではございません」
「・・・なに?」
獣王がヴォルフに誰の仕業か問いかけると、ヴォルフは大量に苦虫をかみつぶしたかのような顔になって答えた。
「昨日現れた第三勢力のうちのひとりです」
シンと静まり返る総本部の中で、獣王は眉をひそめた。彼は今、信じられないことを聞いたような気がしたのだ。しかもそれに対しての訂正もない。自分が聞き間違えたかと思って再度尋ねる。
「今、一人と聞こえたが?」
「はい、一人です」
獣王が絶句したところでヴォルフは続ける。
「しかも、彼の者は銀髪で金と赤のオッドアイの悪魔族の剣士なのだとか」
「悪魔族のオッドアイで剣士だと・・・?」
その言葉に獣王はピクリと反応する。
「ええ、『強者喰らいのエルセリア』である可能性もあります」
『強食喰らいのエルセリア』という女の話は獣王やヴォルフが子供の時に聞いたことのある話である。曰く、銀髪のオッドアイで、曰く、闘争に目がなく、曰く、強者を求めさまよっている。曰く、どんな強者も彼女の前では赤子同然である。そんな、うわさがあり、強者を重んじる獣人種の中でもタブーとなっている話だ。
「存、在、していたのか・・・?」
「にわかには信じられませんが、確かにそのような者であればこの戦いの結果は納得できるものかと」
勝てるわけがない・・・そんな思いが兵士たちの中に渦巻く中、たった一人がそれを鼻で笑った。
ちらりと獣王はその男を見る。そこにいたのは人間種の男であった。
ボサボサの髪に眼鏡を掛け、赤いマントを羽織る彼はこの獣人軍でも屈指の実力をもつ、第一位強食者であった。その名はタナカ。
タナカは王がこちらをみていることに気づいて、壁にもたれていた背を話、直立してから言う。
「じゃあ、獣王、俺がそいつを殺せばいいんだろう?」
「やれるのか、タナカ?」
「愚問だ。じゃあ、決定だ、明日出るぜ」
「そうか、任せた」
王の言葉に満足げに頷いた後、踵を返し彼は本部から立ち去る。その顔には笑みが浮かんでいた。
というわけで早足感はありましたが四日目は終了。戦争はもう少し続くのでもう少し付き合ってください。五日目はなんとタナカが出動。日本人っぽい名前だが彼の正体は一体!?
次回に続く!




