第三十八話 少年Aと人獣戦争4日目1
不定期ドーン!!
前回のあらすじ:慎也は虎を殺した▼
「な・・・・・ん、だこりゃ・・・・?」
人獣戦争四日目、第三勢力も加わり増す増す激しい戦争が繰り広げられると予想されたその日の朝、人間軍及び、獣人軍は己が目を疑った。
何故か?それは単純な理由である。獣人軍の陣地と、人間軍の陣地のちょうど真ん中当たりに、まるで境界線だとでも言うかのような地割れが発生していたのだから。しかし、その一部分、獣人軍の総司令部と人間軍の将軍のテントのちょうど真ん中の位置に四つのテントが立っていて、そこだけは地割れが無かった。つまり、あのテントの元を通れば相手と戦えるということなのだが・・・。
両軍は走りより、そのテントを見る。・・・水玉模様で剣と盾の紋様が入っていること以外は普通のテントとは変わりないそれを、両軍は最大限警戒していた。両軍共に、そのテントの中にいた者たちから逃げて来た者たちが、そこが第三勢力の仮拠点だと報告していたからだ。
そして、両軍が来てから少ししてようやくテントの中から人が現れた。
一人は暗殺者のような服を纏った少女。体の線が明確に浮き出るその服により、少女は小柄だと分かるがその纏う気配は現在も第一線で戦う猛者を思わせた。
一人は修道女の服を来たシスター。髪を隠すコイフによってその髪こそ分からないが、何色でもきっと美しいと思わせる美貌を持った少女だった。
一人は悪魔族の女。こめかみから生えている二対の山羊のようなねじくれた角はそれだけで他の種族に恐怖を与え、昨日の戦果と相まって地獄からの死者を思わせる雰囲気を放っていた。
一人は男。人間種で特に特徴ある顔ではなかったが、この中で一番、恐ろしく感じられた。
そして、人間種の男は人間軍の方へ歩き出し、悪魔族の女は獣人軍側へと歩き出した。
「さて、ゲームを始めようか」
そう、人間種の男・・・いや、『悪魔』がそう言ったとき、
「マスターから一日、貴方方と遊ぶよう言いつけられてございますので、せいぜい足掻いてくれることに期待、でございます」
反対側で悪魔族の女はそう言った。
そして、戦争とは名ばかりのゲームが始まった。
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「・・・春香か。昨日は気絶していたな。傷は大丈夫なのか?」
「そうね、誰かが気絶した私を守ってくれたお陰ね」
戦争の最前線で今代勇者の北見春香と、『悪魔』雨川慎也は対峙する。その目にためらいは一切無かった。
「・・・そんなこともあったな。お前を害する者はなんであれ許さない。それが第一の行動原理になっているからな」
「女冥利に尽きる・・・と言っておくわ。個人的にも嬉しいけど・・・シン。人間種側に着く気はないの?」
「腐り切った王のところへか?無理だな。和平を望む王の所へならいいがどうみても、戦争へと民衆を駆り立てる側だろ。春香、お前こそこっちにきたらどうだ?最高の待遇ってやつは無理かもしれないが自由な生活は保証してやるぞ。きれいな景色でもいい」
「・・・ロックスターみたいなことを言うわね」
「いや、その言い方はひどいだろ。まあ、いい。つまりは交渉決裂か?」
「・・・そうね。私は裏切る気はないわ」
「裏切る気も何も、王が裏切るんだがな。まあ、いいか。その時にこっちに来れば。お前と・・・立峰くらいなら迎え入れてもいいぞ」
「降伏はしてくれないの?」
「そっちこそ、その気はないのか?」
「そう・・・。殺す気はないわ。『リリース・ストック・ケイデロス』!!」
魔法詠唱を省きつつ、詠唱したのと同じほどの威力を出せるストック魔法により炎龍を生み出した春香。大ダメージは間違いないが、静音にすばやく回復させれば命は助かるだろう・・・それが、彼女の計画だったのだが・・・。
「えっ!?」
「殺す気があろうとなかろうと、俺が攻撃を喰らう気はないし、攻撃を喰らうこともなさそうだな、これは」
炎龍は慎也に触れる前に消えた。
熱とは、簡単に言えば分子が激しく運動するためにおこるものなのだ。故に、分子の動きすら止めてしまう、慎也のスロット2、完全物理静止障壁の前では如何なる熱も、瞬時に消え去る。
しかし、同時にその時の油断しすぎているように見えている慎也に今だとばかりに勇者の一人が突っ込む。
「ウォォォォォォォォォォォォ!!!!」
その勇者は天ヶ崎憲成。その手には名剣セルノス。王国の宝物庫に眠っていた希少級の剣だ。特に、この剣はバリアーなどの障壁系能力によって生み出された障壁を無効化する効果を秘めており、こうした守りをも突破することが出来る。
「・・・なっ!?」
ただし、それはもちろん、障壁系の特殊能力によって生み出したものに対して、なのだが。
慎也の使用するスロット2は、本人の命名こそ完全物理静止障壁ではあるが、厳密には障壁ではなく、本人より幾らか離れた空間の攻撃意思のある物に作用する現象のようなものであるため、その名刀の特異な能力も発揮しなかった。
「そんな鈍らで切り掛かろうなどとはなんと言う蛮勇。ああ、いつから勇者の『勇』は、勇気の勇でなく蛮勇の勇に変わってしまったのやら・・・か?」
そんなふざけたことをいいながらまるで猫か犬かを追い払うかのようにシッシッとすると、その瞬間憲成の全身にもの凄い速度の風が吹く。その風はあまりにも強く、憲成の身を浮かし、そして吹き飛ばしてしまった。
「ガハッ!!!」
そして、近くにあった、三メートルはある岩に背中から叩き付けられて彼は気絶した。
「剣も鈍らで動きも遅く、攻撃力は中途半端で防御もそんなにない。・・・やれやれ、少しは強いのかと思ったがそうでもなかったか」
ハアッと深いため息をつき、地面に座り込む慎也を人間軍は恐怖の眼で見つめる。今の天ヶ崎は本気だった。本気で、自分たちの眼に見えない速度で迫ったのに、それでも敵わなかったのだ。
「さて、他は来るか?退いてもいいぞ」
そういう慎也に反応したのか
「や、槍だ!!弓だ!!放てっ!!」
そう合令をかけたどこかの隊長にあわせ一斉に槍や矢が慎也のもとへ飛んで行く。それを慎也はただ見つめていた。
そしてその槍や矢は何かに突き刺さったかの用に空中にぬい止められ、そして地面へと落下した。
「こんなので死ぬんだったらさっきの春香の一撃で死んでるだろうが・・・ったく」
そして、無傷な慎也が座っていた。
「『サモン・サーヴァント!!!』」
桐原がそう叫ぶと彼の影からのっそりのっそりと牛が人型になったかのような怪物が姿を現す。体調3mで単眼のCランク程度の冒険者では全く手の出せない存在だった。
「行けっ!!」
桐原の命令に答えるかの用に「もー」と泣いてからダッシュするその怪物に対して慎也は左手を突き出す。天ヶ崎のように吹き飛ばされるのかと大方が思ったが実際は違った。相手はモンスター。彼が躊躇する意味は無い。よって、彼はただ左手で指を鳴らした。
ぴちょん、そんな音がしたかと思うとモーギューとよばれるあのモンスターは地面に微かな染みを残して消え去った。
「え・・・?は・・・?」
「たかがモーギュー一匹でいい気になるな。本気でやるなら五万くらい用意しろ、ドラゴンをな」
どさり、と桐原は膝をついた。その顔には信じられないと書かれていて絶望した面持ちであった。
「・・・で立峰は回復薬だから攻撃は出来ない。となると、残る攻撃者はお前になるか、春香」
「・・・強くなり過ぎじゃない、慎也?」
「そのお陰でそいつらも無傷だろうが。・・・で、今なら気兼ねなくこっちに来れるんじゃないか?」
「はいそうですかって、わけには行かないのよ」
「頑固だな・・・」
「そうね。『リリース・ストック・ザルベイン』」
突如、炎の玉が四つ生まれて慎也に飛んで行く。どれもこれも当たれば瀕死なんて者ではないほどの火力だが慎也は一切動じなった。だが、慎也は知らなかった。この炎の玉には特殊な能力があるのだ。
それは、
「なるほど。特殊能力無効化か。厄介だな」
焼きただれた左腕を見ながら慎也はそう言った。一応、言っておくが、この玉は直撃するだけで腕など吹き飛ばす勢いがある。だが、既にレベルをして超一流となった彼に取ってみれば己の腕を焼いただけでも賞賛できることであった。
だが、彼は背中に背負ったバックパックから水筒を取り出し、中に入った水を左腕にかける。すると、見る見るうちに傷が治って行った。
「まあ、死ななきゃ治るが。一応回復役も居るし、よっぽどがないかぎり俺は負けないな」
そして、パチンと左手で指を鳴らし、この場で最も地位の高い将が消えた。その光景を春香は呆然と見ていた。
「さて、そろそろ頭の排除と行くか」
「シン・・・あなた、人を・・・」
「春香。これは戦争だぞ。人死にくらいある」
「でも・・・自分で・・・」
「頭を殺せば部下は勝手に逃げ惑うさ。つまり、最小限の犠牲だ」
「・・・罪悪感は?」
「そんなもの、あるくらいなら戦争をしなければいい。俺は、戦争を止める為に戦争をしている。矛盾しているだろうが、俺は人を殺す覚悟はある」
「・・・変わったわね」
「ああ。変わらざるを得なかった」
そしてじっと見つめる春香に慎也は言った。
「大切な奴を守る為にな」




