第三十五話 少年Aと人獣戦争3日目2
不定期ドーン!
前回のあらすじ:主人公到着。
「人間種に栄光あれェェェェェェェェェェェ!!!!!!」
そう言って散って行く人や
「いやだ、いやだ、僕は死にたくっ・・・・!!!」
そう言って無惨に死ぬ人、もしくは何も感じないままに死んで行く人。首を切られて死ぬ人や、失血死してしまう人に、あまりの出来事にショック死してしまう人。この場には色んな死が生まれて、溢れて、淀んでいた。そして、漂流者たちは私、北見春香を除き、誰も耐えられなかった。
「『カラゴ・ウィンド・カッター』!!」
僅か三ワードで発動するかまいたちのような魔法。それは、私の称号『マジックマスター』によって強化されたその魔法は通常では考えられない威力で敵軍の中に駆け巡って、敵を切り裂く。胸元に感じる苦いものを無理矢理押しとどめて、私は敵軍を蹂躙した。
「貴様の首、貰ったァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」
と、その時、巨大な黒犬がそう言葉を発しながら私たちの元へ走って来て、その大きな口で私の首を噛みちぎろうと空中に身を躍らせるが・・・
「『ストック・リリース・ファイア』!!」
その前に、昨夜一晩寝ずに詠唱溜めした炎を吹き出す魔法が発動し、黒犬を焼き払った。
『全知』の派生能力の一つ、ストックは、最後の魔法名を言う前の発動直前の魔法をそのままの状態で待機させる魔法である。ストックしたものは『ストック・リリース』と言った後に、続けて魔法名となる部分の詠唱をすればそれだけで大魔法すらノータイムで発動できる。また、ストック数はレベルに依存して、現在は600しか貯めることは出来ない。だが、それだけあっても使いたい魔法があるかは常に無意識下で分かると言うおまけ付きだ。
ちなみに、詠唱短縮というものもあるが、こちらはストックと違って、威力は低下するので緊急出ないときはこちらが主である。
そして、私はそのまま短縮魔法とストックを利用して後ろの結界の中にいるクラスメイトたちを守っていた。
チラリと、後ろを見ると皆、グロッキーな顔をしていた。地面に吐いているものもいるし、気絶しているものもいた。
あと、一人、居てくれればもう少し楽になるのに・・・と考えたところで
「ふんむぅ、貴様がぁ、ここらでぇ、一番強そうぅ、だなぁ」
ドシン、と音を立てて上から人が振って来た。それはとてつもない威圧感を放っていて、私が今まで倒していた獣人たちが子供に見えるくらいだった。
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「ウォォォォォォォオオオオオオオ!!!!!」
そう雄叫びを上げて襲いかかってくる獣人を、ガレスは長年連れ添った妻のように慣れ親しんだ愛剣、スラスレスで斬り捨てた後、その後ろに出て来た相手を自分の特殊能力『肉の壁』によって強化された左腕で殴りつけた。それだけで相手の体に風穴が開き、相手は絶命する。
「敵が多いな・・・。勇者たちはどこだ!!」
「我々も探していますが・・・。しかし、確かに敵が多いです、団長」
「このままでは埒があかない。突っ込むか?」
「・・・ええ、今は王の護衛をしているわけではありませんから、それもいいでしょう」
チラリ、とガレスは隣にいる部下を見た。そいつは、最年少で近衛騎士団に入団したにも関わらず、入団直後からめきめきと実力を伸ばし、いまや副団長を務めていた。
ピュレソス・クレス。茶色の髪を短く刈り込み、耳にもピアスしているとても騎士のようには見えぬ男だが、その実力は一級品で、また騎士としての心構えも立派なものだった。つまり、己を背中を任せるにはこれ以上ない男。それが彼だ。
「それでは、行きます。『ウィンド・・・・」
そう、彼が呟くとともに、彼の剣に風が集まって行く。その有り様に周りはそれに目を奪われ、敵はこちらに襲いかかってくるが、その敵は全てガレスの剣の錆となった。
ちなみに、これは彼の特殊能力の効果の一部であるらしい。全て教えてもらった訳ではないのでそれが本当かウソかは分からないし、他人の特殊能力の詮索は無礼な行為なので聞くような愚は犯していない。
さて、最初はそよ風しか吹かなかった戦場に、今は強風が吹いていた。それが、彼の剣が真の力を発揮する前条件だった。
「・・・バースト』!!!!」
あとは、彼が発動すれば、その膨大な力は敵を蹂躙する。
彼が発動した瞬間、ガレスはすぐに彼の真正面から真後ろに後退した。そして、彼の放った一撃の惨状を目の当たりにした。
『ウィンド・バースト』。それをピュレソスが発動した瞬間、剣から暴風が吹き荒れ、直線上にいた敵を全て薙ぎ払ったのだ。薙ぎ払われた敵は全て上空へ巻き上げられそして地面に落ちてもの言わぬ骸と成り果てた。そして、その後には誰も立つものがいない直線の道が出来た。
「突撃せよっ!!!」
つまり、突撃のチャンスであった。
普通なら、相手の中に切り込んで行ったら左右から押しつぶされて終わりだと思うかもしれないが逆に、敢えて敵中に切り込むことで、敵の動きを阻害し、かき乱すことが可能と成る。もちろん、それには技量も居るが、ここにいるのは人間種の中でも剣の技術に賭けては右に出るものは居ない集団の近衛騎士団。あっさりと敵を分断し、被害を広げて行く。
「早く倒して、勇者を助けるぞ!!」
ガレスがそう叫ぶことにより近衛騎士団の面々の剣筋が一層冴え、敵が次々に屠られて行く。彼らは勇者が今、戦えない状況にあるだろうことは容易に想像できた。なにせ、彼らも初陣のときはひどかった、という思いが各人にあるからである。
それに彼らは勇者のことを好んでいた。勇者は人々の希望を背負い、困難に立ち向かう。その勇者を自分たちが守ることに彼らは喜んだ。だから、彼らは疲労など無視して一刻も早く勇者の元へ駆けつけようと更に剣速を上げて敵を撃破して行くのだった。
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「おい、こんなところでテントを張って何をしている!!!!」
「そうだ、貴様はどちらの軍の者だ!!」
人間軍の百人長を任されたケインと、獣人軍の第三位強食者のガーロはとあるテントを挟んで対峙していた。そのテントは水玉の生地に剣と盾の紋様が刻まれたものであったが、そんな模様は彼らが見たことはなかった。そんな彼らが再三再四呼びかけていると中から人間が出て来た。それはどう見ても人間種の男で、黒目黒髪という珍しい組み合わせをした特に特徴のない顔立ちの人間だった。
そして、彼が出て来た瞬間、人間軍はこんなところに味方がいたのか、と安堵し、獣人軍はいまさら増えた所でどうにもならないと思った。そんな両者が見つめる中、男は欠伸をして言った。
「・・・アン、朝飯はまだか?」
その言葉を聞いた瞬間、両軍はぽかんとした顔をした。戦場のど真ん中で聞くことのない台詞だったからだ。
「あ、シンヤ様。もうできておりますよ、サンドイッチです」
そして、他のテントからシスターが出て来た。見えるのは顔だけだったが、整っていて絶世の美女と読んでもいいほどの魅力が合った。そのシスターは男にサンドイッチを手渡し、男はそれをほおばる。
「・・・ふむ、相変わらず、美味いな」
「いえ、それほどでも・・・」
男がほめるとそのシスターは頬を赤らめ照れていた。そして、それを見た男たちはようやく我に帰った。
「おい・・・」
「うるさい」
苛立ったケインが声をかけようとした瞬間、その男は目の前のシスターから目を離して、ケインを睨みつける。その瞬間、ケインは今まで感じたことのない威圧感によって歯をガチガチと鳴らし始め続けようとした言葉を失った。
「・・・ふむ、一番いい装備してるのはあいつだから、指揮官はあれみたいだな。エル、殺せ」
そして、買い物でも行こうか、とでも言うかのような軽い口調で男がそう言った瞬間、ケインの真横に誰かが現れ、そしてケインの首が落ちた。
「・・・え?」
そんな呆けた声がどこかから聞こえたが、残されたのは結果だけ。ただ、自分たちの上司が、歴戦の戦士が一瞬で殺されたのを理解した兵士は膝をついた。そして、またしても刹那。今度は誰かがガーロの近くに現れたが、彼はそれを野生の勘とでも言うべき何かで感じ取り、彼は初撃を防いだ。
「よし、防い・・・」
そして彼は首を失った。たかが一撃を弾く程度では死を逃れられなかったのだ。
そして、その誰かは男の近くに現れて、ようやく皆、正体を見ることが出来た。悪魔族の女。それが、たったいま、百人長と第三位強食者を一瞬で屠った者の正体だった。
「・・・少々拍子抜けでございました」
小首をかしげて悪魔族の女がいう。そして次は自分たちの番かと兵士たちが身構えたとき
「エル、雑魚は放っておけ」
「了解でございます、マスター。では私は今汚れた剣の汚れを払拭してくるでございます」
男が制止すると、そのエルと呼ばれた女はテントに入った。そして、獣人軍の兵士も膝をついた。
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「で、ナツキ、起きたか?」
「ちょ、ちょっと待って!」
突然ナツキがテントから飛び出す。それに俺は面倒くさ、という目を向けた。
「何だ?」
「殺さなくても・・・」
そう言った彼女に俺はため息をついて言った。
「いいか。指揮官が死ねば大体の敵は雑魚に成り下がる。元から雑魚でももっと下がるんだ。それに指揮官を失って尚、立ち向かおうとするやつはあまりいない。それにな、この方法だと犠牲が少なくて済むんだ」
「犠牲が少なくて済む?」
「ああ。だって、ここで無理に襲ってくる奴は仕方ないとしてそうでない奴は死ぬのが怖い奴だからな。放っておけば勝手に逃げて死者を減らすことができる。・・・襲いかかってくる奴は殺すかもしれないがな」
「だからって指揮官を殺すのは・・・」
「じゃあ、万が一それでこちらが被害を被ったらどうする。いいか、犠牲は0ではむりなんだ。だから、俺は最小になるよう努力をしている。・・・殺し合いが目的ではないしな」
そして、俺はナツキから目を外して両軍を見やる。そして言い放った。
「いいか。アンタらがこっちを襲ってこないなら別に俺はアンタらをどうこうしようなんて思わない。だから、死にたくない奴は大人しく帰れ」
そう言うと、獣人も人間も逃げていった。それがかなり遠くまで言ったのを確認して俺は完全反射障壁から外へ出た。
「さて、じゃあ飯もくったから戦争介入、始めるか」




