第三十四話 少年Aと人獣戦争3日目1
いつまで続くか不定期ドーン!!
前回のあらすじ:解説回でした。
三日目にして、人類種は遂に漂流者たちを決定した。・・・言うまでもなく、これを聞き春香の顔は青ざめた。自身の直接聞いた情報が誤っていたからだが・・・実のところ、彼女が聞いていた時点まではそれで決定であった。だが、無視できない権力を持つ大貴族からその『提案』があったのでこの日、彼女たちは駆り出されることと成った。
さて、この日は数多くの冒険者たちが戦場へと駆り出された。理由はもちろん、昨日の第二位強食者の撃破である。これを見て自分たちもやってやると冒険者たちは意気揚々と戦場へと赴くのであった。
その一方、獣人種はと言うと第一位強食者を一人、第二位強食者を三人、そして第三位強食者を十人投入した。第一位強食者は文字通り万夫不当の掛け値無しの化物であるから彼らも昨日のサイクロスの敗北を意識しているだろうことが伺えた。
「ようやく着いたか・・・。大丈夫か、お前ら」
「・・・・はあ、はあはあ・・・・・・大丈夫・・・・です・・・はぁ」
「それで、どうなさいますか?皆殺し、でございますか?」
「皆殺しまでは要らないな。俺はネクロマンサーじゃないから、死体が大量にあっても仕方ないからな。殺さない程度には蹴散らす・・・が、今は待機だ」
「待機、でございますか?」
「ああ。・・・息を整えるまで待ってやれ。それに、第三勢力として介入するから行動を起こすのは戦争が起こってからでいい」
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「では、諸君!世界平和の為に・・・獣人種どもに目に物を見せてやるがよい!!」
「「「「はい!!!!」」」」
ドタドタドタと慌ただしく出て行った漂流者たちを見送り、人間種の王、マルノン・ケラトニック三世はニタリ、と邪悪な笑みを浮かべた。
「誠に扱いやすくて助かるの」
「ええ、そうですね」
と、独り言を話しているとそれに答える声があり、ギョッとして後ろを振り返るとそこには宰相のセルキンが立っていた。
「何だ、セルキンか。驚かせるでない、余とて歳なのだからな」
「知っていますよ、私も同じ歳ですから」
国王と宰相は二人とも、幼い頃からの知り合い・・・つまるところ幼なじみであった。セルキンはこの国でもかなりの権力の家の出で、かつ頭も良かった為こうして宰相として迎えられているが、もしそうでなくても何らかの役職で王の側で仕えただろうとは、王の弁である。
「やれやれ、しかして捨て駒として使えない捨て駒は不便なものよな」
「仕方ありません。まだ、日も浅いのですから」
「・・・堅苦しい口調はよせというに。ここには余らしか居らぬ」
「しかし、ここは謁見の間でありますれば」
王は堅苦しい口調はやめろというが、セルケンは堅苦しい性格なので二人が親しそうに喋った・・・というのは傍から見れば疑問符が付くが、それは本人たちにはちゃんとそういう気分であるので問題はなかった。
「まあ、それは良い。時期が悪いのであれば、ちゃんとその時期を待てばいいのだからな」
「まあ、そうです。ですが・・・マルノス、最初の勇者に比べ、回を重ねるごとに質が悪くなっているのは分かっておりますか?」
「・・・ああ。それは常々余も考えておった所だ。特に先代はひどかった。だが、今回は期待できるだろう」
「ええ。少なくても先代・・・いえ、五代前くらいよりは良質ですが、・・・やはり捨て駒は捨て駒以上には育たないのです」
「・・・む?どういうことだ?」
王はセルケンの言葉に疑問を持ち、先を促す。
「は。つまり、最初から王が捨て駒と見て育てれば、やはりそれ相応にしか育てることはなく、またそれ相応にしか育たないのです。・・・もっと、力を込めて育てれば、捨て駒とは言えど、嬉しい誤算を引き起こす捨て駒に成るかと思われます」
「・・・ふむ。一考の余地有りか。考えておこう」
「ええ。そうなさると良いでしょう」
この話を聞く者は誰もいなかった。そう、この二人以外は。
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「王よ、これはどういうことですか!!」
バンとドアを蹴破り第一位強食者のヴォルフが総司令部と言う名の王の部屋にはいりこんできた。それを見て、獣王レオナルドは顔をしかめ、口を開く。
「何事だ、ヴォルフ」
「何事だ、じゃありません。どうして奴が出撃するのです!!」
「・・・奴?」
「タナカです!!」
「・・・ああ。だが、全軍の指揮権は獣王が握っているものだ。故に、私の決定に口を挟むことは許さん」
「ですが、何故、奴なのです!!」
バン、と机に紙を叩き付けて、そう怒鳴るヴォルフ。その紙には第一位強食者、タナカ・エルス・オルタ・ジャスティンガー・フェルドルト・リン・ガーラ・ズベラット・ガーナ・サーラ・カルカランテ・ライトが出陣する旨の報告書であった。
「・・・はあ。いいか、ヴォルフ、奴は信用できん」
「ええ、分かっております!!ですから私は・・・」
「だからだ。信用できないからこそ、今度の戦争で信頼するにあたる者かを量るのだ。それに、信用で気んなら殺す必要もある。もし、運が良ければ人間種側が殺してくれるだろう」
「・・・ハァ」
「・・・納得していないようだが、お前は信用が置ける。少なくとも奴よりは重要に扱うべき価値がある。それでよかろう」
そこまで言われればヴォルフも悪い気はしないので引き下がる。
そして、獣王に退去を命じられ部屋から出て行った。
「・・・とにかく、ドアの修理をせねばな」
一人、獣王は自室でそう呟いた。
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・・・昨日は全く眠れなかった。
夜更かしは美貌の大敵なのに、とかそういうことを考える無い位には今日を迎えたくなかった気がする。もっとも、眠れなかったのはその所為だけではないのだが。
・・・とはいえ、疲労回復の魔法があるので体の倦怠感は消えてしまったが。魔法は便利ね。
「・・・春ちゃん、大丈夫?」
「どうしたの、静音、貴女ひどい顔してるわよ」
戦場にたどり着いて話しかけて来た静音の顔を見ると彼女の顔は少しグロッキーであった。・・・それも当然だ。日本という平和な国からこの世界に連れてこられ今回は戦争に参加するのだ。どれだけ凄惨かなどは知らないが、ひどいことだけは知っている。
・・・もちろん、興奮している者も中にはいるのだが。
「え、そ、そうかな?」
「そうよ、ほら」
そう言って鏡を見せてやると更に暗くなったので疲労回復の魔法を使ってみると、大分リラックスしたようで先ほどよりはマシな顔に成った。
「あ、りがとう。でも、私・・・緊張して」
「私だってこんな場所から逃げ出したいわ。でもね、」
静音から目を外し、遠くを見る。遠く遠く、獣人軍の方を見た。
「真実は確かめないと行けないのよ」
「・・・雨川くんですか?」
その静音の言葉にびっくりして思わず鏡を取り落としたが、すんでのところで異空間収納の魔法を使い、影へと吸い込まれて行った。
「・・・何で分かったのよ」
「だって、春ちゃん、あの日からあんまり笑わなくなったもの」
その言葉に、ここ数日の自分の様子を頭に浮かべてみるとなるほど、前よりここと休まる暇はなかったようだ。
「・・・でも、私は」
この時、彼女の頭が、ちゃんと睡眠の取った正常な状態であればあるいは違う結論を出したのかもしれないが、今の彼女は戦争が獣人と人間の間にあることだと思い込んでいたため、その結論へと至ることは無かった。
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少女は戦場を駆けていた。正確には、戦場跡地か、それとも戦場予定地か。未だ戦争は始まっていないため、昨日回収し切れなかったものなどが溢れ帰っていたが、それに頓着する様子無く、どこか目的地が決まっているかのように彼女は進む。彼女は黒い装束を身に纏った・・・所謂くのいちの格好をしていた。
さて、そんな彼女が走ること数分、ようやく彼女の目的地が見えた。そこには水玉模様の布に剣と盾が描かれているテントがあった。
そのテントに近づく・・・その10メートルほど前で彼女は手応えの無い壁にぶつかり、そして後ろへ飛ばされた。
「えっ・・・きゃん!」
あまりの衝撃の無さに何があったか分からないまま、ぽかんとした顔をしていると突如放たれた殺気に反応して、そちらを見ると、そこには黒目黒髪の、あまり特徴が無い男が、シスターらしき服を来た女性と褐色肌の悪魔族の女と一緒に立っていた。
と次の瞬間、その悪魔族の女が消えた。
「待て、エル」
しかし、男の制止の声が聞こえた時彼女の剣は既に、そのくのいちの首に吸い込まれそうだったが、それがピタリと止まる。
「・・・ふむ、アンタ、名前は?」
そして、その状態のままその男はくのいちの名前を聞く。それに食い気味に彼女は答えた。
「わ、私は、ナツキ!!わ、『世界の漂流者たち』の一員よ!!」
それを聞いた男はまた、ふむ、と言ってから告げる。
「『火中の』?」
そして、再びくのいち・・・いや、ナツキは食い気味に答えた。
「『栗は燃やし尽くす!!』」
「・・・どうやら、本人のようだな。エル、こっちに戻れ」
そういった、瞬間再び、悪魔族の女、エルの姿は消えて、瞬時に男の近くに現れた。それと同時に、殺気が消えてナツキは全身の力が抜けた。
「さて、先ほどは俺の眷属がすまなかった。先輩との約束があるからアンタは助けてやる。この戦争、何が合ってもお前が死ぬことは無いだろう」
「え、あ、はい」
そういうと、男はゆっくりとナツキに近づき、彼女の額に人差し指と中指で触れる。すると、バチッと静電気のような音とともに彼女の額に痛みが走った。
「いたっ!」
「認証完了だ。もう入れるぞ」
そう言った男がテントの側まで戻り手招きをするので、恐る恐る歩いて行くと先ほどの10メートル地点でもなにも起こること無くテントの側までよれた。
「あれ?あれ?」
しかし、テントの側から外を見た時、どこか薄い膜が張っているかのように外の景色が少し薄かった。何かがあるのだろう。
「それは、『完全反射障壁』。ぶつかったものの運動エネルギーをそのまま真逆に返す障壁だ。魔法も跳ね返すから何人たりともこの中に入って来れない。俺が認証した相手を除いてな。中から外へものを投げても跳ね返らないがな」
唖然としているナツメに男はめんどくさそうに口を開いた。
「俺は雨川慎也。俺の城へようこそ」
それを聞き、呆然とした頭で彼女は考えた。
・・・ああ、このテント四つが彼の城なのかと。
というわけで、今回は主人公登場回。次回から主人公が東奔西走八面六臂の大活躍・・・しません。飽くまで目的は戦争をとめることですから。もうちょい、そういう戦争はあとの方ですかね?・・・やるかな?やらない気が・・・。
さて、次回ですが、どうやら主人公たちは戦争に参加するようですね。もちろんどっちかの味方〜ではないですが。そんな主人公の台詞を一つ。
『エル、殺せ』
どういう状況ですかね?




