第三十二話 少年Aと人獣戦争2日目2
不定期ドーン!!
前回のあらすじ:獣人種の中でも強者と名高い第二位強食者と遭遇した『自由の鳥』。果たして、彼らは生き残れるのか!?
注意、色々とショッキングなシーンがありますんで、ちょっと程度のグロも危ない方はお引き取りを。
「フッ!」
先手必勝とばかりにジャーキーが放った突きはしかし、横から弾かれることによって失敗した。その弾く力は並外れて強かったため、ジャーキーが思わず、手を離すまいと思って力を込めた時、彼は無防備だった。
その隙にサイクロスはジャーキーを突き殺そうに身構えたが、すぐさま横に飛び退いた。
ドォン、という轟音と地響きと共にとてつもない大きさの大槌が先ほどまでサイクロスのいたところへ、叩き付けられる。
「ヌゥ・・・逃がしたんだな」
その攻撃の主はカルデス。本来ならもう少し早めに行動できたが、やはり利き腕でない分いつもより攻撃が遅れた感じであった。・・・それでも、胸を張って一流を名乗れるレベルの人間でないと避けることのできないくらいの一撃だったが。
しかし、それだけで攻撃は終わらない。サイクロスが飛び退いた先で、今度は上に飛び上がろうとした。その直後に地面から槍が生えて先ほどまで彼の手を貫く。
「ぬぐっ!?」
「すばしっこいからそこで串刺しになりなさい!!」
声を漏らしつつ後退するサイクロスに、毒づくソーサル。それを距離を十分にとったサイクロスはにがにがしい顔で答えた。
「よもや、一撃加えられるとはな。厄介な連中だ」
自身の左手に大きく開いた穴を見つめて、本部に戻れば治療を受けられるが・・・と思ってその考えを即座に捨てた。
「・・・切断された訳でなし。この程度、時間が経っても塞げるな。それに、かくも連携の取れる連中を前にして後退は出来ぬな。本当に、鍛え上げられて信頼もし合っている連中だが・・・しかし」
そう、サイクロスが言った所で、突然カルデスが倒れた。
「なっ・・・!?」
ジャーキーがすぐさま近づき脈を測るが、既に彼は息絶えていた。
「ようやく、毒が効いたか。やれやれ、象の獣人ですら三分経たずに死に至るというにまったく、効果が見えぬからその男は毒に耐性のある特殊能力を持っておるのかと思ったぞ」
そこで一息、ふうとつき、サイクロスは言った。
「ようやく、一人か」
「おっ前・・・!!」
「アアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ジャーキーが何かを言おうとしたが、その前に誰かの声によってかき消された。サッとそちらを見るとそれはソーサルの叫びだと言うことが分かった。そして、そのソーサルの周りに一度に十数個の魔法陣が一瞬で展開された。
「・・・!!・・・ソーサル・・・やめ・・・!!」
「アアアアアアアアアア!!!」
制止しようとしたエリーンの言葉もかき消して、再びソーサルが叫ぶと様々な属性の、様々なランクの魔法が打ち出される。目標はもちろん、サイクロス。だが、どう見ても避け切れなさそうな連撃をサイクロスは避ける。驚くべき俊敏力だった。
「ソーサル、やめてくれ!!!」
ジャーキーもそう叫ぶが、彼の言葉も彼女の耳には届かなかった。正直、彼も理解していた。恋人を殺されたのだ。自分も同じ立場なら同じことをしただろうと。だが、それでも止めない訳に行かなかった。
限界を超えた魔法のしようには当然、代償が存在するのだから。
やがて、ソーサルの目や鼻や口や耳や・・・至る所から血が吹き出した。赤くはなく、どろりどろりと黒い血が流れ出す。
「やめろ!!やめてくれ!!!」
いよいよ必死になってジャーキーも叫ぶがついにその時は訪れた。プツンと糸の切れた操り人形のように、ソーサルは動きを止めてドサリと前のめりに倒れた。・・・魔法の乱用による廃死だった。
魔法とは、スキル魔法だろうが習得魔法だろうが関係なく存在するただ一つの事実がある。それは、魔の法・・・つまり、正規のものではない。通常使用にはとくに問題はないが、度を超えて使い続けると使用者の精神を食いつぶし、使用者の心が死ぬのだ。
心の死は悲惨だ。周りのことは何も分からず、たいせつな記憶も嫌な記憶も等しく忘却し、体は動かせず、何も思わないままに死んで行くのだから。・・・彼女はそういう死を迎えたのだった。
「グッ、ォォォオオオオオオオ・・・・」
そして、ソレを見たジャーキーは激昂・・・するまえに
パンと、勢い良く頬を叩かれ、現実世界に復帰した。
「・・・冷静に。・・・怒りに身を任せると・・・負ける」
エリーンの言葉にはっとする。そう、いくらなんでも怒りに身を任せて・・・犬死にするのはダメだ、と彼の心は叫ぶ。味方の死という嫌な現実を無理矢理頭の中から追い払い、しかし、それでも鋭い目でサイクロスを睨みつける。
奴の左手には穴が開いていた。先ほど、ソーサルが開けた穴が。相手は本調子ではない。・・・彼女たちの犠牲は無駄にはしない。
スッと、無意識にナイフを投擲した。
「・・・何!?」
あまりにも自然な動きに思わずサイクロスは、警戒心を捨てていた自分を叱咤し槍でそれを払う。だが、上手く弾くことはできず、左の方に刺さって、痛みに彼はうめく。
・・・だが、それで終わりではなかった。
次いで、いつの間にか接近されて突き出された槍を自身の左腕で受け止める。・・・身を貫くような痛みを意思の力で、サイクロスは押しつぶした。
「・・・左手が完全にイカれたか・・・」
そして、感覚のなくなった左手に思いを馳せると、すぐさま頬を紙一重で相手の槍が擦った。
「クソッ!!」
サイクロスはそう毒づき、すぐに突き出される槍を横から弾く。そのまま、相手に接近し、相手の胴体に肘鉄を食らわす。・・・が、ジャーキーは寸前に飛び退いた為、浅かった。
「どうなってる、お前。・・・先ほどとは別人か?」
そう呟いたサイクロスに答えることなく、ジャーキーは距離を取り、ただ槍を構えた。
「・・・チッ、女をやったほうがいいか?」
そう言って、瞬発力の限りを尽くしてエリーンに迫るサイクロスだが、槍を構える直前、彼の足に字ジャーキーの投げた槍が突き刺さった。
「ガッ!?」
足に走る痛みに一瞬気を取られ、そしてその一瞬でジャーキーはエリーンを後ろに庇うように彼女の前に出た。
「召還」
そうジャーキーが呟くと、足に刺さっていた槍は消えて彼の手の中に突然現れた。
「チッ、魔法武器かよ!!」
そう罵りながらサイクロスは突き出された槍を弾こうとするが、その前に槍を逆に弾かれ、無手となる。
そして、それを見逃すジャーキーではなかった。すぐに槍を突き出し、それはサイクロスの腹に向かって突き出す。
だが、サイクロスはそれを大人しく受ける訳もなく、避けようとするが、ボロボロになった左腕に槍は貫通した。
「ガァァァァァァァ!!!」
その痛みに咆哮するサイクロス。そんなサイクロスにジャーキーは侮蔑の目を向けて槍を構える。あとは、とどめを刺すだけ。そして、彼は
「召還」
「えっ・・・」
槍で心臓を貫かれた。
だらり、と槍の構えた右腕が下がるのが見えて必死に持ち上げようとするが穴の開いた胸から大量の血液が飛び出し力が入らない。・・・視界が暗くなっていく。ここで死ぬ訳にはいかないと彼は思ったが、死は誰にでも等しく訪れるもの・・・という、昔どこかの冒険者が言っていた言葉が脳裏に浮かんだ。
ああ、エリーン・・・。最後に、ジャーキーはエリーンの笑顔を思い出して、死んだ。
どさり、とジャーキーの倒れる音と、エリーンが杖を落とす音は同じだった。
「・・・ウソ・・・?・・・ジャーキー・・・?」
エリーンは駆け寄り、ジャーキーを抱えるが、彼の体温は少しずつだが確実に奪われて行った。いつも力強く打っていた筈の心臓は、動きを停止し、彼の目には何も移っていなかった。
そう、彼は死んだ。
「・・・ククク・・・ゲボゴボ・・・。最後に油断したな・・・ガハッ・・・。最期の最期、『勝った』と思ったな・・・ゲホッ。・・・それが・・・貴様の敗因で・・・私の・・・勝因だ・・・。・・・ガハッ、ここまで傷を貰うとは思わなかったが・・・・ガバ・・・」
そう言って行きも絶え絶えにサイクロスは言う。満身創痍・・・を通り越して最早死んでいてもおかしくないほどの傷だが彼は生きていた。
そして、彼はあっさりとエリーンを突き殺す。
踵を返して、帰ろうとする彼だが、・・・彼もまた油断をしていた。
「・・・む・・・足が・・・動かん・・・?」
そう思って足を見ると、彼の足は石化していた。
「・・・石化の魔眼・・・だと・・・?・・・誰だ一体・・・まさか・・・?」
サイクロスはバッと、首だけを動かしエリーンの死体を見た。だが、彼女は既に死んでおり、答えは返さない。・・・だが、先ほどつけた槍の傷から少しも血が流れていないことに彼は気付き、全てを理解した。
「・・・過剰使用・・・か」
過剰使用。それは自分の血液の一部や、肉体の一部などを犠牲にすることによって、自身の特殊能力が、通常では考えられないほどパワーアップするというものだ。だが、気軽に使えるものではない。・・・なぜなら、それによって失われた臓器などは、魔法を使って再生することが出来ないのだ。・・・血液は食事などで自然と増えることくらいだ。先の魔法乱用も、ある意味、これと同種と言える。あの場合は自身の精神力、あるいは心で、今回は・・・
「・・・血液。・・・おそらく、全身の血を抜いたか・・・。・・・つまり・・・我が殺したと・・・思っていたその時には既に・・・」
そう、石化自体はおそらく彼女を刺した時位から始まっていたのだ。だが、その時は足の先などで膝はまだ動かせたし、それに全身ボロボロなので気付なかったのだ。だが、足の先くらいまでならまだ対処できただろうが、生憎と足の付け根まで石化されると・・・打つ手はもうない。足を切断する位しか。
「・・・だが・・・這って生き延びるくらいならば・・・立って死を迎えた方が・・・良いな」
そして、彼はまだ、自由に動く上半身で胸を張り、地面に深く槍を突き立てる。そして、頭の中で今しがた死闘を尽くした四人へと賛辞の言葉を贈り、敬意を示し、黙祷を捧げた。そのまま、天を睨むように上を見ながら彼は石化した。
こうして、『自由の鳥』は、四人で第二位強食者を討ち果たすという快挙を成し遂げて散って行った。
主人公はまだ到着しません。




