第二十九話 少年Aと人獣戦争1日目1
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戦争。これに別の名を付けるとすればそれはやはり『負の生産』あるいは『発展の火種』というのが妥当だろうかと思われる。
『負の生産』というのは、つまり敗戦国には莫大な賠償金やら不自由などが課せられることなどや、あるいは死者への悲しみ、そしてそれに関連する憎しみを生み出すだろうことだ。
逆に『発展の火種』は、戦勝国は得た賠償金で更なる発展を遂げるという意味もあるし、そもそも戦時中は如何に相手を素早く、かつ多く殺すかと言うことなどに重点が置かれ、それに付随して経済も発展したりその結果他の分野の技術も発達するということである。つまり、なにがしかの技術も発展して行くと言うことである。
よって、戦争は『いけないものだ』という意見の他に、『技術の発達促す』という意見もあって、戦争にたいして肯定的にも否定的にもとらえる人々が多々いるのである。
百年先の利益か、それとも今生きる人間の命か。戦争の最終的な論点はそこになるだろうが、今はそれはさておく。
今、この場で戦争についてそのような考察をしているのは、雨川慎也を除き、誰もいないのだから。
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「王様、伝令です!!・・・船が見えた、と隊長が」
普段は民草と謁見する為に設けられている謁見の間に、一人の兵士が・・・いや、一人の近衛兵が入り王にそう報告をした。
近衛兵は、実力主義の部隊で、王国兵と呼ばれる定期的に集められる王都防衛の任を帯びた軍、のようなものの中から、戦力的、あるいは頭脳的に優秀かつ王族に忠誠を誓うものたちによって構成される兵士団である。その実態は、王国兵に属しつつも王族に直属の部隊なので、実質独立部隊と呼べるものだ。屈強な戦士があつまり、日々鍛錬を怠らず研鑽に務める最強部隊。故に、今度の戦争ではもちろん投入される戦力である。
その報告に来た近衛兵の一人も、その例に漏れず、重い筈の甲冑を身に着けつつもある程度の早さを保つ身体能力を持った人間であった。
そして、王はその近衛兵を満足げに見やってから言った。
「ふむ、そうか。・・・獣人種の戦力は如何ほどじゃ」
「はっ、敵船凡そ三十。敵軍は一万八千ほどと推測されます」
「ほう。・・・アルガ軍務卿、こちらの戦力はどうじゃ」
敵戦力を聞いた王は特に何も思わず、そうアルガ軍務卿に話をふる。
アルガ軍務卿は伯爵位の貴族でありながら、現役兵士と対等に戦える凄腕の実力を持つ武闘派である。なおかつ、作戦立案も行っており、それもかなりセンスがあるため軍務卿に任命され、こうして国家の危機が迫ったときは王国兵の指揮権とともに全体の指揮を取る将軍の役目を果たしている。
そのアルガ軍務卿は、アニメとかでよく見るようなダンディーな口ひげを丁寧に撫で付けながら王に答える。
「昨夜ほどまでに集まった冒険者、そして徴兵した兵士と王国兵を合わせて十万人ほどでございます」
冒険者は、こういう戦争のときは遊撃兵として国から依頼という形で参加することが多々ある。そもそも、毎日が死と隣り合わせの彼らにとって、戦争とは相手の身ぐるみを剥いで自分が豊かになる機会であると思っているものが少なくない。普段はギルドによって同業者を襲うことは禁止されているが、戦争中は相手がいてソレに何をしても文句はいわれないので大抵は嬉々として参加する。また、報酬も高く、隊長格とかを倒せばかなり報酬が弾まれるのも参加人数が多くなる原因の一つである。
また、国としても『冒険者』は使い捨ての駒として使いやすいので重宝しているのだ。
そして、徴兵した兵士と言うのは、国の戦力が王国兵や冒険者では足りない時に農民や町民などを国家命令によって徴収し戦争に参加させると言うものだ。・・・正直な話、冒険者や王国兵のようなプロとは違い素人ばかりだが、居ないよりマシと言う状況も往々にして存在するため、彼らの存在は時として不可欠なのだ。
「約五倍の戦力のようじゃな。冒険者には頑張ってもらわなくてはな」
「やる気はありみたいですし、大丈夫でしょう」
「・・・して、勇者はいつ投入するのじゃ?」
「勝ち気味、或いは本当に負けそうなときでよろしいかと。まだ、捨て駒として使えるほどのものではありませんから」
「そうじゃな」
王とアルガ軍務卿はそういう風に戦争のことを話あってから、王はおもむろに玉座から立ち上がって言った。
「亜人種め、人間種が裁いてやる」
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「そう、いよいよ・・・なのね」
王城に存在する塔の屋根の上から春香はそう独りごちた。そう、彼女は一人でここに居た。全ては、謁見の間で交わされた会話を盗聴する為に。
もちろん、一国の謁見の間はガンガンと特殊能力対策が施されているはずだが、彼女はそれを魔法で、ある意味真正面から打ち破った。・・・とはいえ、相手方に悟らせる愚も犯さずかつ、現在の彼女は光学迷彩の魔法を使っており誰からも見えない、という徹底的に隠密に動いていたのだが。
彼女は今の今まで、他人の前では回復魔法と攻撃魔法という『戦争や戦いに有利な魔法』ばかりをあつかい、そちらが得意であるように振る舞っていたが、実のところ彼女は『己の使える全ての魔法』を使いこなせていた。それこそ、攻撃魔法から隠密行動などに使える魔法までを。
すべては『グリム童話』と題された23代目勇者の手記のおかげだった。それには異世界にやって来たばかりの彼女たちには喉から手がでるほど欲しい情報がたくさんあった。たぬき文などの日本では割とポピュラーな暗号で構成されたソレは、実に緻密な構成で作られており単に読めるものだけではこの手記の内容を完全に把握できなかっただろう。
しかも、この本にはこの世界の文字が、日本語の下に書いてあるのだが、その内容は本物のグリム童話のソレであり、逆に日本語をこの世界の言語で訳す必要がないと判断させるカモフラージュとなっていた。
日本語を十全に読める日本人しか読めない文章だったと言う訳だ。
そして、その手記に書いてあったのだ。王に手の内を全て明かすな、と。おかげで、王は彼女は普通の魔法使いより強い『上級魔法』を扱える女魔法使い、という印象を与えることに成功したのだ。その一個上の『超級魔法』は全く使えない、という認識も持っているだろう。
そして、それは他のクラスメイトにも言っていない。敵を騙すならまず味方から、とも言うからだ。
「とりあえず、私たちが駆り出されるのは後のようだし、今は準備をしておこうかしら」
そう言って彼女はその場から立ち去った。
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「それではタナカ。期待しているぞ」
「ハッ、この力、レオン王のために!!」
獣人軍、総司令部。そう名付けられた船の上で、ライオンの獣人で獣人王のレオンは一人の人間を送り出した。
「・・・いいのですか、王よ。あのような人間種を使って」
小声で彼にそう告げるのは、獣人の中でも屈指の実力をもつ最上位強食者と呼ばれる者の中の一人、狼の獣人であるヴォルフだった。
「どういうことだ、ヴォルフ」
そしてレオンは彼に対しチラと一瞥をしてそう尋ねた。
「何故、人間種などという忌まわしい種を我ら獣人種の誉れたる最上位強食者に加えたのですか!!」
その王の態度にプライドを刺激されたヴォルフは、自慢の黒の体毛を逆立てつつ怒鳴った。あまりの剣幕にそばにいた兵士は死を幻視したが、レオンは顔色を変えることなく返答した。
「それは奴が強いからに他ならん。最上位強食者を三人殺したんだ。十分強いと言うことは分かる」
「ですが・・・」
レオンの言葉にヴォルフは更に激昂した。
そもそも、獣人種とは強さを重んじる種族である。弱肉強食、すなわち強きが跋扈し、弱きは廃れる種族だ。そのため、高い地位にいるものほど強いという傾向にある。
そして、王は激昂したヴォルフを今度は睨みつける。すると、ヴォルフの猛々しい気配が一瞬揺らぎ、部屋を暴力的なほどの威圧感が覆った。言うまでもなくレオン王のものだ。
獣人種は、王の座すら強さで決まる。だからレオンは威圧感を放ちつつ、ヴォルフに答えた。
「我が国は強き者こそ正義であると太古より決まっている。そこに種族なぞ関係ない。・・・それでも文句があるのであればよかろう、我にかかってくるがいい。身の程を教えてやろう」
その重圧に部屋にいた兵士は哀れ意識を失い、外にいた兵士も膝が笑って崩れ落ちた。立っていられたのがいずれも名の知られた有力者だが、彼らも同じ室内にいたら果たしてどうなっていたか。それほどの威圧感を浴びせられつつもヴォルフは立ったままだった。・・・だが、完全に先ほどの威勢の良さは消えていた。
「・・・いえ、結構です」
「そうか、ならば文句を言わず働け」
「・・・ハッ」
そして、ヴォルフは従順に返事をして部屋から出た。
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「始まってしまいましたわね、戦争が」
「・・・ああ。一体レオン王は何を考えているのだか」
「恐らく、『シェーテル事変』で邪神教団をたった一人で退けたと噂される人物を確かめに行ったのでは?」
「確かに獣人種は血の気の多い連中ばかりで、レオン王もその一味だからその理由は最もらしい・・・だが・・・」
「どういう理由なのでしょうね?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「ところで、あなた。娘と連絡が取れなくなって大分経ちますわね」
「予言の時期が訪れたということだろう。ふむ、『シェーテルの英雄』はシスターを連れていたという噂もあるし、な」
「・・・現人神が『事変』を?」
「さあ、分からん。他の種族にも同様の予言があり、そちらもたまたまシスターだったかも知れん。・・・ただ、」
「それが私たちの娘であればいいのですが」
「・・・しかし、ソレ以前に私たちは一国の王としてこの戦争のいく末を見守らねばなるまい。世界が荒れなければいいのだが・・・」
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「チッ、何だこいつらは」
パチンパチンパチンち三回指を鳴らす音とともに三体の魔物がまるで、頭上にあるなにかに潰されたかのように、圧し潰されて行くがその後ろにはまた何十体という魔物が居て、その上を通って襲いかかる。しかも、減る訳ではなく逆に増えていた。
「こんなところで、道草食ってる場合じゃ・・・」
アンも『世界の漂流者たち』から譲り受けた大剣を使って魔物を屠っている。『神の導き』も発動して身体能力が強化されているため、とてつもなく重い筈の大剣も軽々と彼女は振り回していたが、その顔は思うように振るえず悔しそうだった。
「・・・ゲル・エイトス・フーラ・バーダ・『ウォーター・ストリーム』!!!」
「サールゲ・クレレイ・サルン・ドーガ・『マイン・バーン』!!!」
その近くには『世界の漂流者たち』も居て魔物を屠り続けているがそれでも減らない。・・・減るよりも増えるのが早いのだ。
「雨川さんっ!!」
「・・・なんだ?」
「ここは、僕らが引き受けます!!」
「・・・何言ってんだ、死ぬ気か?」
戦闘の最中、斎藤は慎也にそう提案した。そして、慎也はその危険さに一蹴しようとしたが、その前に斎藤は口を開いた。
「そうならない前に撤退します!!大切な人が待ってるんでしょう!!今いかないと後悔しますよ!!!」
その一言には恐らく、斎藤の後悔や無念が込められていたのだろう。かなりの説得力があった。そして、慎也は春香のことを思い浮かべる。・・・そして、決断した。
「・・・死んだら、何千回も俺が殺してやる。生きて俺の所へ来い、いいな」
「死ぬ気なんて毛頭ありません!!ですので大丈夫です!!」
「そうか」
そしてアンとエルとともに慎也は戦場から駆け出す。彼らは後ろを振り返らなかった。あちらも決断したのだ。こちらも決断した以上は・・・守らねばいけないことがある。
「・・・死ぬなよ、先輩」
その言葉は戦場の音にかき消された。
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様々な陣営の思惑が絡み合う人獣戦争。亜人種討伐を掲げる人類種にバトルジャンキーで目的の分からぬ獣人種、様子見する他の種族と、戦争を止めたい神。
誰の思いが届き、誰の願いが踏みにじられるのか。それこそ、神のみぞ知るというものだろう。
「なーんて、言っちゃっても仕方ないよネ。普通、神に会う人間なんて少ないから神に対して結構な幻想を抱くものだからサ」
「そんなことはいいわよ、ユニバース。重要なのは、私たちは創造主でありながら傍観者だということよ」
「まあ、そうだよネ。しかし、面白いことになったね、ガルント。戦争なんテ」
「面白くないわ、こんなの。文化の発達の方が重要でしょ」
「・・・まあ、君ならそう言うかナ?しかし、ボクはボクたちのような傍観者ではない神に成ろうとする彼に期待してるヨ」
「彼?・・・ああ、個人の力で戦争を止めようとしてる馬鹿のことね。なんでよ?」
「アッハハ!馬鹿だなんてそんな馬鹿なこと言っちゃいけないサ。彼は素晴らしい理想主義者でボクたちを楽しませてくれるからもしれないからネ」
「・・・・・・・・ふうん。他ならぬあなたが言うんなら、面白いのかしらね」
「おお、分かってくれたかイ?」
「・・・ま、期待してみるわよ」
ここは誰も知らぬ場所。だが、ここには2人の・・・いや、二つの存在があった。だが、それはこの話には関係のない話。・・・これは傍観者の2人だけの話。
というわけで、ほぼ、説明会。めまぐるしく視点が変わるのでややっこしくてすみません。ですが、この次のはなしからようやく始まります。・・・えーと、頑張ります。




