第二十六話 勇者の状況2
「では、諸君おはよう!」
「「「おはようございます!!!」」」
その日はずいぶんと平隠で何も無い一日となるはずだった。王城内の一角に存在するそれなりに豪奢な建物で先生と挨拶するといういつも通りの始まりを迎えたのだから。
「昨日合流できました井中君を入れてようやく三十人が集まりましたね」
そう言ってパンと手を叩いて皆を注目されるのは、この世界へやって来た2-3の担任の田中美優先生だった。最近まで小学校だか幼稚園だかの先生をやっていてその頃のクセが抜けないらしく小さい子供を相手にしているような行動を多々取る小柄で可愛い人気の先生である。ちなみに今年で歳は・・・
「・・・?誰か今失礼なこと考えませんでした?」
・・・あれ?もしかして心読まれた?
「まあ、気のせいですね」
・・・。
さて、そんな彼女が話しているのは昨夜、クラスメートの一人である井中君という男子が合流した件についてである。生徒38人、教師が担任と副担任が一人ずつ所属する合計40人の私のクラスの内、既に三十人、つまり75%が集結したということなのだが、これについて私、北見春香は焦燥感を覚えていた。
なぜなら、雨川慎也がいないからである。
こちらにきた当初こそすぐに会えるだろうと楽観視していたが、流石に一ヶ月経つとそういうわけにもいかなくなった。
そう、どこかでとても強力なモンスターと遭遇し、その結果殺されてしまったという可能性もあるからだ。
それすらも確認できない状況が恨めしい。そもそもこの王城からは王家からの任務や依頼以外では出られないことになっていて限られた行き先では情報の入手量も限られてしまう。私の『全知』で使える最高レベルの魔法でも、この世界で視認した者しか追えないので足取りが掴めないのが痛い。条件さえ、揃えば・・・。それが今の私の正直な感想である。
だが、ここまで絶望的な状況でありながら、私は彼が生きていると信じて・・・いや、確信している。そう、あの不遜な男がそう簡単に死ぬ筈が無いと。
過去に、山登りに行き遭難したことがあった。その山は昔、一度立ち入れば返ってこないという言い伝えの残る山だったが、彼はその二日後あたりに戻って来て、「面白いものは特になかったな」とケロッとしていたものだ。そのとき、私は、彼が死んだと思って泣きじゃくって発熱までしていて、そんな私を見て彼は言った。『ひどい顔だな』と。あまりにムカついて抱きついてやったが、その瞬間彼はよろめきボロボロだということに気付いた。そして、また泣いた。
そんな男が普通の場所で死んでしまえば、それこそ拍子抜けするだろう。
泣いてしまうだろうが。
そんなことを考えていた昼頃のことだった。
個人的に、この国の第二王女のリリーに呼ばれていた私は、リリーと一緒に食事をとっていた。メニューはアングリーピッグと呼ばれる猪みたいなものを酢豚っぽい料理にしたものだった。日本の酢豚より味が濃いが、政界の大物のパーティーにしょっちゅう参加していた経験もあって好き嫌いも特にない私には味が変わっているな・・・としか思えなかったが、同席してる静音はもだえていたが。
「それで、彼のタオルから素晴らしい香りが!!」
「アハハ・・・」
まあ、正直な話リリーの話は最近胸焼けしそうだから私ももだえたいのだが。・・・というか、いくら好きな男の汗を拭いたタオルの匂いを嗅ぐか?と思ってしまったが、慎也のだったらやりそうなので私も同罪か・・・。
まあ、それでも他人ののろけは胸焼けしそうになるが。
ちなみに、今日の話は、先ほどまで訓練していた天ヶ崎君にタオルを渡した後、そのタオルを・・・という話である。
天ヶ崎君はかなりモテる。正直、場内の未婚女性はほとんど彼を狙っているが、彼はまったくそれに気付いておらず、未だ誰それと付き合ったという話は出ない。・・・もっとも、その所為で被害は拡大しているのだが。
と、そんな余計なことを考えていたとき、コンコン、とドアがノックされた。
「?どなたですか?」
それを聞いて部屋の主であるリリーは声をかける。すると、
「コルです、リリー様」
「コルですか。入ってください」
そう言って入って来たのはこの城で何人もいる執事の副リーダーであるコルさんだった。年老いた所為か、それとも元々なのか分からないほどに白い髪を丁寧になでつけ、優しそうな顔をして直立不動で待機する姿は今年で御歳70というのが信じられないほど立派なものだ。
ただし、その顔が今は少し強ばっていた。・・・私は嫌な予感がして、それが当たった。
「リリー様、王様がお呼びです」
####
「えっ、宣戦布告!?」
「はい、そのようです」
「どこからなのです?」
「獣人王国からです。5月に戦争を開始するそうで」
「・・・一ヶ月しか無いじゃない」
王家の間と呼ばれる、王族しか入れない部屋には、今王都にいる王族が集まっていた。リリーと、第一王女のアーマに、第一王子ライルス、第三王子カーメン、第四王子リーロン、そして国王である。ついでに勇者代表として私、北見春香も同席してます。
そして、皆揃って外交担当の役人から宣戦布告を受けた話を詳しく聞いていた。
「父上、どうなさりますか?」
そう言って尋ねるのは第一王子のライルスだ。結構なイケメンだがインテリ系のイケメンで女性関係の人気はあまりない。・・・まあ、側室がすでにかなりいるのでターゲットにされない・・・というのが正確な所だが。
「ふうむ。まあ、まずは冒険者や傭兵を雇え。そして、徴収もして人民をかき集める」
「徴兵・・・」
王が平然と告げた『徴兵』という言葉に私はショックを受けたが、先ほどまで同じように『恋話』していたリリーはそれに対して驚きの表情を出さずにいるのをみて、ここは日本ではないと言うことを再確認した。
「・・・ねえ、リリー」
「はい、ハルカ。なんでしょうか?」
「私たちにも仕事があるんでしょう?」
『私たち』・・・それはつまり、勇者たちということである。元々、勇者と言うのは魔王を倒す為に召還ばれたのだから、当然国家の危機には立ち向かう必要があるだろうと私は判断した。
そして、リリーはそれを肯定する。
「はい。・・・父上、彼女たちはどうすれば?」
「ふうむ。勇者よ、少人数で一つ行ってほしい所がある」
「はい、なんでしょうか?」
####
「それでここか・・・」
ボソッと呟く桐原君に「ええ」と短く返した。
現在私たちが訪れているのは海に面した港町の『シェーテル』というところだ。王都からなら馬に乗っても十五日はかかる所を私たちは、桐原君の支配下にあるロック鳥という魔物に載せてもらい僅か三日で到達した。戦争までは後少しだが、ここで数日前に優秀な冒険者が居たと言うことでその人物をやとうために私たち勇者四人はよこされたのだった。主に、交通手段的理由で。
そして、その件の人物は『シェーテルの英雄』とかという大仰な名前で呼ばれているらしい。だが、その名は有名なのに、その素性や本名は誰も知らないという謎に包まれた人物だ。
「フラリと現れて、邪神教団員を皆殺しにした・・・ねえ?」
それくらいしか現状の情報は無い。というか、情報が錯綜していて本当にどれが本当なのか分からないのだ。曰く、女だとか。曰く、男だとか。曰く、悪魔族だとか。曰く森妖種だとか。曰く、人間だとか。・・・と、これだけでもすでにその人物像が危うい。
・・・まあ、だから本場に行ってその人物のことを詳しく調べるハメに陥ったのだが。
「ま、とりあえずは情報内とわからないから情報収集よね」
「そうやな。ひとまずの方針はそれでええやろ」
「二人組・・・だと危なくないと思います」
「まあ、無難だな」
幾多の狩りで身に付けたチームワークを発揮し二人組を作った。ちなみに男女別である。
「じゃ、静音、行くわよ」
「わ、待って、春香ちゃん!」
そして私たちは最初に冒険者ギルドへ入った。やはり、冒険者のことを聞くのはここだろう、と思った時、昔慎也と交わした会話が蘇った。
ある日、彼とゲームをしていると
「なあ春香」
と声をかけて来たのだ。
ちなみに、このときは格闘ゲームをしていてそれに気を取られた瞬間凄まじいコンボでやられたのだが、ソレは別の話。
「なに、シン?」
「今は情報社会って呼ばれるほど、情報が溢れているし、ネットで簡単にその情報を拾えるが、その前は一体どうしてたんだろうな?」
「・・・それはやっぱ、詳しい人に聞くとか?」
「・・・まあ、それもありだが、そんな風な専門の情報でない、たとえばニュースで報道される近所であったこと・・・みたいな情報はどうだと思う?」
「それは・・・」
そのとき、私は答えられず、考え込んだ。だけど、生まれてこの方与えられて来たばっかりの私は何も思いつけなかった。
「酒場や床屋だったらしい」
「え?」
「要するに人が集まるところってことだ。仕事終わりのおっちゃんたちの一杯をやる酒場、裸の付き合いなどで代表される公衆浴場・・・とかな。何十人も人間が居て一言も話さないなんて、それこそ今の情報社会だからこその光景だ。昔は、人が集まれば情報が集まり、その情報が口づてで広まって行ったんだろうな」
そして、この世界における冒険者ギルドは酒場のような場所らしい。つまり、情報が集まりそうだ。
そう確信して私はギルドに入った。




