第二十四話 少年Aと元勇者2
前回のあらすじ:元勇者を名乗る青年の仲間っぽい人物に囲まれピンチかとおもったけどそうでもなかった的な?
やや、森の奥の空き地。たくさんの少女が倒れるその場の空気は、一人の人間によって支配されていた。
その者の名前は、雨川慎也。その少年の放つプレッシャーによって空気は凍り付いていたのだ。
「それで、先輩。これはどういう事ですかね?」
「そ、それは・・・・」
ゴクリ、という生唾の飲み込むような音がするだけで沈黙する斎藤に俺は内心呆れた。とはいえ、仕方もないことかと、同時に心の中で思う。彼の仲間がなす術もなくほぼ一瞬で戦闘不能にされたのだから。俺も恐らく同じ立場なら・・・いや、考えるだけ無駄か。俺はやった方の立場なのだから。
正直な話、エルは銀髪の切れる刃物のような雰囲気を放つ美女というのが相応しい外見だ。その目は戦いの時に輝き、その一撃は目視も不可能な程、いや、辛うじて振った後が見える程早い。正直、先の戦いで俺が勝てたのはある意味奇跡とも言えただろう。普通、女性である彼女がここまで強いと思える人間は少ないに違いない。・・・老練した兵士や戦士ならともかく、平和ボケした国に生まれた俺などには不可能だろう。
だが、それを差し引いても彼女は強い。彼女はなんと言っても『三重能力保持者』なのだから。
普通、この世界では持てる特殊能力は一つだ。王族であろうと、貴族であろうと、平民だろうと同じ。無論、悪魔種も人間種も森妖種もその例に漏れない。
だが、まれに数千人に一人という確率で、二つの特殊能力を持って生まれてくる者がいるのだ。その者は『二重保持者』と呼ばれ特殊能力次第で王などが重用する。なんといっても能力が二つ使えるのだから、一つしか使えない普通の者よりも戦闘方法の幅が増えるだろう。つまり、それだけ多くの状況に対応できると言うことだ。
だが、彼女は二重ではなく『三重保持者』。しかも、その三つとも能力は戦闘に使えるのだ。これで強くない筈がない。
たとえば、彼女の特殊能力の一つ目、『剣王』。これは、普通級特殊能力の『剣士』の上位能力で、簡単に言えば剣による攻撃が凄まじいということだ。普通なら、彼女には剣は愚か近接ですら勝てないだろう。
二つ目の特殊能力の『根源回帰』は特殊能力を無効化する特殊能力だ。俺の破れない筈の障壁にヒビを入れ、最終的に破ったのもこの特殊能力だろう。
三つ目の特殊能力の『心眼』は、ある意味一個目の能力と最高の相性を持っている。これは、一定範囲内に対して完全に全てを把握する能力だ。たとえば、砂漠から砂を見つけるとか言う表現があれば、彼女の場合、能力の範囲内に砂漠以外からの砂が混じっているとそれに気付けるくらい空間把握に長ける能力なのだ。故に、彼女に不意打ちは無駄だ。存在を消せない限り彼女に不意打ちを仕掛けることは出来ないのである。
他にも詳しくはいくつか効果があるのだが大体ここに書いてあるようなことだけでも強いのが分かる。ソレ以前に彼女自身レベルがとてつもなく高いので、たかが平和ボケした国からの勇者程度何人かかっても返り討ちに出来るのだろう。
さて、そんな彼女の強さを目の当たりにし言葉を失っている斎藤に痺れを切らした俺はため息をはいて話しかける。
「先輩、俺は先輩が指揮した訳ではないこと位知ってる。さっき驚いていたようだしな。俺が聞きたいのは、俺たちをグループに誘っておいてそのグループの掌握が終わってないのかっていうことなんだが?」
「・・・・・・」
「俺らとしては大した手間でもないからいいが、組織のリーダーなら一喝して止めるくらいの影響力は持っててほしいものだ」
「た、たしかにそうだが・・・」
やっと口を開いた、俺はイライラしながらそう思う。
「・・・で、それはさておきこいつらがアンタの仲間か?」
そういって俺が見渡すと倒れているものと立っているもので2:25、男女比で1:26の集団を見た。・・・圧倒的に女が多いというか、男が一人しかいない。
「・・・ハーレムか」
「ぅぐ!?」
なんか心当たりがあったのかうめきながらよろめく斎藤に俺は冷たい視線を送った。
なんだ、馬鹿か。
「で、ここにいるのは全員前の勇者か?」
「やって来た時期はちがうけど皆地球から来たのさ。とはいえ、勇者なのは僕だけだけど」
「・・・なるほどな。他は俺と同じただの召還された被害者か」
「あんたがただの被害者とか信じたくないわね!」
アリサとやらが騒いでるが無視した。
「それで先輩一つ質問があるんだが」
「・・・僕に答えられることだったら」
威厳がねえ、と思いつつ質問する。
「現王権を打倒した後、お前らはどうするんだ?なあ、先輩。国のトップが倒れりゃこの国は混乱するだろうが、それに対して先輩はどうするんだ?」
「え・・・?」
「王権ごと中枢が全て打倒されれば法なんてあってないようなものだ。当然略奪が起こるだろう。ここは日本じゃないんだ。弱者は踏みにじられ強者が跋扈する。それに対してどうアクションを取るんだ?」
「・・・・」
再び顔を真っ青にして黙り込む斎藤を追いつめるように俺は言葉を続ける。
「何だ?今更気付いたのか?子供は殺され、女は犯され、男よくて奴隷だろう?力だけがもの言う世界へと生まれ変わる。別に自分は関係ないと逃げてもいいし、略奪に参加してもいい。逆に新たな権力者として台頭してもいいだろう。・・・で、先輩はどれをするんだ?」
「・・・う・・・」
「なんだ?そのくらい答えられないのか?ただの復讐か?そんなもので生活を壊される奴等は可哀想だな。ま、俺には関係な・・・」
そのとき、レーザーのようなモノが俺の方へ飛んでくる。自動的に『スロット2』が発動しとんで来た何かは凍り付く。それはただの氷だった。
「キレたか」
「うるさい」
「わめき散らすだけなら子供でも出来る。そう、お前がことを成した後も・・・」
「黙れェェェェェェェェ!!!」
その瞬間さまざまな方向から魔法陣から発生した水の細流が打ち出されるが俺はそれを全て、氷刀アイシアの『氷結波動』で防ぐ。
「お前なんかに、お前なんかに何もできずに仲間を失う気持ちが理解できるかぁぁぁぁ!!!!」
そして極太のレーザーのような水流が襲ってくるがそれすらも『氷結波動』の前ではただの氷と化してダメージを与えることなく砕かれた。
「ああ、分からないな。そんな気持ちは・・・とでも言うと思ったか?」
俺は怒りを込めて、ただ喚く子供、斎藤を睨む。本当に救いがたい程に先代勇者様と。
「『悪魔事件』知ってるか?」
「・・・ああ、人間を大量に殺害した残虐な事件だろ!それがどうした!!」
俺の視線に気圧されつつも斎藤は声を荒げる。それに対して俺は今度は冷たく言い放った。
「あれは、俺がやった」
「なんだと!?もうそこまで堕ちて・・・」
「ああ。世話になった村人たちを皆殺されたからな」
再び空気が凍り付く。そんな空気のなか俺はやはり冷淡に続ける。
「今でも思い出せる。俺が召還された際に拾われたのは一つの村だった。お世辞にも豊かとはいえなかったが温かい村だった。・・・・奴隷商人が彼らを殺すまでな。その時の俺の気持ちが、お前なんぞに分かるか?」
驚いた顔でこちらを見る斎藤に俺は鼻で笑ってから続ける。
「精々、目的を果たす時は責任を受け止めてからやれよ。覚悟もなくやるんじゃねえ。それが分からないからアンタは子供なんだ」
そう言って踵を返し去ろうとする俺に斎藤は声をかける。
「ま、待ってくれ・・いや、待ってください」
「・・・なんだ、まだなんか用か?」
ギロリと睨みつけつつ後ろを向く俺に斎藤は頭を下げていた。
「なんのつもりだ?」
「僕・・・いえ、我々と手を組まれないと言うことは分かりました。ですが、短期間でも助力を願いたいのです」
「下手にでても俺の態度は変わら・・・」
「下手ではありません。あなたに敬意を払うからこそ、です。
それはそれとして、あなたに伝えなければいけないことがあります」
「なんだ?」
「実は、先ほどの貴方の邪神教団の撃滅の方を聞き獣人種が宣戦布告をしました」
「宣戦布告・・・戦争か。まあ俺には関係・・・待て、勇者も駆り出されるのか?」
「勇者だけでなく私たち・・・ただの被害者も巻き込まれるわよ」
そのアリサとやらの言葉にふむ、と考え込む。・・・こいつらと一緒なのは癪だ。それに戦争に俺は別段思い入れがある訳でもない。・・・とはいえ、勇者とただの犠牲者が巻き込まれれば、春香も巻き込まれるのではないか?俺はそう考えた。だから、俺はその戦争に参加することを決意する。
「それで、なんでそれを俺に伝える?」
「現王権を打倒する為の力添えを・・・」
「断る。まだ、あんたはその後に付いて考えていないからな」
「いえ、違います。獣人種を抑えてほしいのです」
「・・・俺にそんな義理は」
「なくとも、知り合いがおそらく戦争に駆り出されると考えられている。ならば、その人の安全の確保にも、獣人種の抑制も役立つでしょう」
「・・・だが、それをするよりも遥かに早い方法がある」
「・・・はい?」
なんのことか分からずにハテナマークを頭に浮かべていそうな斎藤に、俺は宣言するかのように言い放つ。
「戦争を終わらせれば、一番安全だろうが」
どうもー皆さん。作者です。今日は大学の入試があったんですがなんかストレス溜まったんでアップした私大、おっと次第です。・・・やべえ、毒されてる。
ひょっとすると三月まで更新が途絶えるやもしれませんがご了承ください。試験に受かった後はかなり執筆のペースを上げるつもりですので平にご容赦を。




