第二十一話 エオウプレス邪神教団の来襲3
前回のあらすじ
バリアーがどんがらがっしゃーん。
「これは・・・、行動不能でございます」
空気摩擦によって動きを制限された悪魔族の女、エルセリアはそう呟く。いつ、行動不能に陥ったのか、相手の特殊能力、もしくは罠、全てを彼女の特殊能力は感知することは出来なかった。そのようなことは彼女の人生上、これが二度目。彼女の目は驚愕に見開かれ、目の前に立つ黒髪と言う珍しい髪の色をした人間種を見る。
その様子から相手は完全に術中に陥ったと分かった慎也は厳しい戦闘が一応の解決をみたと思い気を抜いた。その瞬間、
「今だ、かかれっ!」
後ろにいる大量の亜人種たちが押しかかって来たのを感じ、戦場で油断をした自分を叱咤する。そう、戦場では、油断した者から退場して行くのが定めなのだ。
無論、神の如き特殊能力を持つ彼にはあてはまらなかったのだが。
亜人種たちが振り下ろした剣に対してスロット2の、威力完全無効化の防壁が張られ彼の体を守る。数多の剣が防壁に叩き付けられ、いや受け止められたがそれでもその防壁が崩れ落ちるどころか、ヒビすら入らなかった。
(どういうことだ、あの女と何が違うんだ?)
そう彼は思ったが口には出さない。それを考察するのはあとだ。今は我武者らに打ちのめすだけだ。
左手に持った氷刀アイシアを相手に投げる。その瞬間、パリンッという音とともに直線上にいた亜人種たちが氷のカケラとなって崩れ落ちる。
「召還、黒刀ノワール、白刀ブラン」
そう呟くと先ほど弾き飛ばされた二振りの刀が手元に現れる。
「『純白の生』」
そして白刀ブランの固有能力を発動させた。
この刀は、黒刀ノワールの凶悪な固有能力に対応するかのような『癒し』の固有能力を備えている。それが、『純白の生』という能力だ。もともと、この刀には持ち主の自然治癒力、HP、MP回復速度強化のボーナスが付くのだが、固有能力を発動させた瞬間、効果時間の三分以内なら、即死でない限りどのようなダメージも瞬時に回復、またMPも瞬時に全快と言う馬鹿げた能力を持っている。冷却時間はないが、一日に三度しか使えない能力である。
しかも、MPが瞬時に全快ということは『秩序無き世界』を幾度も使えると言うことなのだ。他にも・・・
「世界の理に介入。前方3mからの酸素を消す」
その瞬間、数多いた亜人種たちがばたばたと倒れて行く。全員が一様に首を抑え、空気を求めるかのように喘ぎ、手を伸ばしては死んで行く。地獄絵図がそこにあった。
残ったのは、範囲にいなかった連中。だが、それは『秩序無き世界』の中で時間にして一秒も充たないままに全滅した。
「改変終了」
やがて、俺がそう呟いた時に大地に立っていたのは、魔骸族と骸骨族や腐人族といったアンデッドと呼ばれるような種族だけだった。
アンデッドは、小指ほどの小人のような姿をしているとされる寄生生物の種族だ。生き物の死体に入り込み肉体を制御し動くのだとされる。だが、彼らは燃やされたりする以外のどのような状況下においても死ぬことはない、本当にアンデッドなのだ。
とはいえ、退治する方法はある。全員頭を潰せば動かなくなるのだ。もしくは首を切り離すだけでもいい。たったそれだけで彼らは行動不能になる。アンデッドなりの死というものかもしれない。
そして俺は走り出す。片手に黒刀ノワール、そしてもう片手に白刀ブランを引っさげて。ノワールはアンデッドたちを容易く切り裂き、ブランはアイスに熱したナイフを入れるかの用にアンデッドたちを溶かす。アンデッドしかいない戦場で俺は型も無く両刀を振り回してなぎ倒して行く。最終目的地は、魔骸族のところだ。と、そのとき
「「「「「・・・セルベレッテ・サン・カイダ・オルセルイーグ・『サン・レイ』!!!!!」」」」」
何人かの唱和の声とともに太陽の輝きが増し、一筋の光が慎也に向かって降り注ぐ。それはさながら神に祝福された者のようであり、レーザーを受けた哀れな獲物のようでもあった。
『サン・レイ』。上級魔法の一段上の超級魔法に位置する、太陽の光をねじ曲げて対象にレーザーのような高熱エネルギーを射出する高威力魔法である。効果範囲は狭いため殲滅戦には使えないが少数の強者と戦うのにはうってつけである。太陽の凝縮された熱を浴びた熱を浴びた者は一瞬で全身を溶かされてあっという間にこの世とおさらばする・・・はずだった。
慎也に当たる寸前にスロット2の障壁。この障壁が単純な壁であって、物体の速度を0にする障壁でなければこれで決着がついたのかもしれない。しかし、運命の女神だか邪神だかは邪神教団には微笑まなかったようだ。
慎也は無傷で彼らの元にたどり着いた。
「浩の仇だっ!」
右手を五回ならし、その場にいた魔骸族五体の動きを封じ、そして四体を白刀ブランで刺し殺す。
「な・・・・!?」
そして、残った一人、唯一紫の刺繍付きローブを着ていた偉そうな魔骸族に黒刀ノワールを向ける。
「お前らの目的はなんだ?」
「フン、殺すがいい。私の仇はいつか我が同族たちが討ってくれよう」
「まだお前らみたいなゴミがいるとは飽き飽きするな」
「さあ、殺せ。私を殺して、エオウプレス様の天罰を受けるがいい!!」
「なら、お望みの通りに殺してやるよ『漆黒の死』」
目の前の魔骸族が話さないことが分かった慎也は黒刀ノワールの固有能力、『漆黒の死』を使用した。この固有能力は剣に呪いを帯びさせ、少しでも相手を斬りつけることで発動する。発動すれば最後、地獄が生易しいと思えるような絶望を味わって死ぬというかなり最悪な部類に入る技だ・・・仇を討つには好都合だが。
「アァァ・・・・アガ・・・・・・ア、エオ・・・ス・・様・・・やめ・・・ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・」
そして、その魔骸族は聞くもおぞましい断末魔を上げて生を手放した。
「・・・邪神だか、なんだか知らないが浩を殺す要因になった連中は皆殺しだ」
そう吐き捨てて俺は踵を返して先ほどの悪魔族の女のところへと歩き出した。
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「・・・・で、お前は何者だ?」
そして今度はこの女の尋問を開始していたが、こいつは先ほどの魔骸族とは違って従順にこちらに従った。しかし、その結果分かったのはこの女があの邪神教団とは無縁の存在だった、と言うことなのだった。
「ワタクシはエルセリアでございます」
「先ほど、邪神教団とは関わりがないと言ったが、ならばなぜここにいる?」
「闘争の気配を感じたからでございます」
「闘争の気配・・・だ?」
エルセリアが言うには戦いの前には独特の空気が流れるらしく自分はその空気を嗅ぎ当てたに過ぎないらしい。もちろん、当事者たる俺はそのようなものは微塵にも感じていなかったが。
「しかし、やけに素直に話すな」
「はい、ワタクシはマスターに忠誠を誓いましたから」
「マスター?誰だ?」
マスター。もしかすれば黒幕かもしれないと思った俺はそう尋ねてみた。すると、彼女はこちらを真っ直ぐに見て言った。
「貴方様でございます、マスター」
「・・・は?」
いや待て、忠誠を誓われた覚えは無い。そう思った俺の心を読んだかのように彼女は続けた。
「ワタクシ、エルセリア・メルクス・クレスフォードは、貴方様を我がマスターとして永久の忠誠を。我が身は御身の盾に、我が剣は御身と共に」
その瞬間、エルセリアに異変が起こった。彼女の左手が急に輝きだしたのだ。
「ぅぐっ!?」
そして、俺の左手もまた焼きごてを押し付けられたかの用に熱さが走った。チラリと左手を見ると、三角の中に円が内接し、その円の中にぐるぐると数字が何巡もしている、魔法陣のような紋様があった。エルセリアの左手にも似たようなものが刻まれていた。
「・・・!?」
続いて右手にも同じ痛みが走り、そちらにも同じような紋様が刻まれる。
「ああっ!」
後ろからアンジェラの声が聞こえたので振り返るとアンジェラが右手を抑えながら喘いでいた。そしてその右手にはまた例の紋様があった。そして、しばらくすると痛みはゆっくりと去った。
「い、まのは、何だったんだ・・・?」
ステータスに何か異変があったのかと思いギルドカードを取り出して覗いてみた。
名前:ヤンシング
性別:男
種族:人間
年齢:17歳
出身地:不明
職業:冒険者
所持金:890,245,678,000C
登録称号:メルトスライムデストロイヤー
Lv.259
HP:48521/21662(48521)
MP:57800/6400(57800)
ATK:3080(27720)
DEF:1820(5340)
AGI:5680(12784)
装備品:白刀ブラン(ATK×3,HP+1000,MP+1000)
:黒刀ノワール(ATK×3,HP+1000,MP+1000)
:賢者の首飾り(MP+1500)
【特殊能力】:『近神者』-{スロット1}〜{スロット13}{アタックブースト}{ディフェンスブースト}{眷属化}{眷属召還}
称号:異世界人・殺戮者・シスターの御主人様・神へ至らんとする者・悪魔・サラマンダーキラー・メルトスライムデストロイヤー・黒刀ノワールに選ばれし者・白刀ブランに祝福されし者・氷刀アイシアの所持者・ドラゴンスレイヤー・超人・エルセリアのマスター
・殺戮者・・・数多の人々を殺した者の称号。攻撃力に大きな上昇補正がかかる。
・エルセリアのマスター・・・エルセリアのマスターの称号。近くにエルセリアがいるとき全てのステータスに上昇補正がかかる。
・神に至らんとする者・・・神の座へ片足を突っ込んだ者の称号。派生特殊能力『眷属化』により自身に心から忠誠を誓った者を眷属にすることが出来る。ただし、眷属は主に謀反の心を抱いたとき眷属ではなくなる。さらに、派生特殊能力『眷属召還』により、時、距離いかなる概念をも隔てた場所から眷属を召還できる。
以上がギルドカードの内容だった。そこから察するに
「・・・ふむ、つまりこれが眷属の証って訳か」
そう言って俺は右手左手にそれぞれ刻まれた模様を見る。形は一緒だが中の数字が一部違う所がある。念のためアンジェラとエルセリアのギルドカードも確認して見ると称号の所に『神の眷属』なる称号があった。・・・いつの間にか神認定されてしまったようだ。
ちらり、とアンジェラを見ると顔を真っ赤にしてそらし、エルセリアを見ると純粋な赤子のような目で見つめ返された。
そして、途方にくれた俺は自身の獲得した新たな特殊能力と眷属について考え始めるのだった。




