第十八話 少年たちの別れ 後編
ややショッキングな描写があると予想されます。心臓に弱い方などは読むか読まないかを判断してください。
「さて、帰るか」
そう言った時だった、浩が俺を突き飛ばしたのは。
「なっ!?」
だがしかし、この時、俺にスロット2の効果が発動しなかったために俺はこれが敵意ある行動ではないことが分かった。『攻撃』ではないアクションは防御しないのだ。だが、だからといって突き飛ばしてもいいということにはならない。ここは溶岩も流れる火山奥だ。下手な所に落ちたら俺ですら無事でいられないかもしれない。
「なにしやが・・・・え?」
なにしやがる、という俺の言葉は途中で飲み込まれた。目の前の状況に俺の頭が機能停止を起こしたのだ。
それは・・・矢だ。そう、昔日本の戦などで使われていたような、矢尻をつけて敵を射殺す為の矢が・・・、浩の胸から生えていた・・・?
「ひ、浩さん!!」
アンジェラはソレを見て駆け寄る。そして俺はようやく気付いたのだ。・・・俺たちは攻撃を受けたことに。
浩のことはアンジェラに任せて、一瞬で戦闘モードへと頭を切り替えて、当たりを見回し気配を探る。そして、見つけた。このボス部屋の入り口の近くに逃げ去るような人影を見つけた。・・・その距離、約30m。つまり、俺の手の中だ。
パチンと右の指を鳴らし動きをとめて、その後に仲間を呼ばれては困るので、音が外に全く伝わらず、外から中に一歩も立ち入れないドーム場の空間を、その人影の周りに設置した。・・・これで奴は逃げられない。
そして、俺はすぐに振り返り浩をみた。・・・その顔は、灼熱の火山にいることすら忘れる程に青白かった。矢は左胸よりすこし右側を貫いている。・・・そう、ちょうど心臓を貫くかのように。
「くそっ!!」
毒づいて俺は虚空に手を伸ばして『白刀ブラン』を呼び寄せる。
白刀ブラン。英雄ガンテツが岩から引き抜いた刀であり、その支えとなった伝説の武器。今は、俺が所有者として認められて、ガン爺から預かっている。
そして、コイツの効果は『癒し』。これを味方に斬りつけると、その傷を治すと言う、本来の武器とは逆の性質を備えたものだ。そして、俺はそれを持ち、矢を抜いて、浩を貫いた。
・・・だが、その傷は治ることは無かった。
「なにっ!?くそっ、どうなってやがるんだ!!」
「・・・ははっ、無理だぜ、慎也。・・・死人には・・・効かねえんじゃア、ねえか?」
その時、浩が喋った。苦しそうに、しかしどこか満足した顔で。
「まだ生きてるだろうが!!死人じゃない!!そもそも、どうして俺なんかを・・・!!」
「俺『なんか』、じゃあねえぜ・・・。お前、だからだろ・・・」
「くそっ!アンジェラ!!回復薬をよこせ!!」
そう言ってアンジェラがバックから取り出した高級な回復薬をぶちまけてみた。・・・そして絶望した。
「治らない・・・どうなってるんだ・・・!!」
「・・・はっ、安心しろよ、慎也・・・。俺はもうすぐ死ぬからな・・・」
「諦めるな!!死なせてたまる・・・」
「残念だが・・・これは、『等価交換』の効果だ・・・。だから、この傷は治せないし・・・俺は死を免れられない・・・」
等価交換。浩の特殊能力は確か、代償を元手に新たなものを得る能力だった筈なのだが・・・。
「・・・そうだ。そして、俺は・・・お前の、失う命を・・・俺の命を担保に救った・・・」
「な・・・」
俺は絶句した。そうだろう、なにせ、こいつは俺を庇って死のうとしているのだから。
「・・・まあ、これはお前が死ぬ危険がある時にしか・・・働かない契約だった・・・つまり、今の攻撃にはお前は死ぬ可能性があったってこったな・・・」
「そんな・・・馬鹿な・・・俺には『近神者』が・・・」
「それを・・・無効化するとかいう攻撃だったんだろうな・・・」
「嘘・・・だ・・・ろ」
「・・・そう情けない顔すんじゃねえよ。・・・ダチ庇って死ねるんなら本望って奴だ・・・」
こいつには家族がいない。俺が出会ったときから既にコイツの家族は他界していたのだ。
原因は、強盗殺人。普通に平凡な日に家にたどり着いた彼が見たのは荒らされた家と、殺された家族だけ・・・、そして彼は自暴自棄になったのだった。
俺も家族を失っている。だが、自暴自棄になったことはなかった。春香がいたし、春香の家族が俺を引き取ってくれて世話をしてくれたからだ。そして、俺は、自暴自棄になっているコイツを見て何故かイライラしたのを覚えている。・・・そんな資格は無かったのに。
そして、とうとう、我慢も限界となり呼び出し、笑える程青春をやってお互い倒れた。一歩も引かずに、相手の思いを受け止めるかの用に全ての殴打を受け合ったのだった。
「・・・は、覚えてるか?殴り合って倒れた後に、うるせえ竹田ゴリラがやって来てよ・・・」
「ああ・・・どやされる前に逃げたな・・・」
「あれは・・・楽しかったぜ。・・・他にも買い食い、サイクリング・・・食べ比べ・・・映画に美術鑑賞・・・・。はは、あの映画はクソつまらなかったぜ・・・」
「・・・そうだったな」
その浩の言葉に触発されたのか俺の脳は勝手にその時の記憶を再生する。クラスメイトの誰かに押し付けられた映画のチケットをどうするかと迷った時に、なんとなくこいつと行ったんだったか・・・。
「・・・ああ、楽しかったぜ。・・・だからよ、しけた面してんじゃねえ・・・」
「・・・・・・・」
「笑えよ・・・アホが・・・」
「笑えるか・・・間抜け・・・」
「・・・ははっ、・・・・」
「・・・・・・・・」
しんと静まり返る。俺はぼんやりと浩を見る。このまま生き続けてくれやしないかと、さっきのは夢ではないかと期待して。・・・だが、彼の顔は青白いままだし、その胸からは、抑えているにも関わらず血が流れ出す・・・。ドクドクという心臓の音は・・・ない。
「・・・なあ」
「・・・なんだ?」
「お前が・・・ほら・・・なんだったか・・・世界統一だっけか・・・?」
「・・・そんなのもあったな」
「ソレソレ・・・。もしもよ・・・世界・・・一つなれば・・・どんなんだろうな・・・」
「親のいない子供・・・いなくなるのかね・・・」
ふと、思いついたかのように言われたその言葉に、俺は言葉に詰まった。
「・・・知るか、んなもの。自分で確かめやがれ・・・」
「・・・はは、無理だから・・・な。これの・・・維持もキツいしよ・・・」
「・・・そうか」
「・・・ああ・・・ほれ・・・目蓋も重くなってくて・・・・ああ、眠い・・・」
「・・・別れの言葉がそれかよ、クソッ」
「・・・ああ?・・・別れ・・・か?・・・また会えんじゃねえ・・・の?」
「嘘を言うな。・・・お前はここで死ぬなら・・・二度と会うことは・・・」
「・・・あ〜・・・まあ、あれだ。閻魔様にギリギリまで・・・引き延ばしてもらうからよ・・・また会おうぜ・・・・」
「・・・」
「・・・さっさと来たら・・・血の池地獄にでも落とすぜ・・・?・・・大丈夫だ、そんな・・・顔する・・・な。どうせ・・・地獄も・・・俺たちには遊び場に・・・なる・・・さ」
「・・・うるせえ」
その言葉に、目蓋を振るわせて、浩が言う。
「・・・ああ・・・もう、納得してくれ・・・。本当・・・眠いんだぜ?・・・はっ、目まで見えなくなった・・・」
そう言ってこちらに伸ばしてくる浩の手を俺は、力強く握る。強く握れば、この手から離れないと信じているかのように。
「・・・まあ・・・俺の役目はおしまいだ・・・。あとは、頼んだぜ、親友。・・・まあ、幸せに生きてくれりゃ・・・俺も満足だわ・・・」
そんなことを言って浩は目を閉じた。まるで昼寝でもするかのような安らかな顔で彼は逝った。
ポタポタと、彼の顔に雫が落ちる。
「馬鹿・・・野郎・・・。・・・・・」
力をなくした彼の手を、その逆の手とともに胸を上に重ねる。そして、俺は立ち上がって少しだけ、離れる。そして、能力を使って、地面から土を浮かして穴を作る。それが終わると、今度は浩を抱えて、その穴の一番奥へとおりる。そこには土で出来た枕があった。それに浩の頭を置いて横にして、上へ上る。その後に能力を解除して、土を下ろし、浩を埋葬した。
「・・・」
壁にある大きい宝石を外し、浩を埋葬した場所に置く。そして、黒刀ノワールを出して真剣に文字を彫った。職人ではないので汚いかもしれないが・・・、そこにはこう彫った。
『我が至高の親友、ここに眠る』
たったそれだけの飾りっ気のない文。それ故に彼が満足するだろう。
そして、周りの土とその宝石を同化させて彼が掘り起こされないように、この宝石が誰かに取られないようにした。
「安らかに眠れ、浩。お前と過ごした日々を、俺は絶対に忘れない」
そう言って踵を返す。その後ろにはアンジェラが追従した。黙り込んでいるが話しかけない。・・・他にやることがあるのだ。
そして、矢を放った奴の元にたどり着き、能力を解除して、氷刀アイシアを一閃する。
スパンっと彼の右足はどこかへと飛んで行った。だが、その傷口は凍り付き、血は流れない。そう、これで逃げられない。そして、地面に倒れた奴のフードを取り払う。その下にいたのは、浅黒い肌をして、山羊のような角を生やした男だった。・・・噂には聞いていたが、恐らくこれが悪魔族。
「お前には、聞きたいことが山ほどある。・・・・断末魔も含めてな」
そう言って俺は再度氷刀アイシアを構え・・・・
・・・というわけで主人公の親友が死にました。これが彼らの『別れ』。それも最も避けたい『死別』でした。・・・正直、あまり好きなシーンではないですが、主人公の道を決定づける為の重要な話でした。
そして、これで第二部は終わり、物語は第三部『人獣戦争編』へと入ります。彼はどのように戦争に参加するのか、春香と再会できるのか、そして世界の統一はどうなるのか・・・。それも書き交えながら彼の成長を描いて行きたいと思います。
感想・評価・Twitterのフォローなどお待ちしています




