第一話 プロローグ
どうも新連載です。不定期ながら更新致します!
雨川慎也、17歳。現役高校二年生で、趣味は読書とゲームと食事。つまり、娯楽。身長は170cmくらい、体重も55kgほど。運動は特にやっていない。顔は、幼なじみ曰く中の上程度。目立つことはあまりなく、目立ちたい訳でもない。
そんな俺が今現在興味を持っているものは、異世界について、だ。
もちろん、俺が異世界からの来訪者にであったとか、異世界に行ったことのある人がいるとか、そういうことはない。単純に興味があるのだ、その異世界の知識に。
異世界には、ドラゴンが、英雄が、お姫様がいるかもしれない物語のような世界。そんな世界を読み解きたい、俺は最近そう言う思いに囚われていた。
とはいえ、それと同時に夢だけでは人は生きていけないと悟っている俺は、その自分の思いを一笑に付し、今日も勉学に励む為に学校へと通う。
「オ?何か文句あんのか、豚?」
「ひぃ、な、なんでもありません!!」
教室の隅でいつも行われてる光景を視界の隅へと追いやり、俺は席に着く。SHRが始まるまであと数分残っているので、鞄の中から本を取り出し、読むことにした。今日の本は、『宇宙戦争』。宇宙人が地球に来て攻撃してくると言うアレだ。何十回も呼んでいるから内容も暗記してしまっている。だが、この本をめくる感覚が妙に手に馴染むというか、楽しくもあるので意味も無く読んでいると、言えなくもない。
まあ、この行為も、目立たない為の行動の一貫なのだ。しかし、このささやかな行動も実のところ無駄なのだが。
ちらり、と前の席を見るといつの間にか誰かが椅子を前後反転させて座っていてこちらを見ていた。微かな薔薇のような良い匂いがしたあたりから嫌な予感はしていたがまさに的中というところだ。
教室はいつの間にか静寂が支配しており、全員の視線が俺と俺の目の前にいる彼女に集中した。それを痛い程に感じる。目立ちたくなかったんだがな・・・。
だが、俺は敢えて無視をして、チラッとしか見てないのだから気付かれていないことを願いつつ、俺の目の前から立ち去ってほしいと心の中で懇願する。如何にも読書に集中してますよとばかりにページをめくりながら。
「その本面白いの?」
いや、十割方そんな上手く行かないと知っていたが。少し位は期待しても良かっただろう。
俺は、そこでようやく顔を上げて、可憐な声とよく言われる人物に目を向けた。いやいやと。
艶やかな黒髪を長く伸ばし、雪のように白い肌を持ち、たれ目で優しげな印象を放つ彼女。人々が容姿端麗と言うだろう容姿の持ち主だけでも凄いのに、しかも、彼女は生まれながらの天才児で既に論文をいくつも書いていて各地の大学から来てほしいと懇願されるような頭の良さもある。
正直高校生である必要性が全くない、人に二物を与えない筈の天に喧嘩を売るような人物こそが俺の目の前に座っている北見春香。俺の幼なじみであり、平凡なハズの俺が目立ってしまう理由である。
「まあ、そこそこだな」
そう言って俺は本を閉じる。これ以上は無視できないし、本を片手に人と話すのは失礼だと思ったからだ。
「久しぶりね、シン」
「三日振り、だな。久しぶりってほどじゃないだろ」
「んもぅ、つれないな。あ、そういえば朝置いてったでしょ」
そこでぷくぅ、とふくれる彼女に何人かの男子がノックダウンされているのを横目で確認したが、敢えて無視をする。だが、こういった顔を見慣れているはずの俺ですら若干クラっと来たのだ。初対面なら危なかった。まあ、彼女は誰にでもこういう顔をする訳ではないのだが。ちなみに、シンは彼女がつけた俺のあだ名である。使うのは彼女だけだが。
「・・・いや、たしかお前帰ってくるの明日の予定だったろ?」
「えー、ちゃんとメールしたよ」
「何時に?」
「・・・朝の七時位」
「すまんな、今朝は寝坊したから携帯を見る暇がなかったんだ」
「女の子のメールはちゃんと返さないと嫌われるよ?」
「・・・・・」
そこで俺は押し黙る。お前以外の女からメールが来たことは、お前んちのお母さん位しかねえよとは流石に言えなかった。
「あ、でもでも私はシンのことちゃんと分かってあげられるから嫌わないよ?」
「いや、別にそれは良いんだけど」
「えー、もぅ」
ふたたびぷくっとやる春香。そのたびに死体にむち打つように反応する男子が可哀想だ。
「そもそも何故予定が切り上がったんだ?」
「シンに会いに来たかったから!」
「たしか俺の記憶だと社交パーティーだったはずだよな?早く終わるもんじゃないと思うが?」
「シンに早く会いたかったから!」
「・・・で、本当は?」
「シンに早く会いたかったから」
そこで俺は額に手を当ててため息をつきつつかぶりをふる。話が通じてない。
「じゃあ、シンが恋しかったから」
「答えになってないぞ、おい、そもそも・・・・」
とそこで俺が追求を重ねようとした時に異変が起こった。
ギィィィィン、ゴォォォォォォン、ガァァン、ゴォォォォン・・・と調子のズレたようなチャイムが鳴り響く。
「え、なにこのチャイム?不気味ね」
「なんか嫌な予感がする」
顔を見合わせ話し合う俺と春香。いつもなら男子の嫉妬の目とかが降り注ぐが、今はそんな状況ではない当たりみんな異常な状況だと認識しているのだろう。
『やあ、皆コンニチワ。君たちの愛する神様ダヨ』
いきなり教室のスピーカーから老若男女の声を合わせたような声が流れ出した。気のせいか『神様』って聞こえた気がする。
『いやいや、確かにボクは「神様」と名乗ったよ、シンヤ君』
そういわれて、俺は眉をぴくりとうごかした。まさか、心が読めるとでも言うのか?
『そうそう、心が読めるんだよボクニハ。・・・ああ、無駄だよ、カオリ君。神頼みもしちゃダメとは言わないけど、ボクが神だからネ』
カオリと呼ばれた女子がビクンと反応し、泣き出す。それを皮切りにクラス中から不平不満が飛び出した。
「どういうことだよ!!」
「扉が開かねえどうなってやがる!!」
「はやくウチに帰してよ!!」
「誰か助けて・・・」
『うるさいな、黙れヨ』
だが、その不平不満も神の言葉で全てかき消された。先程まで怒鳴っていた連中がどなろうと大口を開けて何かを言おうとするが、そこから呼吸音以外の音が出ることはなかった。
『まあ、助けを求めていたみたいだけどサァ、ボクってば君たちを救いに来たんだヨ?ちょっと失礼ジャナイ?』
「・・・救いに来たってどういうことですか?」
ピタリ、と生徒の動きが止まって春香に集中する。なぜ、喋れるんだとばかりに。
『君は確か・・・ハルカ君だったかな?まあ、そう怒らないでヨ。ボクは救いに来た。君たちは助かるだけサ。誰も損しないダロ?』
「目的は?」
は?目的?と俺は思った。もちろん俺とて『救う』という言葉を全面的に信用してた訳ではないのだが、『救う』の先になにか目的があるとは思えなかったからだ。
『ふむ、愛しの君たちが救われること・・・でドウ?』
「私たちの同意を求めるということは、理由なんて無いんですね」
『アラ、一本取られチャッタ』
「なんつー茶番だ・・・」
その時俺はため息をつきつつそう言葉を発した。・・・あれ、喋れる?
『シン君は頭が使えそうだからネ。口は封印していないヨ。しっかし、大半の人間は使えないからなあ・・・。すっごいバカだからもの凄く数を増やしてくれて宇宙のキャパシティを圧迫しようとしてくるし、本当嫌になるヨ』
「宇宙のキャパシティだぁ?」
『そうだよ君たち人類が圧迫してくれちゃってるものサ。・・・もちろんキャパシティは増やしていっちゃあいるんだけど君たち人間はなまじっか知能がある所為か容量をバクバク喰ってくれてネエ・・・っと、愚痴っぽくなったね』
「つまり、数減らしが目的ってことですか?」
春香の言葉にクラス中の全員が顔を青ざめさせる。そして、あるものは泣き叫び(と、いえども声がでないのだが)、あるものは机や椅子を使って窓を割ろうとし、あるものはドアを蹴破ろうとした。だが、
『何したって無駄ダヨ。すでにここは君たちの世界から切り離してあるからネ。・・・そしてハルカ君とシン君賢いネ。この状況下でその答えにたどり着き尚かつ目をそらさないだなんテ』
「・・・ということはハルカの予想は的中か」
『そうそう大正解。はあ、よりによってこんなところにマトモな方の人類が二人もいるだなんてボクもついてないナァ』
マトモと言われたことで俺たちだけ助かるかもと思った連中が俺たちに鋭い視線を送ってくるが無視した。そんな奴等はどうでもいいが、ハルカだけは助けねば・・・
「じゃあ、why、when、where、はわかるとして最後に効くべきはhow、だ」
『あぁ、ハルカ君を護る義務感に駆られてる所悪いんだけど、別にボクは君たちを殺そうとしている訳じゃないサ。単純に異世界へと旅立ってもらうだけダカラ。じゃあネ〜』
そういった『神様』の言葉を最後に俺は気を失った。