愛でるもの
側妃×陛下
後宮――それは美しき花々が集う場所。愛を求め寵を競い、憎しみ嫉妬にまみれた世界…のはずである。
「はう〜いつ見てもお美しいです………」
あの美貌はもはや犯罪級よね。たまらない………。
「お嬢様、涎が」
「あらありがと、リリィ」
まずいわね気を抜くと垂れてしまって。
「お嬢様、鼻血が」
「あらあら、ありがと」
そのうち、私失血で死ぬのではないかしら?………んふ、本望だわ。
「垂涎ものってこういうことをいうのね」
「……」
あら何よ、リリィてば。そんなに呆れた顔をしないで欲しいわ。
「お嬢様、その台詞と眼差しを是非とも陛下に向けられては」
「なぜそんな無駄なことをしなくてはならないの?」
そう、私の視線の先におられるのは陛下ではなく、お妃であらせられる王妃様。花を愛でられる王妃様……私を愛でてくれないかしら。あらやだはしたないわね。一応誤解のないように言っておきますけれど、そういった趣味はありませんので悪しからず。
あんなにもお美しい王妃様を愛でずしてどうしろと!!
んふーっ。本当にいつ見ても飽きませんわ〜。天が遣わした女神様のようだわ。腰まで伸び軽くウェーブのかかった金に輝く御髪、艶やかで桃色に染まる頬、なだらかな曲線を描く躰。たまりませんー。
「お嬢様、また涎が。それとそろそろ陛下が来られるお時間です」
「ちっまた来やがりますの。あの野郎」
「お嬢様、お言葉が」
「あらやだ失礼」
あんなにもあんなにも王妃様はお美しくて非の打ち所などないというのに…なぜっ!!!!
「待たせたな、我が愛しの姫よ」
なぜ、私(側妃)のところなぞに来る!!!!
「あら、わざわざのお忙しい中来られずとも良かったのですよ(訳:仕事しやがれ、このぼんくら)」
「ふっ気にかけてくれるとはなんと優しいのか」
「……」
もうもう毎回毎回どうしてくれようかしら。思わず一発で不敬罪で首をはねられるようなことをしたくなりますわね。
「おや、浮かない顔をしているね。君の心を曇らすものは何だろうか」
目の前の頭に花咲いていらっしゃる御方だといえたらどんなに幸せなことでしょうか。
「いえ、陛下がわざわざお気遣いなさることではありませんの(訳:ほっとけ)」
「あぁなんていじらしいお人なんだ!こんなに私を心配させて困ったお人だ…」
な ぜ だ き し め る
もう私の体に鳥肌がたっていない場所なんてないのではないかしら。
リリィ…なぜ親指を立ててるのかしら。全くもってグッジョブではないのだけれど。
「あの陛下?私のことはもう構わず、王妃様の元へ行かれてはいかがでしょう。皆、陛下と王妃様の御子の誕生を待ち望んでおりますわ」
本当のことを言いますと王妃様がこのぼんくらにピー(自主規制)されているところなぞ想像したくもないのですけれど。
でも私、王妃様の憂い顔が一番見たくありません。この間、陛下が私の所に来て一ヶ月ほどの時だったでしょうか、見てしまいました。深いため息をつきながら手を口に当てながら震えている王妃様を!必死に何かを我慢しているようでした。それが私のことが原因でいないと誰が言い切れましょう…。
「ふっ本当に優しいな。…にはもったいない」
「え?」
「いやなんでもない。他ならぬ君の願いだ叶えよう。明日からしばらく、こちらに来ることが出来なくなるが。すまない」
いやっほー…いやだわ、おほん。嬉しすぎますっ!自由、自由だわ!!むふふふ。これでまたのんびりと王妃様を愛でることが出来ます…、うっとり。
「いいえ。お仕事頑張って下さりませ」
「では、体には気をつけてな」
「陛下も」
っふー。やれやれやっと行きました。さて、と。
「リリィ」
「ここに」
「少し調べてもらいたいことがあるの」
「かしこまりました」
さて、私も少し動こうかしら。
はぁ陛下が私の所に来るようになってから早3ヶ月。まったく良い迷惑でしたわ。なんで私のような下級も下級でいいとこの没落貴族に手を出したのかしら。意味不明だわ。それに陛下は王妃様がいらしてからは王妃様一筋であったはず。確かに王妃様がいらっしゃる前はそれなりに何人かの所には通っていたようだけれど…。にしても私とは接点らしい接点はない。急すぎなのよね。それになんといってもあの陛下の態度。最初は強烈すぎて分からなかったけれど、演技のようなわざとらしさがある。遠目で見た陛下はもう少し理知的に見えましたし…。まぁ実際に近くで話をしたことがないので分かりませんが。
そして毎日のように通いに来て泊まることはあっても夜の営みがないの。えぇ夜の営みはありません。大事なことなので二度と言わせていただきます。ま、あっても困りますが。
「お嬢様」
「あらリリィ」
差し出されるのは何枚かの用紙。さすがね仕事が早いわ。
「よろしいのですか」
「なにかしら」
どきり。本当にできる侍女は察しがいいわね。リリィが何を問いたいのか分かっている。私にはもったいないくらいの侍女だわ。
「そうね…王妃様を見られなくなるのはとっても寂しいわ」
「それだけでしょうか」
目をつむれば浮かび上がるのは鬱陶しいと思っていたあの男。
分かっていて惚けているのにやたら突っ込むわね。逃げ道くらい用意してくれてもいいのに。
「色々あって面倒ではあったけれど楽しかったわ」
だけどこれくらいの本音は出してもいいかしらね。
「さようでございますか」
もうなにを言っても無駄だと分かったようね。私、頑固で融通が利かなくてよく父様を困らせていたわ。
さて、と準備は終わったわ。そろそろ、かしらね。
「ローゼリアっ!!!!」
のんびりと部屋でくつろいでいればいきなり扉が開く。グッドタイミングね。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりましたわ」
さ、全て終わりに致しましょう。
「どういうことだっ。修道院に行くなど聞いてないぞ!」
「言ってませんからね」
というかやっぱり、あの頭に花を咲かせたようなしゃべり方は演技だったようね。
「陛下、いえ…王弟殿下」
全ての幕引きを今いたします。
「なに」
「おかしいと思ったんですよね…こんな没落しかかったような貴族令嬢にって。見目がいいわけでもないですし…しかも王妃様、憂いていたり私を気にしているそぶりを見せていませんし」
実際、私が落ち込んだ(ように見えた)王妃様を見たのはあの一回だったわけで。あれからの王妃様は空元気、というわけでもなく普通に健やかにお過ごしのようでした。王妃様鑑賞にかけては自信がありますので。
実際には噂で王妃への寵愛が薄れたとながれ、私に嫌がらせらしいものが来ました…まぁ蹴散らしてやりましたが。きっとこれが目的なんだろうと。
「あなた様は陛下の双子であらせられ影武者である王弟殿下ではありませんか」
私の人生終わりましたね。影武者とバラして生きていけるはずないわね。あーあ。
「ふ、さすがだな。オレは陛下の双子の弟、ジオラルド。今はどこぞの領主をやってることになってる」
あら、認めるのが存外に早いですね。
リリィに調べてもらったうちの一つ。陛下に良く似た兄弟親戚がいるかどうか。
「この計画は王妃殿下のご懐妊がきっかけでは?」
ま、なるほどといった感じです。きっと3ヶ月前あたりに王妃様のご懐妊が分かり落ちつくまで暗殺といったことから目をそらそうとしたのでしょう。それが、私。一時的に寵愛してポイとされても問題のないような没落貴族。
それももう終わり。今日、王妃様のご懐妊を発表するとのことでしたし…。
「私、あなた方の望み通りの隠れみのになれまして?」
「いつ分かったんだ」
いつといってもヒントはたくさんありましたからねぇ。
「そうですね…最初から疑ってはいましたが。確信を持ったのは、1ヶ月ほどまえでしょうか、王妃殿下が少しお腹を庇いながら庭を散策していらっしゃいましたので」
「なるほどな」
「それで私のこれからの処遇なんですけれども。私は秘密は守ります。ですが色々とご心配でしょうから修道院へと参ります」
「それは駄目だ」
やっぱり…甘くないか。良くて軟禁、悪くて自害ってところかしらね。
「お前は俺の妻として迎え入れるからな」
そうですよね…妻に、て………えっーー!!
「はっ!?なぜ私がっ」
「そりゃ当然。オレが惚れたからだ」
頭が痛くなって参りましたわ……。
「いやよく調べたもんだ。説明する隙を省けて何よりだ」
大 誤 算
大 混 乱
そしてリリィ、頷きながら親指を立てないでっ。全然全くグッジョブなんかじゃないからっ。
「大まかな流れはそうだ。陛下の影武者である俺が当たり障りのない女を寵愛し始めれば王妃から目をそらせられる」
そーでしょうとも!薄々気づいてからはバカどもを助長させるようなこともしましたからね。王妃様をお守りできたと思えばちょろいもんです。
「ただ通うにしてもな。やっぱりオレが気に入った女でないと。ってわけでお前を選んだのはオレだ」
「いつお会いしまして?」
会った記憶全くないんですけどね。だいたい後宮で男性と話す機会なんてそうそうないですが。
「くくく、お前王妃のこと大好きだろ」
「ええそれはもう」
愛でずしてどうしろというのですっ。あの美貌っ白雪のような肌、…以下略。
「いつだったか…オレが王妃様の警護についていると、もの凄い視線を感じてな」
あ、あら?やっぱりそれ私、かしら?
「刺客かと思って警戒してみれば、柱から顔を覗かせて涎を垂らしてるご令嬢がいるじゃないか」
おほほほ。あらやだこと。リリィ、残念な顔して親指を下に下げないで。ブーイングしないでっ。
「あの視線をな、どうしてもこちらに向かせてみたいと思ったんだよな。それがきっかけ」
この御方、やっぱり頭イってしまってないかしら。あの様子の私を見て気に入るってあり得ないわ。
「あとこの案出しだのオレ」
「はぁ!?」
こんのよくわからない面倒な巻き込まれ、全部あなたのせいなのっ。
「いや、そうでもしないと一応側室のお前に手なんて出せないし」
て、ことはこの計画は王妃殿下のことが表向きで、実際は私と接触するため……?
べべべべつに照れてなんかいないわよ。顔が熱いのは気のせいなんだから。ちょっとリリィ、その生温かい視線よこすのやめなさい。
「しばらくは後宮暮らしになるけど王妃が子を産んだら、オレは自由の身だ。領地もらったからのんびり暮らそうな」
「わ、わたくしは認めないわっ」
「なんで」
「王妃様と離れるの嫌です」
「そこかよ」
「他に何かありまして」
ないわよ、そこしか当たり前だわ。
「あー考えてもみろ。オレの所に嫁にくれば王妃はお前の義理の姉だぞ」
「お、お義姉様……」
いい!ものすごくいいかもしれないわっ。
何かしらリリィ。え、鼻から?あらあら、ありがとう。
「本当に好きだな…」
「もちろんです」
愚問ですわね。なにをげんなりしていらっしゃるのか分かりません。
「それにオレのとこにくるのは別にいやがってないだろ?」
「…」
黙秘。してもだめよね。あーにやにやニタニタしている目の前の男の顔がむかつきますっ。
「……言っていい?」
なぜかしら、いやな予感しかしないわ。嬉しさでとろけそうな顔をしているし。
「駄目で、」
「可愛い、愛してる」
「!」
「じゃ、行こうか」
「な、なにをっ」
え、なにを持ち上げてっって私っ!?
「愛を語り合おうな」
ど こ の ひ と で す か
「いや〜俺の忍耐も限界だったからな」
ちょっとリリィ、にこやかに手を振りながら出ていかないでちょうだい。
きゃあ!押し倒さないでっひもを解かないでっ!
「一生大事にするからな」
ずるいずるいずるいですっ!でも本気で抵抗できない私も私ですっ。ふぅ人生諦めも肝心ですかね。
「…嘘ついたら許しませんからね、ジオラルド」
「了解」
なんだかんだと楽しいかもしれないですね。
「ジオラルド」
「なんだ」
「体が動かないのだけれど」
「そこは、愛だな」
「………」
~ある1コマ~
「ローゼリア」
「何かしら」
「オレのこと好きか」
「王妃様とリリィの次くらいには」
「……(複雑)」