最終話
若干、覚めきらない頭で考える。
俺の兄貴は高卒後、すぐに結婚した。
けれど、最近夫婦関係がうまくいってないようで、しょっちゅうケンカしている。
声の主が兄貴だとすると、目の前の彼女は兄貴の奥さんということになる。
つまり、俺は義姉と寝てしまったことになる…。
でも、決ったわけじゃない。
そんなこと、あってたまるか!
俺は、恐る恐るその名を口にした。
「・・・美春さん?」
俺の声に、彼女は話し途中のケータイを落とした…。
「なんで…。」
氷ったまま動かない彼女の瞳。
「なんでなんだよ!」
俺の言葉に、だんだん暗くなる彼女の表情。
そして彼女は言った。
「腹いせよ・・・。」
自分の過ちと衝撃の事実に、目の前が暗くなるのがわかった。
「どうしても、最後に復讐がしたかったの・・・。」
動けなくなった俺に、彼女は最後のキスをした。
「ごめんね。それと、さよなら・・・。」
そして、彼女は部屋をあとにした・・・。
次の日の街は、慌ただしかった。
女のひとが電車にはねられたらしい・・・。
俺にはその人が誰なのかわかっていた。
『最後』
彼女は確かにそう言った。
悲しい確信・・・。
だからというわけでもないが、俺は新聞もワイドショーも見なかった。
まだ少しだけ部屋に残る彼女の香水のかおり。
その香りだけが、俺が彼女を愛してたことを知っていた。
一晩だけの恋人…。
目があったときから、彼女からは逃れられない運命だったんだ・・・。
たとえ、裏切られたと知った今でも、俺は確かに彼女を愛してた。
一晩だけの恋人…。 ―完―