超級魔法しか使えない俺は、宮廷魔法使いには向いていないらしい
アルトは、魔法使いだ。
ただし、一つだけ問題がある。
超級魔法しか使えないのだ。
初級魔法も、中級魔法も、上級魔法も使えない。
使えるのは、超級魔法だけ。
その威力は凄まじく、以前、暖炉に火をつけようとして家を一軒燃やしたことがある。
幸い、家族に怪我はなかった。
だが、それ以来、屋内での魔法使用を固く禁じられている。
そんなアルトは現在、冒険者をしていた。
剣士のガルド、短剣使いのリーナと組んだ三人組のパーティーだ。
もっとも、アルトの役割は魔法使いではない。
荷物持ちである。
なぜなら、ダンジョンで超級魔法を使うと、ダンジョンそのものが消えてしまうからだ。
……魔法使いなのに。
以前、アルトは二人に尋ねたことがある。
「俺、魔法使いなのに荷物持ちしかできないけど、本当にいいの?」
すると、ガルドは豪快に笑った。
「はははは! 何を言ってるんだ! お前がいなけりゃ、俺たちは今頃魔物の餌だったぞ!」
「そうよ。スタンピードのときだって、あなたがいなければ街ごと滅んでいたわ。」
リーナも頷いた。
「それに、ダンジョンでは私たちが戦えばいいじゃない。」
「……そうかな。」
「そうよ。三人でパーティーなんだから。」
リーナは当然のように言った。
アルトは、少しだけ嬉しくなった。
もっとも。
「だから、今日も荷物はよろしくね!」
「……うん。」
結局、荷物持ちなのは変わらなかった。
そんなアルトたち三人のもとへ、ある日、王宮から招待状が届いた。
◇
「……王宮?」
リーナが目を丸くした。
「そうみたい。」
アルトが招待状を差し出す。
「アルト! これ、本物じゃない!」
「うん。王家の紋章が入ってるね。」
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ!」
リーナは招待状を読み直した。
そこには、国王陛下の名で、三人を王宮へ招待する旨が記されていた。
理由は、先日のスタンピード。
街へ押し寄せた千を超える魔物の群れを、アルトが超級魔法で一掃したのだ。
もっとも、魔物と一緒に広大な森も消えてしまったのだが。
「はははは! ついに王様に呼ばれるとはな!」
ガルドが豪快に笑った。
「いやあ、アルト! お前のおかげで、俺たちまで王宮に行けるぞ!」
「でも、何をするんだろう?」
「褒美をくださるんじゃないかしら。」
リーナが答えた。
「何しろ、街を救った英雄なんだから。」
「そうなの?」
「そうなの!」
リーナは深いため息をついた。
……この男、自分が何をしたのか、本当に分かっているのかしら。
◇
数日後。
三人は王宮の謁見の間にいた。
高い天井には美しい装飾が施され、赤い絨毯が玉座まで続いている。
その玉座には、アルセリア王国の国王が座っていた。
「よく来てくれた。」
国王は穏やかに微笑んだ。
「そなたたちの活躍は、すでに聞き及んでいる。」
「はっ! お招きいただき、光栄にございます!」
ガルドが深く頭を下げた。
リーナも慌てて礼をする。
アルトも二人に倣った。
「特に、アルトと申したな。」
「はい。」
「そなたの魔法が、街を救ったと聞いた。」
「ええ。まあ、魔物は倒せました。」
「謙遜することはない。」
国王は満足そうに頷いた。
「騎士団からも報告を受けている。あのままでは街が壊滅していたかもしれぬ。」
「そうだったんですね。」
「……そうだったんですね、じゃないわよ。」
リーナが小声で呟いた。
国王は三人を見渡した。
「此度の功績に報いるため、王国より褒賞を授けよう。」
側近が進み出て、三人の前に金貨の入った箱を置いた。
「おおっ!」
ガルドが目を輝かせる。
「これはありがたい!」
「本当に、こんなにいただいてよろしいのでしょうか?」
リーナも驚いていた。
「ああ。街を救った功績に比べれば、決して多すぎることはない。」
国王は微笑んだ。
「今後も、王国のために力を尽くしてくれることを願っている。」
「はい!」
三人は揃って頭を下げた。
こうして、謁見は無事に終わった。
……はずだった。
◇
王宮を後にしようとした三人に、一人の少女が声をかけた。
「少々、お待ちください!」
振り返ると、美しい金髪の少女が立っていた。
年齢は十六歳ほどだろうか。
上品なドレスをまとい、柔らかな笑みを浮かべている。
その後ろには、侍女たちが控えていた。
「……王女殿下!?」
リーナが慌てて頭を下げる。
ガルドもそれに倣った。
「そんなにかしこまらなくても結構です。」
少女は優しく微笑んだ。
「私は、第一王女のセレスティーナと申します。」
「アルトです。」
「存じております。先日のスタンピードを食い止めた英雄でいらっしゃいますね。」
「ええ。まあ。」
アルトは頷いた。
セレスティーナは、彼をまっすぐに見つめた。
「まずは、お礼を申し上げさせてください。」
「……お礼、ですか?」
「はい。あの街には、私も何度か訪れたことがございます。皆さん、とても温かい方々でした。」
王女は柔らかく微笑んだ。
「その方々を救ってくださったこと、本当に感謝しております。」
「……いえ。俺にできることをしただけですから。」
「まあ!」
王女の瞳が輝いた。
「なんと謙虚なお方なのでしょう!」
「……え?」
「実は、アルト様にお願いがございます。」
「何でしょう?」
「ぜひ、宮廷魔法使いになっていただけませんか?」
「えっ?」
アルトが首を傾げた。
「宮廷魔法使い、ですか?」
「はい!」
王女は嬉しそうに頷いた。
「それほどの魔法を使えるお方なら、きっと王国の大きな力になってくださいます!」
「いや、でも……。」
アルトは少し困ったように頬を掻いた。
「俺、超級魔法しか使えないんで。」
「まあ!」
王女の瞳が、さらに輝いた。
「超級魔法しか使えないのですか!?」
「はい。」
「素晴らしいではありませんか!」
「……え?」
「そのような方が、この王国にいらっしゃるなんて!」
リーナは思わず額に手を当てた。
……ああ、駄目だわ。
この王女様、アルトの話を全然理解していない。
「ちなみに、どのような超級魔法を使えるのですか?」
王女が尋ねた。
「えっと……。」
アルトは少し考えてから答えた。
「《天地開闢・森羅万象・灼熱輪廻・紅蓮終焉・業火天獄・万物灰燼・極大太陽神完全消滅究極殲滅魔法》です。」
「…………。」
王女が固まった。
リーナも黙った。
ガルドだけが、楽しそうに笑っている。
「はははは! 何度聞いてもすごい名前だな!」
「……まあ!」
王女が、ぱっと顔を輝かせた。
「素晴らしい! その極大太陽神なんちゃらで、スタンピードを止められたのですね!」
「えっ、ええ。まあ……。」
アルトが曖昧に頷いた。
リーナは思わず王女を見つめた。
……すごくはしょったわね。
あれだけ長い名前だったのに、ほとんど消えてしまった。
「やはり、ぜひ宮廷魔法使いに!」
「いや、ですから……。」
アルトが説明しようとした、そのときだった。
「王女殿下! 大変でございます!」
一人の騎士が、慌ただしく駆け込んできた。
「どうしました?」
セレスティーナが振り向く。
「王都の北にあるエルムの森で、大規模な火災が発生しました!」
「何ですって!?」
「すでに宮廷魔法使いたちが総出で消火に当たっておりますが、火の勢いが強く、まったく収まりません!」
騎士は息を整え、続けた。
「このままでは、近隣の村にも火が広がる恐れがあります!」
「そんな……!」
王女の表情が曇った。
「村の人々は?」
「現在、騎士団が避難を進めております!」
「分かりました。私も参ります!」
セレスティーナはすぐに歩き出した。
だが、数歩進んだところで振り返った。
「アルト様!」
「はい?」
「皆様も、お力をお貸しいただけませんか?」
「ええ。もちろんです。」
「ありがとうございます!」
三人は王女の後を追い、火災現場へと向かった。
◇
王都の北。
エルムの森は、赤い炎に包まれていた。
ゴォォォォォォォ――!!
激しい炎が木々を呑み込み、黒い煙が空高く立ち上っている。
すでに森の半分近くが焼け、炎は北側の村へ向かって広がっていた。
森の向こうには、村の家々の屋根が見えている。
その手前まで、赤い炎が迫っていた。
「急げ! 村人の避難を最優先にしろ!」
「風向きが変わったぞ!」
「このままでは間に合わん!」
騎士たちが慌ただしく駆け回っている。
森の外では、宮廷魔法使いたちが必死に消火を続けていた。
「《水流弾》!」
「《水壁》!」
「《豪雨》!」
次々と水魔法が放たれる。
しかし、火の勢いは衰えない。
「くっ! 駄目だ!」
「水が足りない!」
「このままでは、村まで燃えてしまうぞ!」
魔法使いたちの表情には、焦りが浮かんでいた。
セレスティーナは、その光景を見て唇を噛んだ。
「……何とか、ならないのでしょうか。」
そのとき。
「あの。」
アルトが声をかけた。
「何でしょう?」
「俺、火は消せますよ。」
「……え?」
王女が振り向いた。
「本当ですか!?」
「はい。」
アルトは燃え盛る森を見つめた。
「ただ、ちょっと問題がありまして。」
「何でしょう?」
「森が凍ると思います。」
「……凍る?」
「はい。全部。」
「…………。」
王女は少し考え込んだ。
「……火は消えるのですよね?」
「はい。」
「村に被害は?」
「村までは届かないようにできます。ただ、森はしばらく凍ったままになるかと。」
セレスティーナは、もう一度、燃え盛る森を見た。
避難する村人たち。
必死に消火を続ける魔法使いたち。
そして、村へ迫る炎。
「それなら、構いません!」
王女は即答した。
「村が焼けてしまうより、ずっとよいでしょう!」
「分かりました。」
アルトは頷いた。
その様子を見ていたリーナが、慌てて声を上げる。
「ちょっと、アルト!」
「何?」
「本当に大丈夫なの!?」
「うん。森を凍らせるだけだから。」
「……だけ?」
リーナは、燃え盛る広大な森を見た。
……この男の「だけ」は、絶対に信用しちゃ駄目だわ。
「アルト。」
ガルドが肩を叩いた。
「今回は氷の魔法か?」
「うん。」
「ははは! そいつは楽しみだ!」
「楽しみじゃないわよ!」
リーナが叫んだ。
「ガルド! あんたも少しは心配しなさい!」
「まあまあ。アルトなら大丈夫だろう!」
「そういう問題じゃないの!」
その間にも、炎は勢いを増していた。
アルトは森へ向き直る。
「それじゃあ、少し下がってて。」
宮廷魔法使いたちが、不思議そうにこちらを見る。
「……何をするつもりだ?」
「魔法を使うそうです!」
王女が嬉しそうに答えた。
「……魔法?」
「はい! 超級魔法です!」
「…………は?」
宮廷魔法使いたちが、一斉に固まった。
◇
アルトは、ゆっくりと右手を掲げた。
その瞬間。
ゴォォォォォォォ――!!
凄まじい風が吹き荒れた。
「きゃあっ!?」
王女の金髪が大きく揺れる。
宮廷魔法使いたちが、驚いて空を見上げた。
周囲の魔素が、一斉に動き始めていた。
空から。
大地から。
森の奥から。
膨大な魔素が、アルトのもとへと集まっていく。
「な、何だ、この魔力量は……!?」
「ありえん……!」
「こんな魔力、見たことがないぞ!」
宮廷魔法使いたちが震える声を上げた。
リーナは、すでに両手で頭を抱えていた。
……また始まった。
あの、めちゃくちゃな魔法が。
アルトは静かに息を吸い込んだ。
そして、ゆっくりと口を開く。
「《絶対零度・永久凍土・氷河終焉・万象凍結・極大氷結神完全停止究極封印魔法》」
「…………。」
王女が目を見開いた。
宮廷魔法使いたちも、言葉を失っていた。
次の瞬間。
ピキッ。
小さな音が響いた。
燃え盛る森の上空に、白い光が広がる。
そして――。
ゴォォォォォォォォ――!!
凄まじい冷気が、森全体へと降り注いだ。
炎が、一瞬で消えた。
木々が白く染まる。
地面が凍りつく。
空気中の水分が、細かな氷の結晶となって舞い上がる。
赤く燃えていた森が、瞬く間に白銀の世界へと変わっていった。
冷気は森の端でぴたりと止まり、その向こうにある村には届かなかった。
やがて。
風が止んだ。
そこには、巨大な氷の森が広がっていた。
「…………。」
誰も、何も言わなかった。
宮廷魔法使いたちは、口を開けたまま立ち尽くしている。
騎士たちも、呆然と森を見つめていた。
リーナは、ゆっくりとアルトへ顔を向けた。
「……アルト。」
「何?」
「……本当に、凍ったわね。」
「うん。」
「……全部。」
「うん。」
「…………。」
リーナは、もう一度、森を見た。
「……これ、いつ溶けるの?」
「うーん……。」
アルトは少し考えた。
「春くらいかな。」
「…………。」
「…………。」
「今、夏なんだけど!?」
リーナの叫び声が、氷の森に響き渡った。
◇
「……素晴らしい!!」
セレスティーナが、感動したように声を上げた。
「なんという魔法なのでしょう!」
王女は、白銀に輝く森を見つめていた。
「これが……氷なんちゃら魔法なのですね!」
「…………。」
リーナが固まった。
……さっきより、はしょってるじゃない!
「ええ。まあ……。」
アルトも、何とも言えない顔で頷いた。
「アルト様!」
王女が勢いよく振り返った。
「やはり、ぜひ宮廷魔法使いになってください!」
「えっ?」
「これほどのお力があれば、王国のどのような危機にも対応できるはずです!」
アルトは少し考え込んだ。
確かに、宮廷魔法使いになれば、超級魔法を使う機会も増えるかもしれない。
王国のために働くというのも、悪くない。
だが。
「……申し訳ありません。」
アルトは静かに首を振った。
「俺は、宮廷魔法使いにはなれません。」
「……なぜですか?」
セレスティーナが不思議そうに尋ねた。
アルトは、隣にいる二人へ目を向けた。
ガルド。
リーナ。
ダンジョンで魔法を使えない自分を、ずっと仲間として受け入れてくれた二人。
役に立てなくても、笑って一緒にいてくれた。
そして、いつも当たり前のように、三人で冒険を続けてきた。
だから。
「俺は、この二人と一緒に冒険を続けたいんです。」
「……!」
リーナが息を呑んだ。
ガルドも、少し驚いたようにアルトを見た。
「……アルト。」
リーナの声が、小さく震える。
アルトは、ふっと笑った。
「ああ。」
リーナは、しばらく彼を見つめていた。
そして。
「……そんなに、荷物持ちが好きなのね。」
「……えっ?」
アルトが固まった。
「ははははは!」
ガルドが豪快に笑い出した。
「まあ、アルトは荷物を運ぶのが上手いからな!」
「いや、荷物運びに高度な技術はいらないだろ!」
「何を言ってるのよ!」
リーナが腰に手を当てた。
「三人分の荷物を、いつも文句も言わずに運んでくれるじゃない!」
「いや、まあ、そうだけど……。」
「それだけ荷物持ちが好きなら、私たちも止められないわ!」
「いや、好きだから運んでるわけじゃ……。」
「……なんと!」
セレスティーナが、感動したように両手を胸の前で組んだ。
「アルト様は、荷物運びに人生を捧げていらっしゃるのですね!」
「いや、捧げてませんけど!?」
「超級魔法を使えるほどのお方が、あえて荷物持ちの道を選ばれるなんて……!」
王女の瞳が潤んでいる。
「なんと謙虚で、素晴らしいお心なのでしょう!」
「いや、だから……。」
「分かりました!」
セレスティーナは力強く頷いた。
「アルト様のお気持ち、尊重いたします!」
「……ありがとうございます。」
「どうか、これからも立派な荷物持ちとして、王国のためにご活躍ください!」
「……えっ?」
「ははははは!」
ガルドが腹を抱えて笑った。
リーナも、とうとう吹き出した。
「ふふっ……。よかったじゃない、アルト。」
「何が?」
「王女様公認の荷物持ちよ!」
「そんな称号いらないんだけど!?」
三人の笑い声が、氷の森に響き渡った。
◇
数日後。
アルトたちは、いつものように冒険者ギルドへ集まっていた。
「さて! 今日もダンジョンへ行くぞ!」
ガルドが元気よく宣言する。
「ええ。今回は少し深い階層まで行きたいわね。」
リーナも頷いた。
アルトは、いつものように三人分の荷物を背負った。
「……ねえ、アルト。」
「何?」
「王女様から、またお手紙が届いていたわよ。」
「え?」
「あなたの今後のご活躍を祈っています、ですって。」
「そうなんだ。」
「それと……。」
リーナは、笑いをこらえながら続けた。
「荷物持ちとしての技術向上に、王室としても期待しております、って。」
「…………。」
アルトが固まった。
「……何それ。」
「ははははは!」
ガルドが豪快に笑い出した。
「王室公認の荷物持ちだな!」
「いや、だから、俺は魔法使いなんだけど……。」
「分かってるわよ。」
リーナは、にっこりと笑った。
「超級魔法しか使えない、荷物持ちの魔法使いでしょ?」
「…………。」
アルトは、深いため息をついた。
超級魔法しか使えない。
森を焼き払うことも、凍らせることもできる。
けれど、ダンジョンでは魔法を使えない。
そして、宮廷魔法使いになることも断ってしまった。
どうやら、超級魔法しか使えない自分は、宮廷魔法使いにも向いていないらしい。
「……まあ、いいか。」
アルトは荷物を背負い直した。
「それじゃあ、行こう!」
「おう!」
「ええ!」
三人は笑い合いながら、ダンジョンへ向かった。
今日もアルトは、荷物持ちだ。
……王室公認の。
――おしまい。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、アルトが宮廷魔法使いに勧誘されるお話でした。
超級魔法で森の火災を鎮めたものの、森は春まで凍ったままに……。
そして、なぜか王室公認の荷物持ちになってしまいました(笑)。
今後もアルトたち三人の冒険を、短編シリーズとしてお届けできればと思っています。
このほかにも、異世界恋愛などの短編作品や、異世界ファンタジーの長編連載も投稿しています。
よろしければ、ほかの作品もお楽しみいただけると嬉しいです!
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今後ともよろしくお願いいたします!




