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雨音と毒の習慣

今回のお題【本格推理(未知のトリック】

一、雨夜館の訪問者


雨粒が窓ガラスを叩く音は、まるで何万人もの指先が同時に鼓膜を打っているかのようだった。東京・青山の高級マンション、小林清子の居間は冷ややかに灯っていた。


「またかよ」


明智小五郎が煙草の火をつけた。青い煙が天井に昇り、雨音と混ざり合う。彼の背後には、白い上着を羽織った美青年が立っていた。榎木津礼助だ。彼はぼんやりと窓の外を見つめ、自分の髪型が雨風に乱れていないか心配そうな顔をしていた。


「田所さん、奥様はどうですか?」明智が訊ねた。


応答したのは、ソファに座り込んだ四十代の男だった。田所耕一だ。汗で濡れたシャツの襟元を無意識に整えながら、彼は嗄れ声で言った。


「……もう遅い。毒を飲んだようだ」


テーブルの上には一本のワインボトルと、二つのグラスが置かれていた。片方のグラスは空、もう片方は三分の一ほど残っている。清子が使っていたのは、空になった方だ。


二、見ればわかる男


榎木津が近づいてきた。彼の目は、獲物を見つけた猫のように細まっていた。


「このワイン……」榎木津はボトルのラベルを読んだ。「シャト・オー・ブリオン、一九八二年だ。いいものだね。奥様のお気に入りか?」


「そうです。清子は毎日この時間、このワインを一杯だけ飲むんです。習慣なんです」田所は頷いた。


「毎日?」明智が訊く。


「はい。夕食後、必ず。今日も例外ではありませんでした」


榎木津はワイングラスに近づき、鼻を近づけた。彼の眉が跳ね上がった。


「……面白い」


「どうしましたか?」


「このグラスには、ワインの香りがしない」


田所と明智が同時に顔を上げた。


「嘘でしょう? 今飲んだばかりのはずです」


「いや、本当にない。嗅ぎなさい」榎木津は明智にグラスを差し出した。明智も匂いを嗅いで、眉間を寄せた。確かに、ワイン特有の香りはしない。ただ冷たいガラスの香りがあるだけだ。


「つまり……」明智が呟いた。


「奥様はこのワインを飲んだという『ふり』をしたのだ」榎木津は確信に満ちた声で言った。「実際には飲まなかった。でも、毎日飲む習慣があるので、あなた方は『飲んだだろう』と考える。その思考の罠に嵌まっている」


三、時間差の罠


「では、毒を飲んだのは……?」田所が怯えた顔で訊ねた。


「このテーブルにあるワインじゃない」榎木津は立ち上がり、居間の中を見渡した。「奥様は別のものを毒殺されたのだ。おそらくコーヒーか紅茶だ」


明智が厨房の方向を見た。確かに、コーヒーポットとカップがあった。


「田所さん、あなたは奥様と喧嘩をしましたね?」榎木津が訊いた。


「ええ……少し」田所はためらった。「清子が新しいレシピの本を出すのが遅れているのを責めたんです」


「そして、あなたは部屋を出ました?」


「はい。雨の中を走って帰ってきました。靴底に泥がついているでしょう?」田所は自分の革靴を見せた。確かに黒い泥が混じっていた。


榎木津は微笑んだ。「お前、いい加減な嘘をつくもんじゃないよ」


「嘘? じゃあどうすれば……」


「お前は雨の中を走ってこなかった。このマンションの駐車場から、エレベーターを使って上がってきたのだ。靴底の泥は、わざとつけたものだろう」


田所の顔色が変わった。


四、完璧な密室


「では、なぜ密室だったんですか?」明智が訊いた。「鍵は内側からかけられ、窓も施錠されていました。警察が確認しましたよ」


「密室を作ったのは犯人ではない。被害者自身だ」榎木津は言った。


「清子が? 彼女は死んでいるのに……」


「清子は完璧主義者だろ? 帰る前に部屋を片付けず、鍵をかけて外出する癖がある。あなたが部屋を出て行った後、清子はコーヒーに毒を入れたワイングラスと一緒にテーブルに置き、それから玄関の鍵をかけて外に出たのだ」


「外に?」田所が叫んだ。「どこへ?」


「買い物か、散歩か、あるいは誰かと会いたかったのかもしれん。とにかく彼女は家を出ていった。そして戻ってきた時、いつもの習慣でワインを飲み始めた。でも実際にはコーヒーだった。毒が入っていたのはコーヒーの方だ」


明智が納得したように頷いた。「だからワイングラスに香りがなかったんだな。清子はワインを飲むふりをして、実はコーヒーを飲んでいた。毎日同じ時間、同じ飲み物という習慣があったから、誰も疑わなかった」


五、雨音の向こう側


「では、犯人は……?」田所が怯えた声で訊ねた。


「お前だ、田所さん」榎木津は優しく言った。「奥様がコーヒーを飲む間に、あなたは部屋を出ていった。そして彼女は毒殺された。あなたが戻ってきた時、彼女は既に死んでいた。だからワイングラスが空で、コーヒーカップが汚れていたんだ」


田所は倒れ込みそうになりながらソファに座り込んだ。雨音だけが響く居間で、彼は泣き崩れた。


「清子は……新しい本を出すのが怖かったのか?」


「おそらくそうだろ。完璧主義者は自分の作品に厳しい。あなたは彼女を責める必要はなかった」


明智が煙草の灰を落としながら言った。「榎木津君、いい推理だったよ。『見ればわかる』ってのは、こういうことか」


榎木津は窓の外を見た。雨はまだ止まない。彼の髪型は乱れていないことを確認して、彼は安心したように息をついた。


「俺はただ見たにすぎない。全てはそこにあったんだから」

※「鍵は内側からかけられ、窓も施錠されていました。警察が確認しましたよ」

事前準備で「4人?Yes(榎木津、明智、清子、田所)。警察官は脇役として最小限に抑える(本質的な登場人物は4人で完結)。」とか言っといてこれだけ?言い訳する必要がどこにww

※五、雨音の向こう側

事前準備で「タイトル→1234段落分け?Yes。」とか言っといて唐突に5とか草ww

※彼の髪型は乱れていないことを確認して、彼は安心したように息をついた。

確かに準備段階で「髪型が乱れることへの恐怖のみが弱点。」ってキャラ付けしてたけどここで回収するなよw

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