雲フェチの女の告白
女の私がそんな概念の存在に気づいたのは高1の春だった。学校の倫理の授業で先生がフェティシズムについて話し始めたのだ。
衝撃だった。世界の見え方がこれまでと完全に変わる感覚だった。頭で理解できない身体的感覚のカーテンが、黒板に書かれた人物の理論によって開かれたのだ。
私の雲に対する興味がいつから始まったのかは忘れてしまったが、気づけば雲を眺めながら、身体が良からぬ反応を示すようになっていた。
元々そういう下世話な話題に対して抵抗があっただけに、誰かに自分の体験を話すことはできなかった。無意識のうちにそういう話題は汚れたものとして避けるようになっていた。
親や教師に言われたわけでもなかった。ただ、周りとの普段の会話の中で、自然とデリカシーのラインが引かれていき、動かせないものになっていた。
私が雲に対する興味の異常性に周りが気づけば孤立し、退学しなければならないのではないか。そんなバカげたことも考えたりした。
祭りの日には、綿あめにも雲の姿を重ねることは少なくなかった。白い綿の中に顔を埋めてみたりもした。口の中で弱々しく萎んでいく甘い塊から生命の儚さを感じ取ったりもした。
大学生になると、写真サークルに入り雲の写真を撮るのが趣味になっていた。友達から自分の写真を褒められる度に、自分の笑顔が強張るのを感じた。
いつしか彼氏ができていた。ベッドの上では、綿あめが苦く感じた。
あるデートの最中のことだった
「そういえば、私、秘密にしていたことがあるんだけど、雲フェチっぽいんだよね」
「えー、なにそれ?」
よく分かっていないようだった。
タピオカジュースにささったストローを口元に近づけながら会話を続けた。
「なんか雲を見るとテンションが上がる感じかなぁ」
「雲が好きなのは前から知ってるけど」
「うん……そうだよね」
「まぁ、でもそれをいうなら自分も雲好きかも。プロフィール写真とか美咲の撮った雲の写真を使ってるし。」
タピオカを口の中で転がしながら、ゆっくりと口を開ける。
「なんかぁ……そういう好きよりぃ……もっと興奮する感じのぉ」
とっさに口の前に手をやり、ジュースが口の中からこぼれ落ちるのを防ごうとする。
タピオカを喉の奥に流し込む。
彼は小さく笑いながら、何だそれ、と言葉を吐き出した。
「え、ごめん、よく分からん」私の目を歪んだ笑顔で見つめてきた。
「うーん、例えばなんだけど、やってる時に雲の写真をみると少しボルテージが上がるんだよね」
「なんだよそれ、フェチっていうか変態じゃねぇか」
腹の奥がキュッとなるのが分かった。
彼は笑いながら言葉を続けた。
「どういうこと? 雲のどこに興奮すんの? 形? 質感?」
手の指を擦り合わせて緊張を誤魔化しながら、半笑いで話を続けた。
「質感かなぁ……あの、フワフワした感じが結構、いやマジなんだって」
深刻な感じを出さないように、爆笑してみる。
「えー、じゃあ俺も今度やってみようかな。」
少しの沈黙が流れる。
「いや、絶対AVでも流したほうが興奮するかな」
「それも変態じゃん」
「それはそう」
手に持っていたジュースの容器をテーブルの上にそっと置いた。その後しばらく猥談を続けたが、人それぞれということで話をきり上げた。
理解してもらおうとは思っていなかったけど、大切な人への隠し事から解放されたようで少し気持ちが軽くなった。それと同時に、半分笑い話で流さないといけない寂しさが胸に広がった。
きっとこんな話、他の人にはできないな。人との繋がりにどこか物足りなさを感じながら、静かにカフェの外を行き交う人達をじっと眺めていた。
みんなは何フェチかな?(。•̀ᴗ-)✧




