ローズマリーのバーム
「こんにちは…。」
画家が店の扉を開けると、エルフはゆっくりと床を箒ではいていた。
「おや、いらっしゃい。」
ぺこりと画家は頭を下げて店に入る。
友人に引っ越した町の事を話した時に、エルフの店のことも教えてもらった。
少女のようなエルフがお店をやっていること。
そのエルフはとんでもない長生きで、町の人からはおばあさんと呼ばれていること。
前回偶然訪れた時には店内を見ることができなかったので、今回はしっかり買い物をするつもりで来店した。
棚や机には町であまり見かけない品もある。
庭で採れる薬草を使った薬や乾燥したハーブ、花の種や手作りのお菓子、家に飾るちょっとした小物。
食べるのは好きだけど、それ以外はあんまりよくわからないな…。
なんとなく棚を眺めながら思う。
借りている部屋の近くにパン屋があり、最近はそこのパンをよく食べている。
せっかくなら合いそうなジャムを買おうかなと考えていると、ある小瓶が目に入った。
瓶の中には薄緑色のこっくりと白濁したクリームのようなものが入っている。
食べ物とは別の棚に置いてあるため、違う用途で使うようだ。
近寄って札を見ると、「バーム」と書かれていた。
確か母親が使っていたのを見たことがある。
保湿のために手に塗っていて、独特な香りがしていたような。
「それはね、ローズマリーのバームだよ。庭で摘んだ葉をオイルに漬けて、出来たオイルを蜜蝋で固めたんだ。」
エルフがのんびり床掃除を続けながら教えてくれる。
「ローズマリーですか?」
「いい香りだよ。手に塗ってもいいし、髪の毛に塗っても艷を与えてくれるしまとまりも良くなるんだよ。」
うんうんとひとり頷きながらエルフはゴミを部屋の端に集めている。
「ああ、ローズマリーはちなみにこんな匂いだね。」
思い出したように薬草棚の引出しを開けて、乾燥したローズマリーを一本差し出してくれた。
手に取ってかいでみる。青々としてすっきりとした香りの中に懐かしい雰囲気を感じて、思わず深呼吸してしまう。
「この草っぽい香りがクセになるんだよねえ。」
「なんかちょっとわかります。」
二人で一緒にローズマリーの匂いをくんくん嗅いでしまう。
日常でこの香りを使えたらなんかいいかも。
絵を描く時にベタつくのが苦手であまり手になにかを塗ったことはないが、髪の毛に塗ってもいいなら自分でも使えるかも。
「このバーム買います。あ、あとパンに塗るジャムも…!」
急にジャムのことを思い出して告げると、エルフはにっこりと笑った。
「はいよ。ジャムは何にする?」
バームとジャムの小瓶を抱えて店を出る。
ジャムも色が綺麗なフルーツがたっぷり使われていて、パンにつけて食べるのが楽しみだ。
庭を歩くと、緑の香りが地面から立ち上ってくる。
すぅっと息を吸い込むと、身体の中に緑が通り過ぎるようなイメージが湧いてきた。
帰ったらシャワーを浴びて、髪の毛にバームを塗ってみよう。
パサパサした毛先がまとまると嬉しいな。と思いながら少しうきうきして帰り道を歩いた。




