彼女はメンヘラ2
翌日、僕は大学に向かう準備を整えていた
朝を起きてまずシャワーを浴びる中学生から続けている習慣だ
浴室に向かおうと思った矢先
ブーン
携帯が鳴っている
「おはよう、昨日の電話楽しかったね。あたしはお仕事行くけど君は大学でしょ?頑張ってね!」
嬉しさ50%、困惑25%、怖さ25%
「はい、お仕事頑張ってください。」
携帯を部屋のベッドに置いたまま浴室に向かった
シャワーを浴びている最中に色んなことを想像してしまった
彼女は一体何が目的なんだろう
どうして昨日の電話であんなことを言ったんだろう
シャワーを浴び終えて体を拭いても昨日話した内容がこびりついてはなれない。まったく面倒な性格だな、僕は本当に。
部屋に戻ってベットの上に置いてあった携帯が鳴っている
「着信履歴3件」
?????
「新規メール15件」
?????
すべて彼女からだった
シャワーなんてものの10分ぐらいだったと思うけどその短期間にこれだけの着信履歴とメールが届いてることに恐怖を覚えた
一番上のメールを開くと
「死にたい」
うへ・・・マジかよ。朝からとんでもないもの見てしまった。
そこから4件ぐらいはほとんど似たような内容で6件目は
「どうして返事してくれないの」
そりゃあ無理でしょうよ、さっきまでシャワー浴びてたのよ。連絡できない時だってあるだろうに。ちょっと考えればわかるだろクソバカタコ
7件目は
「あたしの事好き?」
これぐらいの内容で留めておいてくれたらこちらはこんな気分にならなかったのに僕は顔をしかめる。
彼女が送った最初のメールは
「今なにしてるの?」
メリーさんじゃん
怖いよ、見る順番間違えたわ
1件目から見たらまだ怖くなかったのに「死にたい」から見たから正直めちゃくちゃ怖いよ
とりあえず放置はまずいので
「すいません、シャワー浴びてました。えっと多分あなたの事好きだと思います。死にたいなんて言わないでください」
これがまずかった。言いたいことをまとめて送るのは本当によくなかった
「はぁ?多分て何?不安になるんだけど?」
「あとアタシ日常的に死にたいっていうから挨拶みたいなものだし、気にしないで!」
何それ?「死にたい」って言葉を挨拶として使う人なんてこの世にいるの?
画面を見ながら徐々に自分の顔が険しくなっていくのがわかった
なんて面倒な女なんだ、こいつ
こういうことがこれから続くと思うと憂鬱だ
そう思った瞬間メールが届いた
「面倒な女でゴメンね」
わかってるやん、自分
そうよ、あなたは面倒な女よ
それを分かった上でこういったメールを送っちゃうのね
どうかしてるぜ、マジで
「全然そんなことないですよ」
嘘八百を書いたメールを送る
虎穴に入らずんば虎児を得ず
偉人は偉大だと再確認してしまう
セックスしたければこのような女でも我慢しなければならない
「ありがと♡」
こんなテキスト何の意味もないのにちょっと嬉しくなっている自分もどうかしている
大学の授業が始まってから終わるまでは平穏な時間がすぎていた
彼女のことを考えなければ講義はただ退屈だった
「よう」
大学の男友達の森山から話しかけられた
「どう、調子は?」
「いや、ちょっとヤバい人と連絡を取ることになっちゃった」
僕はポッケから携帯電話を取り出し彼女とのやり取りを森山に見せた
「はははは!!!!!まぁよくこういう奴はいるよ。俺の昔の彼女もこんな感じだった」
「まじかよ・・・」僕はため息交じりにそう答えた
「この女はいくつなの?」
「・・・26」
ちょっと躊躇しながらボクは答えた
「26!?まじかよ10代でもないのにこんなメンヘラなことある?その人ヤバイ人なんじゃない?」
僕は君に完全に同意するよ
「でも、こういうのも経験でしょ!」
森山に明るく言われたが僕の不安は消えなかった
今日の講義がすべて終わり帰路に向かう途中で彼女から着信がなった
「もしもし!ちょっと大変なんだけど!」
彼女はちょっと怒ったようなトーンでしゃべり始めた
「昨日話した男の子に君の事話したらめちゃくちゃ引かれたんだけど」
そりゃそうだろうよ、やっぱ馬鹿だコイツ
「新しい男友達できたんだ~♪なんて明るくしゃべってたら急に暗くなちゃって”もう連絡とらない!”って言われちゃった」
ブラザー恐らく僕が次の君になるよ
「せっかくセックスしてやったのになんだよあいつ!」
はぁ?お前昨日勃たなかったって言ってたじゃねーかよ
支離滅裂だぞ。
「こんなことになるならセックスしなきゃよかった」
そう彼女は言った
多分、相手のほうがそう思ってるよなと僕は空を見上げた
「ふーん、まぁいいもん新しい親友ができたし」
誰ですかそれは
「今日も電話しようね」
うげぇ・・・・・・やだなぁ・・・
憂鬱な気持ちのまま駅についてしまった
実家の自宅まで歩きながらまた彼女ことを考え始めていた
そして気づいてしまった
既に一日中彼女のことを考えていること
これが彼女のやり方なのだと
馬鹿にして嘲り笑って見下していた彼女のことが頭にこびり付いて離れない。時すでに遅し、僕は彼女のことを好きになっていた。
家について胸が苦しかった。動悸が続いて心拍数が早いのが分かる。
気にしないようにすればするほど彼女のことが気になってしまう。
「元気?」
帰宅して最初に彼女から届いたメールについ嬉しい気持ちを抱いてしまった
「元気ですよ!」
「やった!じゃあ今日は電話でいっぱい喋ろうね!」
嬉しさ5割、困惑5割
「うん・・・」
どうして僕はこんな面倒な女を引いてしまったんだろう
僕はただセックスがしたかっただけなのにセックスするまでこんな労力使う必要があるのか・・・。
頭がぐるぐる回る
実家で出されて夕食を食べながら彼女から来るメールに返信をする
心なしか母からの視線を感じる
こういう時女性は異常に鋭い、恐らく女とメールしていることはバレている
気づかないフリしているだけまだましだ
彼女とは22時から1時間電話しようと決めた
本当に1時間で終わるのかしらと思いながら不安になったがまぁ大丈夫だろうと僕はタカをくくっていた
22時になって彼女からの着信
「やほー元気?」
彼女は嬉しそうにしゃべりだした
SNSで知り合ってから2日しかたってないのにこの距離の詰め方はすごいなと感心してしまった。陰キャの僕には到底真似できない代物だ。誰にでも一つや二つ特技はあるものなと上から目線で思ってしまった。
「元気ですよ」
僕は明るくも暗くもないトーンで答えた
「いいじゃん、いいじゃん!」
「ねぇねぇXXXXってバンド知ってる?めちゃくちゃ良い曲いっぱいあるから聞いてみて」
そういえば彼女が音楽好きなのを忘れていた
1日で大量の情報を得てしまって基本的なことがすっぽぬけてしまっていた
「聞いてみます。」
僕は先ほどと同じようなトーンで返事をした
「XXXXのヴォーカルって超かっこいいし、歌もうまいし詩も良いんだよね~」
「はぁ抱かれたい!」
こいつ抱かれることしか頭にないのかよ
「ボクは最近YYYYにハマってます。ヴォーカルの女性も可愛くてよいんですよね」
彼女は食い気味にこう言った
「アタシと喋っているときに他の女の話はするな!!!!!!!!」
ものすごい怒声が僕の耳に突き刺さる
「でも、あなたもXXXXのヴォーカルに抱かれたいって言ってましたよね?」
僕は冷静に言ったつもりだった
「アタシはいいの!ア・タ・シは!あんたはダメ!」
なんでだよ、めちゃくちゃ不平等条約じゃん
「あんたはアタシのこと好きなんだからアタシの事だけ考えていればいいの!だから今後一切他の女の話はしないこと!わかった!?」
無理難題
「わかりました・・・」
圧倒されて僕はこう答えるので精いっぱいだった
「わかればよろしい」
彼女は落ち着きを取り戻した
気づけばもう23時だ
僕は彼女にこう言った
「もう23時になりましたね。ちょうど1時間キリがいいので終わりにしましょうか」
「はぁ、もうアタシとは電話したくないってこと?」
すこし怒りが滲み出てますよお姉さん
「そんなことありません、もう少し話しましょう」
こいつまた嘘ついてやがる
「うんうん」
彼女は小さな女の子のように喜んだ
「君は頭良いよね、あたしなんて中卒いや小卒だからさ」
は?
「小学校も途中で行かなくなってずっと家で引きこもってたの。だから掛け算も割り算もできないの」
彼女は少し寂しそうなトーンでしゃべり続けた
「アタシ馬鹿だからすぐに男に股開いちゃうし、すぐにわがままになっちゃう。本当にゴメンね」
なんで大したこといってないのにこの女の言葉が僕の心に響くのか不思議でしょうがなかった。僕のほうが年齢が下なのに守ってあげたいと思ってしまった。これでは先人達の二の舞だと思ったが思っただけで終わってしまった。
「そうですか、でも今は高卒認定とかありますしね」
うげ、まずい一言を言ってしまった
「アタシに学校行けってこと?ふざけんな!アタシは学校なんて大嫌い!!!
この女も馬鹿だが僕も相当馬鹿だ
「学校ではいじめられたし、良い思い出なんて一つもない!嫌な思い出思い出させやがって」
ちょっとの間が空いて彼女は泣き始めた
「アタシ・・・なにもないのよ。男に体預けるぐらいしか能がない馬鹿な女」
ちょっと感傷に浸るのやめてもらいたいな。そしてどうせなら傷口が浅いうちに僕の事見限って欲しい。
「君はアタシの事どう思ってる?」
さっきも聞いたぞクソアマ
「好きです、付き合いたいです」
何を言ってるのよ僕は
「うん、付き合おう!」
彼女にそう言われてドキッとしてしまった自分を呪いたい
気づけば朝4時になっていた
「眠くなったから寝るねー」
彼女は明るく答えて通話を終えた
僕は外の暗さを確認してベッドにダイブした
寝れるわけない。これから大学に行くんだぞ、しんどい。
どうしようこんな生活続けたくない
辛い
僕のほうにもメンヘラが移り始めていることにこの時は気づかなかった