彼女はメンヘラ1
七歳年上のメンヘラ女性と出会った話
初めてセックスしたのは19の冬。相手は7歳年上の女だった。19の頃の僕の性欲は異常なほど強くとにかく女を抱きたいという欲求にあふれていた。その原動力は凄まじくSNSで手当たりしだい声をかけていた。
といっても話す話題がないと困るので共通の趣味がある人に絞っていた。時にはブロックされ、時には顔や性格を嘲笑されてへこんだり、時にはリストカットの画像を送られたりと様々なことがあったがこれは”セックスのためだ”と自分に言い聞かせなんとかメンタルを保っていた。
そしてたまたま好きなバンドが同じ女性と知り合うことになった。何度かメッセージを交換するうちに様々な情報を得ることができた。彼女は26歳で関西に住み、様々なバンドの追っかけをするのが趣味で働いた給料のほとんどをバンドのチケットやライブを見るための交通費、グッズなどに注いでいるようだった。
さらにメッセージを交換すると彼女から「顔写真が見たい」ということを言われた。顔写真・・・この世の中で一番人に見せたくないものだ・・・。僕の顔は正直言って35点くらいで性格にも難あり、知力も体力もない。誇れる点がまるでない典型的底辺ボーイ。「自分の醜い顔を送ったら嫌われちゃうんじゃないだろうか・・・」そういう考えが頭をよぎり、しばし考えたがやはりこれは”セックスのため”だ。
考えてもしょうがないので洗面所の鏡の前できるだけ撮影してその中から厳選した1枚を送った。恐らく50点ぐらいには見えるだろう。震える手で送信ボタンを押した。数分後彼女からメッセージが届いた。
「かわいい」
神はここにいた。天にも昇るほどうれしく心どころか現実でもガッツポーズしそうになった。
ただ”カッコいい”じゃないのが若干気にはなったが褒められているので良しとしよう。
「え・・・本当ですか?」
不安で確認メールを送るところがモテない男丸出しだが許せ。
「うん、可愛いし好みの顔だよ」
二度目の味を噛みしめながら不意に「こんなテキストメッセージで何浮かれてるんだ」というもう一人の自分の声が聞こえたが、無視した。
「あたしの顔写真も送るね」
彼女から送られた画像付きのメッセージを開くと僕には似つかわしくないほどかわいい女性が載せられていた。
可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い!!!!!抱きたい抱きたい抱きたい抱きたい抱きたい!!!!!チューしたいチューしたいチューしたいチューしたい。
うーん、自分でも気持ち悪いがそう思ったんだからしかたない。
彼女は小柄な熊田曜子のような見た目でギャルのような雰囲気が漂っていた。こんな女性に僕は可愛いと思ってもらえたのかと自己肯定感がその瞬間だけ以上に高くなった。
しかし、ここは冷静にメッセージを返しておこう。”冷静、冷静、冷静”
「とてもおキレイですね」
考えに考えた結果シンプルな言葉しか思いつかなかった
「そんなことないよ~」
でた、美人が良く言う謙遜だ
言われ慣れているんだろうな、そういったことは
多分、この人は自分が不細工だなんて思ったこともないんだろうな
次の瞬間先ほどまでボクが持っていた自己肯定感は消え失せて波のような自己否定がはじまってしまった。
僕の自己満足型自己否定中に彼女からメッセージが連続して届いた。
「今度の12月東京に行くんだ。よかったら会わない?」
早いって、さすがに。
これはさすがに嘘だろう。そんなに素性も知らない相手にそんなこと言える?僕は言えない。でも、彼女は僕じゃないしなと思いすぐに切り替えて
「会いましょう!」
こういうのは早いほうが良い。
「じゃあ今から電話しよう!」そのメッセージを僕は二度見した。
早いって、童貞にその速度は。ついていけないよ。元陸上部だけど、中長距離だけど。
「電話しましょう!」
ペースは完全に彼女が握っている。僕は彼女の手のひらで転がされている。
「電話番号は080・・・」彼女の電話番号が記載されたメッセージが届く。
これ、電話していいのか?もしかしたら怖いお兄さんとか出てこない?夢、幻?どっきりの類?そういうワードが頭を駆け抜けていく。
恐る恐る電話番号を入力して「発信」ボタンを押した。
「もしもし~?」
僕の第一声は恐らく震えていた
「もしもし、君声かっこいいね」
マジかよ・・・そう唯一声だけは結構褒められたことがある
本当に数少ない僕の長所
「あっ・・・ありがとうございます」
「ふふふ、反応可愛いね」
「いや~・・・」
自分の会話を止める能力の高さが憎い
「12月に夜行バスで関西から向かうんだけど新宿のバスターミナルに来れる?」
どうやら彼女は節約のために関西から夜行バスを使って東京に来るようだ。
「もちろん行けます、絶対行きます!」
「ふふふ、本当に?絶対来てよね!」
僕は気持ち悪いぐらいニンマリしていた女性と話せること、会えること、もしかしたらセックスできるかもしれないという予感。
幸福、幸せ、充足感
そういう気持ちのまま話し続けていたら突然
「あたし今言い寄られている男が2人いるんだよね」
はっ?何言ってんだコイツ
「一人はストーカーみたいな奴で、もう一人は大学生。そうそうちょうど君ぐらいの年だよ」
急に胸当たりが息苦しくなって、呼吸がしづらくなってきた。
「そうなんですか」
ひねり出した結果がこの言葉だった
「その大学生ね、あたしの事あまりにも好きっていうし毎日電話とメールしてるんだ。なんかかわいそうだから会ったときにセックスしようとしたんだけど相手が勃たなかったんだよね。」
これ以上僕を傷つけるのはやめてくれ
「キスはしたんですか?」
あたりまえだろ馬鹿!何聞いてんだよ!童貞丸出しじゃねーか!
「そうりゃそうでしょ(笑)」
彼女はちょっと馬鹿にしたような感じで笑った
「そうですよね・・・」
「でもその男の子、”君のことは大切にしたいって”言ってくれてうれしかったな」
何これ、とどめ?僕を精神的に殺そうとしている?
「それは素敵なことですね」
機械みたいなセリフが自分の口から出てきた
「うん、親友なんだ」
と彼女が言った言葉に違和感を覚えた。
親友とセックスしようと思うことある?
この人の”親友”の定義ってそういうもの?親友なら性別関係なくセックスするの?頭の中で言葉が再びかけめぐる。
「君とも親友になれるかな?」
どういう意味だよ、おい
それってどういう意味なんだよ
セックスできるってこと?いや僕の目的はそうだけどいざ言われるとなんだか困惑しちゃうわ。
「なれるといいですね・・・」
「うん!」
彼女は幼い少女のような口ぶりで返事をした。
そして「じゃあまた明日電話しよう!」という言葉が続いた
また明日?また明日もこんな電話するの?コイツとセックスしたいけどこんな内容の話をまた聞かされると思うと憂鬱だ。
「はい、ぜひ電話しましょう」
気持ちとは裏腹に明るい言葉で返事をしてしまったことを後々後悔することになる。
そう、彼女はメンヘラだった。