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第2話

「あ、あの〜杏葉さん?適性検査って言われましたけど僕なんの事だか…」

「舞子ちゃんでいいヨっ!まぁ、そりゃ知らんわナ!いいよいいよ、目的地に着くまで説明してあげる」

部屋を一歩出るとそこは赤い絨毯の置かれた広い廊下であった。ツカツカと先頭を歩いていく舞子に置いてかれまいと流星はついていくがその目は廊下の左右を忙しなく眺めている。

赤い絨毯の廊下の壁にはまるで学校の校長室にある歴代の校長先生の写真の様に歴代の犯罪者の写真が飾られており、思わずドキリとしてしまう。もしかしたらこの中に菖蒲春の…前世の自分の写真もあるかも知れないが、流星は今の今まで自分から菖蒲春について調べたことはないのでその顔すら知りやしない。凶悪犯、菖蒲春についての特集は数年に一度テレビで特集をされることもあるが、それを見たこともない…最も、番組のためにとテレビ局の人間が流星の元を訪れた事があるのでそういう番組がある、という記憶だけは嫌に残っているが。


だから菖蒲春の写真が合ったとてきっと気づくことはないだろう。

「説明がまだだったネ」

写真に気を取られている流星を見て、舞子はクスッと笑うと徐にそう語り始める。

流星の瞳は、その言葉を合図に写真から目の前の女、舞子へと移動する。


「まずここはプリビアス本部。いいとこだろ?

ここで隊員…と言ってもアタシ含め4人しかまだいないけどネ。ともかく、隊員たちは前世に起きた事件と今世で起きた事件について調べ、必要に応じて犯人の検挙を行うってワケ。

んで今から行う適性検査ってのはまぁ、現場で役に立つか否かを調べる真剣なんだけど…ほぉら検査会場に着いたヨ」


思ったより大した説明もなく検査会場、とやらに着いてしまった。舞子へと向けられていた流星の瞳が検査会場とやらに続く部屋の扉へと向けられる。

そして流星は思わずその扉の大きさに感嘆の声を上げる。

高さ3〜4メートルはある、大きな扉である。

赤い絨毯とマッチするかのような金色の取手はきらりと部屋の光を反射しダイヤモンドのように輝いている。

扉全体は布地のようにさらりとした手触りであるものの重厚感や高級感は一押しである。


「ここから先はアタシは入れないんでネ!

…健闘を祈るよ。あとコレ、検査に必要なやつ。

無くしちゃダメだヨ」


死にたくないならネ


扉を前に目を見開き、思わず口を開けていた流星だったが、舞子のその言葉に思わず向き直る。気づけば舞子は忽然とその場から消えており、その場には流星ただ1人であった。

まるで最初からそこに、杏葉舞子という人物などいなかったとでもいうほどあたりはシンッと鎮まり、扉だけが流星を品定めするように見下ろしているのである。


「…死にたくないなら?」

とてつもなく嫌な言葉だ。

それではまるで、この扉を潜れば命の保障はできないと告げるようなものではないか。

思わず身震いをした流星はその時になってようやく、自身の右腕につけられた何かに気づいた。

はてと腕を見ると、それは腕章であった。

「これ…舞子ちゃんがつけてたのと一緒?」

腕章にはカタカナで大きく「プリビアス」と刻印されている。

文字色は扉と同じ金色、腕章自体は紺色に白のラインが入っているもので、文字を除けば特段変わりのないものである。

数刻前まで舞子には手錠をつけられていた。先ほどまでは椅子に縛られていた。

そして今は、腕章が流星の腕に巻かれている。


まるで今日はずっと舞子に縛られている…もしくは舞子に首輪をつけられている気分である。


流星は何も言わず、そっと右腕から目を離し目の前の大きな扉へと向き直る。

舞子の先ほどの言葉が繁茂するが、ふぅっと小さく息を吐き流星はそっと軽く扉に指先を触れる。


するとその一瞬の接触に反応して扉が勢いよく開かれる。

もっと力を入れなければ開かないものかと…いや、入れたとてこんな大きな扉は開けられないかもしれないという流星の不安は要らぬ心配であったようだ。


流星は一歩、そしてまた一歩と扉の中へ入っていった。

中に入ると、そこはコロシアムの様な場所であった。

会場内は至って普通の会場だが、その中心が円状の舞台のようなものになっていた。円は会場から独立しており、円に向かうには鉄格子のような網目の道を通るしかなかった。

一歩と踏み出すと、鉄格子のガシャン、ガシャンという音だけが会場内に響いた。

網目の隙間から下を覗くと結構な高さがあり、わずかながら水が張ってあることだけは読み取れた。

ただ、それだけだった。

そこまで距離はないはずだが、流星の歩幅がいつもよりずっと狭いからか思ったよりもつくまでに時間がかかった気がする。

実際に円状の広いそこについて流星が感じたのは本当にここで死んでしまうかも、ということであった。

先ほどまでの鉄格子の道とは違い石で作られたそこは妙に使い古された形跡が残っており、外観からコロシアムのようなものを感じる。

昔ここでローマの戦士が闘い死んだのだと言われれば、流星は疑うことなく信じるだろう。

それだけの説得力がある場所だった。

そして、同じくらい、その戦士と同じように流星が死ぬんだよと言われれば確かにな、と納得してしまう程には、人が死ぬのにぴったりの場所だと感じた。


流星がマイナスな思考に支配されていると先ほどまで円状の舞台と会場を繋いでいた鉄格子が大きな音を立ててゆっくりと持ち上がっていく。

流星が目を奪われている間に鉄格子は完全に壁へと戻り、円状の舞台は孤立した場所となった。

これは参ったなと出口を探そうと少し視線を上に向けると遠く離れた会場の上の壁がガラスになっており、そこには数人の人がいるのが窺える。

というより、別室にて流星を見ている、というのが正しいだろう。

そうだった、これは適性検査だった。

検査と名がつくのだからそりゃあ監視員だっている筈だ。

そして恐らくだがあの場所に杏葉舞子もいるであろう。

【それでは、適性検査を始めます。】

その一点をじっと見つめていた流星の耳に無機質な機械音声が届く。

ふぅっと。またもう一度小さく流星は息を吐く。

怖くない、不安じゃないといえば嘘になるが、これは流星の人生を変えるためのまだ始まりですらない。

歩き出さなきゃ流星の明日は始まらないのだ。

ギシギシ、と、頭上から音がする。

流星は覚悟を決めキッと上を睨みつけ、そして絶望した。

天井にはいつの間にか穴が空いており、その穴から鎖に繋がれた檻がゆっくりと下降している。

その檻の中には人が1人だけ入っていたがその容姿と体格に流星は思わず生唾を飲み込む。

檻の中にいるため正確にはわからないがとても大柄な男であった。190センチとか200センチとかそういう規模ではない。

先ほどの扉と同じような3メートル、4メートルの規模である。

そして特出すべきはその服装。

お世辞にもその巨体にあってるとは言いずらいレディースデザインの服を着ていたのである。

それもノースリーブにミニスカワンピというだいぶイケイケな女性スタイル。

髪も長く金髪に染められており、足は真っ赤なハイヒールを履いている。

だがそのノースリーブから剥き出しになった二の腕は丸太より大きく、筋が立った腕や足から男が日頃どれだけ鍛えているかが読み取れる。

「デっ…」

デッカ…と呟く間もなく檻は流星と同じ円状の場所…コロシアムのようなその闘技場へと着地した。

ドシンッと大きな音と煙を立てて檻が到着すると扉の開閉音がした。

来る。そう流星が思った瞬間であった。

ほんの一瞬。

瞬き一回分のたった一瞬で男は檻から抜け出し、流星の眼の前までやってきたかと思う、その拳を振り上げ流星へと叩きつけた。

横殴りで降ろされた拳はそのまま流星に当たり、その威力で流星は吹っ飛ばされる。

闘技場のすんでのところでなんとか止まった流星であったが耳元からは先ほどの威力で欠けたであろう、床の石が下の水に落ちる音が聞こえる。

その音の小ささからやはりここが相当高い位置に独立した場所であることが読み取れる。


(なん…いった…なんだ、これ)

横腹がどうしようもなく痛い。

一体何が起こったのだ?


「あーもー油断しちゃダメでしョ!ほら立って!立って!」

ガチャりと機械音がしたかと思うと、どこからか舞子の声が聞こえる。

流星が視線を先ほどのガラス窓に向けるとそのガラス窓が先ほどより変形してスピーカーのようなものが出ていることがわかった。

恐らくあのガラスの中と繋がっているのであろう。

流星の読み通りあの中に舞子はいるのだ。

勿論その声は男にも聞こえた様で、男は唸りながらまた瞬間に流星の元へ飛んでくるが間一髪、流星は横腹を抑えながら左へと避ける。

男の手は床を掠める大きな音を立てて床を削り取ってしまった。

ヒュッと喉がなる。

どう考えても普通の人間ではない。

どれほどの人であろうとあんな芸当は生身の人間にはできないはずだ。


どいうことですか⁉︎


流星はそう聞きたくて声を出そうとしたが先ほどの衝撃か、声を出そうとすると痛みもやってくる。

流星は仕方なく舞子へと目線で疑問を投げかける


これはなんですか。

この男はなんですか?


流星のその瞳を読み取ったのか舞子が答える。

心なしか、楽しそうな声で。

「…1987年、日本。1人の男が連続殺人の容疑で逮捕された。男の名は風間真。」

舞子の声が流れる間も、流星は目の前の男からの攻撃を避け続ける。

「風間は7人もの女性の命を奪い、その体の一部を持ち帰っていた。

事件の裁判が始まり風間は犯行の動機を『理想の女になりたかった』と答えた。

風間は所謂性同一性障害であり、女になりたいと心から思っていた。

だから彼は女になろうとした。

……猟奇的なやり方でね」

流星の口からは荒い息だけが溢れる。

「風間は道ゆく女性を観察し、女性たちの体のパーツで自分が女になるならと理想のパーツを探した。

そして彼のお眼鏡にかなった女性は殺され、そのパーツを奪われた。

あるものは足を…あるものは目を。

…風間は殺して奪ったパーツを自分に移植することで女になろうとしたのサ」

目の前の男はニタニタと下卑た笑みを浮かべる。

「…勿論風間は死刑。1995年、刑が執行された。


…今君の前にいるその男こそ…風間真だヨ。

正確には…風間の生まれ変わり、だネ」

流星は大きく目を見開く。


先ほどから聞いていた狂った男の話。

その男が、こいつだというのか?

いや、実際はそいつが生まれ変わった姿なので厳密には風間真本人とは違うと言えるのだが…


「これがプリビアスの仕事サ」

舞子は笑う。とても楽しそうに。

「前世報告書制度により、国民の前世が分かるこの時代。中には君の様に犯罪者の前世を持つものもいる訳だが、基本前世の行いが今世に何かしら影響する訳ではなイ。ただごく稀に…本当に稀に殺人衝動を今世にまで持ち込むバカ犯罪者がいたりするもんサ。そういう奴は今世と前世と狭間で苦しみ…争う次第に今世の自分は欲に負け前世の自分と交わり…一つになる。完全に一つとなるとそれは時代を超越した衝動となり…常識では考えられない力を持つ。

我々プリビアスはそういう常識では捕まえられない犯罪者と戦い逮捕、収容するのが仕事ってワケ!」

「…っ話っ…長いっ…もっと分かりやすく…」

必死に攻撃を避け続ける流星はやっとの事で声を絞り出す。そんな流星の様子を舞子はケタケタと笑いながら告げる。

「…プリビアスに入隊したら前世を思い出し、前世のまま力を振るう犯罪者と戦わねばならなイ。

君にそれができるのか。

うちは、実践方式の適性検査を行っているんだヨ」



死ぬなよ〜!と舞子は笑う。

流星に地獄の道を突きつけて。

流星は荒い息を繰り返し男を見る。

目はぐるっと白目を剥き、涎を垂らしこちらに向かってくる。


戦う?これと?

流星は絶望に瞳を翳らせた。

一体、どうやって倒せばいいと言うのだろうか?



流星の頭は、目の前の男への恐怖と焦りで一杯一杯であった。


本な様子を見て舞子は呟く

「武器を出しナ。

ヤツを倒すには武器がいル。ただの武器じゃない。

前世を断ち切る武器がネ」


さぁ、君は武器を出せるかナ?


舞子はケタケタと笑っていた。

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