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「それで依頼をこなせなかったと・・・此方も想定していた事ですが、気分は如何ですか?」

「はい。すみません。ちょっと辛いですが、何とか大丈夫です」

「こう言う事は言いたくありませんが、ギルドで働くのでしたら慣れておくべきですよ。

 街を出ますともっと酷い状態の代物をご覧になると思いますから」

「・・・そうですね。努力してみます」

「それでも、あまり無理はしないで下さいね?・・・流石にこれだけは精神的な問題ですし」


 受付の女性には申し訳ないが、流石に悪寒を感じるレベルの体験だったので当分は慣れそうもない。敵意を向けられれば、私も必死だからそこまで考える余裕はないのだが、ゴブリンの時を思うと申し訳ない事をしたと言う罪悪感がフツフツと沸いてくる。

 戦闘による単調作業と割り切っていた自分自身が恐ろしいくらいだ。


 本来はそんな事を考えている暇もないんだろうが、全くの無抵抗の相手の生殺与奪を握るとは自分自身が変貌さえしてしまいそうなので戦う事そのものにも抵抗感さえも感じてしまう。それだけ、今回の出来事は私にとって強烈なインパクトを与えたのであった。

 人間と呼ばれる生命は知能が高い筈だが、このような事を繰り返し行っていれば、自分達が生きる為とは言え、奪う命の重みを軽視してないかと気になってしまう。


 ──これは流石にヴォルス君達にでも相談した方が良いだろうか?


 とりあえず、今日は此処までにしてスミレちゃんの家へと向かう。

 スミレちゃんの家はギルドから離れた此処──ヴォルス君達はスラム街と呼んでいたっけな──にある廃墟となっている集合住宅に住んでいるらしい。

 お世辞にも衛生面で良いとは言えないのでスミレちゃんを連れて近場の宿屋へと一緒に泊まる。スミレちゃんを食堂へと連れていくとスミレちゃんは「いただきます」と手を合わせてから、パクパクとご飯を食べはじめる。料理に使われる肉料理などを思うと牛の事を思い出して直視が出来ない。


「・・・ネコちゃん。気分が悪いの?」

「え?あ、いや、そんな事は・・・ちょっと、あるけれども・・・」

 心配そうに此方を見るスミレちゃんには嘘を付けそうもないが、かと言って、そう言った話をスミレちゃんにするのは抵抗がある。


 さて、なんと返したものだろうか?


「・・・そういえば、スミレちゃんは『いただきます』って言っていたよね?

 あれって、どう言う意味があるの?」

「ん?えっとね、牛さんや豚さんの命を貰うからキチンと感謝する為にするの」


 意外なところで答えに近い言葉を貰った。まさか、そのような意味があるとは・・・命を貰うから「いただきます」か。

 スミレちゃんはキチンと礼儀を持って、食事をしているのだな。

 成る程。人は無作為に命を奪っている訳ではなく、そこにキチンとした理由があるんだな。

 半永久的に稼働出来る私にはない発想だ。


 人間はこのような事を幼少期から親となる人間から学ぶのであろうか・・・私達、メカニカルファクターにはない生命への感謝の在り方なのかも知れないな。


 そんな事を考えながら、少し気分が楽になる。

 人間が外敵以外の命を奪う在り方を少なからず理解出来た気がする。


「ごちそうさま」


 ある程度、食事を終えたスミレちゃんは手を合わせ、そう呟くと満足そうに笑う。

 命は巡り巡って明日への糧となり、明日の為にまた命が巡る。それが私達と異なる生物的な生命の在り方なのだろう。


 循環した生命は巡り巡って次へと紡がれる。そうやって、この惑星の生命体は進化と命のやり取りを繰り返して来たのかも知れない。

 そこに奪った生命への感謝があるだけ、私が思うよりも生命に関して重んじているのかも知れないな。


 スミレちゃんが就寝した後、私は再びはじまりの地を訪れた。

 ゴブリン達の死骸は既にないが、墓標くらいは作るべきだろう。私は簡素な墓標を作ると黙祷する。

 ゴブリンやドラゴンゾンビの生命を奪った事への懺悔をして私は元来た道を戻る。



 ──いまの私に出来るのはこれくらいだろう。

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