【荒天カルテット】
明るく鮮やかに彩る世界の片隅として存在し、薄暗い灰色の曇り空と荒廃し退廃的な光景と街並みが広がる、空気が冷たく静かな場所に。
リアル・シャインダークという無力な魔法使いの少女が人生に絶望と失望をして、自殺未遂や自傷行為を繰り返しながら、フラフラと生きていた。
――リアル・シャインダーク。
身長は162cm。黒く染まった、袖が長いパーカーワンピースと同じく黒く染まった生地の厚いタイツ、少し薄手の手袋を着用し、上からケープマントを重ねるように羽織って、メタリックに輝く独特の色をしたショートブーツを履き。前髪は目に覆い被さるほど伸び、後ろ髪は腰まで長く伸ばした青紫が入り混じった黒髪しており、生気の見えない虚ろでじっとりしたツリ目気味の青みのある黒い瞳を持つ。肌は温かさを感じられず蒼白とも思えるほど色素が薄く。手足は心配になるほど真っ直ぐに伸びたように細く長く、体型も低体重に見えるほどに華奢であり、また何処か弱々しく諦観したような、低く掠れた声質をしている。
魔法使いとしては、得意な魔法や術も無く。頭脳や知識も皆無に等しく。体力や魔力も虚しい程に無く。どんなに努力しようが、報われない。まさに無芸無能であるほど無力であり、どんな物事でも最下位に君臨しキープしてしまうくらい何の役にも立たない。魔法使いとして、全くもって向いていない。
いや、魔法使いだけではなく。普通に生きる上での能力も無と表せるほど能力が実らず、一欠片足りとも上達しない。 何をやってもダメになって沈み、何をしても無駄に散って終わり、普通に生きるだけでも支障が出るほど困難。
その上、友人や仲間は勿論の事。知り合いすら居らず、家族なんて誰一人もいない。 そもそも、見向きされることもない。勇気を出して声をかけても、振り向いてもらえることすらない。 仕事も能力が低いせいで、雇ってもらえることは少なく。日々、報酬が数百円の薬草取りのクエストを手作業で行いながら生活しているという、あまり恵まれていない人間である。
生まれ創られた時から、そんな日々を生きていくにつれて、性格は歪んでいき。
ネガティブかつひねくれた思考を持つようになり。気がつけば、心は崩壊し、死に縋り求めて、自殺未遂や自傷行為に走る日々。
だが、それを覆すように。ある日の事、ようやく、報われそうな小さい光を見つける。
死に縋り求めて何か方法は無いかと、人気のない寂れた図書館で本を読み漁っていた時。 偶然にも、奇跡的にも、どんなに能力が低い魔法使いでも、自身の血を使えば使い魔を生み出すことができると知り。 やり方をよく見て読んで、何時間もかけて頭に叩き込めば、すぐさま家へと帰って試してみることにして。
家に到着すれば、早速と台所に置いてあったナイフで腕を切り裂き、血を床へと流れるように出して、落とし。 乾く前に床へと落とした血で魔法陣を描き、描き終われば祈るように両手と指を重ね合わせて、目を瞑って、心と頭の中で使い魔の姿を想像しながら、強い想いと念を込める。
使い魔を生み出すことは。死に縋り求めていた彼女にとっては、実に魅力的な事で、方法であり。 唯一、自分にもできる事かつ最終手段として、心が躍ってしまうくらいに希望に満ち溢れ、安堵していた。 だから、使い魔を生み出すことを躊躇なくでき。上手くいったのかもしれない。
数分後、自身の血で描いた魔法陣が目を瞑っていても分かるほどに白く光り輝きながら消えた思えば。 今度は虹のように七色の光線が渦を巻いて、四体の使い魔らしき生き物を召喚し。 互いの目を開けさせる。
目を開けて映った四体の使い魔らしき生き物の姿は、彼女が想像していた姿にそっくりであり、ちゃんと生きていることから。上手くいったのだろう。
これには内心で歓喜し、多幸感に満ち溢れ。
これで、ようやく――と思い。早速、四体の使い魔らしき生き物に己の目的を果たす為に話しかける。 いや、話しかけようとしたのだが――、
「邪魔だ」
四体いるうちの一体に。
そう、一言、言われ。身体右半分を炎で焼かれ、道を開けるように蹴り飛ばされる。
蹴り飛ばされ、奥の壁へと頭を強く打ち。床へと叩きつけられ、衝撃で鋭い痛みが走り。 炎で焼かれた身体の右半分は高熱を帯びて、血を流しながら、爛れていく。
予想にもしていない行動に彼女は驚くも、これはこれでいいかもしれないと口角が上がる。 このまま、自分に向かって行動をしてくれれば。縋り求めていた事が叶うと。ようやく、報われると。 だから、続いて来る。もう二体の行動もすんなりと受け入れ、どんなに血と痛みを流しても笑顔でいることができた。
もう二体の魔法が合わさった砂嵐で、左半分は切り裂かれ、抉られて、血が下へと勢いよく流れ落ち。 意識が徐々に遠のいていくほど、身体はボロボロになっていき。 最後の一体が行動をすれば。全てが叶い、報われる寸前までに到達する。
いよいよ、叶う。報われる。
そう、心も、表面も歓喜と希望に満ちた色で。彼女、リアル・シャインダークは行動を待つ。 徐々に、こちらに近づいて来る。最後の一体の使い魔らしき生き物の行動を。
目の前までくれば、ゆっくりと慎重にこちらへと両手を伸ばしていき。
顎の下辺りに、ひんやりとした冷たく涼しい両手の先が当たり――、
「ああ、ようやく…、死が」
安堵と幸福に満ち、か細く掠れた声を出して、眠るように瞼を閉じる――いや、閉じようとした時のことだった。
「リアル様、死なないで」
寂しがるようにも、悲哀にも、愛にも満ちた表情と声音で。
――死んでほしくない、と想いを伝えられたのは。
まさかの想いに驚くも、突然として襲われた睡魔には勝てず。
何も感じ取れないほど、眠りへと落ちていく。
最後の一体の使い魔らしき生き物が想いの意図を確かめることが出来ずに。
深く、底の見えない、眠りへと。徐々に加速するように落ちていき、落ちていく、落ちて――、
―――
あれから、何時間ほど経過したのだろうか。
温かな空気に誘われて、眠りから覚めてみれば。薄暗い部屋は更にトーンが下がり、濃く暗い灰色に染まり。 いつの間にか、流れ落ちていた血は止まり、火傷や傷は何事もなかったように完治し、ベッドの上に寝ていて。 ベッドの隣には、心配そうな顔をしてこちらを見下ろす、最後の一体の使い魔らしき生き物が居た。
「大丈夫ですか?リアル様……」
こちらが目を覚ましたことに気づけば、優しい声音で安否を確認してくる。
この様子に。死んでほしくないと伝えたこと。火傷や傷が完治していた事といい。最後の一体は、行動は行動でも生かす方を選択したのは間違いないと、リアルは現状を改めて、理解する。
だが、間違いないとすれば、想いや念がこの一体だけに届かなかったことになる。
ようやく、叶い、報われると歓喜と希望に満ちていたのに。それを――、
「……いや、意図がどうであれ。私を想って助けてくれたことは事実。少なくとも。唯一、私を想ってくれた者だ。 助けてくれて、ありがとう。君が完治してくれたのかな? お陰様で、痛みや傷など何一つ残ってないし。体調も大丈夫だよ」
――責めることは、するべきではないと判断し。意図は分からないが。どうであれ、唯一、想って助けてくれた者である事実には変わりない。複雑な気持ちは心の奥底に閉まって、優しく微笑んで感謝の言葉を伝え、大丈夫だと安心させる。
リアルの言葉を聞いて、心配そうにしていた顔がパッと明るくなり、嬉しそうに声を上げ。
「そうですか!無事で何より!お役に立てて何よりです! リアル様が生きていてくれて、俺は嬉しいです! あっ、そうだ。目覚めたばかりで申し訳ないのですが…、俺と契約を交わしてほしいです! 」
契約を交わしてほしいと、自ら頼み込んできた。
自ら、契約を求める姿に。リアルは驚きを超えて、本当に自分でいいのかと不安に思い始めるが。 そんな不安など、必要ないかと言うように。一体。何処から用意し、何処から出してきたのか分からない契約書を見せ。
「ここにサインしてください!それと、俺に名前を付けてください! 」
名前を書く項目と自分を交互に手で示し差しつつ、また何処から持ってきたのか分からないペンを優しくそっと、リアルの手のひらへと乗せて。愛しむような熱い眼差しで、契約をするのと名前を付けるのを待っている。
これには、本当に自分と契約を交わしたい。自分に名前を付けてもらいたいのだと理解し。 縋り求めている事からは離れてしまうが、相手の想いを受け止め、リアルは使い魔らしき生き物と契約を交わし、名前を付けることにした。
「わかった。じゃあ、契約を交わそう。そして、君の名前を付けようか。
……うーん。そうだね…、じゃあ、君に名前は。【ウィン・レインフロスト】なんていうのは、どうかな? 」
「【ウィン・レインフロスト】……、いいですね! とても素敵でかわいい最高な名前です! 」
「気に入ってくれて何よりだよ。では、改めて、私はリアル・シャインダーク。宜しくね、ウィン」
「はい!宜しくお願い致します!リアル様!
俺。ウィン・レインフロストは、リアル様の使い魔として、支えていきますね! 」
リアルは契約書にサインし名前を名付け、自分を助けてくれた者――ウィン・レインフロストを使い魔として一緒に過ごすことを決める。
――ウィン・レインフロスト。
身長は174cm。体色は薄めの水色で、顔の輪郭は猫に似ており、猫の耳を細長く、先を少し鋭く尖らせたようなモノと悪魔のような尻尾を持ち。少し目尻が吊り上がった、やや細長い薄暗い水色の瞳に。口の中は水色系統の色をしていて、鋭く尖った歯や牙が均等に並んでいるが。それを認識しても、恐怖を感じることはなく悪そうにはとても見えない、ふんわりとした優しい顔立ちをしている。また低く優しい落ち着いた声質していて、リアルの縋り求めていた事とは違う行動をしていたことから、性格も優しいのだろう。服装に関しては、真ん中に丈の短いネクタイのようなモノを付けた少し明るめの水色のふわふわとした襟巻。灰色と青緑が入り混じった薄暗い水色の半袖のシャツを着用し、ジャンパースカートのような身体の先まで包み込む丈の長いワンピースを上から重ね、袖との境目が見えないほど繋ぎ合わせた、青緑が入り混じった暗い水色の丈の長い手袋をし。加え、手袋の上から手首の辺りに鎖の付いていない枷のような腕輪を身に着けており、腰の上辺りから広げるように取り付けた左片方だけの深い青色のマントをしている。そして、本人曰く。水、氷、回復、治療といった魔法や術が得意だという。
こうして、改めて見返して視ると。
色味や目付き等を認識しても、ネガティブな要素を何一つ感じない、優しさを纏ったウィン・レインフロストが。 自分の使い魔になるとは。とても現実とは思えないが、本当に意図がどうであれ――、
「なんだが、死に縋り求める気持ちが消えそう…。というか、ウィンは完全なる癒し枠だね」
ウィンが自分にとっての癒しとなる存在になるのは確かであろうとリアルは思う。
死を否定しても、優しく寄り添い、辛い時には甘やかしてくれそうな、癒しの使い魔。 唯一、自分を想ってくれる相手として。ウィン・レインフロストは、傍にいてくれるのだろうと。
「ああ、違う意味で報われるとは。本当に、ウィンに出会えてよかったよ。ウィンが想ってくれていた分を、私も返さなくちゃね」
「俺はリアル様が生きてくれているだけで、幸せですよ」
「うぐッ、なんという想い! これは、返す期間や量が。いい意味で長く増えそうだ! 」
そうなれば、ウィンが想ってくれた分、自分も想いを返すべきだと心に誓うが。
ウィンにとっては、リアルが生きてくれているだけで幸せなのだと伝えられる。
これには、心がときめきで締め付けられ。感銘をすると共に、より想いを多く長く返すことになりそうだと。 死に縋り求める気持ちが少し消え失せ、前向きな思考でリアルは更に強く心に誓う。ウィンをもっと幸せにしてあげなければと――。
「あ、そういえば。此処から動いていないのもあるけど。
行動された以来、他の使い魔らしき生き物を見かけていないけど…、今、何処にいるのか。知らない? 」
ウィンを幸せにしてあげなければと想いを返す誓いを心に立てる中で。
ふと、ウィン以外の使い魔らしき生き物を。行動された以降、見かけていないことに気がつき。 ウィンに他の使い魔らしき生き物は今、何処に居るのかと尋ねる。
すると、ウィンは。ふんわりとした優しさのある顔立ちを、色合いと目付き等に似合う不敵なモノに変えて――。
「奴らなら、追い出しました。
少々、手荒で乱暴な事をしてしまいましたけど。馬鹿みたいに体力と耐久性はあるので、この辺の何処かで自由に暮らしていると思います」
――嘲笑うように、馬鹿にするように、追い出したと告げる。
追い出したと発言し、行動を起こしたウィンに驚き、「え? どうして…、」と疑問を口にすると。
「リアル様を傷つけるような奴らなんか、全くもって要らないでしょう。
リアル様に忠誠の想いが一つもなく、尽くさない奴らなんか、いない方がいい。いない方が、リアル様は幸せになれます」
重たく行き過ぎた愛と想いを返される。いや、渡された。
リアルは衝撃的な愛と想いを渡されて絶句し。暫くの間、身体が硬直してしまい。
そして、優しくしてくれる意図を理解し知って。これは、かなり複雑な使い魔を生み出してしまったと。今更になって、罪悪感が募る。
きっと、ウィンは自分の利己的な想いや憧れを引き継いでしまったのだろう。
だから、自分だけには優しく接し。少しでも邪魔となる、傷となる者を追い出すという排除を行った。
それが、ウィンの意図。
自分の為だけに、一方的な優しさ、利己的な想いや憧れで。動き回るという――。
「うーん…、なんということだ。いや、罪悪感に浸っている暇はない。
ウィン、その気持ちは嬉しいけど。私は他の皆も大切なんだ。どんなことをされようがね。 だから、まだこの辺にいるのなら。探しに行って、契約をするよ。私はウィンや皆も幸せにしてあげたいからさ」
罪悪感に浸っている暇ないと気持ちを切り替えて。
ベッドから起き上がって出て、戸惑いを見せて疑問符を浮かべるウィンを置き去りにして、外へと向かうため玄関まで小走りする。
玄関から外へと出れば、他の使い魔らしき生き物を探しに周辺を駆け巡る。
正確には、何処に居るのかは分からない。だが、創り生み出した者の勘というべきか。 なんとなくだが、何処に居るのかが分かる。だから、周辺を駆け巡りながら、勘を頼りに他の使い魔らしき生き物をいるだろう場所に向かう――いや、向かっている最中に。後を追って来たのか、背後からウィンが現れ。
「待ってください。リアル様。
奴らは、とても荒々しく、躊躇なく傷つけようとしてきます。だから、護衛として。俺も探すのを手伝います」
護衛として、自分も一緒に探すのを手伝うと言う。
リアルの意志や想いが届いたのか、伝わったのか。それとも、勝手に追い出した事に反省したのかは分からないが。 手伝ってくれるというのであれば、探しやすくなる。此処は、素直に甘えて。ウィンにも手伝ってもらうことにして。
「よし!分かった。じゃあ、一緒に探しに行こう! 」
「はい。リアル様。
きっと、奴らの言動からして。この先を真っ直ぐ行った場所にいると思います」
「なるほど。ウィンもそこだと思うのね。じゃあ、そこへ行こうか。可能性が一番に高そうだし」
リアルの勘とウィンの推測を合わせて、他の使い魔らしき生き物を探しに行く。
特にリアルは、他の使い魔らしき生き物の心身や無関係な周囲に被害が少ない事を祈りながら――。
―――
勘と推測を頼りに、居るだろう場所へと辿り着けば――。
辺り一面は瓦礫の山で埋め尽くされており、その天辺には足を組んでこちらを不敵に見下す者と。 指と指を合わせて愉快に笑みを浮かべて見る者、腕を組んで蔑んだ鋭い視線で利かせる者が居た。
その者達は全員、他の使い魔らしき生き物であり、勘と推測は当たっていたと言え。
見た感じ、身体には傷一つなく、瓦礫の山が出来ていること以外は、被害は無さそうで、一安心と言いたいところだが。
「あァ? 激弱い人間と傲慢な無礼を働いた使い魔じゃねぇーか、何しに来たんだァ? 」
「もしかして、連れ戻しに来たのですかァ? そこの冷淡な お馬鹿さんが追い出したくせに」
「理由は何にせよ。私達は、貴方達の元には戻りませんし。
そもそも、弱く幼い人間と。思考の合わない感情的な生き物とは一緒に居たくありませんから。 さっさと、帰っていただけないでしょうか?邪魔です」
こちらに対して、特にウィンに対しては敵愾心を見せ、淡々としていながらも荒々しく言葉を発する。 それもそのはず。リアルの縋り求めていた事をしただけなのに。多少、手荒で乱暴なやり方で、勝手に追い出されたのだから。敵愾心を抱いても無理はない。
「多少の手荒で乱暴な事をしてまで、勝手に追い出した事は悪いと思っている。本当にすまなかった…」
「ハッ。今更になって謝るとはなァ。だが、そんなことはどうでもいい。
そんなことよりも、俺様に逆らうとは。いい度胸をしているって話だァ」
「そうそう、追い出した事はどうでもよくって。問題なのは、ワタクシに歯向かったこと」
「ええ。私に失礼な事をした責任をどう取るつもりなのか、が大事なのです」
だが、追い出した事に関しては。二の次、いや、心ではどうとも思っていないようで。 問題なのは、ウィンの言動であり。どう責任を取るつもりなのかと責め立てている。
正直なところ。リアルはその現場を見ていないため、追い出した際に何をしたのかは分からない。 ウィンも詳しく話さず語らず、他の使い魔らしき生き物も具体的に言おうともしないため、分からない。 ただ多少ではないことは分かる。
それならば、創り生み出した身であり契約者の自分が責任を取るべきだろうとリアルは考え。 自分が代わりに全ての責任を取るから、どういった責任を取ってほしいのかと尋ねる、と。少し間を開けて、不気味な声色で。
「…命だ。命で償え」
「命で償ってほしいですねぇ」
「その命を私にくれるのであれば、許してあげなくもないです」
命で償ってほしいと求められる。
命で償う――、それがどういう意味なのかは大体、予想できる。
予想できれば、命で償えという求めに対し。ウィンは冷静ながらも怒りを見せ――ようとしたが。
「あっ、そんなものでいいの? いいよ、好きに使って」
リアル自身は、そんなものでいいのかと。それでいいのならば、好きにしていいと自分の命を軽く見ていた。 そんな軽薄なリアルの態度と思考に。ウィンは目を思いっきり見開きながら驚き、困惑と否定の声を上げる。
「リアル様!何を言っているのですか! 命で償っちゃダメですよ!自分の命を軽く見ないでください! 」
「いやァ、別に。役に立つのであれば、ね? それに、私自身。縋り求めていた事が叶いますし……」
「ダメです!絶対に命で償うことはやめてください! というか、そもそも俺との契約に違反する上。 貴方が命を落とせば、俺達は……生みの親が居亡くなってしまったことで、殺処分されるか。その場で一緒に朽ち果てます」
「あー、そっか。確かにそれは…うーん」
「俺、リアル様と、もう少し一緒に長く生きていたいです。出会ったばかりなのに、此処で終わるなんて……」
「おい、俺様達の話を最期まで聞けェ。何で、死ぬ、殺される前提で勝手に進めてんだよォ」
ウィンが困惑と否定の声を上げる中、まだ話は終わっていないと、死を伴う前提で勝手に話を進めるなと使い魔らしき生き物の一体が呆れ返った声で横入りする。
命で償う――それが、死を伴うことではないと告げられ。
リアルは拍子抜けしたように「え、そうなの?」と驚き。ウィンは安堵すると共に、「ややこしい事を言うな! 」と声を荒げる。そんな二人の姿に更に呆れ返った声で、自分達も死ぬ可能性があるのに。逆にどうして、死を伴う償いになる考えが生まれるのだと指摘を入れつつ。命で償うことが、どんな事なのかと説明する。
「命で償え…それは。俺様達を自由に生きられるようにしろってことだァ」
「例えば、食事や寝床とかを無料で提供されるように動けってことね」
「私達を貴方の利己的な思考で勝手に創り生み出したのですから、それくらいのことはしてもらわないと」
自由に生きられるように、食事や寝床等を提供されるようにする。
つまり、共に生き続けることが、命で償うという意味。それは、ますます縋り求める事から遠のく事を意味するモノ。 今現在の自分の能力と稼ぎで、全員を養っていく必要があるということ。
「……正直、死ぬよりも難しい話だけど。わかった。皆の事を命で償うよ」
正直な話。死で命を償うよりも難しく、今現在の自分にはハードルが高く十分に満足させられる、幸せにできる自信は無い。だが、創り生み出した身として。ウィンの為にも、他の使い魔らしき生き物の為にも、責任は取るべきなのは勿論。ウィンと契約した時に一緒に過ごすことを誓ったのだ。それ相応の償いはしなくては。たとえ、この先。縋り求める事が訪れず、報われなかったとしても――。
「よし。じゃあ…、より提供などが上手くいくように。契約をしよう。その方が色々と安全…、」
「はァ? 契約? するわけねぇーだろォ。
命で償うことしか取り柄の無い、こんな激弱い人間の使い魔にはなりたくねェ」
「えー、契約したくない!
冷淡な お馬鹿さんを庇い、命で償うことしか魅力の無い人間の使い魔になるのは御免だよ」
「貴方と契約するなど嫌ですね。
ただでさえ、利害の一致として、我慢しているというのに。
思考の合わない感情的な生き物が付いてくる、命で償うことしか責任が取れない弱く幼い人間の使い魔などになりたくはありません」
命で償いをすると覚悟を改めて決意し、使い魔らしき生き物と契約を結ぼうと伝える、が。 契約と命で償うことは別だと、厳しく真っ当な言葉で否定され、払い除けられてしまった。
ウィンとは違って、リアルに対して想いや忠誠心は無い。あるのは、敵愾心のみ。
契約するなどありえない事で、スムーズにいくはずがない。
安全面を考えたら、契約する越したことは――いや、リアルよりも強いのは事実。その心配も必要は無いのだ。 ただ必要なのは食事や寝床等の生活するにおいて重要で大切な事だけ。だから、敵愾心も合わせて契約するメリットは無い。利害一致と償いだけで充分。よく考えてみれば分かること。いいや、心の底では分かっていた。ウィンが違っていただけで、現実はこうなのだと。
契約を断られたことに少しショックを受け、複雑な気持ちが広がる。
だが、致し方の無いこと。
その複雑な気持ちは表に出さず、心の奥底へとしまい込み隠して。
契約は無しにして。今度は勝手に追い出されない、追い出すことは無いと誓って、使い魔らしき生き物を自宅へと案内する――いや、しようとしたが。
「案内されなくとも。テメェの家の場所ぐらい覚えている。俺様を見下すんじゃねェ」
「案内無用。ワタクシは貴方の頭脳とは違って、遥かに優れておりますから、この程度の道順は覚えています」
「案内など必要ありません。貴方の家が何処にあるか、創り生み出された時に既に把握していますから」
場所や道順を覚えているから案内は無用と言い、瓦礫の山の上から地面へとジャンプで素早く華麗に下り、リアルとウィンの間を通り抜けると。目にも止まらぬ速さで、リアルの自宅がある方向へと進んで行ってしまった。
「…………。なんだろう、なんか…、ネガティブな気持ちになってくる。
私の償いなくても食事や寝床など見つけられるんじゃないかな」
先へ自宅がある方向へと進んで行き、姿の見えなくなった使い魔らしき生き物の言動に。 寂しいような、悲しいような、自分など必要ないと改めて実感するような感覚と気持ちに沈み。 心臓がチクチクと痛み出す。
自分の無力さ、無芸無能さを理解していたが。自分が創り生み出した者にまで、それ相応の事をされると。 理解していても、ネガティブな感覚と気持ちに沈んでしまうと、自分自身に失望を抱くリアルに対して。
「俺だけが、リアル様の使い魔…フフフッ。リアル様の全てを独り占めできる。リアル様と長く居られる。 奴らよりも、リアル様が俺の事を見てくれる。俺の事を優先してくれる。唯一の使い魔である俺の事を」
ウィンは自分だけがリアルの使い魔になっていることに喜びを感じて、リアルに対しての重く行き過ぎた愛と想いを抱き、リアルには聞こえないように小さく口にして、不気味な笑みを浮かべていた。
ウィンは勝手に追い出したことは一切、反省していない。ただリアルの為に利害の一致として、口だけの謝罪を述べ。協力をするだけで。本当は変わることなく、他の使い魔らしき生き物の事を疎ましく嫌い、邪魔者だと憎悪と敵愾心を抱いている。だが、それにリアルが気づくことは少ないだろう。リアルに嫌われないために、悲しませないために、辛い思いをさせないために、一部は表に見せたとしても、大部分は上手く巧妙に隠しているのだから。
―――
自宅へと戻ると。先に着いていた使い魔らしき生き物がそれぞれ椅子、ソファー腰かけ、壁に寄りかかって。 表情は変わらないものの、退屈そうにしており、こちらが戻ってきたことに気が付けば。
「飯をくれ。腹が減ってしょうがない」
「ねぇ、なんか退屈をしのぐモノはないの? 」
「何か、書物はありませんか?出来れば、知識をより高めることが出来る物を」
食事、退屈をしのぐモノ、書物を要求してきた。
要求に対し、少し戸惑いながらもすぐさまリアルは用意を始め。
用意が出来れば、それぞれに食事、退屈をしのぐモノ、書物を与える。
だが、反応は不評でイマイチといったところで。特に食事と退屈をしのぐモノを要求し与えた者には――。
「なんだこれ、量が全くねぇし。味も普通で美味くもない」
「なにこれェ、お手玉って…。ワタクシは、道化師じゃないから。身に合わないし…、すぐに飽きちゃうじゃない」
かなりの不満を出されていた。
今現在できることを全て行ったが、使い魔らしき生き物にとっては、価値の無い質の低いモノで満足できるものではなく。機嫌を損ねる材料にしかならない。
「はァ…、テメェ。償うことさえ、できねぇのかよォ」
「償いさえ、できないのに。ワタクシ達を創り生み出すなんて、随分と無責任な人間だねェ」
「せめて、最低限できれば。これ以上の文句は口に出さないつもりでしたけど。流石に酷すぎます」
機嫌を損ねて出た批判には、何も言い返す言葉が無かった。そもそも、言い返す権利もリアルには無かった。 批判通り、無責任なのだ。後先なんて考えずに、ただ死に縋り求めて、創り生み出し。 それが今後、報われることのない状態や状況に陥れば。自分の無力さで、最低限さえ満足にさせられない。 とても無責任である。酷いにも程がある。
創り生み出さなければ、ウィンも、使い魔らしき生き物も、リアル自身も負に陥ることはなかったというのに。 責任をとる。償いをとる。そう言っても、能力や自身が追い付いていなければ。何の意味も無い。 ただ利己的で欲深く罪を重ねて増やす者なだけだ。自身では何も出来ない幼稚で乞うだけの者だ。 リアルは、リアル・シャインダークは、生きていても――。
「そんなに不満であれば、他の者のところへ行けばいいのでは? 」
しかし、それでも。ウィンだけは、無力で無責任なリアルを見捨てることはしない。
「他の者へ行ったとしても。リアル様が生きていれば、別に何の問題も無いのですし。 償いさえ、不満と思うのであれば。他の者のところへ行った方が貴方達にとって価値あるモノになるのでは? 」
自分の欲望を入り混ぜながら、リアルを護る。
再び、追い出すという形で。リアルの誓いを向こうから破らせる形で。反論を口に出す。
「まぁ、他の者のところに行かないとしても。使い魔ではない貴方達は何をしても自由に生きられる力を持っているのですから。リアル様の手を借りなくとも生きていけますよね? 」
リアルと共に生きていく資格は無いと遠回しに、間接的に非難して。
「第一に使い魔でもない、ただ創り生み出された貴方達をリアル様が養う必要は無く。貴方達が養えと乞う権利も無いのですよ。使い魔という関係であれば、お互いに助け合っていく必要がありますが。貴方達は使い魔ではない。ただの魔の生き物。執着するのは諦めて、本当に自由になさればいい」
最後には煽るように勧めて、互いにとって一番の利益を教える。
それが、リアルが多少は悲しむ事だとしても。敢えて、教えるのだ。
「俺は、貴方達とは違って。リアル様を最愛していますから」
多少の悲しみを無かったことにする心の奥底から想う言葉を付け足して。
リアルには自分だけに注目が行くようにし、使い魔らしき生き物には外へ出るように注目させる。
「ウィン…、」
「ハッ。少し癪だが。確かに、よく考え直してみれば。その方が断然にいい」
「まぁ、そうだねェ。此処に居るよりは、幸せかも」
「では、答えは一択のみですね。貴方の言う通り、外に出ましょう」
それぞれの注目が思い通りに傾き、リアルは自分の方へ、使い魔らしき生き物は外の方へと動けば。 ウィンは満足そうな顔を浮かべて、自分の方へ動くリアルに見つめ返す。 貴方に必要なのは自分だけであると示すように――。
「―――? 」
だが、思い通りに動いていたのは使い魔らしき生き物だけだった。
確かに、リアルは自分の方へ注目を向けて動いていたが、それは疑いと半ば苛立ちで動いていたもので。
「…もしかして、ウィンって。私が思っていたより、一方的な感情をぶつけるタイプ? 」
「え、」
「それは、度が過ぎていて困るんだけど…。私は、使い魔になろうが。ならなくても。皆と一緒に幸せに暮らせることが大切で。自分で創り生み出したモノが他者のところへ譲り渡す形で行くなんて、生きるなんて嫌なんだけど」
声音を一層低くして、ウィンのした行動は迷惑だと告げ。
一方的な重く行き過ぎた愛と想いは、ただ不快にさせるだけなのだとも教える。
「もういいや。ウィンは此処で待っていて。
自分で創り生み出した者として、改めて、皆を説得しに行くから。今度は絶対、自分の事は自分で何とかするから」
最後は溜息混じりに、ウィンに自宅の中で待つように指示して。
リアルは外に出て行った使い魔らしき生き物の後を追っていく。
リアルにとって、流石に自分が創り生み出したモノが別の者に譲り渡るは絶対に許せない嫌な事であった。 自身が死んでしまった後なら、致し方ない部分もあるが。一応、これでも生きている身。ウィンのこの行動は迷惑でしかない。それを、ウィン自身が理解するのには。リアルが帰って来るまでの間、かなりの時間を要してしまった。ウィンにとって、リアルを怒らしてしまったこと。リアルに叱られたことは。放心状態になるほど、ショックだったから。
―――
使い魔らしき生き物の後を追って外へと出るが。
皆、リアルよりも遥かに足が速く。簡単には追いつけず、途中で見失ってしまい、また勘を頼りに探すことになってしまった。
だが、一体に関しては勘を頼りに探す前に。
何を思ったのか、リアルの方へと振り返って戻り、目の前まで近づいてきてくれたことで探す手間が少し省ける。
「あ、君は戻ってきてくれたんだね。理由は何にせよ、助かるよ」
「…………」
戻ってきてだけで、返事は無く、何も言葉を発しない。ただ不敵な笑みを浮かべてリアルを見下すだけ。 そんな態度に不思議に思うも。それをいいことに。リアルは一緒に暮らしてほしいと説得を試みる。
「ウィンは、ああ言っていたけど。私は君も含めて皆と一緒に暮らしたいんだ。
今現在は充分に満足にさせることも。幸せにさせてあげることも。なかなか出来ず難しいけど。正直なところ、時間はかかるけど。君も、皆が生活に慣れる頃には充分以上の満足や幸せを得ていることを保証するよ。
唯一、自分が創り生み出せたモノ達で。唯一、一緒に暮らそうと思えた者達で。唯一、死を縋り求める事を諦められる、生きる理由で、生きる原動力で、生きる糧なんだ。
信じることも。頼りにすることも。難しくて、厳しいかもしれないけど。綺麗事にしか聞こえないかもしれないけど。 君達の事だけは絶対に今度は何とかする。君達だけでも満足に、幸せにする。必ず、絶対に、確実に。 だから、私と共に生きてほしい。私と一緒に暮らしてほしい」
自分の全ての愛と想いを込めて、試みた説得が通じたのかは分からない。
いや、通じることはなかったのかもしれない。ようやく、口を開いて出た言葉が。
「俺様は激弱い人間と暮らすことも、生きることも御免だ。ハッキリ言って、激弱い人間は生きる上で邪魔にしかならない」
ハッキリと断りを返してきたのだから。
この一体にとって、激弱い人間は生きる上で邪魔にしかならない。
自分と同等か、それ以上の強さを誇る人間で無ければ。なんとかして、最低限を満たしたとしても。 満足にいくことも、幸せになることはないのだろう。
リアルの完璧な結果を望み、追い求める強欲さと傲慢さを引き継いでしまっているのだから。 だから、激弱い無力で無芸無能な何も持ち合わせていない人間とは生きたくないのだ。
しかし、完璧な人間など存在しない。なることも出来ないのだ。
そのため、どちらにせよ。この一体が満足にも、幸せにもならない。
その事を、この身をもって、リアルは知っている。
強欲さと傲慢さで生きた結果が今の自分になってしまったことをリアルは理解している。 だから、通じることはなかったとしても。ハッキリと断られても、リアルは自分のようにはさせないために、説得を続ける。
「じゃあ、今から君に攻撃を仕掛けるから。それが、一つでも掠ったら、私と一緒に暮らして」
言葉で無理であるのならば、力で説得を試み続けるのみだ。
「死ぬ覚悟 殺される覚悟は出来たか? 眠れ! 永久の睡眠」
死を縋り求めた果てに覚えたがいいものの、上手く操れない、扱うことができない、宝の持ち腐れとなった魔法や術の呪文を唱えて。
「明らかとなれ!汝の全てを!暴け! 信用ガタ落ち 情報漏洩」
一体の意志や思考を無視して、使用する方法を間違えていても、次々と放つ。
「破壊 破滅 壊滅 殲滅 全滅 我の手により、全てが消去消滅する! 無の記憶領域」
何処か痛々しく、何処か背筋が凍るような、放つための呪文を堂々と口にして、通りすがる人達に冷たい視線を送られても。
「全てを呪え……!徐々に消えゆくように! 最後の結末」
一体の為に。やめることはしない。たとえ、体力が限界を迎えたとしても。
「活かし生かしてあげよう。創造せよ。 生命の創作」
魔力だって、底を尽きそうだとしても。諦めることなく。継続していく。
「全てを元に戻してあげよう。蘇生せよ。 禁断の創造」
魔力が底をついて、血を吐き、倒れ込んだとしても。眠ろうとする身体を無理矢理に覚まし動かして。
「深い欲望を満たしてあげよう。叶え。羨望の懇願」
一つでも掠らせようと魔法や術を放つ。呪文を唱える。
それを何百と繰り返したことだろうか。
掠る前に一体が魔力と体力が底を尽き限界を超えていたリアルに止めを刺すように。片足で腹を蹴って、終止符を打ち。
「激弱い人間かと思っていたが…、俺様を創り生み出したことだけはあったなァ。
いいだろう。その馬鹿みたいに諦めない力強さを利用して。テメェと暮らすだけではなく、契約してやるよォ」
一緒に暮らすだけではなく、使い魔になる契約をすることを何処か楽しそうに告げる。 そして、何処からか一瞬で取り出した契約書を見せびらかすように持ち。吐き出した血で構わないから契約書にサインをすると共に自分に名前を付けろと驚きや喜ぶ暇も与えずに迫る。
「え、えっと。じゃあ、君の名前は…。【サマー・ブレイズフレイム】で、どうかな? 」
「【サマー・ブレイズフレイム】? ほう、それが俺様の名前か……、悪くはないなァ。 それじゃあ、俺様の名前は サマー・ブレイズフレイムだァ。せいぜい、俺様の盾になれるよう 沢山、働けよォ」
「うん。これから宜しくね、サマー」
「ああ、主」
迫られ、一分ほど時間はかかったものの、なんとかほぼ即座に思い付き、名前を付け。 契約書にサインして、馬鹿みたいに諦めない力強さを利用される形で、一体ことサマー・ブレイズフレイムを使い魔にすることができた。
これで、残るは後二体。
身体はかなりボロボロになっているが、サマーに見せた馬鹿みたいに諦めない力強さで。 勘を頼りに二体を探しに行く。――いや、行こうと前に出た時。
「俺様も付いていってやる。それと、尽きた体力と魔力を元に戻して、治してやるよォ」
サマーは不敵に笑いながら何処か荒々しくリアルの肩に手を置き、顔を首筋にまで近づけ――。
「ぎゃああぁあぁぁあぁあああ――!? いっ、ってェえええええぁあああう、お、えええええ!!? 」
リアルが濁った絶叫を上げる程、強い痛みを与えながら思い切り首筋を鋭く尖った歯と牙で数秒、噛み続けた。 噛み終われば、すぐさま顔を離し、肩に置いていた手を下げ。目を細めながら何処か不満げに見下す。
「…うるせぇ、人間だなァ。せっかく、治してやったのにィ」
「治す?は?え?何処が!? 」
「俺様は回復や治療などの魔法、術が使えないから。
代わりに、一番通りやすく流しやすい首筋を噛んで、穴を空けて。そこから俺様の生命力を流し込んでやったんだよォ」
「え、はぁ!? 何その、荒治療! 痛いんじゃ何の意味もないじゃない!ふざけないでよ! 」
「ふざけてねぇよ。その証拠にお前は、馬鹿デカい声で文句を言えているじゃねぇーかァ」
「あ、確かにそう言われると。ボロボロじゃなくなって…いや、そうだとしても!痛みを伴う治療は嫌! 痛みを伴うのは死ぬ時だけでいい! 」
魔力と体力が底を尽きて限界を超え、ボロボロの身体となったリアルを回復や治療するために。 首筋を噛んで空いた穴から、自身の生命力を流し込んで。荒治療ではあるものの、見事、元通りに治すことができた――というのに。絶叫だけではなく、リアルは文句ばかりなため。サマーの不満はより強く積もっていき。
「チッ…、本当に文句ばっかり……せっかく、善意で治してやったのにィ。
なんだよ。どうせ、ウィンの野郎の方がいいのかよォ。回復や治療は、ウィンの方が……、はァ」
最終的には、耳を澄まさないと聞こえない小声で、苛立ちと寂しさを零しながら。
リアルの腹をもう一度、蹴って。早く、残る後二人を探し行こうと急かしていった。
――サマー・ブレイズフレイム。
身長は186cm。体色は薄めの暗い赤で、顔の輪郭は猫に似ており、猫の耳を細長く、先を少し鋭く尖らせたようなモノと悪魔のような尻尾が四本。お化けの下先のような細長い尻尾が一本。指が四本ある手と指の無い少し先が尖った足を持ち。斜めに鋭く吊り上がった、少し横幅が長い濃く少し明度の下がった赤色の瞳に。口の中は血のように赤く、鋭く尖った歯や牙が均等に並んでいる。リアルの完璧な結果を望み、追い求める強欲さと傲慢さを引き継いでいるのもあるが。その姿から、見慣れていない者にとって、一番に恐怖を感じるような強面である。また声質もだみ声と掠れが混じった荒々しく低く、恐怖をより引き立たせており、リアルの縋り求めていた事を召喚されて間もなく行った事から、荒々しい性格なのは間違いないだろう。服装に関しては、黒くふさふさとした質感のある襟巻。袖は左右で丈が違い、左の方が長い。足首辺りまで包み込む。所々、小さく切れた濃く暗い赤茶色の服装を着用し。襟巻の下からはダイヤの形をした赤いネックレスを身に付けている。そして、本人曰く。炎、熱、光といった主に攻撃に関する魔法や術が得意であり、回復や治療といった魔法や術は使えないようだ。
そのため、魔力と体力が底を尽きて限界を超え、ボロボロの身体となったリアルを回復や治療する際には。 荒治療ではあるものの、首筋を噛み、噛んだことによる空いた穴から、自身の生命力を流し込むという治療法を行ったのだが。噛んで穴を開けた際、手加減していたとはいえ。胃腸炎の時に出る、引き裂かれるような激しい腹痛に近い痛みを与えてしまっていたため。リアルからは荒治療が過ぎると不評であり、この不評はサマーにとっても。せっかく、何の疚しさもあくどい気持ちも抱かず、心からの優しさと善意で治したというのに。あんまりだと、不満に思い。やはり、回復や治療はウィンの方がいいのかと、劣等感や苛立ちと寂しさを感じていた。
―――
サマーと共に残る後二体を探していると、リアルは背後から何かに吹き飛ばされて体勢を崩し、転ぶように地面へと顔から倒れ込む。
突如、吹き飛ばされた事に驚きつつ。顔から倒れ込んだため、暫くの間は顔中に激痛が走るが。なんとか耐えて起き上がり、背後を振り返ると――。
「アハハハハ。相変わらず、随分と弱々しく魅力の無い姿だねェ。人間さん」
おちょくるように嗤いながら、左右に小さくふわふわと風に揺れて立ち尽くす、残るは後二体のうちの一体が居た。
先程、リアルを背後から吹き飛ばした相手は。恐らくでもなく、確実に この一体であることは間違いない。 それを更に確実させるように、立ち尽くすのはやめて。優しく風に乗って、自由自在にくるくるとリアルの周囲を回り、非難を込めたおちょくる言動を続けて。
「ちょっと、風を吹かしただけで。こうも簡単に倒れ込むのだから、ワタクシ達を満足させることは勿論、幸せにするのは無理なんじゃないかなァ? 」
「え。もしかして、サマーに言った時の事を聞いていたの? 」
「うん。聞いていただけではなく、ずっと最後まで見ていたさァ。桃色の子と共に、近くにあった建物の屋根の上からねェ」
「そうだったのか…、じゃあ、単刀直入に言うけど」
「断るよ。貴方のような魅力の無い人間さんと一緒に居ても楽しくはありませんから」
最後には、穏やかな風を当てるように否定と断りを口にしているのだから。
近くにある建物の屋根の上からサマーを説得する際の言葉を聞いていて、その後の事も最後まで見ていたようだが、見聞きした上で否定し断っているため。サマーよりも難易度は遥かに高いと思える。 しかし、相手の言う通り。リアルに魅力というモノは無い。全てにおいて、無力で無芸無能なのだから魅力は無いに決まっている。決まっているが――、
「確かに一見すれば、魅力など欠片も無い人間だけど…、君達を美しく、可愛く、カッコよく、賢くと。大成功を超えるほどの自分の思い通りの完璧さを創り生み出すぐらいには。創造力に関して、少しは魅力のある人間だと思うよ」
相手を含むサマー達を自分の思い通りに創り生み出すぐらいには、創造力に少しは魅力のある人間であると、リアルは自信を持って言う。 自分の思い通りはともかく。確かに、想像していた姿にそっくりであるほど上手くいっているため。これに関しては魅力のある部分かもしれない。しかし、その程度の魅力で相手が楽しみに出来るわけは無く――。
「その自信は一体、何処から湧いてくるのかは分からないけど。
それは、こちらにとって、特にメリットが存在しませんから。何の楽しみにもなりませんねェ。 もっと、実用的か。あるいは、実用的じゃなくともワタクシが心惹かれるモノではないと。意味ないです」
笑顔のままに、メリットは無く価値も無いと却下されてしまった。
自信を持って言ったことさえ、却下されてしまえば。
もう後は本当に何も無い。
魅力を大切にする相手にとって、どう説得をすればいいのか。
たとえ、魅力以外で説得を試みても、この様子と結果を見るに、通じることは無さそうである。 本当に。どうしたら相手を説得できるのか。
恐らく相手は、リアルの自分の思い通りに動かせるほど魅了できる能力を求める陰湿さと狡猾さを引き継いでいる。 だから、こうして。自分に注目が集まらない魅力の無いことは却下し続けているのだ。 却下し続け、高く絶対に叶わない望みと理想を抱きながら、一人孤独に生きて死ぬ――それが、末路だと知っていれば。 どうしたら、相手を説得できるのかが見つかる。もう後は本当に無いと思っていたが、これならば、相手も心を動かすだろうと。
「じゃあ、君は本当に自由にしても構わないよ。何処にでも行きな」
「うん? それは、どういった意図で? 」
「私も君に魅力を感じなくなったからね。だから、君をフリーにすることにしたのさ」
「え、ワタクシに魅力が無い…? 」
「そこまで、高く見積もられていれば。魅力は落ちるというものだよ。
というか、そもそも。私に魅力が無いのなら。君にも魅力なんて何一つ無いのさ。
魅力の無い私が創り生み出したのだから、当然だろう? 」
胸に手を当て、不気味な程に口角を上げて、声音を地声よりも更に低くして、わざとらしく嘘の否定と拒絶を述べる。
魅力が無いからフリーにすると否定と拒絶を述べられ、笑顔が少し崩れ戸惑う相手に。 容赦なく畳み掛けるように、現実を伝えるように、今度は少し現実を織り交ぜた否定と拒絶を続けていく。
「自分の方が優秀だから、なんとかなる…なんて自然と心で見下して、安堵して。過信のままに生きていたって、求めることは何一つ叶わないんだよ。実際はなんとかならないの。第一、それでなんとかなっていれば。皆、些細な事でも求めることなんてしないさ。負の感情やネガティブな思考なんて、一切生まれないの。みーんな、幸せに生きていられるさ。魅力のある日々を、ね」
「それがどうしたって言うんだい。別に大したことではないよね? 」
「ああ、そうだとも。どうでもいいことに過ぎないだろう、これが現実として日々に現れているから。 いつか、努力が報われると。いつか、望みや夢が叶うと。いつか、幸せが訪れると。いつか、全てにおいて魅力を得られる、感じられると信じて生きているから、自分が根本の問題であることに気づかないまま…いや、気づいたとしても。どうでもいいと、なんとかなるからと縋り求めて逃げているから。本当にどうでもいいことに過ぎない。別に大したことはないのだよ」
「何が言いたいのさァ」
「何が言いたいかと問われれば。何も無い、空っぽだというのが答えだよ。
そうやって、高く見積もって、どうでもいいと、なんとかなるからと、縋り求めて逃げ続けた結果。 他者からは本当にどうでもいいことに過ぎない。別に大したことの無い、魅力すら無い人間として扱われ。 結局、死ぬ道しか残らない人生になってしまったからね」
「よくわからない…本当に何を、」
「そうだね、長々と話してしまったね。まぁ、簡単に言えば。魅力が無いのに。そんなに高く見積もって、魅力を求めていると。暗い未来の中で、一人孤独に生きて死ぬよ ってことだよ。それでもいいなら、魅力の無い私に構わず、自由に生きたらどう?って、話だよ」
どれだけ、魅力が欲しいと求めても。高く見積もってしまえば、叶いそうなことも叶うことは無くなる。 最終的には、結果的には、結局、一人孤独に生きて死ぬことになる。死ぬ選択しか、死ぬ道しか残らなくなってしまう。 それを末路として経験し、知っているからこそ。敢えてここは、嘘や現実を織り交ぜながら否定と拒絶を述べて。 高く見積もって、魅力を大切にする相手に厳しく説得を試みる。心を少しでも動かそうとする。 相手には自分のように死んでほしくないから。
「……よくわからないけれど。
つまり、人間さん的には。魅力を求めること自体が魅力の無い原因となって、最終的には望まない結末を迎えるってこと? まぁ、確かにそれは…、デメリットが過ぎる。これなら、人間さんと生きた方がマシかも? 」
「マシに決まっているさ。こっちはやり直しが利くように進むからね」
「うーん。でも…、なんだか脅しに乗るみたいで。楽しくなさそう」
「私は君に死んでほしくないから、敢えて厳しく言ったんだけど。ダメかな? 」
「え。そう言われると。うーん…そ、うん。いや、うーん……、」
この説得は、魅力を大切にする相手にとって長考するほどに心が揺らいでいるようで。 少なくとも説得が届いていると感じられる。
さて、相手はどう判断を下し。どの生きる道を選ぶのだろうと、答えが出るまで待とうと――いや、待とうとして五分も経たないうちに。痺れを切らしたようにサマーが声を上げて急かす。
「はやくしろよォ。テメェらの長話は聞き飽きているんだァ。今すぐにでも答えを出さねぇと。全身を焼却するぞ」
「人生の大切な決め事なのに。はやくしろなんて、」
「四、三、二、一……、」
「わ、わかったよ!わかりましたよ! 人間さんと一緒に暮らす!ついでに契約もする!するから、焼却だけはやめて! 」
「ハッ。主や俺様に言われなくとも最初から答えは決まっていたくせに。 わざわざ、長考するなんて。どれだけ、構ってもらいたいんだよォ? じゃあ、焼却するぜ」
「なんで!? 答えをすぐに出したのに…うわぁあああ!? 」
サマーが声を上げて急かした結果。
答えはリアルと一緒に暮らし、契約を結ぶということになった。
なんだか、サマーによって無理矢理な感じが強まった気もしなくはないが。
結果的には良かったため、特に気にすることはせず。リアルは相手の名前を何しようかと考え。
「風…、春風…、あっ!よし、君の名前は。【リング・ストームエアー】だ! 」
何か、繋がりがあるモノからヒントに、相手をリング・ストームエアーと名付ける。 名付けられた名前を聞いて。いつの間にか、少し焼け焦げたリング・ストームエアーが嬉しそうな表情を浮かべて。
「【リング・ストームエアー】…? へぇ、良い名前だねェ。
じゃあ、ワタクシはこれから、リング・ストームエアーです! 宜しくお願いしますね、ご主人! 」
喜びながら、宜しくと挨拶をし。何処からか出したのか分からない契約書とペンを出して、サインするようにリアルの手のひらに出したペンを乗せて渡す。
「うん。こちらこそだよ、リング。これから宜しくね! 」
リアルも優しく微笑み返しながら、渡されたペンを使って、契約書にサインをして。リング・ストームエアーを使い魔としても、一緒に暮らすことを誓った――。
――リング・ストームエアー。
身長は179cm。体色は薄く白っぽい紫色で、顔の輪郭は猫に似ており、猫の耳を横に少し太く、縦に細長く、先を少し鋭く尖らせたようなモノを持ち。両手共に四本の指があり、身体の下先が悪魔のような尻尾になっている。目尻が丸めに吊り上がり、猫のような目の形をした濃く深い紫の瞳に。瞼の上から人間でいう涙袋の下にかけて三日月を立てに伸ばした黄色い傷のような模様があり、目尻の下には瞳の色よりは少し暗い色をしたカーブした線のような模様がある。口の中は鮮やかな紫系統をしており、鋭く尖った歯や牙が均等に並んでいる。こうして改めて観察して見てみると、サマー達に比べて幼い印象があり。またサマー曰く、最初から答えは決まっているのに、わざわざ長考するなんて、ということから性格も幼いところがあるのかもしれない。ただ声質と服装に関しては、大人っぽい感じがあり、声質は透き通った少し低い声で。服装に関しては、左右に丈の長い薄紫のリボンが装飾された、王族が切るような紫色で質感のいい豪華な襟巻。三日月模様の色と同じ色の大きいダイヤの形をしたチョーカーを襟巻の上から乗せるように身に付け。一部にこれまた三日月模様の色と同じく黄色のカーブした線が組み込まれた身体の下先をほとんど包み込む鮮やかな紫色の服を着こなし。黒に近い濃く暗い紫のマントを着用している。また袖先やマントの先にはラメが入り、灰色が混じった薄紫と濃く深い紫が三角形に上下交互に組み込まれており、ラメがキラキラと輝いているなど。姿とは違い、大人っぽい感じがある。 魔法や術に関しては、風、空気、念力といったモノを攻撃にも、それ以外でも自由自在に操れ扱えるほど得意。
他にも本人曰く、パフォーマンスが得意だというが。
この先も見せることは無いため、本当かどうかは分からない。これは、ただの構ってほしさについた嘘なのかもしれない。
―――
残るは最後の一体となった。
サマーとリングを連れて、最後の一体を探しに行く。
しかし、どれだけ。道を進んでも。時間が過ぎても。最後の一体は見つからない。
勘を頼りに探したのが悪いのか。それとも単純にサマー達と違って。リアルにはもう興味を無くしてしまったか。 可能性は色々ある。だが、リアルは諦めず。探す方法を変えつつも、最後の一体を探しに行き。
それが、功を奏したのか。
寂れたベンチの上で座って、いつの間にか手にした古そうな書物を読んでいる、最後の一体を見つけることができた。
こちらの気配に気がつくと。
読んでいた本を閉じて、何処かへとしまい。何の用かと、目を細め。無愛想な表情を浮かべる。
この無愛想な表情には、リアルと一緒に暮らしたくもないと感じ伝わってくるが。
覚悟を決め、誓いを立て、ここまで来た以上は最後まで拾いたいところ。
最後の一体の表情に負けず、リアルは説得を試みる。
「リングと聞いていたから知っているとは思うけど…。
私、本当に皆と一緒に暮らしたいんだ。だから、君も私と一緒に暮らしてほしい」
「…………」
「私は、ダメダメな人間だけど。責任をしっかりと取る。確実に君も、皆も、満足にも幸せにもさせる。 同じ矛盾は繰り返さないようにする。だから…、」
「それ以上は結構です。貴方が私をどうしたいのか。どう説得を試みようかは目に見えています。 貴方の目的も。貴方が縋り求めていた事が変わったことも。理解はしています。ですが、思考や価値観の合わない相手と一緒に暮らすのは、ハッキリ言って嫌です。私は一人でも大丈夫ですので、お帰りください」
だが、説得は無意味と告げるように。試みる中を遮る形で丁重に断られてしまった。 これは、リングも超えるハードとガードが高い難易度だと。リアルは苦戦や長期戦を覚悟するが。 サマーとリングから見た視点は違っていたようで。何処か、煽り立てるように指摘を入れる。
「笑えるぜ。気遣って、自分の欲望を阻止しているとは。随分と真面目さんだなァ? 」
「贅沢だねェ。創り生み出された時から、ワタクシ達と同じ感情と想いだというのに。 此処で、突き放してしまうなんて。本当に贅沢だァ」
「勝手な思い込みが好きですね、貴方達は」
「テメェこそ、自分の欲望に否定するのが好きなようで」
「ねぇ、素直になりなよ。どうせ、展開は決まっているんだから」
本当は一緒に暮らしたいはずなのに。リアルの為に気遣って、意地を張っていると。 まるで、そう、リアルにも伝えるように。サマーとリングは更に指摘を入れながら、本質を暴いていこうと動く。
「まさか、ウィンの野郎に言われた事をまだ気にしているのかァ? 」
「そ れ と も、怖いの? 主人をウィンに取られそうになるのが」
「別に。どうでもいいことなので、気にもなりません」
「じゃあ、何故。こちら側へ、来ない? 理由なんて、いくらでも作れるのにィ」
「見なくていいの?楽しまなくていいの?主人の滑稽な成長具合を」
「構いません。価値の無いモノなので」
しかし、どんなに本質を暴こうと動いても。最後の一体は表情一つ変えることなく。冷たい言葉で返している。 いや、それどころか、サマーとリングの本質を指摘するような事を告げる。
「私の事を言う割には。貴方達も、内心は、甘えきって。構ってもらおうと気を引くために。わざわざ、傲慢で幼稚な事や言動を繰り返していますよね。ウィンには勝てないからと」
「なっ! 」
「はァ? 」
「貴方達こそ、素直になった方がいいのでは? ウィンのように素直に見せていれば、自然と構ってもらえますから」
「ぐぬぬッ…! 」
「テメェッ…! 」
逆に指摘を告げ返され、図星だったのか。それとも、侮辱行為と見なしたのか。苛立ちの表情を浮かべるサマーとリング。その状況に若干、置いてきぼりされるリアル。
若干、置いてきぼりにされながらも。
リアルは最後の一体をどうすれば一緒に暮らしてくれるのかを考えつつ、サマーとリングが自分の事を好いている可能性があると――、いいや、それは無いだろうと、すぐさま完全否定し考えることをやめ。改めて、最後の一体が。どうやったら、一緒に暮らしてくれるのかを考える。
説得がほぼ利かないようなハードルとガードの高い相手だから、どんなに心の底からの想いを伝えても、通じないであろう。それならば、どうすべきか。恐らく、最後の一体は自分の護ることを徹底する隠密さと罪に関しては自他共に厳しくする厳格さを引き継いでいるだろうから。リング同様にこちらも厳しくした方が効果的かもしれない。最後の一体に罪などは無いが。一緒に暮らすため、ここは敢えて、罪だと責め立てよう――。そう、リアルは考えをまとめて。最後の一体に対し、リングの時同様に厳しく責め立てる。
「悪いけど。価値観や思考が合わないだろうと。何だろうと関係なく、私は君も含めて、皆と一緒に暮らすよ。 身勝手な理由で創り生み出した私に罪や非があるのは勿論の事だけど。君にも罪があるからね。私という身勝手な者に創り生み出されて生きているという罪が」
「おや、説得方法を変えてまで。執着するのですね」
「どうやら、自覚はしていないようだけど。生きているだけで罪というのは、かなり重たい事なんだ。 人によっては、逆に死にたがりになってしまうほど。危険性の高い罪なんだ。そのため、」
「中身が空っぽの免罪を押し付けるとは、最低な魔法使いですね」
「……君はそうやって否定や拒絶を重ねて、罪から逃げていくよね」
「はい? 」
「そうやって、否定や拒絶を重ねて逃げるのは良くない。むしろ、そうすることで罪が増えていくんだ。 否定や拒絶をしたことにより、心が酷く傷ついてしまえば。最悪の場合、死に至る。それを覚えていないだけでも罪だというのに。それを自覚した上で、君はやっているから。相当に罪が重いよ。死に至る罪を何度も繰り返して、償う気もないなんて、酷い話だよ」
「何が言いたいのです? 」
「否定や拒絶を重ねて逃げたことにより、私が死んでしまったら、君はどう責任を取るの? いや、君に取ることはできないでしょ。君だって、どちらにせよ。私の後に死ぬのだから。 それなのに、責任がとれないのに、否定や拒絶を重ねて逃げ続けるなんて。最低だよ」
責任がとれないのに逃げ続けるのは良くないと、覚悟の無さを厳しく責め立てる。
時には否定や拒絶が必要だが、最後の一体のように何もかも全てに否定や拒絶を重ねているのは良くない。 否定や拒絶というモノだけでも、ネガティブなイメージが強いというのに。否定や拒絶をしたことで、死に至ってしまえば。問題は大きくなり、罪が重大で危険なモノとなる。それが、たとえ。法律やルールに違反しない事だとしても。合法だとしても。死に至る、死を与える、死を創り生み出すのは重いに変わりない。絶対に許されるべきことではないのだ。死はそう簡単に責任をとれるものではないのだ。だから、責任を取れないのであれば。どんな想いや思考であれ、否定や拒絶を簡単にしてはいけない。責任がとれないのなら、するべきではない。責任も、覚悟も無いのであれば、今すぐにやめるべきこと。そう、最後の一体に覚悟の無さを厳しく責め立て、それを少しでも償うために一緒に暮らすことを勧める。
厳しく責め立てた事で、少しは何か伝わったのか。
暫くの間、黙り込み。顎に手を添えるような仕草をして、真剣な表情で考え。
考え終わると、ベンチから立ち上がって、リアルの方へと距離を縮めていき。
「はぁ…、仕方のない人ですね。分かりました。折れましょう。九割は私自身の為に。残る一割は貴方の為に」
溜息混じり、そう言いながら。リアルに契約書とペンを差し出す。
ハードルとガードが高かったが、ちゃんと伝わったようで、最後の一体もリアルと一緒に暮らす事。 そして、使い魔になることを選んだようだ。
最後の一体も一緒に暮らすことができ、使い魔となり、リアルは心から安堵し。
すぐさま、契約書にサインを書くと共に。最後の一体に名前を名付ける。
「君の名前は、【フォール・クロックデザート】だ。これから、宜しく頼むよ! 」
――フォール・クロックデザートと。
そう、名前を名付けられるも。フォールの表情は何一つ、変わらず。何処か冷たく、淡々としたままだが。
「【フォール・クロックデザート】ですね。はい、わかりました。
私の名前は、フォール・クロックデザート。宜しくお願い致します。ご主人様」
自分の名前として、受け入れてくれたようで。
「おやァ、結局、同じなんですねェ? フォールもワタクシ達と同じなんですねェ? 」
「ハハハハッ。やっぱり、そうじゃねェーかァ。テメェも言えない立場であることは変わらねェーよなァ? 」
「黙りなさい。二人とも。フォール・クロックデザートとして。ご主人様の使い魔として。 先程も言った通り、九割は自分の為に。一割はご主人様の為に生きていくことを誓った以上は変えられませんから」
結局、一緒に暮らすことを決めていると。サマーとリングの二人にからかわれながらも。 これからは、フォール・クロックデザートとして。リアルの使い魔として。生きていくことを誓った。
「それと、ご主人様は貧弱すぎるので。明日から、立派な魔法使いにさせるために。 全てにおいて、ビシバシと厳しく鍛えさせることを誓わせていただきましたから」
「え? 」
「私達を満足にさせると。幸せにさせると。覚悟を決めて、責任を取るのであれば。 やはり、まずは体力作りなど。鍛える事から始めなければいけません。ですが、ご主人様の性格や思考等を考えれば。一人でやる場合、出来る事すら難しい。いえ、無理な話。そのため、使い魔として。役目を果たすべきだと判断いたしました。改めまして、これから宜しくお願い致しますね。ご主人様? 」
「え、えぇ…そんな、いや、うーん。複雑、す、すぎるよ……、あぁ、本当に世の中は理不尽で厳しい……」
いや、生きていくことをだけではなく。加えて、リアルの事をビシバシと厳しく鍛えさせることも誓って。 リアルの心に焦りなどを含めた複雑な気持ちを生み出していった。
こうして、リアルが創り生み出した四体全員、リアルと一緒に暮らすことができ、リアルの使い魔となった。 この先、使い魔達と暮らす中で。どうなるのかは分からないが。少なくとも、死に縋り求める事は減っていくだろう。 使い魔達は自分の欲望のままに、自由奔放に動き、自由気ままに言葉を発していくのだから。
――フォール・クロックデザート。
身長は181cm。体色は白が混じった薄い青色で、顔の輪郭は猫に似ており、猫の耳を横に少し太く、縦に細長く、先を少し鋭く尖らせたようなモノと悪魔のような尻尾を四本持ち。横に細長く少し鋭く、縦幅も狭めの青みのある暗い灰色の瞳に。口の中も瞳の色同様に青みのある暗い灰色をしており、鋭く尖った歯や牙が均等に並んでいる。感情の揺れ幅が少ない事もあってか、少し不機嫌に もしくは冷たく見える顔立ちと雰囲気をしており、声質も淡々とした渋い重低音で、性格もリアルに接する対応を見るに厳しく真面目なのも相まって、サマーとは違う怖さがある。服装に関しては、首元が空いた深く濃い青と黒に近い灰色が三角形に上下交互に組み込まれた襟のある、黒にも見える暗く深い藍色の身体の下先まで包み込む丈の長いワンピースを着用している。袖の上部分は暗めの灰色。下部分は暗く深い藍色をしており、丁度肘の下辺りには小さなピンク色のリボンが縫い付けられている。左側には、端先は薄く深い水色で、端先以外は薄ピンクと薄紫を入り混ぜた色をした、結ばれていない丈の長いリボンを襟の後ろから装飾している。 魔法や術に関しては、砂、土、地面、岩といった攻撃にも、防御にも使えるモノが得意なため。本来ならば、かなり忠誠的に守護する使い魔になるのだが。主人がリアルだったために、忠誠心は何処かへ行き、厳しさだけが残ってしまった。しかし、これから。心情などが変化し戻る可能性もあるため。厳しさに負けず、フォールの事は温かく見守るのが一番だろう。
―――
サマー、リング、フォールを連れて自宅へと帰ると。
「おかえりなさい。リアル様。……それと、三人も」
ウィンが玄関で律儀に待っており、温かい声色で迎え入れてくれた。
どうやら、ちゃんと約束を守り、お利口に外には出ず。待っていてくれたようだ。
これは和解すると共に褒めなくては、と。リアルは思い、ウィンの頭の上にそっと優しく手を置いて撫でる。
「うん。ちゃんと待っていてくれたね。偉いねぇー」
「…! 当然ですよ。リアル様のご命令ですから。それに、俺は出過ぎた真似を繰り返してしまいましたから」
「なんと、ちゃんと反省も出来ている! 凄く偉いねぇー! じゃあ、許してあげる! 」
「ふふっ。ありがとうございます」
ウィンと無事に和解して、これで今日の問題は全て終わったとリアルは安堵し。
ウィンは頭を撫でられて、とても嬉しそうな顔を浮かべ、和やかな空気が流れる、が。
「さっさと、動けェ。いつまでも立ち尽くしてんじゃねェ。邪魔だァ」
「あっ、痛ッ!? 」
「全く…、主はウィンの野郎に甘すぎるぜ」
いつまでも玄関から動かない二人を邪魔に感じ、後ろで待っていたサマーによって崩される。 サマーはリアルの背中を強めに片足で蹴り飛ばすと、ウィンとの扱いの差に小さな声で文句及び愚痴を零し。 リビングにある椅子へと、不貞腐れたように座る。
そんなサマーの態度と様子に。同じく後ろで待っていたリングとフォールの二人は不敵に嘲笑いながら。 リビングにあるソファーの上に仲良く一緒に座って、何か会話を繰り広げ。ウィンは一瞬、サマーを睨むが。すぐさま、気持ちを切り替えて。主にリアルへサポートをするための準備を始めようと、奥の部屋へと進んで行く。
そして、サマーに蹴り飛ばされたリアルは。
背中を抑えつつ、ゆっくりと床から立ち上がって。皆、本当に自由だと思いつつ。少しの間、サマーの事について考える。
あの時は、痛みが強烈過ぎて。不評や批判ばかり上げていたが、自分を助けてくれようとした、いや、助けて治してくれた事には変わりなく。今現在、魔力も。体力も。満タンで、特に問題もない。――いいや、それもそのはずだ。サマーは自らの生命力を分け与えて治してくれたのだから。治すために、自身の生命力を削って使用してくれたのだから。
もう遅いかもしれないが、サマーに感謝の言葉を、感謝の気持ちを、心の底からの想いを伝えるべきだ。
そう、リアルは判断し。自分の愚かさを心で責めながら、サマーの元へ行き。
「サマー」
「あ?何の用だァ? 」
「助けてくれて、治してくれて、ありがとう」
「はァ? 何が…、……!? 」
感謝の言葉と気持ちを伝えると共に。そっと優しく温かく、サマーの頭を撫でていく。
「本当にありがとう。サマー。
君は優しいね。偉いね。心が温かい使い魔さんだねぇ」
「…………? 」
「優しくて、いい子だねぇ、サマーは」
「……………」
よしよし、いい子だと優しく温かく頭を撫でて。想いを褒め言葉として伝えていく。 ウィンの頭を撫でた時よりも多く、優しく温かく頭を撫でて――。
「…………。
……は、…………ふ、な。…だよ。なんだよ、それ。気持ち悪いにも程があるッ! 」
「え? ――うわぁあああああああ!?」
撫でている途中で。突如、サマーは怒りに満ちた声を上げて。リアルの全身を炎で焼き尽くす。
理由も分からず、意味も分からず、全身を炎で焼き尽くされたリアルは驚きと絶叫を上げ。 炎が完全に消える頃には、黒焦げとなって床へと転げ落ち、そのまま気絶してしまった。 しかし、突如として焼き尽くしたサマーは悪びれることもなく。
「……ふん。全く、甘すぎる人間だァ」
見下した態度で、黒焦げになって気絶したリアルを見つめるだけだった。
一方、リングとフォールは突如して起きた事に少しの間、驚きを見せるも。
サマーの意図を理解すると、わざとらしく、聞こえるように、からかうように会話を再開する。
「あれが、サマーなりの照れ隠しと愛かー。これは、身だけじゃなく。心も焼き尽くされそうだねェ、フォール」
「流石にやり過ぎだとは思いますけどね。まぁ、でも。あれが彼にできる最大限の愛情表現なのでしょう」
「あァ? なんだ、テメェら。俺様の事を言えるような立場じゃねェーだろォ」
「やだァ、恥ずかしさのあまり。こっちも焼き尽くそうとしているわよ、フォールさん」
「素直に認めればいい事を…、これだから直情的な方は嫌なんですよねー、リングさん」
「て、テメェらァ。ふざけるも大概にしろォ…! 」
見事に会話の内容が聞こえたサマーは、二人の会話に苛立ちを強く立てて。
リアルと同じく、焼き尽くそうと。椅子から立ち上がり、片足を前に出して――、
「これは、どういうことだ。サマー……」
――出して、炎を手のひらの上で作り出している時。
背後から低く唸った声が聞こえて、振り返ってみれば。恐ろしく憎悪を含んだ形相をしたウィンが立ち尽くしていた。 恐らく、リアルの絶叫を聞きつけて。奥の部屋から急いで出て来て、現状を把握したのだろう。だとすれば、この先に起こる展開はただ一つ。
「いい度胸と本性だァ。最初に追い出した時よりも、凍てついた寒さを誇る冷水を浴びせてやろうォ――!!! 」
ウィンは冷気と激流を全身に纏いながら、サマーへと飛んで襲い掛かる。
この後、どうなったのかは誰にも分からない。
だが、リアルが気絶から覚め。ベッドから起き上がり、皆の様子を見にリビングに行く頃には、何事も無かったように終わっており。 ウィンが不気味なまでに笑顔を浮かべていて、サマーの機嫌がとても悪い事になっている以外は特に被害はなかった――。
―――
――【荒天カルテット】。
それは、荒天の如く。荒々しく自由奔放に動き回る四色の魔物のことを表す。
四色の魔物は主人となる者には行き過ぎるほど、異常なまでに甘く優しく、想いや愛を伝え。 主人ではない者。特に敵対者には勿論の事。同じく主人に仕える魔物には、残酷なまでに冷たく厳しく、排他的になる。 下手をすれば、容赦なく血を周囲に飛ばしながら死を創り生み出し。自分の欲望と主人の為だけに破壊を繰り返す。 とても危険性の高い魔物だ。
赤色の魔物は炎を自由自在に操り、素行が粗野粗暴で荒々しく、一番に血の気が多く傲慢であり、戦闘面では敵わない。
紫色の魔物は風を自由自在に操り、言動がのらりくらりとしていて読めず、一番に油断できない。
桃色の魔物は土を自由自在に操り、何事にも厳罰的で敵味方関係なく容赦なく、一番に壁として難易度が高い。
水色の魔物は水を自由自在に操り、主人を極度なまでに最愛しており、一番に主人以外に敵愾心や敵対心が強く、信頼を得るのが難しい。
しかし、主人が問題の事に対して動けば。主人が満遍なく魔物達を愛していれば。そのような惨劇や悲劇は起きることは無い。これといって、危険性は低くなる。死などは創られることも。生まれることもない。実に平和となる。
主人は魔物達とは違って、話が通り通じるタイプであり、変な恨みさえ買わず地雷を踏まなければ。 比較的、安全で平和。
だからこそ、主人は魔物達の為にも。周囲の為にも。この世界の為にも。生きなければならない。 死に至る事はしてはいけないのだ。死なせてはいけないのだ。どんなに死を縋り求めていたとしても。 主人だけは死なせてはならない――。
それが、古くからある予言としても。絶対に護り守るべきことだとしても。改変は禁止だと定められていても。 彼らは関係なく。愉快に。狡猾に。残虐に。利己的に。慈悲なく。軽率な色で。塗り替えてしまう。
ある者は自らの有効なる予言の力で、元からある予言を無効にする形で上書きし。
ある者は自らの物語を改変させる力で、歴史を歪ませ乱しながら連れていき。
ある者は自らの時空を変換させる力で、生きる者全てを混乱に堕とし混ぜ。
ある者は自らの存在を利用し運命を操る力で、意味の無い助言をして弄び。
ある者は自らの全てを破壊できる力で、どんなモノでも死に導いて。
ある者は自らの全てを創造できる力で、どんな色も増殖させて世界を黒く染まらせていくのだ。
何もかも全て。自分の思う通りに。自分が願う通りに。自分が求める通りに。
後先なんて、どうにかなると軽く踏んで。色をくるくるとかき混ぜ回してく。
だから、今回も彼らは。
全てを破り捨てて、主人と四色の魔物の運命を。世界の形を。物語の歴史を。塗り替えてしまう。
威風堂々と余裕な笑みを浮かべて騙り。意気揚々と愉快な笑みを浮かべて煽り。残忍酷薄に不敵な笑みを浮かべて責め。 悠々自適に柔らかく笑みを浮かべて待ち。傲岸不遜に煩く笑みを浮かべて消し。冷静沈着に静かに笑みを浮かべて遊ぶ。
主人と四色の魔物の運命を引き裂いて。
本当の【荒天カルテット】を導き出し。生み出し。創り出し。染め上げて。
――主人と四色の魔物の最後の時を待っている。
だが、勿論。それを阻止しようとする者もいる。
【荒天カルテット】とは違い。
煌びやかで鮮やかな彩りをした、敵対者以外には誰にでも優しく温かく寛容に接する四匹の使い魔を引き連れ。 彼らを阻止するため、【荒天カルテット】である四色の魔物とその魔物の主人を護るために、白い光を心に灯す者がいる。現れる。現れた。
薄暗い灰色の曇り空と荒廃し退廃的な光景と街並みが広がっていく、空気が冷たく静かな場所に足を運んだのだ。
「なるほど。此処が彼らと。四色の魔物さんとその主人様がいる場所か……」
「モノトーンの配色が広がる、落ち着いていて静かな場所ですわね」
「ここに敵である彼らと戦い。荒天カルテットの皆様を護るってわけか。いいじゃないか、新鮮で」
「そんな軽く言っている暇はないわよ。こうしているうちにも、奴らは近づいて企みを進め。魔物や主人の方は危険さらされているのだから」
「よーし!素早く!皆様をお助けして!速攻に!敵さんを倒して!安全に取り戻そう! 」
「ああ、行こう。彼らを倒し。四色の魔物さんとその主人様を護るために…! 」
「はい、カードご主人様」
「そうだね。行こう。カード陛下」
「ええ。そうよ、さっさと片付けるわよ。カード殿」
「はーい!行きましょう! カード様! 」
白い光を心に灯す者――、カード・ミドルラズベリーは。
四匹の使い魔を連れて、異様に冷たい地面の上を歩き出し。寂れた道を怖がることなく進んで行く――。
――主人と四色の魔物を護るために。