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名も無き宇宙人の擬態生活

作者: sordmany

 ドンッドンッドンッ。宙に舞う粉。台の上で伸びる生地。髭を生やした男が勢いよく生地に向かって叩きつけていた手を休める。水を一口飲んで男は棒に粉を振りかける。私は全身粉まみれになる。

「ふう。だいぶいい感じだ。だが、もう一押しといったところか」

男は額の汗を拭うと、私を手に取る。そして、大きく振り上げた腕をしならせて、思い切りのいいスイングで生地に一直線に叩きつける。私の上半身が生地にのめり込んだかと思った時、すぐさま、生地から離される。再び天井近くまで振り上げられたかと思えば、既に気づくと顔中に生地が纏わりついている。男は大きく息を吸い、手首を回して私を振り回す。

「よーし、いいぞ。オーナー就任記念に私の編み出した“ボルサリーノ打法”を試すとしよう。頼むからついてきてくれたまえ、私の愛棒!」

男は目にも止まらぬ速さで生地に向かい連打を浴びせる。息を乱すこともなく、乱れ打ちを続ける。それでいて均等に生地は伸ばされている。男の腕は確かである。しかし、外は既に暗く、時計の針は“12”を過ぎている。それでも、男は手を休めず、外から日差しが差した頃、手を止めた。

「出来た!私の技を余す事無く注いだピザ生地が!よく持ちこたえてくれた、私の愛棒!明日からもよろしく頼む」

男は棒を置き、前掛けを外すと、部屋を出た。静まり返った部屋で、私は擬態を解いた。

「・・・やっと、解放された。ひどい目に遭った。ここは危険だ。場所を移そう」

私は男に擬態して、店を後にした。


 私は港に着いた。そこに、一隻の船があり、貨物が積まれていた。私は貨物に擬態した。作業する人間に持ち運ばれ、船に乗り込んだ。私は疲労から眠っていた。目を覚ました時、既に船から運び出された後だった。私は擬態を解こうとした時、何者かの悲鳴が聞こえた。

「誰かー!お助け!」

「女!命が欲しくば黙って持ち金を寄越しな!」

「これは赤ん坊を養うため主人が働いて集めたお金でございます。渡すわけには参りませぬ!」

「ならばその命頂戴いたす!」

私は居てもたってもいられず、ピザ職人の男の姿になり棒立ちで見ていた。

「誰だ、お前は!見るんじゃねえ!」

「・・・」

「目障りなお前から斬る!」

頭にちょんまげを持つ男が私に向かい、斬りかかる。その瞬間、私は擬態した。

「なんでい!この刀は!」

男は女が逃げるのに気づき、刀を蹴り飛ばし、追いかける。その時、一人の侍が女を庇い、男に対峙する。

「女を狙うとは、見過ごせないな」

「お前が主人か!俺にはもう何もないってえのに・・・ええい!こうなったらやけくそだ!」

男がなりふり構わず斬りかかる。侍は男の太刀筋を見切り、躱す。男が外した反動で転げまわる。落とした刀を取ろうとした男の首筋に私が命中し、男は気絶する。

「やけくそになる気持ちも分かるが、超えちゃならない一線は超えちゃならない。それにしてもこの刀、誰の業物だ?試してみたいものだ」

私は侍の腰に差され、しばらく行動を共にした。峠を越えた侍が一休みするため茶屋に立ち寄った。複数人の侍が茶屋を通り過ぎる。その時、茶屋にいた先客を見つけると、刀を抜き、斬りかかる。その先客も刀を抜き、応戦する。侍は食べかけの串団子を置く。

「いい機会だ。お前の切れ味試させてもらうぞ」

侍は私を抜き、複数人の侍を次々に斬った。最後に残った先客は侍を見て驚く。

「貴方はかの有名な侍、シンメンタケゾウ殿か?」

「如何にも」

「拙者は貴方と戦う日を夢見ていた。是非手合わせ願いたい」

「ここは相応しくない。場を改めよう」

二人の侍は草の生い茂った場に移った。

「恐れながら、タケゾウ殿の刀は存じませぬ。一体誰の業物でございましょうや?」

「分からぬ」

「左様ですか。拙者は、代々受け継がれてきた名刀ムラサメで参りまする。今まで戦った相手の刀を折ったこと数知れませぬ。タケゾウ殿、ご覚悟なされよ!」

二人の侍の刀が猛烈にぶつかり合った。私は体から火花が散ったように感じた。次の瞬間、私の全身を生温かいものが覆った。

「ぐっ・・・ムラサメを折るとは・・・お見事」

「すまない。これはせめてもの礼だ」

侍は私を地面に突きさし、その場を去った。その場は静まり返っていた。その後、雨が降り出し、私は擬態を解いた。

「・・・ひどい目に遭った。というよりもひどい目に遭わせてしまった。こんなことをするつもりはなかった。許してほしい」

私は侍に謝り続けた。激しく降る雨で血を洗い流そうとしたが、完全には流せなかった。


 私は死んだ侍に擬態し、各地を放浪した。頭が朦朧としており、辿り着いた森の中で倒れるように眠った。私は物にも擬態できるので、何年でも何十年でも、また何百年でも眠り続けることができた。私は目を覚まし、久しぶりに立ち上がり、森の外に向かい歩いた。そこには同じ場所とは思えないほど発展した街があった。高い建築物の群れに見とれていると、何かにぶつかった。前を見ると、通行人の女性が倒れていた。幾つかの卵が割れていた。

「すみません・・・」

「きゃあ!見た目が変、それに、この人、血の匂いがするわ!」

女性が騒ぐので近くにいた男性が来た。話を聞いた男性は、折り畳み式の機種を取り、話した。

「今連絡しました」

「ありがとうございます。最近あまり見ない機種ですね」

「はい。使いやすいので使い続けているんです」

「分かります。私も最近スマホに変えたんです。それより、パトカーが来るまでその人見張るの手伝ってくれますか?」

「いいですよ」

私が困っていると、すぐに高い音を出しながら、赤いランプの車が到着し、二人の男性が降りた。

「この人です!」

「わかりました」

一人が私の前に、もう一人が私の背後に立った。私は危機を感じ、近くにいた四足歩行の動物に擬態した。そして、一目散に逃げた。

「どういうことだ!?猫に化けた。いや、逆に化け猫が元に戻ったのか!」

「どっちにしても未確認生命体だ。とりあえず追うぞ」

二人の警官はパトカーに乗り込み、連絡した。

「ただ今、宣託町内に、血の匂いを発する男性がいると連絡を受けた現場に到着。その後、男性に近づいたところ、猫に姿を変え逃走」

「ね、猫!?」

「もう一度お願いします」

「男性は猫に姿を変え逃走。信じがたいですが、未確認生命体として追跡中」

「ね、猫の特徴は」

「体長30㎝ほど、色は茶色、頭に三本の濃い茶色の模様がある」

「了解」

私の行く手を阻むように、あちこちで赤いランプの車が走っている。私は狭い路地に隠れたが、何故かすぐに見つかった。必死に壁を登り、建物の屋根に上がった。そして、屋根から屋根へ飛び移りながら、逃げた。下を見ると、赤いランプが群れを成して迫るのが見えた。私は眩暈がして、足を踏み外し、溝に落っこちた。町中の人が私の落ちた溝を見ていた。私は流されたが、なんとかしようと痛みを堪え、流れに逆らった。その時、溝の穴から声が聞こえた。

「はあ・・・なんで僕がエレクトをやらなきゃいけないんだ。ゴウキとかトクノスケとか相応しい人は沢山いるのに・・・逃げちゃいたい」

私は少年の独り言を聞き、親近感を感じた。その時、ふと力が抜け、私は流されてしまった。


 「大丈夫ですか・・・?」

目を覚ますと、白いワンピースを着た女性が私を見ていた。綺麗な人だ、と私は思った。

「綺麗ですね」

綺麗・・・?私は今まで自分の事を綺麗と言われたことはなかった。自分自身でさえも綺麗と思ったことはなかった。ある時は、粉まみれになったこともあった。またある時は、血まみれになったこともあった。さらに、下水まみれにもなったこの私の事を、綺麗と言ったのだろうか。

「水のように光を反射して、綺麗・・・」

その女性の純粋な目に見つめられて、私は恥ずかしくなった。血なのか下水なのか分からない強烈な臭いを放つ服で身を隠した。

「辛いことがあったんですね」

私は涙が出そうになった。彼女になら、自分の正体を明かしてしまってもいいとさえ思ってしまうが、私は堪えた。かつて擬態能力の優れた私は“特殊捜査官”としてあらゆる任務をこなしてきた。悪事を企む宇宙人と戦ってきた私は何があっても自分の正体は明かさなかった。今の私の任務は、自然豊かなこの星で体を休めることだった。その時、私は身の毛がよだつ波動を感じた。これは逆らえない。最後の最後で、任務は失敗に終わりそうだ。今までの過酷な任務が頭を駆け巡った。これが走馬灯というものか。辛い事ばかりだったが、それが私の生涯だった。意識が途切れる前に白いワンピースの女性の笑顔が見えた。この女性には不思議な力があると感じた。この女性に会うことが任務だったのかもしれない。風が吹き、女性は飛びそうになる麦わら帽子を押さえた。女性は見回すが、さっきまでいた宇宙人はいなくなっていた。

「あれ?」

しかし、宇宙人がいたところに、木の芽が生えていた。

「新しい命を授けてくれたんですね。樹の妖精さん」

その女性、シンメンヒナギクは笑顔で木の芽を見ていた。


 その頃、虹色に輝く剣は粉々に壊れた。ハデスは別れを告げた。

「いい役目を果たしてくれた。これで宇宙はしばらく平和になるだろう。しかし、シン・ガイア人とウルトラ人が持つ量を超える暗黒物質を持つ全宇宙人を私の最大の暗黒物質に飲み込む計画は完全なる平和をもたらしたとは言えない。生きていれば暗黒物質は溜まる。それと同時に聖なる物質を生み出す者も現れる。彼らが暗黒物質を抑える役目を果たさなければ、この宇宙はすべて暗黒物質に染まる。彼らこそ真の平和をもたらす唯一の存在なのだ」ウルトラの長、ゼウスは頷いた。

「彼らとともに我らは宇宙の平和を守り続ける。其れこそが我らの任務なのだから」


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