表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

3.花屋の店員 p.1

 怪我をして足を引き摺り気味に歩いていては、坂道は大変だろうと思い、私は、遠慮する女子高生を半ば強引にタクシーに乗せ、料金メーターをオフにしたまま、来た道を引き返した。


 式場入口に車をつけ、後部座席のドアを自動で開けると、女子高生は、恐縮気味に口を開いた。


「あの、いくらになりますか? 今、あまりお金を持っていないので、高いようでしたら、母を呼んできます。少し待っててもらってもいいですか?」


 そんな彼女に、私は笑いながら首を振った。


「お金は要らないよ」

「え?……でも……」

「ほとんど距離は走ってないし、それに、料金メーターを入れ忘れてしまった様でね。今回は、ノーカウントだ」

「……本当に、いいんですか?」

「ああ。大丈夫だよ。それよりも、きちんと怪我の消毒をするんだよ」


 彼女は素直に頷くと、車から降り、一礼して、式場へと入っていった。そんな少女の後ろ姿を見送ってから、私は、料金メーターをオンにする。それから、安全確認をして、ゆっくりと結婚式場を後にした。


 坂道をのんびりと下りながら、自身の妄想が、偶然にも現実と一致したことへの奇妙な興奮と、普段はあまりしない、小さな親切をしてしまった己が可笑しくて、思わず、くくっと声を漏らして笑ってしまう。


 まさか、あのご婦人と女子高生が、両家の親族だったりしてな。それか、祖母と孫とか。いや、流石にそれはないか。もしそうだったら、あの駅で、ご婦人が、彼女に気がつくだろうしな。


 そんな、偶然に偶然を重ねたような妄想をしつつ、私は、乗客を求めてタクシーを走らせる。駅付近の通りへ行けば、タクシーを探している客がいるかもしれない。


 通りへ出て、最寄駅へと向かってタクシーを走らせる。この辺りは、閑静な住宅街が広がっており、駅付近は、あまり発展していない。小さな駅前商店街が数十メートル伸びているだけだ。


 その商店街に差し掛かろうとしたところで、角の花屋からエプロンをした女性が紙袋を手に、飛び出してきた。駆けだそうとしているのか、慌てたように周りを見回している。道に飛び出されては危ないと、私は、走行するスピードを少し緩めた。


 速度を落としたところで、その女性は、こちらの存在に気がついたようで、大きく手を振った。どうやら、乗客のようだ。目論見が当たったことに、私は、一人ほくそ笑む。


 女性の前で車を停めると、後部ドアを開けた。すると、慌ただしく女性が乗り込んでくる。


「どちらまで?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ