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第4話:パートナー誕生の日

ワァァー!! 会場からは大歓声が響き渡る。それもその筈、つい数日前に入学してきたばかりの新入生と一般科生のペアが、学園の序列10位に勝利したこと事態が快挙と言える。大歓声が会場を埋める中、1組の男女が口を開く。


「『神器共鳴』か..。 中々面白そうなペアができたな。」

「あら、なんだか楽しそうね。」

 遠目の位置から試合の様子を見ていた男女は、静かに会話を続ける。


「こういう生徒が出てくることを期待して、降魔の振舞いを放任していたのでね。」

「酷い人。 その言い方だと、敢えて虐げられている生徒を見ぬふりをしていたに聞こえるのだけど?」

「確かに、そういう風に捉えれるな。 しかし、いつの世も時代を切り拓けるだけの強者は、虐げられていた者の中から生まれるものさ。」

 男の熱弁に女は、「そう」とだけ返し男女は会場を後にした。



「勇也の政策の成果が、遂に実ったというべきか。」

 観覧席で、試合を観戦していた学園長はそう呟くと、その隣に座っていた副学園長が口を開く。


「学園長、よもやあの訳の判らぬ出所不明の神器を扱う装者を、序列に加えるなどと言いませんよね!!」

 試合結果が気に食わないのか、副学園長は学園長に食い気味に質問する。


「今回の試合は、あくまでも神器決闘。 序列入替戦では無い以上、勝者の彼等が序列の席に座るかどうかは、序列会議に委ねるつもりだよ、副学園長。」

「何を呑気なっ..。」

 抗議を続けようとする副学園長に、学園長はこれ以上の議論の余地は無いと言わんばかりの、眼つきで副学園長を見る。副学園長は、「うっ」と気圧され観覧席から立ち上がり、逃げるように会場を後にする。


「これから彼等を中心に面白い事が起きそうだねぇ。」

 学園長は、まるで子供の様に心を躍らせながらそう呟き、会場を後にした。




「アンネリエ先輩やりましたね!」

 会場の大歓声が響く中、冬夜は勝利の余韻をアンネリエと共有すべく声を掛けると。アンネリエが倒れだす。冬夜は倒れだしたアンネリエを直ぐ様支える。


「大丈夫ですか、アンネリエ先輩!!」

 意識が無くなったアンネリエに、冬夜は声を掛けるも返事が無い。冬夜は、意識が無いアンネリエを心配していると、審判をしていたエーファが冬夜に声を掛ける。


「気を失っているだけだ新入生。 心配する元気があるなら、早く医務室へ連れて行かんか。」

 エーファの進言に、冬夜はハッとなりアンネリエをおんぶし、エーファに頭を下げ医務室へ走って会場を後にした。




「先生!! すみませんがアンネリエ先輩を見ていただけませんか。」

 冬夜は、医務室へ着くなり医務室の女医に駆け寄る。


「まずは、落ち着きなさい。 そこのベットが空いてるから患者を寝かせて頂戴。」

 女医は、冬夜を落ち着かせアンネリエをベットに寝かせた。女医はテキパキとアンネリエの容体を確認し、適切に処置を行っていく。一通りの処置が完了した後、女医は冬夜に向き直り言葉を掛ける。


「よし! 処置は終わったわ。 しかし、凄いわね。 モニターで試合は見てたけど、あれだけの攻撃を受けて打撲で済んでいるなんて。 日頃、凄く鍛錬を積んでいたのね。」

 女医は、アンネリエの怪我の具合を見て驚いていた。


「じゃあ先生、アンネリエ先輩は..。」

「そうね、この様子だと疲労もあるだろうから、1日もあれば目を覚ますと思うわ。 君もさっきの試合で疲れてるでしょう? 今日のところは、私に任せて君も帰って休みなさい。」

 女医の言葉に、冬夜は安心し「ありがとうございました」とお礼を言い医務室を後にした。



冬夜が帰りの帰路についている所に、正門で待ち伏せしていた光将が声を掛ける。

「よぉ! 凄い試合だったじゃねぇか! まさか、序列10位に勝っちまうなんてなぁ!」

「光将! ああ、今でもまだ勝った実感は沸いて無いけどね..。」

「まぁ、無理もねぇか。 相手は、あの序列10位だからな。 でもまさか、冬夜が神器決闘に乱入するとは思わなかったけどな。 って、アンネリエ先輩はどうなったんだ?」

「ああ、医務室へ送り届けたて医務室の先生に容体を見てもらったら、打撲と疲労で気を失ってるだけらしい。」

 冬夜の回答に、光将が驚愕する。


「神力による身体強化が切れた状態で、あんだけ神器で殴られて打撲だけって...。アンネリエ先輩は鍛え方が違うな、オレも見習わないとなぁ。」

「そうだね、僕ももっと頑張らないと。」

 2人は、試合の感想を話し合いながら寮まで帰るのであった。





 降魔と七草との神器決闘から3日後の放課後、冬夜はアンネリエに校外のカフェへ呼び出されていた。


「先日の神器決闘、力を貸してくれてありがとう。」

 アンネリエは、冬夜に深々と頭を下げお礼を言う。


「いえ、試合に乱入した身なので、お礼なんて..。」

 冬夜は、アンネリエの配慮を押し切っての乱入だった為、面と向かってお礼を言われると、少し後ろめたさを感じていた。


「そんなこと無いわ! 有馬君の助太刀が無ければ試合には勝てずに、私達の学園生活は虐げられ、何も得られないものになっていたと思うわ。 だから、自分で断っておいて虫のいい話だとは思うけど、お礼を言わせて欲しいの..。」

 アンネリエもまた、試合直前まで冬夜の提案を頑なに断っていた手前、最終的に力を貸してもらった事に申し訳なさを感じていた。


 2人の間に気まずい雰囲気が漂う。その気まずい雰囲気を先に断ったのは、冬夜だった。


「そういえばアンネリエ先輩、何か重要な話があるっていう事でしたが、どのような話でしょうか。」

「あ、あぁ、そうだったわね。 実は、試合中に起きたあの現象の事についてなのだけど..。」

 アンネリエからの重要な話とは、神器決闘終盤で発生した、冬夜とアンネリエの神器が光り出した現象についての事だった。


「あの後、私達の神器に起きたあの現象について、試合の審判をして頂いたエーファ教官に聞いてみたの。」

「あぁ、あの少し古風な話し方をする教官ですね。」

「ええ、エーファ教官は実践戦闘以外にも、様々な分野の知識に造詣が深い教官でも学園では有名なの。」

 冬夜は、「へぇ」とまだ関わりが少ない教員の有益な情報を聞き、直ぐにアンネリエの話に耳を傾ける。


「エーファ教官の話によると、あの現象は『神器共鳴』と言う現象とおっしゃっていたわ。」

「神器共鳴..。」

 冬夜は、聞き慣れない単語にオウム返しをしていた。


「そう、エーファ教官曰く、神器共鳴は神器の相性が良い神器装者同士の精神状態がシンクロし、限りなく高まった状態になると発生するものらしいの。」

「言われてみれば、あの時は降魔先輩に負けたくない一心でしたから、それで神器共鳴が発生したんですかね?」

 アンネリエの神器共鳴についての情報に、冬夜は少し心あたりがあったようだ。


「まぁ、あの時の現象が神器共鳴っていうのは、解りましたけど..。 重要な話っていうのはそのことですか?」

 冬夜は、あの時の現象が神器共鳴と言う現象と知れた事に感謝しているが、アンネリエが言う重要な話としては、そこまで重要と思えないでいた。


冬夜の質問から暫く、アンネリエはウジウジとしていたが、覚悟を決めた様に話だす。

「重要な話っていうのは、神器共鳴が発生した理由についてなのだけど..。」

「神器共鳴が発生した理由...。 あっ!」

 少し察しの悪い冬夜でも、アンネリエの言わんとせん事を理解した。


「そうなの。 神器共鳴の発生の前提条件として神器の相性が良い神器装者同士である必要があるの。」

「なるほど..。 となると、僕の神器とアンネリエ先輩の神器は同一系統の神器って事になりますね。」

 冬夜の神器は、自身でも把握できていない状態である。その為、アンネリエの神器と相性がいいという事は、アンネリエと同じ系統の神器であることが分かる。しかし、問題はそれだけではなかった。


「そうなの、でも私の神器も有馬君の神器同様、原典が不明の神器なのよ。」

 冬夜は、自身の神器の正体が解ると期待したが、アンネリエの言葉に冬夜は落胆したが、アンネリエは言葉を続けた。


「それでね、ココからは私からの提案になるのだけど...。 私のパートナーになってもらえないかしら。」

「えっ?」

 突然のアンネリエの申し出に、冬夜は思考が硬直する。硬直している冬夜に、アンネリエは話を続ける。


「何度か、パートナーを組もうとしたことはあったのだけど..。 その..。 有馬君程、一緒に戦ってて手応えを感じたのは初めてで..。 神器共鳴の件もあるから、有馬君さえよければなのだけど..。」

 アンネリエは、気恥ずかしさがあるのか、声が段々しりすぼみになって行く。アンネリエの申し出から一拍置いて冬夜は、やっとの思いで硬直から復帰し、アンネリエの申し出に精一杯答えた。


「はい。 僕で宜しければ先輩と同じ道を歩ませてください!」

 アンネリエは、冬夜の返答に安堵したのか、ホッと胸を撫で下ろし、言葉を発する。


「こちらこそ、貴方に出会えたことを嬉しく思うわ。」

 


ここに、世界の運命を担う男女のパートナーが誕生したのだった、




 冬夜とアンネリエは、引き続きカフェで会話をしていた。


「そうだ。 今更だけど、自己紹介をしていなかったわね。 私の名前はアンネリエ=ベールヴァルド。パートナーになったのだから私の事は、アンネって呼んで欲しいのだけど。」

「分かりました。 では、僕のことも冬夜と呼んでください。」

「ええ、分かったわ。 改めてよろしくね冬夜。」

「はい、よろしくお願いしますア、アンネ。」

 初めて年上の女性の名前を呼び捨てにする冬夜は、少し恥ずかしそうにアンネリエを愛称で呼ぶ。そんな意外な一面を見せた冬夜に、アンネリエはクスッと笑い言葉を掛けた。


「あら、以外に初心なのね冬夜は。」

「かっ、からかわないでくださいよ。 ...ア、アンネ。」

 甘酸っぱい掛け合いをしながら2人は頼んでいたコーヒーを啜る。すると、冬夜は一つの疑問が思い浮かんだ。


「そういえば、神器共鳴の事はエーファ教官から聞いたと言っていましたが、学園では神器共鳴については授業で教えて貰えないのですか?」

 冬夜の質問に、アンネリエは手に持っているコーヒーカップをソーサーの上に置き質問に答える。


「ええ、教えてはいないわ。 これは、一般的には知られていないのだけど本来は、神器装者が2人1組制度になった理由は、この神器共鳴を促す為に、この制度が出来たとエーファ教官がおっしゃっていたわ。」

 冬夜は、神器装者が2人1組制度になった背景を知り、更に疑問が深まった。


「そんな話は、教科書とかには無かったですよ。 教科書では、2人1組制度は神器の欠点を補う為に導入されたって、書いてありましたけど..。」

「ええ、表向きはね。 でも、この背景を公にしない理由は、同系統の神器間で発生するという所までは判明していたのだけど..。 」

 アンネリエは、息継ぎの為にコーヒーを一口飲み話を続けた。


「同系統の神器でも装者同士の相性が良くないと、神器共鳴時に神器から装者へのフィードバックが制御できなくて、暴走する事例が多発していたと聞いているわ。」

「は、なるほど..。 でも、そうなると現在でも相性がいい装者のメカニズムは解明されてないんですね。」

「...神器共鳴という現象を学園で教えてない所を見るとそういう事になるわね。」

 そう、神器共鳴が発生する神器装者のパートナーは、運命的な出会いに近いものであった。それを予め、エーファから聞いていたアンネリエは、冬夜へパートナーの申し出をした際に気恥ずかしがっていた理由であった。


 それから、冬夜とアンネリエは今後の方針について話し合い、カフェを後にした。





 翌日の放課後、冬夜とアンネリエは修練場に居た。


「パートナーになって早々なのだけど、私達の戦闘スタイルを決めておく必要があると思うの。」

「確かに。 先日の即興スタイルだと不安定ですもんね。 しかし、アンネは体調とかは大丈夫なんですか?」

 冬夜は、つい4日前に意識を失う程のダメージを受けていたアンネリエの体調を気にしていた。


「ええ、激しすぎる運動をすると打身で体が軋むけど、今回は流す程度だから問題ないわ。」

「..分かりました、では早速始めましょう。」

 アンネリエの体調に問題が無い事を、確認すると早速2人は戦闘スタイルの模索を開始した。


 2人が、戦闘スタイルの模索を始めてから2時間後、様々な戦闘スタイルを実践するも、今一つ2人がしっくりくるスタイルが見つからなかったので休憩を取っていた。


「中々、しっくりくるものが出来ませんね。」

「そうね。 まだ、出会ったばかりのだし焦る必要は無いわ。 ゆっくり模索しましょう。」

 アンネリエは、焦らずゆっくり戦闘スタイルを模索する姿勢見せ、焦る冬夜を落ち着かせた。


「休憩が終わったら、もう一度やってしっくりくるものが出来なかったら後日また、練習しましょう。」

「はい、アンネ!」

 冬夜とアンネリエは、それからしばらくして練習を再開するも、2人の戦闘スタイルが決まらず、その日2人は修練場で解散した。




 翌日、冬夜は学園に登校すると光将に戦闘スタイルの模索に苦戦している事を相談していた。


「やっぱ、アンネリエ先輩とパートナーになったんだな。」

「まぁね。ただ、1人で戦うのには慣れているんだけど、2人で戦うとなると中々難しくて。」

 光将は、冬夜の相談に頭を悩ませ「う~~ん」と考え込み、数分悩むと何か思いついた様に案を出す。


「そういえば、この学園の図書館は文献や兵法書、伝記が豊富に揃ってるって聞いたことがあるぜ。 図書館に行けば、何かヒントになるものがあるかもしれないぞ。」

「..なるほど! 早速、放課後に行ってみるよ。」

 冬夜は、光将のアドバイスを受け放課後、学園の図書館へと向かった。学園の図書館には、様々な文献、兵法書、伝記の写本が多く取り揃えられており、此処の資料で自身の戦闘スタイルを模索する生徒、神器の造詣を深める生徒は少なくない。


 冬夜は、手始めに戦国時代の兵法書から読み始めた。冬夜が図書館に籠ってから、1時間が経過しイマイチしっくりくるものが見当たらず、休憩を取ろうと図書館の休憩スペースへ移動していた時、ふと目に入った本が気になり手に取り中身を確認した。


「馬術兵法の指南書..。」

 冬夜とアンネリエの戦闘スタイルが、決まらない理由は冬夜のスピードにあった。冬夜の戦闘スタイルは神器による高速移動を元にしたスタイルの為、どうしても戦闘中はアンネリエとの距離が離れがちになるので、今の冬夜の実力では風の鎧を離れた相手に付与できない為、アンネリエの火力補助が出来ないのがネックだった。


 冬夜は、手に取った本『馬術の指南書』中身を確認すと、馬に乗った状態での剣、槍、弓等武器を扱う戦闘方法が記載されているページを読み込み、自身の中で何かが嚙み合ったのか、その本を借りて寮への帰路に着いたのだった。


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