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第3話:共鳴する神器

砂煙の中から現れた乱入者の正体は、新入生の有馬冬夜であった。突然の乱入者に、会場にいたほぼ全員が「誰だ? あいつ?」「見た事ない奴だな」などと呟き、驚きを露わにしていた。


「あ、有馬君? どうして貴方が..。」

 アンネリエは、乱入者の正体が冬夜だと分かるも状況が飲み込めないでいた。


「すみません、アンネリエ先輩..。 気づいたら勝手に動いてしましました。」

 アンネリエの問いかけに、冬夜は笑顔でそう答え言葉を続けた。


「やっぱり、アンネリエ先輩は凄いですね。 自身の身が危ないのに、最後まで自分の意思を貫き、他者を思う気持ちを捨てないなんて..。」

 虐げられている人達の居場所を、必死になって守るアンネリエの姿に、過去に魔獣から身を挺して守ってくれた両親の姿が重なったのか、冬夜は今も困惑の表情を浮かべるアンネリエに尊敬の眼差しを向けた。


そして、座りこんでいるアンネリエへ冬夜は跪き手を差し出す。


「そんな先輩だからこそ、僕は先輩の力にならせて欲しいんです! どうか、僕の力を使って下さい!!」

 ざわついていた会場に、冬夜の言葉が響き渡り再び会場は静寂に包まれた。冬夜の言葉を受け、アンネリエは数秒ほど沈黙した後、吹っ切れた様な気持ちになったのか、笑いながら冬夜の差し出した手を握り立ち上がる。


「有馬君。 貴方の思い確かに受け取ったわ! 貴方の力を私に貸して頂戴!!」

「はい! 喜んでっ!」

 一連の流れを、遠目に見ていた降魔が、パチパチと手を叩き言葉を発した。


「いやぁ、感動するぜぇ。 落ちこぼれのアンネリエに、遂に相棒ができてよかったなぁ..。 まっ、怪我人が一人増えるだけの事、さっさと再開しようぜぇ!!」

 降魔が挑発する様に言葉を発し、構えを取ったが、そこへ審判をしていたエーファ=フライフォーゲルが両者の間に割り込み制止を掛けた。


「まてまて。 勝手に話を進めるでない。 本来、神器決闘に乱入者が入る事は許されて追わぬ。 もし、このまま試合を続けたいなら、観覧席に居られる学園長の許可を貰ってからにせい。」

 制止に入ったエーファの言葉を受け、両者は観覧席に居る学園長の方を向いた。両者が学園長へ視線を向けると、学園長は渋めの声で言葉を発した。


「構わんよ、エーファ君。 元々、2対2で競い合うのが神器決闘の本懐だ、両者に異論がないなら続けてくれて一向に構わん。」

 観戦をしていたオールバックのがっしりとした体型の学園長が笑顔で試合の続行を了承した。学園長の言葉を聞き、エーファはやれやれといった感じでフィールドへ向き直ると、両者に向けて言葉を掛けた。


「だっ、そうだ。 では、仕切り直しと行こうかの! 試合...再開!」

 エーファの合図を受け、両者は再び向き直り構える。


「では、アンネリエ先輩少し離れてください。」

「え、ええ。」

 冬夜の言葉に、アンネリエは従い冬夜から少し離れると、ゴゥ!!と音がなり、冬夜の周りに風の渦ができ、冬夜の足が銀色に光り輝く。冬夜の足の輝きと風の渦が収まるとそこには、銀色の義足が姿を現していた。


「有馬君! 貴方、義足だったの?」

 冬夜の足が、義足であった事に初めて知るアンネリエは驚きを隠せないでいた。


「まぁ、その話は後程に。 アンネリエ先輩手を!」

「わっ、分かったわって...。 きゃぁ!!」

 冬夜の手を握ったアンネリエを冬夜は思いっきり引き上げ自身の左肩にアンネリエを乗せた。素っ頓狂な声を上げたアンネリエは、「何をするの!」と冬夜へ抗議の声を上げる。


「すみません。 でも、アンネリエ先輩は、先刻の打合いで体力は残り少ないはずです。 ですので、僕が先輩の足と盾なりますので、先輩は攻撃にのみ専念してください。」

 冬夜の提案にアンネリエは、納得できないでいるが、何故か冬夜の肩に乗るのがしっくり来ている自分に驚いていた。


(何故かしら、初めて有馬君の肩に乗るのに、凄い安心感を覚える自分がいる..。)


 初めての感覚に驚いているアンネリエに、しびれを切らした降魔が声を荒げる。


「おい! まだ準備が終わらないのかよ! どうせ、結果は変わらねぇんだからよ。さっさとしろよ!!」

 待たされている降魔が、イラついてる所に、七草が降魔に声を掛ける。


「ご、降魔君。 なんだか、さっきから嫌な予感がするの。だから慎重にいこう?」

 乱入してきた冬夜に、何かを感じたのか七草が降魔に提案をするも、待たされてイラついている降魔の耳には届いていなかった。


「うるせぇ! お前は、足止めをしながら毒矢で動けなくさせてりゃいいんだよ!」

 七草の神器「ヘラクレスの弓」は本来、ヒュドラの毒が塗られた矢を生成し放つ強力な神器だが、七草はヘラクレスの弓の力を引き出し切れていない為、当たれば即死の毒矢では無く、痺れて動けなくする毒矢しか生成できないでいた。その為、降魔は七草の力は余り充てにはしておらず、足止め程度の能力にしか思っていないのであった。


「それに、神力が底を付いたアンネリエと入って来たばかりの普通科新入生が相手なら、油断してても勝てるんだよ!」

 降魔が、声を荒げ七草へ怒鳴っていると冬夜とアンネリエの準備が完了していた。


「待たせたわね。 再開と行きましょうか、有馬君お願い!」

「分かりましたアンネリエ先輩! 最初は、慣らしを兼ねて駆け回るんで、その間に慣れてください。」

 アンネリエの言葉に降魔が反応し、やっとかという感じで構えを取り、七草は全体を見渡せるよう、フィールドの隅へ飛びのいた。


 冬夜は、降魔と七草が戦闘態勢に入ったのを確認すると、ゴゥッ!!と音を立てその場から姿を消した。急に冬夜とアンネリエの姿が消え、降魔と七草は驚き2人の姿を視認しようと必死に周囲を探す。すると、フィールド上空からヒュン!ヒュン!と風を切る音が聞こえた。2人は上空に視線を移すとそこには、フィールドの上空を冬夜とアンネリエと思われる人影が、残像すほどのスピードで駆け回っていた。


(凄い! 空気を足場にして空を自由に駆け回るなんて..。)


アンネリエは、空を駆け回という初めての経験に驚いていると、冬夜から神器の説明が入った。


「アンネリエ先輩、簡単に僕の神器を説明します。 僕の神器は、風を操る力と自身の脚力強化よる高速移動となっています。 今、アンネリエ先輩が高速で空を駆けても平気なのは、風の鎧をまとっているためです。」

 冬夜からの説明を受け、アンネリエは現在の状況を理解した。アンネリエの表情を確認し冬夜が、言葉を続ける。


「では、アンネリエ先輩これから攻勢に出ますので、合わせてください!」

「ええ、なんとしてでも合わせて見せるわ!!」

 アンネリエの準備が整ったのを確認し、冬夜は空中で切り返し、競技場の天井ギリギリまで上昇した。そこから、冬夜は勢いを付け、一直線に降魔を目掛けて駆け下りて行った。


 七草は、駆け下りてくる2人の狙いを察知し弓矢を放つが、冬夜の風の鎧に弾かれてしまった。降魔は、向かってくる2人を正面に据え、この状況を楽しんでいるのか、笑いながら撃ち落とすべく構えた。


「テメェらの攻撃、正面から打ち砕いてやらぁ!!」

 ドオォォン!! 2人と降魔が衝突し、轟音が会場に鳴り響いた。観覧席にいる生徒が衝突した3人の姿を確認すると、アンネリエの槍と降魔の拳が鍔迫り合い状態になっていた。鍔迫り合い状態から、降魔が拳を振り払い、冬夜とアンネリエは円弧を描き地面に着地した。


「くっ! 今のは中々に効いたぜ..。 だが、風を纏っている状態といい、空中を駆け回っている状態といい、神器の力を常に使っているとかなりの神力を消耗するはずだ。」

 

(確かに、降魔君の言う通り、降魔君や七草さんの様に要処、要処で神器の力を使うならともかく、今の状態を常に保持している有馬君の状態は、直ぐに限界が来てしまう。)


「そんなに飛ばして、俺をガッカリさせるなよ。」

 アンネリエが、冬夜のペース配分に気を取られていると、降魔は2人に飛び掛かって行った。すかさず冬夜は高速移動でコレ回避し上空へ逃げる。


「おい! 逃げ回ってるだけじゃあ勝てねぇそ!!」

 上空へ逃げる2人に降魔は、イラついていた。イラついている降魔を余所に、冬夜はアンネリエに次の提案をした。


「アンネリエ先輩、そろそろペースを上げても大丈夫ですか?」

「感覚はだいぶ掴んだけど、有馬君、ペース配分は大丈夫なの?」

 更にギアを上げる気でいる冬夜にアンネリエは心配になり問いかける。


「心配ないですよ、まだまだ余裕です。」

 心配するアンネリエに、冬夜は自身の余力をアピールした。冬夜のアピールに、アンネリエは若干の不安を感じつつも、冬夜の提案を受けいれた。


「そう..。 じゃあ、もっと速度を上げて、有馬君!」

「行きますよっ、アンネリエ先輩!」

 バンッ!空気が弾けた様な音がすると、降魔に2人は迫り攻撃を仕掛けていた。降魔はヘラクレスの獅子皮の力でコレを防ぐも、2人の姿は早すぎて視認出来ないでいた。


 攻撃を防がれた、冬夜はすかさず切り返し、2人は息を合わせて、降魔を中心に六芒星を描くように何度も攻撃を仕掛けた。


「グゥゥゥッ! おい! 七草ぁぁ! さっさと、この攻撃を止めさせろぉ!!」

 2人の嵐の様な攻撃に、少しずつ受け止めきれなくなってきた降魔は七草に、援護射撃を命令した。


「無理だよ、降魔君2人の姿を補足できなの!」

「チィィ!」

 降魔は、七草に援護要請をするも、七草では冬夜とアンネリエの姿を補足できなかった。カキィィン! ズァァ! ダァァァン! 降魔を中心に止まぬ攻撃音。数十分間にも及ぶ、2人の攻撃の嵐も降魔の限界をもって終了した。


 ドゴォォン!! 遂に、2人の攻撃で降魔のガードが緩み、アンネリエの鋭い一閃が降魔のガードを貫いた。その勢いで降魔は競技場の壁へた叩きつけられた。冬夜とアンネリエは降魔が壁へ叩きつけ、空中で降魔の出方を窺っていた。


「ガハァ...。 いったいどうなってんだぁ..。 あれだけ神器の力を使っておいて、まだ余裕の表情をしてやがる。」

 降魔は、数十分間にも及ぶ攻撃に曝されていたにも関わらず、攻撃をしていた2人が息切れ一つしていないことに疑問に思う。


「降魔君、大丈夫?!」

 壁に思いっきり叩きつけられた、降魔を心配し七草が駆け寄った。


 降魔を、心配して駆け寄ってきた七草を押しのけ降魔は、冬夜へ疑問を投げかける。

「おい、新入生! いったいテメェの神力はランク幾つだ! あれだけ神器の力を使っておいて、何で息切れ一つしてねぇんだ!」

 降魔の疑問に、アンネリエも同様の感情を抱いたのか、冬夜へ視線を落とす。そして、その疑問は、観覧席の生徒も同様であり、全員が冬夜へ視線を向けた。


「神力のランクですか? 入学時の結果でよければですが、確かランクは『SS』って診断されましたね。」


「「「「なっ!!」」」」

 一部の人を除き、アンネリエを含むほぼ全ての人が驚きを露わにした。それもその筈、神力ランク『SS』は現在観測されている神力ランクの中で最上位のランクであり、世界でも4人しかいないからである。


「ランクSS..だと?! 何で、テメェみたいなのが普通科生にいるんだ!」

「えぇぇ、そんな怒鳴られても..。 確か、合格通知書には、どの原典にも神器の特徴に該当するものが無く判別不能の為、普通科生としての入学となりますって書いてありましたけど..。」

 『神器装者育成機関レガリア』では、入学希望者が日本のみならず、レガリアが設立されていない国からも入学希望が来る為、詳細な能力判定は行っておらず、いくら神力ランクが高くても、特待生になるには、神器の知名度と神力ランクの2点が高水準であった場合となっているので、冬夜は普通科生での入学となっていた。


「なるほど、納得だわ。 確かに、学園の判定基準じゃあ有馬君はいくら神力ランクが高くても、神器の判定で知名度が分からなかったから、普通科生になったのね。」

 アンネリエは、冬夜の入学時の経緯を聞き、普通科生である現状を理解した。


「なるほど、お前が神力が果てしなく膨大なのは、判った。 だけどよぉ。 いくら、お前の能力が高くても、肝心のアンネリエの攻撃がこの程度なら、決め手に欠けるなぁ。 別にいいぜ、根競べは大得意だ!」

 降魔の言葉にアンネリエは、苦虫を潰したような表情になっていた。降魔の神器『ヘラクレスの獅子皮』は、あらゆる武器による攻撃を弾き、身に纏った者の体力と傷を徐々に回復する力を持っている為、アンネリエに決定力が無い現状状態では、2人が不利な戦況をなっていた。


(確かに、有馬君の風の鎧で私の攻撃の威力は、比べ物にならない位に上がったているけど、降魔君の神器を貫ける程ではない。)


 

アンネリエは、現状を打開するだけの力が、つくづく自身に無いことへ落胆する。落胆するアンネリエに冬夜が声を掛ける。


「アンネリエ先輩。 まだ、勝負は付いてません! 最後まであきらめないでください!」

 冬夜の一喝にアンネリエは、ハッとなり首を大きく振り、気持ちを切り替えた。


「そうね! 有馬君の言う通りだわ。最後まで抗って勝ちましょう!!」

 何とか持ち直したアンネリエに、冬夜は静かに頷き2人の意思が合わさった瞬間、それは起きた。2人の神器が突然光だし、まるで共鳴をするようにキィィィン!と音を立てだした。


「なっ、何? 何が起きて..。」

「分かりません、僕も何が何だか...。」

 自身達の神器に、起こっている事象に戸惑う2人。戸惑う2人を余所に、神器から発せられる光は、次第に落ち着いて行き、光は神器の周りを囲う様に安定した。



「すごい、神器から力が溢れてくる..。」

「僕も、神器からこんな力が発せられた事なんて、一度もありませんでしたよ。」

 2人は、自身の神器から流れてくる力に高揚感を感じていた。そして、互いに目線を合わせ、神器から溢れてくる力に2人は、何か確信に近いものを感じていた。


「アンネリエ先輩!」

「ええ、有馬君!」

 冬夜の掛け声にアンネリエは答えた瞬間、2人の周りに暴風の渦が発生した。


「なんだ? 何が起こっていやがる!!」

「分からない、こんな現象、初めてだよ。」

 降魔と七草は、目の前で起きている現象について行けず、ただ驚きの感情しか出てこないでいた。暴風の発生源は、次第に上空へ上げて行き、会場の中腹で停止し、暴風の渦が晴れ2人の姿が露わになった。降魔は、2人の姿を視認すると、直ぐに我に返り、怒りで表情を染めた。


「落ちこぼれのテメェ等が、俺を見下ろすなぁぁ! 落ちこぼれは落ちこぼれらしく、無様に地べたに這いつくばってろぉぉぉ!!!」

 ダンッッ! 降魔は勢いよく地面を蹴り上げ、冬夜とアンネリエに向かって飛び上がった。


「行きましょう、有馬君!」

「はい! アンネリエ先輩!」

 突っ込んでくる降魔に槍先を向けた。槍先を中心に暴風の渦が発生し、2人は降魔を迎え打つため、駆けだした。


「「『嵐帝・暴風槍』」」

 ズゥガァァン!! 降魔と2人の攻撃が衝突した瞬間、攻撃の衝撃波が会場全体に広がった。会場に衝撃画波が広がり数秒後、ドォォン!という音と共にフィールドに誰かが叩きつけられ、砂煙が巻き上がった。


「降魔君!!」

叩きつけられた誰は、降魔であった。パートナーの七草が駆け寄ると、降魔は神器の顕現状態を維持できずに気絶していた。七草は、降魔に目立った外傷は無く気絶している降魔を確認すると、安堵の表情を浮かべた。


冬夜とアンネリエは、ゆっくりとフィールドに降り立った。そして、審判のエーファがフィールドの中央へツカツカと歩いてくると、七草の方へ向き戦闘の意思を確認する様な目線を向けると、七草は横に首を振り戦闘の意思は無い事を告げた。


「此度の、神器決闘の勝者はっ、アンネリエ・冬夜ペア!!」

 エーファは、決着の宣言を大声で発した後、会場に居た生徒らはワッと沸き上がった。2人は、会場の歓声を聞きやっと、自身の勝利を自覚するのであった。



 ここに、神器決闘の勝者が決まった。


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