暫く経って後のこと
あの日から123日目らしい。正確な日付は分からないが、もう秋か冬になりつつあるのは分かる。上着が無いと少し寒い。家は中心市街地にある。未だ魑魅魍魎うずまくとも知れない、元凶たる光柱のある中心市街地だ。詳細な光環の観測の結果、光環の消滅時の半径が無限とすると、基本的に光環の中でムツデは突如現れ、そして襲ってくるのだという。しかし目も見えないのに、と思っていたら、光環の中では目が見えるらしい。そんな事まで分かれば、光環に入らないようにすれば良い。不規則とはいえ周期の最初は半径が小さく、後期になると半径が大きい傾向にあるらしい。さらに第12周期に入って、急速に光環の活動が低下したらしい。つまり今日や明日あたりが探索には最適なのである。急ぎ探索隊を結成し、我が家周辺を目標に向かう。途上に何体かムツデを見かけたが、活動が穏やかなのか、気付いていないからなのか、襲ってこない。大きな音を立てなければ大丈夫そうだ。江ノ口川を渡り、鉄道高架が東進から北上に向きを変える辺り。そこにある家に再び入ってみると、空き巣にでも入られたのか、色々なものが無くなっている。しかし鍵は掛かっており、窓や扉が壊された形跡は無い。まあ火事場どころかほぼ無尽蔵に時間があったのだから、形跡を残さない侵入なぞ、いと易きに違いなしと思った。幸い私の物は何一つ盗られていなかったので、上着と家宝の日本刀だけ取っていく事にした。探索と称して結局回れるだけの家を回り、探索隊のほぼ全員が帰宅を果たした。しかしいずれの家にも、誰かが入ったような形跡は無かった。誰もが帰らないまま、外で腐り落ちたか、或いはムツデの餌食となったのだ。学校に帰ると、上着を着ている事に皆驚いていた。帰るなら今のうち、そう言うと皆帰り、現実を知って帰ってきた。この日、我々「既に帰った者共」は、光柱の周囲にまで肉薄した。そして光柱の正体を知って驚いた。まず光柱の中心には、何も存在しなかった。そして更に、光柱の光は下から出ているように見えるが、見上げてみれば空の小さな粒から放たれる光であったのだ。誰かが国際宇宙ステーションのようだと言ったが、まさにその通りである。だが確かに、小さな星粒にしか見えないその物体は、我が町の中心市街地を照らしていたのだ。恐らく別の場所でも同じような事をしているのだろう。自衛隊などでさえ動かず、警察すら殆ど機能していない現状。なのに電気や水道は生きている。この理由がまだ謎だが、少なくともこの光柱については検討が付く。人智を超えた存在だ。地球外生命体か、或いは怪物か、何にせよ人外の仕業であろう。その上で、全く機能していない公共機関に対して、それでも何とか生き延びられた我々。その違いは何か。最初のあの日、積極的だったか、消極的だったかであろう。あの日積極的に対応したであろう警察や自衛隊、その他大勢は十数日に亘り徹底的に抹殺された。それに対しその間籠城という極めて消極的な手段に徹した我々は、その無力さ故に歯牙にも掛けられず、結果として助かったのだろう。しかしそれ以後、ムツデを爆破したり、焼却したりと、中々に派手にやっているが何故我々は滅亡していないのか。そこが気になる点である。
光環がここまで小さければ、全体像もよく見える。直径30mほどの円。五角形の対角線のような星型を包むように円がある感じだ。星は左回りに回転しており、その速度は一定だ。10秒とちょっとで一周する。この光環の中心は正確に交差点の中心と一致しており、宇宙からのものであればその精度は凄まじいものだ。それを考えていると、どこからともなく聞こえてきた音があった。
??「ふふ…遂に気付きましたか…」