目には目を、歯には歯を、脅威には脅威を
灯火管制1日目。食糧はあと3日保つ、と報告した。最早臨時会長よりも私の方が報告していて、臨時会長は議長くらいの役職になっている。そして外出者は分かる限りの情報を黒板に書き記し、共有する情報をなるべく多くした。今この町には、ゾンビよりも恐ろしいものが沢山居るらしい。1つは新しい買い怪物。もう1つは謎の生存者。そうして定例会議の後の情報共有会を終え、午後10時。籠城2日目頃に風呂に入れないから、という事でティッシュなどを水に濡らして拭くようになったが、それももう足らなくなっているらしい。しかし何故電気や水道が無事なのだろうか。非常に助かるのではあるが、管理者が生存しているのか、或いはこの騒動の犯人が維持しているのだろう。少なくともわざわざこの学校を含め市街全域に送電するとすれば、この2択だろう。一般人が占拠しているのなら全てを維持する必要性はない。ならば今一番の問題はムツデだ。為す術なく敗れたものの、逃げ延びる術は獲得した。しかしあの怪物が侵入した時に備えて倒し方も知らねばならない。出所不明の怪物。せめて1体あれば、と科学部の連中が言ってくる。物理攻撃が効かないなら、という事で研究が進んでいた新兵器。当初はゾンビ対策だったが、ニトログリセリンの合成に成功し、無理矢理ではあるが紙粘土や紙に吸わせてみたのだ。実際の効力は不明だが、あまり大きな音を立てる訳にもいかず、ダメ元の対処法で、との事だった。それに慎重な扱いが必要になるため、合成道具だけ持って行き、現地で生産する事が考えられた。結局は運搬が危険という事で現地合成となり、材料とレシピだけ持っていく事になった。しかしかなりの材料量。グリセリンに、濃硝酸に、濃硫酸。持っているだけで既に生きた心地がしない。専ら迎撃用途で用いられる事が想定された。場所は一度行った家。そこに材料を持って行き、ムツデが来たらニトログリセリンにする。準備が出来、ムツデを誘き出すために数人が散って大声で狂い叫ぶ。やはり最前線は生きた心地がしない。すると、誘導に成功したのか、こちらにやって来る。瓦礫に隠れて合成し、道路に撒いた。後はここに刺激を与えるだけだ。急いで逃げる。事前に付近の木造住宅にも染み込ませておいたが、効果の程は分からない。ムツデが迫ってくる。30m、25m、20m。撒き終わった私達が横道に逸れて全力で走る。そしてオトリ役が裏山に向かって走る。15m、10m。5m。水溜りを踏みつけたムツデは爆発に巻き込まれ、派手に砕け散った。幸いこちらに大怪我は無かったが、数人が怪我した。そしてムツデの残骸を回収する。上手くいって良かった。帰還すると、早速残骸の解剖が行われた。同時並行で1階の清掃が行われた。既にその惨状を見ている有志で、これから階下に下りる者が同じ思いをせずに済むように、との事だ。まあ外に出れば同じようなものだが、何せ雨風による損壊が少ない分、白骨化しにくいのだ。その結果として見るも無残な姿になっている。それをモップや箒で1ヶ所に集める作業だ。多くの者にとって師だったり、友人だったりする者の死骸を見るのは辛い。しかしそれを埋葬せねば何も始まらない。そう思いながらも、全て庭に埋葬し、1階の浄化が取り敢えず完了した。水があるお蔭でかなり早く進んだが、壁に散った血飛沫などは中々落ちない。ムツデの残骸からは石が取り出された。紅色の宝石のようなものだったが、消化器ではなく首の所から取れたらしい。何かの縁だろう、と思ってそれも庭に埋葬した。暫くして日が沈むと、取り敢えず一段落ついたよう感じがする。友人に寺の息子が居たので、般若心経を唱えてもらい、簡易葬を行った。真言宗様式だったが、他宗派や他宗教でも哀意が伝われば問題ないだろう。木魚や焼香はおろか金一丁ですら楽器で代用する有様であったが、それでも葬式にはなった筈だ。
一方これを見つつ、黒い服装に身を包んだ男がこう呟く。
??「あのキメライズド・チュパカブラを倒すとは…」