籠城戦の限界
夜。もう何日経ったのだろうか。恐らくカレンダーに毎日記している者や電波時計を持つ者にしか分からないだろう。私の時計は安物のアナログ時計で、日付までは分からない。ただ1つ分かる事は、市街の夜闇に浮かぶ光は最初の日より明らかに減っており、火の手が上がって数日間燃え続けた後、黒く沈んでしまった所もあるという事。つまり他にも生存者が居たが、何らかの理由で全滅したか、或いは隠れているかしているという事だ。最初の頃は図書館や幾つかの学校も光っていたのだが、今では山間部くらいのものだ。逆に言えば、まだ山間部は無事なのだろうか。そんな事を考えながら、眠る毎日が続いた。しかし食糧もいつか限界が来ると思っていた。水については水道が生きているので全く不便は無いのだが、あと600食、つまり2日分くらいしか無いのである。よく昔の籠城戦では木の皮や雑草を食べたとあるが、ここにはコンクリートしかない。どうすべきか案を募ったのはもう数日も前だが、突撃案くらいしか根本的解決にはならない。しかしただ突撃しては、他の闇に沈んだ生存者と同じだ。恐らくは食糧問題でその場を去ったのだろう。まずは外の様子を、といって久々に昼間にバルコニーに出てみると、ゾンビのような怪物たちが腐っているのだ。もう動かないだろう、と思って試しに3階から椅子を投げてみたが、何も反応がない。これは好機だ。ゾンビは時間が経つと腐る。我々は持久戦に勝利したのだ。しかし、では何故光が消えた所は「復活しない」のか。10日前から夜景をメモ帳に小さくスケッチしているが、光の数は半分ほどに減っている。電気も水道も、何故か無事なのに、だ。普通ならあり得ない。電気と水道と食糧があれば、どうにかなる筈だ。ならば普通なら、拠点を中心に動くのではないか?しかし光が消えたという事は拠点を放棄した証拠だ。そう推論を述べると、確かに感心はされたものの、外に出ない事には分からないという意見が大半を占めた。奴等が腐敗したのだ。何ならもう自由ではないか。そう述べる者も居た。しかし何かが気がかりなのだ。数日前まで残っていた、一番近い発光源であった家とは、夜10時頃に光の点滅で互いに生存確認をしていた。しかし突然それが無くなったのだ。それどころかその家自体が暗転し、夜闇に沈んでしまったのだった。何があったかは分からないが、この学校に電気が来ているという事は、恐らく停電ではない筈だ。しかし食糧問題は深刻だ。そこで外出部隊を結成した。2部隊結成し、1つは少し南にある無人と期待されるスーパーから食糧になりそうなものをなるべく強奪する。しかし途中で何かあった場合は全てを放棄して急いで帰還し、状況を伝える。それが出来そうにない場合であっても、部隊の書記役が何かを残しておく。命の価値とはこういうものだ。活かせるだけ活かし、もし「生かせない」としても最大限に活かす。そしてもう1つの部隊は、単に興味本位だ。数日前に夜闇に沈んだ件の家の周辺に向かう。可能ならそこまで行く。勿論この部隊を率いるのは私だが、食糧部隊についてはAが率いる事となった。あの恐怖を知る者として、我々2人は臨時会長に懇願されたのだった。