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すべてのはじまり

今日はいつになく晴天である。この季節としては珍しく、快晴とも言うべき天気だ。町には南に口を開いた大きな内海があり、そこから4本の川が流れている。市街は主にこの内海・浦戸湾よりも西にあり、殆どはそこで事が足りる。市街の中心には東西と南北に貫く電車通りの交差点がある。ここを南に下ると、我が学校がある。朝8時。北の窓を眺めていると、丁度その交差点辺りか。何やら光の柱が立ち上がっている。すると次の瞬間、そこから同心円状に3つの円が広がり、円に包まれた地域全体が光り始めた。この不思議な現象を何としても記録せねば。そう思って友人が偶然持っていたカメラで撮影を始める。しかし数分後、別の友人・Aが何やらひどく怯えた顔でやって来た。

「危なかった…ここも安全か分からん…」

何があった?と訊くと、交差点にAが居た時、紫色のいかにも危なそうな煙が電灯から漏れ出し、その煙を吸った人が続々と倒れた。介抱していると苦しみ始め、息もしなくなった。AEDを取りに行き、戻るとまるでゾンビ映画のようになっていたという。逃げ遅れた事に気付いた彼は自転車を取って急いで学校まで逃れ、同じように逃げてきた人々で学校の扉という扉を封鎖した。幸い、向こう側の状況をこの校舎から見る事が出来る。すると、あの光っている地域からはゾンビが出てきていない。近寄らなければ大丈夫なのだろうか。南から来た人は状況も知らぬまま校舎外に放置されている。取り敢えず封鎖を解除したらどうか、という事で封鎖を一部解除した時、丁度この光が無くなった。そしてゾンビが市街の南北を隔てる鏡川に架かる橋を渡り始め、興味本位で近寄っていた野次馬が血塗れになっていった。急いで封鎖するよう階段を下りて知らせに行くと、それを知った皆はパニックに陥った。しかしここを封鎖しないと。結局全て封鎖する事は叶わず、階段を封鎖するに留まった。こうして我々は1階を喪失した。

外の状況もあまり分からぬまま、遂にゾンビのようなものは学校周辺にも迫ってきた。誰が生きていてももう開けるな、と言ったのにも関わらず、封じた防火扉を開けて次々と人が入ってくる。このままではあっという間に終わってしまう。生存者は3階へ避難させ、2階を緩衝地帯とする事にし、避難誘導を開始した。最初は何故お前がいきなり仕切り始める、等という声が聞こえたが、大勢(たいせい)が従ったからには従うらしい。こういう恐怖が独裁政治を生むのだろうか、とも思う程に従順である。こうして2階から戦略的撤退を成功させ、上ってくる者については、取ってきた瞬間接着剤を使い切るほどに外側の開口部のノブに塗る事で内側からしか開けられないようにした。非情ながら見捨てたのだった。こうするしかなかった。防火扉を閉めてしまったので、外の様子が直接は分からない。ただ3階から眺める限りは、校舎は包囲されていると分かる。これでは裏山に逃れる事も出来なさそうだ。生存者のうち各クラスから代表者を集め、最上階の1部屋を使って状況確認をする事にした。本来ならまとめ役といえば生徒会あたりだろうが、早くに登校する癖のある副会長くらいしか生き残っていなかった。そのB君を臨時会長にまつり立てて、情報交換を行った。階段を塞いだ事については非難轟々であったが、それでも皆を3階に移していたので、直接助からなかった友人を目にした者は居なかっただけあって、まだマシな方だったと思う。現状は、3階以上に避難、2階を緩衝地帯として籠城状態だ。食糧は災害時備蓄を使うとして、生存生徒数は273人。かなり助かった方だろう。教員は一体、となるだろう。教員らは総出で1階に防衛線を築こうとしたが、自分たちが許可を得て、2階の防火扉を1つ残して全て封鎖し終わった頃だった。念のために開けている最後の扉を、いつでも塞げるように待機していると、目の前で防衛線は崩壊し、仕方なく塞ぐ時、逃げてきた教員らを取り残したのも目撃した。しかし数m先には見たこともない程に血塗れの見知らぬ人々、いや怪物共が居て、かろうじて逃げ延びた教員らとともに助かるかもしれないのを選ぶか、見捨てて確実に助かるかを考えた時、Aと私の間では後者が勝った。無言のうちに同意し、問答無用で封鎖した。事前にドアノブを塞いで、あとは閉めるだけにしておいて良かったと、この時ばかりは思った。ありのままを話せば当然また非難されるだろうと思い、咄嗟に私は教員らが「自分達は良いからお前らが助かれ」と言った事にした。自らの命が掛かっている時、わざわざそんな事を言う人は居ないだろう。それが自分の親族でも無い限りは。そう思うものの、中々に良く出来た嘘だったのか、それとも自分達が見捨てた事を正当化するためにそう信じたかったのか、どちらにせよ信じてくれた。疑いの欠片も無かった。総勢273人での籠城戦に足る食糧は流石に無いだろう。そう思って食糧配給は1日1回の軽食とし、全食糧を生徒会室に運び込んだ。生徒会は副会長を除き全滅した模様なので、Aや私などの数人は臨時生徒会にスカウトされた。臨時生徒会は各学年と連携を取り、1日1回、夕方5時に代表者で集まって、会議を開く事とした。そしてそれ以外の時間は只管、耐久戦だ。食糧配給は会議後の6時。生存確認のための点呼は朝夜2回。男子生徒は防火扉前で交代制の見張り番をし、有事にはすぐに避難できるように貴重品は全て屋上に置くが、平常時は屋上を立入禁止とした。基本的に各教室待機となったが、教室が無くなった者には空き教室などを融通した。というのも防火扉は各階と階段を封鎖するもののため、常時塞いでしまえば各階は孤立する。そこで階段に見張り番を置いたは良いが、些細な会話が怪物共を呼ぶかもしれない。興味本位で2階よりも下に下りる者が居るかもしれない。奴等が上ってきた時に階段に防衛線が無い。これはこれで心配なので、開閉を行う階段を1つに限定し、各踊り場に砦を築き、そこと防火扉に見張り番を置いた。マニュアルは手書きのものを印刷機で回した。実は、幸い電気は通っているのだ。これが発電所や変電所は無事、という保証たりえるのだから。


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