大晦日にありがちな話
現代のストレス社会に立ち向かった戦士田中の末路は・・・
大晦日と聞かれて何を思い浮かべるであろうか。人によっては除夜の鐘であろうし、年越し蕎麦だと言う人もいるであろう。あるいは紅白歌合戦を思い浮かべる人も多いであろう。
令和元年、大晦日の夜、田中は実家に帰省し趣味の人形遊びにふけっていた。熊や兎、猫などの人形で遊ぶのである。
「わっはっは、僕は熊のモルネーだよ。とっても力が強いんだ。」
「そうかい、俺は兎のニンダだ。足の速さなら誰にも負けんぜ。」
「私は猫のデイラよ。歌がとっても上手なの。」
成人した田中が独り子供部屋で人形遊びにふけるのを見て見ぬふりをする情けが田中の両親にも存在した。そのような慈悲深い両親でなければ田中は人形を取り上げられ、書類送検されていたであろう。
田中は学習机の上に並べた人形を、持ち替え持ち替えしつつ、物語を進めていく。
「僕は力がとっても強いから君たちをお餅みたいにすることができるよ。」
田中の内なる狂気が発露した瞬間である。
「そうかい、俺は足が速いから逃げることにするぜ。」
そう言うやいなや、田中は兎の人形をベッドのほうに放り投げてしまった。
「どんがらがっしゃーん。ニンダは勢い余って壁に激突してしまった。一回休み。」
などと呟きながら田中は兎の人形を拾い足元に置いた。
「私は子守唄で貴方を眠らせることができるわ。」
そういうと田中は猫の人形をメトロノームのように一定の周期で揺らし始めた。デスクライトだけが灯る部屋に猫の人形の影が不気味に揺らいだ。数十秒ほどたって、田中は満足げな顔で猫の人形を熊の人形の前に置いた。
「ふぅああ、なんだか眠たくなっちゃった。僕は眠るね。」
「モルネーは勢い余って永眠してしまった。一回休み。」
そう言って、田中は熊の人形も足元に置いた。
「わぁ、なんだか私が勝っちゃった。来年は猫年ね。」
「放送席、放送席、今日は京都府在住、主婦のデイラさんにお越しいただきました。今日は必殺の子守唄が見事に決まりましたが、今のお気持ちは?」
田中はマイクを向けるかのように猫の人形に握りこぶしを差し出した。そうしてから、少しの間、ふんふんと独りうなづいていた。
ところが、いきなり猫の人形をつかむと壁に向かって放り投げた。そうして、急に大きな声で叫びだした。
「私が何をしたって言うんだ! なんで私ばっかりがこんな目にあわないといけないんだ! こんな世の中、間違っている! ああああーーー! もう嫌だ!」
田中のキレ芸である。人前で披露したことは無いが、今年も一人でキレ芸に磨きをかけてきたのである。
「あああーー! 逆に何もしてないから駄目なの!? 私ももっとお給料とお休みが欲しい! 海外とか行きたい! 何でなの! 日本は裕福な国じゃなかったの! なんで!?」
支離滅裂である。
田中はわーわーと泣き出すと、ベッドに飛び込み、布団に顔をうずめて、しばらく泣き続けた。田中もストレス社会の被害者なのである。
そうして、数分がたつと気も納まったのか田中は泣きやんだ。
「いい匂いする。お日様の匂い。」
勘違いである。
「もういいや、寝よう。来年なんか来なければいいのに。」
そう言って令和元年、大晦日の深夜、田中は床についたのであった。
もっとお休みとお給料欲しい!
5000兆円欲しい!