残酷の蕾
返り血を全身に浴び、真っ赤に染まったアルフレッドが次の獲物へと視線を向ける。
視線の槍で貫かれたゴブリンが焦りと恐怖を孕んだやけくそ気味な咆哮をあげ、アルフレッドに斬りかかった。
アルフレッドは大上段に掲げられた両手剣が自身の頭を捉える遥か前に、右の長剣を煙る様な速さで動かし斬り落としを行い、剣を握ったその両腕ごと地面に叩き付ける。
敵に悲鳴を叫ばせるよりも速くアルフレッドは呟く。
「ブーツに『硬質化』『威力上昇』を付与!」
直後、アルフレッドは長剣を振った勢いを余すこと無く利用し、右の回し蹴りをゴブリンの側頭部に叩き込んだ。まるで爆発でもしたかのように頭がこめかみから弾け飛び、ゴブリンの体がいとも容易く宙に舞う。
間髪入れずに半狂乱になった獣人族の一人がアルフレッドに剣撃を叩き込もうとするが、それを難なくいなしアルフレッドは敵の体を真一文字に斬り裂いた。
斬り裂かれた上半身が赤い華を咲かせ、残された下半身は崩れ落ちる。
さらなる返り血にうんざりしながらも左の長剣を振り血を払い、そのまま腰の収納魔道具に納める。
敵の訝る様な視線を無視し、アルフレッドは油断無く右の長剣を体の中心に構える。
腰を落とし、アルフレッドは空いた左手で土を掴んだ。そして力強く地面を蹴ると同時にブーツにマナを流し込む。
マナを流されたブーツは魔道具としての本領を発揮する。
『速度上昇』『跳躍力倍加』『瞬発力増加』に次ぐ第4の効果『飛翔』が発動し、アルフレッドの体が宙に浮く。
敵のざわめきを眼下に納めながらアルフレッドは更に上昇を続け、あっという間に地上から八十メートル程の所にまで舞い上がった。
視線を下に向け、残りの敵の数を把握する。
約五百二十人位だろうか大小様々な人成らざる者達が、死神でも見た様な顔をして固まっている。まあ全身を血で染めた少年などお伽噺に出てくる死神そっくりだろうが。
関話休題、アルフレッドは敵を見下したままで詠唱を開始する。
「手に保持している土に付与『マナ装甲無効化』『貫通』『追尾』『着弾時爆発』『威力上昇』『硬質化』『強靭化』『体積増加直径0.1mm』『金属化』『二連続付与』を付与...。」
ちなみに『二連続付与』とはその名の通り付与を二回連続で行うという付与魔法のことで、全ての付与術師の憧れだったりする。
効果は付与魔法の定義を根本から覆す『効果を二回連続で発揮する(二連続付与以外)』というものだ。
つまり今回の場合『マナ装甲を無効化し貫通属性を持つ上に追尾してきて着弾時に爆発し、さらに威力の上がっている硬質で強靭な直径0.1mmの金属が二回連続で襲って来る』というかなりえげつない魔法に仕上がってしまっている。
しかも手に保持している土の全てを対象にしたため、数え切れない程の極小殺人兵器が出来上がってしまっている。
完全にオーバーキルだ。だが止めてやるつもりも毛頭無い。
アルフレッドはこれから起こる光景を想像し、死神もかくやというほどの残酷な笑みを浮かべた。