戦闘準備
さてどうしたものか。
こちら側の兵力を出来るだけ失わないようにと、アルフレッドが立てた作戦は余りにも自身への負担が大き過ぎる。しかも、鬱憤を晴らしに行くためなどと言ってしまった手前、絶対に失敗できない。まあ失敗する気など微塵もしないのだが。
五千人の一般兵は全く持って問題ない、しかしマナ戦闘兵の六百人の方はかなり面倒くさい。
元々アルフレッドはマナ戦闘が行えず、マナ強度、総量共に一般市民といい勝負が出来る程度なのである。
そんな人間がマナ強度、総量共に圧倒的に上回られている異人族に普通は勝てるわけが無い。
そこでアルフレッドお得意の付与魔法と魔道具の出番である。
そもそも魔道具とはマナ強度、総量が少ない者の為に作られた道具なのだ。
その為マナ強度の強すぎる異人族は魔道具を使えない。もし使おうとしたら魔道具のほうが強すぎるマナに耐えきれずに大規模な爆発を起こし、半径三十メートル程のクレーターが出来上がる事だろう。
閑話休題、アルフレッドは体に仕込んでおいたマナ増幅装置に残りのマナ全て-と言っても微々たるものだが-を注ぎ込む。
マナ増幅装置が起動した瞬間、アルフレッドの体に大量のマナが吐き出されていく。
許容力ギリギリまでマナを溜め込み、体の内側から臓物が出てきそうな感覚に陥る。
それでも増幅したマナをされにマナ増幅装置に送り込む。
体の内部の奥底から、強烈な圧力を感じながらもアルフレッドは敵軍目掛けて地面を蹴る。その際、只の暴力に成り下がりそうになったマナを、惜しみ無くブーツの魔道具に流し込む。
ブーツの効果である『速度上昇』『跳躍力倍加』『瞬発力増加』の三つが発揮され、比喩などではなく本当に音の速度すらも超え、アルフレッドは五千六百もの獲物のもとへと向かっていく。
さらに今度は異空間収納型魔道具から二振りの長剣を取り出し、左右それぞれの手に握る。勿論これも魔道具であり、効果は『敵マナ装甲無効化』『強靭化』『威力上昇』『切れ味回復』『魔法無効化』である。
一・八メートル程もある二振りの長剣にも惜しみ無くマナを流し、全ての効果を発揮させる。
この時ようやく敵軍の姿がアルフレッドの視界に飛び込んで来る。
二足歩行の獣そのままな姿の獣人族、二メートル程の巨体を持ち頭から角を生やした魔人族、更にはゴブリンやオークというような、人間族側からしたら異形の姿をした彼ら、彼女らも一瞬遅れてアルフレッドに気づく。(と言っても雌雄の区別など付きはしないが)
相手もこちらの背格好を確認し、嘲笑と共に各々の武器を持って立ち上がる。
約五千六百の獲物へと殺意と苛立ちを向けて、アルフレッドは心中でこう叫ぶ。
「あんましクソガキを舐めんてると、痛い目見させるぞ?」