アルフレッド=マーキュリーの仕事の殺りかた
アルフレッドは「リィィィン」と言う金属特有の音を響かせながら、懐からナイフを抜き出した。
抜剣の音に気付いた魔人族の一体が、瞬時にアルフレッドのいる方向に顔を向ける。
その魔人族は一瞬だけ驚いた様な顔をしていたのだが、すぐに安堵の表情を浮かべた。
それは敵が近づいて来たことへの驚きと、その敵が如何にも弱そうな少年だったことに対する安堵のようだった。
アルフレッドは心中で「そうやって舐めてるから、すぐ死ぬんだよ」と敵に向かって毒づく。それと同時に逆手で握ったナイフへとマナを流す。
このナイフもまた魔道具であり、『速度上昇』『威力増加』『切れ味倍加』『敵マナ装甲弱体化』の四つの効果があるのだが、流すマナの量に応じて効果が一つずつ解放されていく仕組みになっている。
今は無駄なマナ消費を抑えるため、第一段階の『速度上昇』のみ解放する。
そしてナイフは『シャァァァ!』と言う音を立てて人間の動体視力を上回る速度にまで到達する。
一つの無駄も無く、美しい半月を描きながらアルフレッドはナイフを横に凪ぎ払う。
寸分違わず敵の首に吸い込まれていくナイフを凝視しながら、アルフレッドは無意識に口角を釣り上げていた。
敵の首が派手に血飛沫を上げながら宙を舞う。
そしてアルフレッドは自分でも気付かない内に、更に多くのマナをナイフに込めていく。
「もっと速く、もっと鋭く、もっと美しく、もっと、もっと、もっと、もっと...。」
アルフレッドの口角がこれでもかと言うほどつり上がっていく。
更に一体、二体、三体と敵を切り捨てて、アルフレッドはドルベルトに突っ込んでいく。
流石に指揮官の周りには護衛が居たのだが、それでもアルフレッドは止まる事無く走り続ける。
空いていた左腕で腰から下げたいた異空間収納型魔道具の中から、一丁のリボルバーを取り出す。このリボルバーは魔道具ではないので、アルフレッドは付与魔法を使う為に瞬間的に声を発する。
「薬莢に『貫通』『威力増加』『マナ装甲無効化』を付与!!」
弾丸が淡く、それでいて神々しい光を放つ。その光は一秒程で輝きを失ったのだが別に付与が失敗した訳ではない。
普通の付与術師なら一つの付与に三十分以上掛かるのだが、アルフレッドの場合は一秒に十個の付与を行える。
今はマナ温存の為に三つしか付与しなかったのだが、それでも残りのマナの量が心許なくなってきている。
さっき調子に乗ってナイフにマナを込めすぎたせいだろうか。
ともあれアルフレッドは銃口をドルベルトの護衛に向け、容赦無く引き金を引く。鼓膜に発砲音が響くと同時に護衛の眉間を鉛弾が貫いていく。
四方向から更に迫って来る魔人族に向け、立て続けに引き金を引く。
どの弾丸も敵の急所である鼻先、喉元、心臓、鳩尾へと当たり、たった四発の弾丸で四つの命を瞬く間に刈り取っていく。
やっと護衛の居なくなったドルベルトの額に銃口を突き付け、アルフレッドは物足りなさを感じながら引き金を引いた。