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8.とある男爵令嬢の感謝

 ようこそお越し下さいました、ハロルド様。

 公爵家の方を我がベアード男爵邸にお招きできるなんて、光栄ですわ。

 ……まぁ、よろしいのですか?

 ハロルド様がお許し下さるのなら、ここからは普段の言葉遣いでお話させて頂きますわね。


 えっと、新聞記者がわたしとクリスの馴れ初めを知りたいっていう話でしたよね。

 でも、ハロルド様は、クリスから聞いてだいたいのことはご存知でしょう?

 わたしの口からも聞きたいんですか? ふぅん。いつものことながら慎重なんですね、ハロルド様って。

 分かりました、じゃあ、わたしからもかいつまんでお話しますね。


 あ、新聞記者に情報を流すときは、綺麗にまとめてくれると嬉しいです。

 クリスとわたしの印象が良くなるように。嘘にならない程度に、ね。

 ハロルド様、そういうのお得意でしょ?


 わたしとクリスが出会ったのは7年前。わたしが8歳、クリスが10歳のときです。

 ベアード男爵領に隣接する王家の保養地でのことでした。

 あの場所には綺麗な湖があって、夏になるとわたしはよく兄様達と一緒に泳ぎに行ってたんです。


 ある日、いつものように兄様達と泳いでいたら、見慣れない男の子が現れたから、声を掛けたんです。「あなたも一緒に泳がない?」って。

 それがクリスだったってわけです。

 まさか王子様だなんて思わないじゃないですか? クリスもそんなこと言わなかったし。


 たっぷり遊んで帰ってから、ウキウキした気分で父様に話したら、真っ青な顔で絶句しちゃって。

 それで初めて、一緒に遊んだ男の子がクリストファー第2王子殿下だと知ったんです。


 その時の気持ち?

 そうですね……まずは驚き。それから興奮。

 でもその後で、すごく悲しくなったんです。

 だって、そのときにはもう、わたしはクリスのことが好きになっちゃってたから。

 でも、男爵家の娘では、王子様のお嫁さんにはなれっこない。田舎貴族の娘だって、それくらいのことは分かってたんですよ。


 だからね、わたし今、本当に幸せなんです!


 はい、足の方は随分良くなりました。明後日の王宮の夜会、ちゃんとダンスも踊れそうです。

 なんたって、クリスとわたしの婚約が発表されるんですもの。クリスに恥をかかせるわけにはいきませんから。少しくらい痛くたって、気合いで乗り切りますよ!


 ……そうですね、怪我なんかする予定じゃなかったですよね、元々は。

 あの時、ディアナ様が階段でわたしを突き落としに来ることは分かってました。

 だって、わたし達がそう仕組んだんですもんね。

 わたし、運動神経にはちょっと自信があるし、怪我をしないように上手く受け身を取ることもできたと思います。


 でも直前になって、ちょっと怪我をした方がいいんじゃないかと思ったんです。

 ディアナ様に徹底的に悪役になって頂くには、その方が都合がいいんじゃないかな、ってね。

 クリスや皆さんに心配をかけてしまったことは反省してます。ごめんなさい。


 でも実際、上手くいったでしょう?

 怪我をしたことで、皆さん、わたしに同情的でしたよね。

 逆に、ディアナ様を見る目は厳しくなった。


 卒業パーティーのときのディアナ様、なかなか見事な悪役令嬢っぷりでしたね。

 わたし達の思惑通りに。


 ふふっ、でもわたし、分かっちゃったんですよね。

 ディアナ様ったら、ツンと澄ました表情を崩さないように、必死に取り繕ってらっしゃるんですもの。

 もう、可笑しくって! 笑いを堪えるのに苦労しちゃいましたよぉ。

 あ、堪えきれずに少しだけ肩が震えちゃったの、気付いてたんですか? さっすがハロルド様、鋭いですね。


 ふふ、でも笑っちゃ悪いですよね。

 わたしね、ディアナ様とは実はけっこう気が合うんじゃないかと思ってるんですよ?

 こんな出会い方でなければ、お友達にだってなれたかもしれない。

 でもそんなこと、考えたって仕方ないですよね。


 だって、ディアナ・オルコット伯爵令嬢は死んだんだもの。


 後悔? 

 ううん、わたし、ディアナ様を悪役令嬢に仕立て上げたこと、ちっとも後悔なんかしてないですよ。

 感謝はしてますけどね。

 だって、ディアナ様が悪役になって下さったおかげで、わたしはクリスと婚約できるんですもの。

 ディアナ様を悪役令嬢に仕立て上げて、世紀の純愛物語を演出して、世間を味方につけて。

 そうでもしなきゃ、わたしみたいな田舎の貧乏男爵家の娘が王子様の婚約者になんてなれっこないでしょ?


 でも、クリスはディアナ様に罪悪感を持ってるみたいです。

 気にすることなんてないのにね。

 ふふ、クリスのそんな優しいところも好きなんですけど。


 ハロルド様こそ、後悔してるんじゃないですか?

 だってハロルド様って、実はディアナ様のこと気に入っていたでしょ?

 ううん、クリスは気付いてないと思いますよ。カール様もね。それに、お気の毒ですけど、ディアナ様ご本人も気付いてなかったんじゃないかなぁ。


 ねぇ。ハロルド様なら、上手く立ち回ればディアナ様を手に入れることも出来たんじゃないですか?

 そもそもこの計画を考えたのはハロルド様なんだし。

 ディアナ様に毒を飲ませるのじゃなくて、最終的にハロルド様がディアナ様を手に入れるように仕組むことも出来たはずでしょう?


 でもそうしなかったんですよね。

 わたし、そんなハロルド様がクリスの側にいて下さること、とてもありがたく思っているんですよ?

 本当ですってば。わたしだってたまには真面目なことも言うんですから。

 クリスの親友であるハロルド様とカール様、お2人がいなければこの計画は上手くいかなかった。

 改めて、心から感謝しています。


 あ、忘れちゃいけないですね、ディアナ様にもね。ふふっ。

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