殴られる
休憩の十五分、その間は各自で自由に過ごして良いらしい。
水を飲む、トイレに行く、座って休む……なんてモノでは無く、横になる者、漫画を読む者、食堂に戻って食事を摘まんで来る者など、本当に自由過ぎる……
あんなに騒いでたのに麻雀を始めたぞ!? 元気過ぎないか!?
「……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
「……見た目の割に、随分と体力が無いね……アンタ」
……俺が体力無いだけでした……
四十五分もつるはし持って振り続けるには無理があった……
落ちたなぁ……体力……
「……はぁっ……お前っ……はっ……?」
「あのキチガイ達には及ばないけど……それでもアンタよりは有るよ」
キチガイか……あの体力と奇声はキチガイだな、うん。
俺は、目の前で俺を見下ろす、華奢な高校生ぐらいの女の子より体力で劣るらしい。
自由時間は好きな事して良いんだったな……筋トレしようかな……
「……じゃ無くてっ……名前だ……名前っ……」
「はぁ? 私の名前知ってどうする気……?」
推定JKに、蔑んだ目で見られる俺氏。
興奮はしてない……してない? してないよな……たぶん。
さっきの志保さんぐらいの女性ならまだしも、高校生はガキだな、うん。
そのガキに体力で劣ってる訳だがな。
「……監獄内で……出くわす事ぐらい……あるだろ……それとも、お前と呼ばれ続けたいか……?」
「……名前を尋ねるなら、まずは自分の名を名乗ったら?」
いい感じにクソガキだなコイツ。
まあ、クソガキでも無ければウイルスに負けてるか。
「……光貴だ」
「……琴葉よ」
「…………それで、お前はなんで俺に絡んで来たんだ?」
「……名前で呼んで無いじゃん……」
推定JKを名前呼びとか、俺にはレベルが高過ぎたんだよ……
ちゃん付けしても犯罪臭がするし、さん付けは年齢的におかしい、呼び捨ては論外だ。
「他にまともな奴が居ないんだから、新入りに微かな希望を求めるしか無かっただけ」
「……それで? 俺は御眼鏡に適ったのか?」
「…………ギリギリ及第点かな」
くっそ生意気だなこのガキ。
まあ、俺は大人だから思っても態度には出しませんけどね、大人だから。
「……キチガイ集団に混ざって無かった女性は他にも居ただろ? マシだと思える奴は居ねぇのか?」
「この監獄でまともな女性なんて志保さんだけだよ。葵さんは出所しちゃったし……他は全部キチガイか、性悪性格ブスしか居ない」
「……その志保さんに俺は粉砂糖を盛られたんだが……」
「入ったばかりのアンタに気を掛けて声を掛けてくれたんでしょ、寧ろ感謝するべきじゃない?」
色々教えてくれたのは確かに、感謝すべきなのかもしれないが……粉砂糖に関しては感謝しねぇぞ、絶対に。
「……志保さんは、私達に及びかねない男共の性欲を一手に引き受けてくれてるの……だって言うのにその志保さんをビッチ呼ばわりするあのアバスレ共……! 見た目がマシな奴らの相手しかせずに済んでるのが、志保さんのおかげと理解できてない……理解できる頭が無いんだよ……!」
「……全員オーケーなのって志保さんだけなのか……?」
「……いるよ、キチガイに。アンタはあそこでヒャッハーとか言ってる女を抱きたいと思う?」
「…………いや、思わねぇな」
「そういう思考の上でアバスレ共に拒否られる男共を、全て引き受けてるのが志保さんなの」
志保さんが引き受けなければ、キチガイで我慢する奴も居るかもしれないが、他の女性に襲い掛かる奴が居ないとも限らない訳か。
俺の中で志保さんの株が上がって行くな、粉砂糖は許さないが。
……志保さん自身は同性愛者で、男性との行為を寧ろ嫌ってるって聞くと頼み辛さがあるな……
だが、あのおっぱいはなぁ……
抱かせて貰えなくても良いから、揉ませて貰えないだろうか……
いや、それも志保さん自身は嫌な筈だ。人の嫌がる事はするもんじゃ無いな、うん。
だが、そうしないと志保さんがウイルスに呑まれてしまう、悩ましい、実に悩ましい。
これは仕方ない、仕方ないと思えば、揉むぐらいは許されるんじゃないだろうか、これ。
「――鼻の下伸びてるよ、変態」
「なっ!?」
「サイテ―……男ってみんなそう……志保さんが可哀想……」
「……やたらと志保さんを庇うが、お前もしかして志保さんと同じ――」
「――私はレズじゃ無い。でも、こんな所に送られて来る様な男はイヤ、碌な奴じゃない」
それ、ブーメラン入ってる気がすんなぁ……善性ウイルスに染まらなかった奴しか居ねぇんだから。
と言う事は、こいつは全員NGな訳か。
まあ、そもそも年齢的にアウトだよな、高校生なら。隆司さんがその辺は許可しないでしょ。
でも志保さんが居なかったら、こいつに手を出してた人は居そうだな……女子高生好きな奴って多いし、こいつキチガイでは無いし……寧ろ生意気な所を好かれそうだな、見た目も……胸は残念だが顔は良いし。
「……おい、今どこを見た。失礼な事考えてない?」
「いや、寧ろ褒めた。少しの残念さはあったが――」
「――誰が残念だっ!」
ぐっ……! みぞ……おち……っ……!
こいつ……暴力系だったのか……とんだクソガキだな……!
痛みが抜けないままに休憩の十五分が終わってしまった……この状態で四十五分働き続けるのかよ……っ!