働かされる
「――此処に居たのか坊主、探したぜぇ?」
「だから坊主じゃねぇって……どうしたんだ?」
「仕事だよ、仕事。労働は午前の部と午後の部に別れてる、もう午前の部は終わっちまったから、坊主は午後の部に参加するんだよ」
仕事……聞きたくない、口にしたくない、したくないの三冠を占める言葉が出てきたな……
嫌だなぁ……働きたくねぇな……
「そんじゃ坊主は借りてくぜぇ。志保嬢、剛毅ちゃん、またな」
「ええ、また」
「俊和ちゃーん! 何時でもいらっしゃいねぇ~ん!」
「へいへい」
……え? こいつホモなの……?
……付き合い方を考えて行かなければならなそうだ……まさか隆司さんもホモだなんて事は無いよな……?
……無いよな?
「……? おいどうしたぁ、さっさと行くぞぉ」
「あ、はい」
「あん……?」
「いえ、大丈夫です」
……俺に害が無いのであれば気にしない物とする。
監獄内の勝手が分からないので、俊和さんの後ろを歩いて行く。
廊下の長さを考えてかなり大きな建物である事が分かる……日本中、いや世界中にこんな建物が幾つもあるのか……?
いつの間に建ったんだ。
「……仕事って拘束時間は、どれぐらいなんですか?」
「四時間だぁ」
「四時間っ!?」
短っ!
いや、肉体重労働をぶっ通しで四時間だと考えると、なかなかキツイか?
少なくとも俺の落ちた体力じゃ苦しいだろうな……
「四十五分働いて十五分休憩、最後の十五分は片付けだから、実質は三時間だなぁ」
「………………午前と午後で二回ですよね?」
「働くのは片方だけで良いぞぉ」
ホワイト企業もビックリのホワイトじゃねぇかっ!
もはやクリアだよ、透明になるレベルだぞ、おいっ!!!
いや、まて……休日は無いのか……そう考えるとホワイトぐらいにはなるだろうか……微妙だな……
俊和さんに連れて来られたのは、岩肌の見えるトンネル……洞窟の様な所だった。
なんか雰囲気だけは囚人の働き場って感じだな……内容はホワイトだけど。
つるはしとスコップを持った囚人たちが勢ぞろいしていた……中々の威圧感だな。
「――さぁ、行くぜテメェらぁ!! 宝探しの時間だぁぁあああ!!!」
「「「「「「「「「「「ヒャッハー!!!!!」」」」」」」」」」」
………………えー……
俊和さんの掛け声に合わせて、囚人の男達……中には女性の姿も見えるが、勢いよくつるはしで岩壁を叩き始めた……
なに? このテンションと勢いで三時間働くの……? それは休憩があっても地獄だわ。
「――どうだい、調子は?」
「……隆司さん……」
「俺は午前で終わらせてるが、光貴の初日だから様子を見に来てやったぞ」
「……なあ、あんな感じでやるのか……?」
「慣れればあれでも構わないが、最初の内は自分のペースで良いぞ。脱獄後は他の施設に強襲する事になるから、体力を付けておいて損は無い」
例え慣れても、ああはならねぇと思います……
「……そんな話を此処でして良いのか……? 木偶の棒と言えど、看守はすぐそこにいるぞ……?」
「看守と管理者は別口だから問題ねぇよ。そもそもこの建物内での会話は全て管理者に筒抜けだ、どこで話そうと変わんねぇ」
「それって……脱獄計画も筒抜けって事じゃないか……」
「筒抜けでも問題ねぇんだよ、懲罰はなんてもんは存在せず、奴らは俺達の生活に関与して来ないからな」
脱獄の話が持ち上がってるのに関与して来ないって……よほど警備に自身があるのか、お気楽な頭してるかのどっちかだろうな。
「さあさあ、程良く体を動かせ。体力付けとかねぇと、後々苦労する事になるぜ」
「……はい」
そうして四十五分間、絶えず響き渡る奇声の中、俺は岩壁に向かってつるはしを振り続けた。