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「さて新人、ヘブンスプリズンでのルールを説明してやるから、心に刻んでおけ」

「なんでヘブンスなんだ」

「ここには歴とした人間が居るからだ、外に一人でいれば頭がおかしくなるぞ」


 

 確かに。俺がコンビニに急いだ理由も突き詰めるとそういう事だからな。

 あんな世界で生きていたら頭がおかしくなる……引き籠りは正義だった訳だ。

 

 

「ヘブンスプリズンには山ほど娯楽に溢れている、何をするのもそれぞれの自由、殺傷以外の全てが許される」

「……本当に此処は監獄なのか……? シェルターの間違いじゃないか?」

「全ては満足を得て悪感情を消し去り、感染者とする為のトラップだ。人形に成りたくなければ悪の心を忘れるな。美味い飯を食っても良い、趣味に没頭しても良い、殴り合いをしても良いし、女を抱いても良い、惰眠を貪っても良い、ただいかなる時も悪意を忘れるな」

「……仮に感染者になった場合はどうなるんだ……?」

「出所だな」



 餌を与えられている訳か……この施設管理者の手の平の上……まるで弄ばれてるな。

 この施設の管理者がウイルスをばら撒いた親玉か……? その手先の可能性の方が高いな。

 ただの平和主義者の犯行とは思えないよな……狂っているとしか言いようがない、寧ろ俺達が足掻く姿を見て楽しんでると言われた方が納得できる。糞くらえと言ってやりたいがな。


 今の世の中の現状が、本気で世界の在り方だと思っての犯行なら、壊すしかないな。

 

 

「逆を言えば悪意さえ持っていれば、此処は住みやすい環境だとも言える。労働義務はあるが懲罰は無いし、看守共は脱獄を防ぐだけの木偶の棒だ。なにせ濃いウイルスを俺達と共に受けてるからな、殴っても数秒後にはニコニコしてやがる」



 看守の意味……というかそれホラーじゃねぇか……

 労働義務か……働く事で満足感を得るって事か? 俺は脱獄して家に引き籠るだけでも良い気がして……いや、それだとウイルスに呑まれるのか。


 あの時はあの現状に満足できてなかったから、俺は感染しなかったんだろう……もう引き籠れもしないのかよ……くっそ……

 


「――僕らも仲良し小好ししてるだけじゃダメって事ぉ」

「――――――」



 ……背後から腕を回され、指で喉仏を軽く押されている。

 監獄内での殺しはルール違反じゃ無かったかっ……?

 

 

「ひひっ! 冗談だよぅ……数少ない正気の人間だもん、殺さない殺さなぁい」

「光貴の様にしょうもない理由で此処に来た者も居るが、中には普通に犯罪者も居るから気は張っておけ。基本は頭がおかしい奴しか居ないからな」

「だって。言われてるよ?高英(たかふさ)

「私はまともだ! まともな悪なのだ!」



 誰一人としてまともではねぇだろ……俺以外。

 やっぱり信用は置けないな……善性ウイルスに染まらないような奴らだ、適切な距離を置く必要がある。

 その距離を測る為にもまず情報が必要だ。この四人以外の姿は見えないが別の牢に居るのか? というか俺はこいつらと同じ牢なのか……? 牢って個室じゃねぇの?


 この監獄に居る人数だけでも知っておきたいな……人柄は……期待できねぇけど。 

 

 

「あー……えっと、高英? で良いのか? 他の三人も名前を聞いて良いか?」



 あれ、名前を聞いてんぞ俺。

 まあ、良いか、同室なら名前ぐらい知ってた方が良いだろ。

 

 

「僕は(みつる)だよぅ、同じみつみつ同士仲良くしようねぇ」

「殺しに掛かって来た奴と仲良くするとか、神経太過ぎるだろ」

「ヤダなぁ、冗談だってばぁ」


 

 つうか、仲良し小好しすんのは駄目だって言ったのテメーだろうが。

 線が細いっつうか、女みてぇな見た目してるが、コイツが一番信用できねぇな。

 

 

「俺は俊和(としかず)だぁ……よろしく頼むぜい坊主」

「……坊主って歳でもねぇよ」

「へへへへ……」



 小悪党感が半端ねぇなコイツ……だが充に比べれば無害な類だと思われる。

 見た目が堅気に見えない当たりには親近感が湧く……実際に堅気じゃないのかもしれねぇけど。

 

 

「私は高英だ!」

「うん、さっき聞いた」

「私はまともな悪! 真面目な悪だ!」

「うん」


 

 声デケェ、うるせぇよガリ勉メガネ。こっちとら引き籠り歴が長いんだから、大声で話しかけるんじゃねぇ。

 信用置ける云々じゃ無くて、単純に人として苦手だわ。頭のイカレ具合は確かに一番だな。

 

 

「俺は隆司(りゅうじ)だ。このヘブンスプリズンの集団脱獄計画の総監督を行っている。ろくでなし共の纏め役だな」

「そいつは……気苦労が絶えなさそうだな……」

「かっかっかっ! 基本は自由にやらせてるさ……脱獄の段取りはこっちで進めておくから、光貴もそれまではウイルスに取り込まれない程度に好きに過ごすと良い」



 第一印象は頭おかしい奴だったが、一番まともなのかもしれないな……インテリヤクザ感がひしひしと伝わってくる……敵に回れたらアレだが、味方では有るんだよな……嫌われない様に気を付けよう。

 

 

「この監獄に囚人はどれぐらい居るんだ?」

「百人ちょっとだな。と言ってもこの施設には百人って話で、別の市か県か地方かは分からないが、他にも施設は確実にある筈だ。各所を破壊して行けば、悪人はそれなりの数になる……まあ、同時にウイルスを管理する側もかなり大規模だって話ではあるんだがな」


 

 日本中の悪人が此処に集められてる訳では無いのか……百人でもそこそこ多いな。

 善性ウイルスをばら撒く狂人達と、ウイルスに抗う悪人達の戦争か……まともな奴らは人形と化してるから酷いもんだな。

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