拉致られる
最近のネット環境がおかしい。
情報伝達の速度が上がり、批判誹謗中傷の絶えなかったネット民達が、揃いも揃ってぬるい事ばかりぬかしやがる。
つい先月までテメーら人の悪口で散々盛り上がってただろうが。
だって言うのに、今じゃ俺のコメントに『そんな言い方は良くないよ』ってコメントしか来やがらねぇ。
一人じゃねぇ、コメントを残す奴全員がだ。
なんだよ、それ……それじゃあ、それじゃあまるで……
「俺が間違っているみたいじゃねぇか……くそっ……」
生ぬるい仲良し小好しになったネット民達にイラが溜まる。
タバコの消費速度ばかり上がって、大量注文してたってのに、気付けば残り一箱だ……余計にイライラする。
外に出たくねぇからネットで買ってるのに、これじゃ次の配送まで持たねぇじゃねぇか……
「あぁぁぁぁああああ! ……くそっ……買いに行くしかねぇか……」
この際コンビニの安物でも構わねぇ、ニコチンが切れる方が問題だ。
日の光なんて浴びたくねぇが仕方ねぇ……携帯とイヤホン、財布とライターと最後の一箱を持って、数ヶ月ぶりに外に出た。
…………暑っ。
二秒で帰りたくなった。くっそ……なんでこんな暑い中歩かなきゃなんねぇんだよ……
「――おはようございます! 良い天気ですね!」
「…………あ?」
…………なんか知らんガキに挨拶された……
堅気に見えない風貌と言われ続けた俺に挨拶してくるって、コイツ頭がアレなのか?
それとも純粋過ぎる馬鹿なのか?
「おい、ガキ。声を掛ける相手は考えろ、碌な事になんねぇぞ」
こんなガキに構ってる暇はねぇ……さっさとコンビニに――――
「――おはようございます。今日は暑いですねー」
「…………は?」
「あ、おはよう!」
「うん、おはよー」
――……如何にも気の弱そうなJKまで俺に挨拶して来たんだが、どうなってるんだ?
JKなんて生き物は俺を遠巻きに見て、ひそひそしてるのが常だっただろうが。
なんなんだこいつら……――
「おはよう~」
「おはようございます」
「おはようございます!」
「おはよう」
「おはー」
「――――――」
……なんだ……なんだこの光景……
ガキ、リーマン、学生、デブ、ジジイ、ハゲ、ババア……誰もが全員と笑顔で挨拶してやがる……
おい、此処は田舎町じゃねぇんだぞ。冷徹の町、東京だろうがよ……俺は異世界にでも迷い込んだのか……?
あまりの薄気味悪さに背筋がひやっとする……なんだ、そう言うイベントか……? なんかの企画に参加しているエキストラなのか……?
現実逃避もそこそこにタバコを一本取り出して火を付ける。
一服しよう……そしたら頭も冷静になって、状況を読み取れる筈だ。
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
「…………な、なんだよ……」
煙を吐き出して、周りを見ると……その場に居た全員が無表情で俺を見ていた。
さっきまで笑顔だったせいで、余計に薄気味悪さが際立っている。
「――お兄さん。タバコは喫煙所で吸わなきゃ、ダメなんだよ?」
「……あ、ああ、そうだったな……悪かった……」
火を付けたばかりで全然吸えてねぇが、この薄気味悪さは居心地が悪すぎる……
タバコを地面に落として踏みつけて火を消す。それでも無表情は俺に向けられたままだ。
なんだか知らねぇが早いとこコンビニに行って、すぐにでも家に帰りてぇ……
コンビニへと向かおうと早足で急ぐ中、誰かに腕を掴まれた。
「あ? なんだよ、俺は今急いで――」
「――非感染者発見。直ちに連行致します」
「はあ!? お前何言って――っ!」
後頭部に強い衝撃を受け、俺の意識はそこで途絶えた――――
プロット無しの不定期更新です。
行き当たりばったりですがよろしくお願いします。