カイリと聖女
かなり期間が空いてしまいすみません。
久しぶりの投稿になります。
コンコン
ドアが2回叩かれる音にカイリが返事をすると、扉を開けて入ってきたのは“聖剣の担い手”の2つ名を持つルークだった。
「おはようカイリ君」
「おはようございますルークさん」
挨拶を交わすとルークは“あれ?”っと疑問の表情を浮かべながら部屋を見渡す。
「聖女様はいらっしゃらないのかい?今朝早くに宿を出てこちらに向かったと聞いていたのだけど」
「ああ、聖女様なら先程までいらして怪我の治療をしてくれたようです」
「ん?んーそうか」
怪訝な表情の後、なにやら納得したのかベッドの脇の椅子に腰を下ろした。
するとまだどこか幼さの残る笑顔でルークは聞いてきた。
「聖女様が治療にあたったのなら身体の方はもう大丈夫かい?」
「ええ、もう“全快です。”それに僕の方はそれ程大した怪我をしたわけではないので。あと聖女様から聞きました。危ないところを助けていただきありがとうございます」
頭を下げると、ルークは「気にしないで」と告げ、今後の予定について話してくれた。
「今はヴァネッサさんが今回の件“マレプランテ”の異常種の報告を王国に送るために情報を集めてる状況なんだ」
「遠征の足を止める程危険な魔物なんですか?」
「マレプランテ自体はB級冒険者パーティーで倒せるレベルだよ。それの異常種となれば危険度は跳ね上がるんだけども、一番重要なのはそこじゃない。場所だよ」
「確か南方の“連合国”領土に生息する魔物ですよね」
カイリの答えにルークは「ほぅ」と感心する。
「カイリ君はよく勉強してるね。確かバゼル君にマレプランテ攻略を指示したのは君なんだよね」
「はい、遠征前に魔法師団の書庫から色々と本を借りたり教えてもらったりしたので」
「なる程、さすがクッカ導師。となるとやっぱり将来は魔法師団に入るのかな?」
「いえ、そのつもりはないです。その事は導師に初めにお伝えしても変わらず色々よく教えてもらっているので感謝してます。将来は何になるかは決めていませんが騎士団や魔法師団よりはまだ冒険者の方が興味あります」
「へぇ、カイリ君は堅実そうだからそっち側かと思ったらコッチ側だったんだ!冒険者はいいよ!なんたってロマンがあるからね!!冒険といえばーー」
ルークは身をのりだし、目をキラキラさせながら冒険について力説し始めた。
「は、はあ」
あまりの食い付きにカイリがちょっと引いているとルークはハッとして顔を赤らめながら頭を掻く。
「い、いやあゴメンゴメン。冒険の話しになるとついつい熱くなっちゃうんだね。えーと何の話しだっけ?」
「マレプランテの生息地の話しです」
「そうそう生息地なんだけど、連合国の領土でも場所はさらに限定されていて“ダンジョン内”なんだよ」
「あ、ダンジョンなんですか?けどそれの何か問題が?」
「知っての通りマレプランテは他の魔物と違って自らは移動せず、飛ばした種子から魔物に寄生し自分の元へ運ばせる。これには理由があって魔素の濃いダンジョンでないと次第に枯れていくからなんだ。
そして連合国にダンジョンは一つしかなく、危険な場所であると同時に魔物の素材という資源の窟の為、国が管理してる」
「つまり魔物の性質的にも、管理されているダンジョンであることからも、“意図的”でない限り王国の領土に出現し得ないということですか」
それにルークは頷く。
「鎖国前の連合国ならともかく、現在マレプランテと遭遇して戦ったことのある者は少ない。だから経験のある僕がカイリ君に詳細を質問してヴァネッサさんに報告することになっているんだ」
「え、ルークさんはマレプランテと戦ってことがあるんですか?」
ルークは人間族で見た目どおりの20代半ばの青年だ。
連合国の鎖国前、つまり300年前王国との戦争以前にルークが生まれている訳がない。
カイリが首を捻っていると、ルークは何事もないかのように答えを教えてくれた。
「ああ、それはね。ダンジョンに潜ったからだよ」
「連合国は現在、他国の入出者は一部の貿易のみに許可してるんじゃ……」
鎖国と言っても自国だけで資源を補うのは難しく、王国以外とは徐々に貿易の幅を広げているらしい。
「うん、一応連合国のギルドにダンジョンへの探索許可を問い合わせたらすげなく断られたから忍び込んだんだ」
「はぇ?」
カイリは思わず変な声が出てしまった。
「だってひどいと思わないかい?そのダンジョンにしかいない珍しいモンスターが沢山いるってワクワクする話なのに国交のせいで探索出来ないなんて」
(それは仕方ないんじゃ……)
連合国ギルドが王国ギルドに許可なんてするわけない。
「だからさ、忍び込んだんだ」
(だから?)
「仲間達は止めようだとか、駄目だとか、国際問題になるとか反対してきたんだけど、僕はそんな彼女らに言ったんだ。“君らはそれでも冒険者か!”って」
まるで良いことを言ったかのように胸を張る青年を困惑して見るカイリ。
(冒険者かとか関係なく駄目だし、仲間の人達が正しい……)
見た目がイケメンな好青年なだけにカイリは残念なモノを見る目になる。
「それでも反対するから、“冒険者とは未知の土地で、未知なる魔物と戦うものだ!”って冒険者はなんたるかをとくとくと説いたんだ」
(かつての敵国に密入国して、管理されている資源場所を踏み荒らそうとしてるんだからそりゃあ反対するでしょ)
「5時間かけて冒険者の矜持を伝えたらやっと仲間が分かってくれてね。“心配だからついていく”と言って納得してくれて嬉しかったなぁ。もし駄目だったら一人で忍び込むつもりだったから」
(ああ、折れたんだな。確かパーティーメンバーが冒険者業で問題を起こした場合はそれがソロ活動中であってもペナルティが発生するって“餓虎”の人達から聞いたことある……)
カイリはルークの仲間が“納得”ではなく“諦めた”事を正しく理解する。
「流石に魔物の素材だけで宝箱には手を出さずに行こうってなったんだけど、その場に居合わせてたサブマスのヨウゼンさんが「連合国が探索出来てない地下6階からならいいよ!ただし出入国含め絶対にばれないでね!」って許可してもらえたから普通に冒険出来たんだ」
(いやいやいや、ヨウゼンさん何してるの?そしてそれは決して普通の冒険ではないはず)
この時、カイリはヨウゼンも結構アレなことに気付いた。
(ソフィアは言わずもがな、ユハナさんは研究バカで、“餓虎”の人達は好戦的で、そしてルークさんは冒険バカ……)
カイリは自分の周りの半数以上が変わった人達であることに不安を覚える。
(朱に染まればなんとやらと言うけれども、自分の価値観は守ろう)
自分の価値観も“普通とはややズレているかもしれない”と自覚はあるが、この人達に比べればと考えるカイリ。
「そんな内緒のダンジョン潜入話を僕にしていいんですか?」
「まあマレプランテのことを聴く上で話す必要があったし、今回のことは箝口令が敷かれることになったからね。もちろん今の話しも内緒だよ」
わざわざ箝口令を敷くということはいろんな所がきな臭いことするんだなと前世の経験を元に考えた。
カイリ的にはそういうことにはなるべく関わりたくない。
その為ルークに本題を促す。
「わかりました。それでマレプランテの何が知りたいんですか?」
「そうだね、まずはカイリ君が実際に見たマレプランテの特徴を教えてくれないかい?」
ルークは室内のテーブルに大森林の大まかな地図とその上から本来のマレプランテの特徴を書き込んでいく。
カイリはマレプランテ変異種の寄生方法、寄生範囲、魔法攻撃阻害の防御機能、攻撃方法、本体の防御力などについて話した。
地図に特徴の違いを書き込むにつれルークの顔が険しくなる。
「なるほど、本来のモノとはだいぶ違うようだね」
カイリも図鑑で知ったモノとはだいぶ違うことを改めて実感した。
「本来、ダンジョン外で生きられないのはもちろんだけども寄生範囲があの大森林の半分以上を占めていたとすればかなりの脅威だ。」
「一応マレプランテの寄生花があったところをチェックしていくと間違いないかと。あの時は目標討伐を考えるとなるべく寄生体を減らしておきたいと考えて数日かけて処理していましたので」
「本当に正解だったよ。マレプランテは本来自分の周囲300メートル程度を生業としている。けれどコイツはその10倍以上だ。本来の個体と考えて相手していたら足元をすくわれたかもしれない。よく慎重に行動したね」
「いえ、図鑑で知っているといっても大まかな特性を覚えていただけで細かい数字まではうろ覚えでしたし、記載にない特徴から不安になったのでより慎重に行動しただけです。ただもうひとつ気になるのは、これだけ寄生体を増やしていたのに“マレプランテ”という個体は一体だけだったことです」
「マレプランテの寄生体から新たな個体が誕生するのはかなり確率が低かったはず。それでも、これだけの寄生体をがいたのならば他の個体がいないのは不思議、いやおかしい。もしかしたら変異種ゆえに子孫を残す能力が劣化していたのかもしれない」
ルーク曰く強力な変異種にはよくあることらしい。
「それと魔物に寄生していたモノはマレプランテが死ぬと連動して枯れるとは図鑑で読みましたが、あの大量のアンデットはまだ森に」
「それなら聖女様が全て浄化してくださったので大丈夫だ」
「は?」
「そこは聖女様に聞いていないのかい?あの方が光魔法で大森林全体を浄化してくださったので何も問題ないよ。というか強力すぎてあの土地にはしばらくアンデット系の魔物が生まれることもないだろう」
「」
思わず言葉を失うカイリ。
「ずいぶん驚いているようだけど“聖女”の称号を持つということはそういうことだよ。といってもあの規模のものは流石にソフィアさん以外には出来ないだろうけれど」
(直径6キロメートルはある寄生範囲すべてを浄化?ソフィアにも出来る?自分なら、せいぜい100メートルがいいところか)
自分とそう年の変わらない少女がソフィアクラスということに衝撃を受ける。
それにそもそもマレプランテもバゼルのあの攻撃力がなければ自分一人で倒すことは至難だっただろう。
カイリは自分の手の平を見つめる。
(ちょっとずつ出来ることは増えてきているけど、攻撃力が足りない。とくに強固な魔物に対しての決め手がない)
「カイリ君、これ」
ルークが自身のマジックバッグから取り出したのはカイリの愛用の槍だった。
マレプランテに投げたものを回収してくれたのだろう。
しかし、原型はとどめておらず所々が欠け、炭化しかけていた。
これでは直しようもない。
「ありがとうございます」
この槍は村から遠征で出立する際にゲインからもらったものだ。
魔狼の素材を使って作られており、頑丈さは上級冒険者が持つレベルのモノだった。
カイリはそれを手に取るとそっと撫で、自分のマジックバッグにしまう。
「武器はいつかは壊れるモノとはいえ、残念だったね。思い入れのモノだったのかい?」
「ええ、故郷の父が餞別としてくれたものでしたので」
「そうか、お父上が……」
ルークはなにやら思案したあとカイリにある提案をした。
「もしかしたら治せるかもしれない鍛冶師がいるんだけど、会ってみるかい?」




