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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
第2部 討伐遠征
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大森林の探索 2

遅くなりましたが更新しました。

ブックマークをしたままで居てくださった方々ありがとうございます。

 獣人の少年は肩で大きく息を吐くと白く染まる。

 既に空の太陽は沈み始め、森の気温はぐっと下がってきた。

 王国領内の北端ということもあり、王都に比べ気温は低い。

 王国中央地域を主な活動拠点にしていたバゼルにとってここまでの距離を重ねた遠征は初めてだった。

 額の汗を雑に拭うと目の前には大きな昆虫型の魔物の死骸が積み上がっていた。


 大森林に放り込まれて今日で四日目。

 とりあえず群れでいる魔物を倒せば良いと考えていたバゼルは様々な種類の魔物の群れと遭遇しては殲滅を繰り返していた。

 既にその数はかぞえるのも馬鹿らしくなり覚えていない。

 作戦とは言えない行き当たりばったりの戦闘を繰り返すバゼルの頭の出来はよくない。

 それでもAランク相当の強さを持つバゼルならば大抵のクエストはごり押しで行けた。

 そんな彼から見ても今の状況は異常だった。


 魔物の急激な増殖、これは実はそれほど珍しいことではない。

 繁殖期や天敵の減少などの要因による実例は多くある。

 だがそれは()()()()に限った話だ。

 これほど多種多様の魔物が増え襲ってくる例などダンジョンならばともかく外でとなるとバゼルは知らない。


「何なんだよこの森はよっ!」


 疲労と苛立ちで顔をしかめる。

 目元にはくっきりとクマが出来ていた。

 四日間の遭遇戦を繰り返し、合間があるとはいえ、いつ出くわすかわからない魔物を警戒しなければならず夜もまともに睡眠がとれていない。

 いくら魔物が自分よりも弱いとはいえ、バゼルは体力気力の消耗により動きに精彩を欠いていた。

 先ほど返り討ちにした目の前の昆虫型の魔物もCランクであったにも関わらず鋭い甲殻による斬撃を浴びてしまっていた。

 浅いとはいえ切り裂かれた傷跡からは血が今も流れている。

 しかし拭うこともせず舌打ちが漏れる。


「クソッ」


 未だにクエスト解決の糸口も見えず、ましてや雑魚に傷を負わされた己の体たらくに悪態をつく。

 いや、バゼルは遠征前からずっとイラついていた。

 その理由が自分でもはっきりとは分かっていないが、イラつく度に思考の片隅に少女のような顔をした三つ編みの少年の姿がチラつく。


 ドンッ


 バゼルの意識が内側に向いていると、後方の空から爆発音が響き渡る。

 とっさに身構えるが、そこには木々の隙間の空から火花が飛び散り煌めいていた。

 攻撃ではないと悟ると同時にアレが誰の仕業か先ほど思い浮かべていた少年と重なる。


 シカトする考えが一瞬頭に過るが……。


「ふんっ」


 バゼルは鼻を鳴らしながらも火花の散る下へ駆け出した。







 カイリが目的地に到着するとそこにはバゼルが既に居た。

 こちらの姿を見て睨み付けてくる。


「やっぱりさっきの変な魔法はてめぇか」


「来てくれて良かった。

 伝えておこうと思うことが……」


 カイリは言葉が止まる。


 バゼルの様相は酷いものだった。

 目には隈が出来、呼吸も浅い。

 近付いてくる足取りも明らかに重く、身体には浅いものの出来たばかりの裂傷が複数ある。


「……何だ?」


 バゼルはカイリの視線に気付くとより眼光が鋭くなる。


「いや、だいぶキツそうだなと思って」


「俺のどこがキツそうだってんだ!」


「いや、別に怒鳴らなくても……、ちょっと場所を変えようか」


「あっ?」


「いや、今魔物に遭遇すると大変でしょ?」


「はっ、んなもん屁でもねぇ。

 なんなら屁をこきながら倒してやるよ!」


「いや、屁は出てないけど血は出てるから」


「俺にとっちゃこのくらいの怪我なんでもねぇんだよ。

 まぁ貧弱な人間族のテメェなら痛くて泣いてるだろうけどな」


「痛いの?」


「痛くねぇし!」


「……まあそんだけ元気なら、大丈夫……かな?」


 ドドォ


「あぁ?大丈夫に決まってんじゃねぇか!」


 ドドドドッ


「そう?

 実はもうすぐ団体客が来るからお出迎えしなくちゃいけなくて」


 ドドドドドドォッ


「?」


 バゼルはカイリの後方から響く音と土煙に目をやるとそこには大量の魔物が押し寄せていた。


 その数、魔熊1、魔猪4、魔犬12、魔蜂22。


「……おい」


「ん? ああ、どう撒いてもついてくるんだ。」


 カイリは西に傾き始めた太陽を見上げる。


「けど、そろそろ時間がないし。

 コレを間引いたら根本を絶ちに行く。

 君はどうする?

 悪いけどこの森でいつまでも足踏みするわけにはいかないんだ」


(まただっ)


 カイリの言葉に強い苛立ちを覚える。


「っ、俺より弱いクセに随分余裕こいた態度だな。

 まずテメェにあの群れが対処出来んのか!

 素直に助けてくださいって言えよ!」


「はぁ、出来るよ。

 ……多少時間は掛かるかもしれないけど、少なくとも君のような格好にはならない」


 ため息から続いて出たその言葉にバゼルは青筋を浮かべながらデタラメをとカイリに目を向ける。

 今向かってきているのはBからDランクの魔物だ。

 サイファー(餓虎)クラウス(英雄)に毎度毎度ボロ雑巾のようにされながらも少しずつだが力をつけついるカイリだが、よくてBランクに届くかという程度のステータス、あの数を相手出来るわけがないとバゼルは考えている。

 選考会でカイリに負けたのは自分の油断、更に認めるならばカイリの子供とは思えない試合運びと魔法剣士という珍しいスタイルに戸惑ったからだ。

 事実バゼルは餓虎のファミリアの訓練に混ざったカイリに遅れを取ったことは一度もない。

 しかし森に入って四日も経つのにカイリの姿は返り血はあるもののバゼルと違って傷はない上に疲れもそれほど見えない。


(なんでだっ……、俺と同じ条件のはずなのに)


「俺だって普段ならっ――」


「今が()()でしょ?」


 カイリはしらけた目で事実を告げる。


「くっ!……」


「ついてきたければついてきていいよ。

 ただし、()()は払ってもらうけど(コレだけの元気があれば大丈夫だろう)」


 カイリはもう間もなく衝突する魔物を背中越しに指差す。

 バゼルは鋭い犬歯をのぞかせながら歯軋りが聴こえるほど食い縛り悔しそうに睨み付ける。

 カイリはそれを背と捉えた。

 バゼルもこのクエストが達成出来なければ置いていかれることを理解している。


「それじゃあ払ってもらおうかな。 後ろの奴等は任せたから」


 そう言ってカイリはその場から駆け出すと魔物の群れもそれについていく。


 その中でも魔熊と魔蜂が先頭をきって追いかける。

 その跡を付いていく魔猪と魔犬に後ろからバゼルが派手な音を立てながら突っ込んだ。


 魔犬の3頭が鳴き声を挙げる間もなく文字通り弾け跳び粉々になった。


「くそがっ!俺様を無視してんじゃねぇ!」


 バゼルは闘気を纏いながら雄叫びをあげると魔猪と魔犬は反応してバゼルへと襲い掛かった。




 一方、カイリはバゼルから十分に引き離すと立ち止まり、足元に初級魔法で砂地を作り上げると続いて魔物らを指差す。


「【暴風】」


 風の中級魔法で足元に作り出した砂を巻き込んで突風を起こす。

 魔熊は大きな巨体にものを言わせ構わず突っ込んで来るが魔蜂らは風に呑まれた。

 それを確認するとカイリはさらに砂地に手を着ける。

 魔熊はしゃがんだ獲物に食らいつこうと大木のような前足を踏み出した瞬間、“ズブリ”と沈む。

 焦って前足を引き抜こうとすると今度は後ろ足が沈んだ。


「【流砂】」


 それは映画のような丸々呑み込むものではなく精々1メートルちょっとの深さだ。

 動こうとしなければ流砂で急激に沈むことはない。

 しかし、地面に呑み込まれるという初めての体験に恐怖を感じた魔熊は足をどうにか引き抜こうともがくが、その度により深く沈んでいき、頭が砂地へと近づいていく。

 魔熊はよりパニックになった。

 せめて立ち上がっていればもう少し違ったかもしれないがカイリは立ち上がるのを一度逆手に取り反撃しており、魔熊はそれを警戒して立ち上がることなく攻撃に移ったがそれも想定の内だ。

 それを誘った。

 この四日間、様々な魔物の群れと戦い獣以上に賢い種が多いことをカイリは学んだ。


 ザッ


 カイリは今度は用心深く失明した側に回り込み刀を振り下ろす。


 大きな頭がゴロンと地面に落ちるとゆっくりと砂の中に埋まっていく。


 遅れて迫ってきた魔蜂にあっては風魔法で続けて動きを妨害しながら一匹ずつ確実に仕留めていった。

 その様子をバゼルは魔犬と魔猪を相手にしながら脇目で見ていた。


(なんでアイツはっ!)


 ふと魔物から目を離した隙に左側から衝撃を受ける。

 バゼルは魔猪の突進をもろに受け十メートル程吹き飛び纏っていた闘気が揺らぐ。

 そこへ魔犬の群れが追撃で口を開き食らいつく。


 その瞬間魔犬の居る地面がはぜ、魔犬らは火だるまになり地面に転がった。

 バゼルは立ち上がると身体からは先ほどよりも色濃い赤いオーラが浮かび上がり激しく波打つように渦巻いていた。

 バゼルの闘気法を目の当たりにした魔猪は一瞬躊躇したものの後ろ足で地面を蹴り慣らし突進の構えを取ると全身の毛を逆立てうなり声を上げる。

 バゼルが身構えた瞬間、


 “ザンッ”


 魔猪の脳天に翠の刃が突き刺さり白目を向き地面に倒れる。


 カイリは足元の魔猪から刀を引き抜く。

 すると前方から迫るモノに気付き咄嗟に飛び退く。


 バゼルの拳がカイリの先程までいた場所の空を切ると“ボボボッンッ”と炸裂音が響き渡る。


「……危ないなぁ。

 何するのさ?」


 これには流石にカイリも顔を険しくする。


「何してんのかはお前だろ!

 あれは俺の獲物だ!

 勝手な真似すんじゃねぇ!」


「…………」


 だがカイリはその言葉を聞くとバゼルを無視して歩き出した。


「待てよっ!」


 背後のバゼルの闘気が膨れ上がるのを感じるとカイリは立ち止まり、アイテム袋に手をいれるとあるものを取り出した。

 手には刃物が握られていた。 

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