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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
第2部 討伐遠征
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大森林の探索 1

 サイファーは簡潔に告げるとさっさと街に帰ってしまった。


「さて、大量発生した魔物を倒せってことだけど何の魔物だろうね?」


「“何の魔物だろうね”じゃねぇ!

 いいから縄ほどけよ!

 ってかこの縄なんだ?さっきから無理矢理千切ろうとしてんのに切れねぇぞ」


 地面に芋虫のように寝転がっていたバゼルが怒鳴る。


「仕方ないなぁ。

 あ、この縄いいでしょ?

 ここ来る前に大きなお店で買ったんだ。

 高かったけど」


「お前、ほどいたら覚えてろよ」


「そんなこと言われたら怖くてほどけないよ」


 そんなやりとりをしていると草むらからゴブリンが5匹飛び出してきた。

 手には欠けたナイフや錆びた盾を持っている。


「おい!早くしろ!」


 身動き出来ないバゼルの顔がひきつる。


「……あれ?固くてほどけない」


「てめぇ、ふざけんなよ」


 バゼルはぶちギレすぎて顔が笑っている。

 さすがにおふざけが過ぎたか。


「足は僕だけど手首はサイファーさんだからね。

 ちょっとじっくりほどくから待っててよ」


 そんな悠長なことを言うカイリの背後からゴブリンらが同方向から襲いかかる。

 それを一瞥すると懐から取り出した投擲ナイフで手前と奥のゴブリンを一匹ずつ仕留める。その中間にいたゴブリン達は前後の悲鳴を聞いて動揺して足を止める。


 カイリはその隙に腰の裏に提げた魔法袋を元にしたポーチから黒い槍を取り出すと横に一薙ぎし一匹、前に出た勢いで突き出し2匹をまとめて刺殺した。


 再びカイリはバゼルの元に座り込み縄をほどきにかかる。


「真面目な話なんだけど大量発生って今のゴブリンかな?」


「ああ?もしゴブリンならゴブリンキングが出たことになるな」


「ゴブリンキングは手強いの?」


「いや、ゴブリンキングが生まれたばかりなら俺単独で撃破出来る。

 厄介なのは周りのゴブリン共だ。

 雑魚の癖していっちょまえに連携して攻撃してくるようになる。

 そうなると数が多いせいで厄介だ。

 だが今のゴブリンの動きはバラバラだったからな。

 ……まだはっきりは言えねぇが大量発生したのはゴブリンじゃねぇと思う」


「なるほどね。 なら僕が東から森を回るからバゼル君は西から回ってくれないかな。

 この森はかなり広いし警戒しながらだと2日は掛かるかもしれないけどその方が」


「やだね」


「ん?」


「なんで俺がお前に協力してやらなくちゃいけないんだよ」


「違うよ。 お互いに協力しあうんだよ」


「はっ、お前は口が上手いからな。

 この森は高くてもBランクの魔物がせいぜいだ。

 Aランクの俺は独りでどうにかなるがお前には厳しいだろ。

 得するのはお前だからな。

 どうしてもって頭を下げて頼み込むなら考えてやってもいいけどよ」


「確かに僕も得をするけど君も得するだろ。

 一応僕の力は知ってはずだけど、選考会で。

 それに君は冒険者ランクBのバゼル君だろ?

 鯖読むなよ」


「っ、お前、選考会でマグレ勝ちしたからって調子乗るなよ。

 そのあとの模擬戦では全部俺が勝ってるんだからな」


 選考会が終わったあと、カイリはサイファーとの訓練の他、バゼルに()()、模擬戦を多くこなしていた。


「そうだね。

 模擬戦では負けなしのバゼル君」


「あぁ?」


「はぁ、いや止めよう。

 取り敢えず僕は独自で調査するから何か分かったら君に知らせる。

 その代わり君も僕に情報を教えてよ」


「てめぇ、それ言い方変えただけで内容は一緒だろうが」


「バレたか」


「俺は俺で動くからな」


 そう言ってバゼルはどすどすと森の中に入ってしまう。

 その背を見送りながらカイリは一つため息を吐く。


「しょうがない、せめてバゼルの向かった先とは別に回るか」


 するとカイリは幾分も進まない内にゴブリンの群れと発見した。


(あちらは気付いてないな。

 ……ゴブリンキングか、もう一度確認するか)


「アウラ」


 カイリが呼ぶと目の前に翠色の光と共に妖精が姿を現す。


「はい!ご主人様!」


 アウラはカイリに呼ばれて嬉しそうにする。

 するとすぐに近くにいるゴブリンに気付く。


「支援魔法ですね!任せてください!」


「あ、いや支援魔法は大丈夫だよ」


「え?」


「この近くに魔物がいないか警戒してくれないかな?

 あと上空に翔んでこの森の形を把握して欲しいんだ」


「ご主人様は?」


「俺はあのゴブリンと戦ってアレらがゴブリンキングの指揮下にあるか確認するよ。

 アウラも他の魔物に見付かったら許可なくすぐに精霊界(あっち)に帰還して」


 魔物の中でも低位に位置するゴブリンならばカイリにとって援護魔法や身体強化魔法もいらない。

 普通に生身で難なく倒せるだろう。

 ただ、もしゴブリンキングの指揮下で仲間を呼ばれたら厄介なので敵の増援の有無、方向を確認したかったのだ。


「……はい」


 アウラがどこか元気ないように感じるもカイリはゴブリンに意識を集中した。

 いくら力量差があるとはいえ油断は出来ない。

 何かあっても助けてくれる者はいないのだから



 結果、何の問題もなくゴブリンを倒した。

 ゴブリンには大した連携もないことからバゼルの推測が正しいだろうと納得する。


(そもそもサイファーは魔物の大量発生としか言っていなかった。 特定の種によるものではない?)


「ご主人様!北と東に別々の魔物の群れがこっちに向かって来てます!

 あとこの森の形はひし形でした」


「分かった。 ありがとアウラ助かった。 次はおそらく夜に呼ぶと思うから一旦戻って」


「えっ……」


「ん?どうかした?」


「いえ、わかりました……」


 アウラは翠光の粒子を残し精霊界へと戻る。


「……取り敢えず森の境界沿いに進むか」


 少しアウラの様子が気になったものの、探索の時間はそれほど余裕はない。

 意識を戻し更に森の中へ踏みいる。

 その後、カイリは獣型の魔物7種、昆虫型の魔物4種、いずれも群れと遭遇した。

 餓虎のファミリアでは戦闘訓練だけでなく、魔物の情報も教えてくれてたので今のところスタンダードな魔物としか遭遇しておらず、DやEランクの魔物がほとんどだ。

 カイリは危なげなく魔物達を撃破していった。



 2日目


 カイリは魔物の群れを潰しながら引き続き森の中を探索すると冒険者の物と思われる装備品を見付けた。

 地面に突き立った槍などはまだ新しい。

 遺体は、見当たらない。


(魔物に食われたのか)


 地面に散らばる遺留品をいくつか収納ポーチに入れる。

 亡くなった冒険者の遺物をギルドに届けるとそれは遺族に引き渡される。

 命の保証など無く、そして軽い冒険者達にとっての暗黙の掟だった。

 すると地面が不自然に盛り上がっていることに気付く。

 もしかしたらと思い、掘り返すと装備品の持ち主と思われるしゃれこうべがでてきた。


(あとで食すように魔獣が埋めたのか?)


 カイリは手を合わせながらも何か違和感が拭えなかった。

 ふと顔をあげるとそこには鮮やか過ぎて不気味に映る朱い花が咲いていた。



 3日目


 カイリはあれからいくつかの朱い花を見つけた。

 その中で一つの推測に確信を得た。

 来た道を走って戻る。

 その最中、魔物群れと遭遇率が徐々に増えていく。



 4日目


 カイリは“森の暴虐者”と言われる魔熊を一頭仕留め、もう一頭にさらに一撃を加えたところで他の魔物の大群に追われた。


「っ、こんなところで時間取られるわけにはいかないのにっ、【アウラ】!」


『はい!』


「あいつらを引き離してバゼルと合流する。

 支援魔法を頼む!」


 カイリは風の加護を受けると斜め上空に【火球】を放つ。


「まさか遊びのつもりだったのがこんなところで役立つとは」


 魔法を放った手をグッと握り込むと大きく開いた。

 すると火の球は花火のように空で弾ける。


 カイリは支援魔法の風の力を借りて勢いよく駆け出した。

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