第78話 貸し
次で第1部を締めます
夜9時過ぎころ投稿予定です
コンコン
部屋にノックの音が響いたと思ったらこっちが返事する間もなく扉が開けられ、そこにはサイファーが立っていた。
「ちょっとサイファー、場所が場所なんだしいい加減マナーくらいちゃんとしなよ」
その後ろからヨウゼンが顔を出す。
「あ? お前がノックしたろうよ。
それにこんだけそこのエルフの声が廊下に響いてるんだから別に返事なんていらねぇだろ」
注意するヨウゼンを怠そうにサイファーはあしらいながらもこちらに目を向けた。
なので軽く会釈で返す。
「あ、ども」
「よう」
「あんたら、あんだけ激しく戦ってた割には軽くない?」
さっきまで晩酌問題で頭を抱えていたソフィアが呆れていた。
「まあ、あれは試合ですし」
「そうだな、だが悔しくねぇのか?」
ちゃちゃを入れるサイファーの言葉にカイリは口許を綻ばせながらも目は笑っていない。
「はっ、良い目するじゃねぇか。
遠征中は俺が面倒みてやる」
なぜかその態度を気に入ったサイファーが申し出てくる。
カイリにとってそれまで横柄とも取れるマイペースなサイファーのイメージからは以外な言葉だ。
「いいんですか? 試合に負けたのに」
「ああ、勝負は無効扱いだしな」
「無効?」
「なんだ聞いてねぇのか?
流石に俺が乱入するのは駄目だとよ。
その代わり特別試合の賭け金も払い戻しだ。
もっとも特別試合でお前に賭けてたのはそこの蒼エルフだけだがな」
「うぅ、本来はその超大金があたしの所に舞い込むはずだったのに……。
空気の読めない馬鹿が乱入するから」
「あっ?」
「でも、戻ってきたなら良かったじゃないですか」
空気が一瞬ピリッとしたので取り敢えずフォローする。
「…………」
「……あれ?」
すると何故かソフィアが無言になってしまったので首を傾げているとヨウゼンが教えてくれた。
「それがねカイリ君、先輩のお金は没収されちゃったから」
「没収?」
「僕がちょっと上司の借金整理をしていたら導師も何かピンと来たのか先輩の賭け金を没収したんだ」
「なんでまた?」
「今までくすねてた酒代だって。
結構本気で高いお酒もあったから……」
どうやら思っていた以上に怒っていたようだ。
「遠征の準備はどうするんですか?」
「まあ先輩は無詠唱魔法なんで装備を揃えたり整備したりもそんな要らないし、食料とかはまあ王国持ちですから」
「イヤッ!
国から支給される物なんてたかがしれてるじゃない!
あたしも遠征中は美味しいおやつを間食したりふかふかの良い高級寝袋で寝るの!」
この王国軍幹部は遠征を遠足か何かと勘違いしてるんじゃなかろうか……。
取り敢えずソフィアを無視して会話を進める。
「……で、身体の方はどうなんだ?」
「ええ、聖女様のお陰でなんとも」
「そうか」
「そっちは……なんとも無いみたいですね」
「ん、ああそうでもないぞ」
「?」
サイファーはそう言って左頬を指差す。
その指の示す先は赤くなっていた。
「火傷?」
「ああ、最後の魔法だが闘気を纏わなかったらこの程度じゃすまなかったな。
まあこれをお前が一撃とカウントするかどうかは任せるがな」
「カイリ!」
ソフィアの目が光る。
「はぁ、わかってますよ」
その目を見て、
「それを一撃としてカウントは出来ませんよ」
「あぁぁー!?うちの弟子が真面目だったぁ!」
「いいのか?」
「別に稽古つけてもらえるなら構いませんよ。
あと師匠、賭け事は自己責任ですから」
「うぅぅ、どうしてよぉぉ!?」
みるみるソフィアの瞳がぐにゃあ~となっていった。
賭けの報酬などあてにしてはいけない悪い例だ。
「サイファー、その稽古の件なんだけどさ」
「なんだヨウゼン?」
「それって僕との交換条件のはずだよね?」
「そういえばそうだったな」
「賭けになってなくない?」
「元々は片手間で時間の空いてる時にみるくらいの条件だったろ。
それなら冒険者側の指揮は他の奴に任せて、道中はコイツの稽古つけるってのでいいだろ」
「それ、サイファーが指揮執ったりするの面倒なだけだよね。
駄目だよ。
特に今回は冒険者側の指揮は君に執って貰わなくちゃ」
「めんどくせぇなぁ。
他にSSランクならいるだろ。
あのドワーフのジジイとか適役だろ」
「あの人には他のサポートを頼むつもりだから駄目だよ。
サイファーがもしそれで通すなら僕の方で新しい条件つけるけどいいよね?」
「はぁ?お前の追加条件なんぞ聞いてられるか!
おい、ガキ。 稽古以外の要求はあるか?」
「ちっ、惜しかった」
「聞こえてんぞヨウゼン!
お前ガチで厄介な案件投げる気だったろ!?」
なんかこの二人仲良いな。
取り敢えず稽古とは別に何か希望を聞いてくれるらしい。
「そうですね、じゃあ…………」
新しく要望を告げるとサイファーは苦い顔をした。
「……それは駄目だ」
「いいじゃないかサイファー。
実力的には問題ない。
というかカイリ君は彼の事情知ってたんだね」
そりゃあ試合の合間にでも情報を集めるのは常識だ。
もとより有名な冒険者パーティーだから情報を集めるのは思いの外簡単だった。
「ヨウゼン! お前には理由を前に言ったろ!」
「聞いたけど、それこそサイファーの言い分だけだ。
本人の成長を思うなら、僕はカイリ君を支持する。
それに彼にとってもカイリ君の存在はいい刺激になる。
間違いなく意味のあるものになるよ。
第一キミは過保護なんだよ。
キミも、ボクも冒険者だ。
冒険者は、冒険者だからこそ死を恐れなければならない。
でもそれ以上に自分の意思を尊重すべきだとボクは思う」
「……とてもギルド幹部の言葉とは思えねぇな」
「現場は退いたとはいえ、僕は冒険者だよサイファー」
ヨウゼンのその言葉はサイファーに問いかけるには十分だったようだ。
「…………わかった」
サイファー達との話も終わり二人は一緒に帰っていった。
ソフィアはなかなか帰ろうとしなかったが導師が来て捕まっていった。
その後、ユハナさんやクラウスさんとヴァネッサさんも来てくれた。
深夜になり、身なりを整えると部屋を出る。
幅広い廊下に魔道具の燭台が設置され歩くのに問題はない。
まあ、こんな建物に訪れることは今後ないだろう。
導師がソフィアを連れていく際に聞いたが、なにやら賭けで儲けたお礼に王様が部屋を貸してくれたらしい。
いやそれでいいのかとも思ったが導師やクラウスさんとも顔見知りということで警戒する必要はないと判断したようだ。
建物を出て正門に向かうと門番がお勤めしていた。
「こんばんわー、お疲れ様です」
「こんばん、は?
ちょ、ちょっとお待ちを」
「はい?」
「はい?じゃなくてこんな時間に何を」
「ああ、ちょっと素振りをしようと思って」
脇の刀の柄をコンコンと叩く。
「素振りって、もしかして嬢ちゃんがあのクラウス様の弟子か?」
色々違うんだが、説明するのもめんどくさい。
クラウスさんには夜中に稽古するのに外出したいとは伝えてある。
「わかった。 今夜の当直に伝えとくよ」と言ってくれた。
するとヴァネッサさんが言葉にしてはいけない意味の変人を見る目をこちらにしていたのにはちょっと傷付いた。
「クラウス様から聞いてる。
通って良いぞ。」
「どうも。
朝方には戻るんで」
「いいが朝方って……。
まあ嬢ちゃんなら野盗や人拐いに遭うことはないだろうが気を付けるんだぞ」
親切な門番と別れるとすぐに後をつけてくる気配に気付く。
と言っても元々気配を隠すつもりもないようだ。
「何の用?」
振り返りそこにいたのはバゼルだった。
バゼルは頭に包帯をぐるぐると巻き、こちらを睨んでいた。
「……仕返し?」
「ちげぇ!
お………………だろ」
後半ボソボソと何か言っているがこちらは聴力は普通なので聞こえない。
別に鈍感系主人公を気取っているつもりはない。
ましてや相手男だし、それに何しに来たかは予想がついていた。
まあそれでもからかうんだけど。
「え、何だって?」
「っ、お前がサイファーの兄貴に頼んでくれたんだろ!?」
予想は当たりのようだ。
「いつもは参加させてもらえなかったチームの遠征会議に『お前も入れ』って兄貴に言われたんだ。
理由を聞いたらお前に頼まれたからだって」
自分の力で遠征行きを勝ち取りたかったバゼルの顔は複雑だった。
「取り敢えず礼を言う。
あと試合前に散々馬鹿にした。
わりぃ」
不器用な少年の感謝と謝罪の言葉はぶっきらぼうな分、本心からであることが伝わった。
若いなぁ。
「謝罪は受け取ったけど、気にしなくていいよ。
僕も試合前に散々煽ったから」
「そうか。
……お前、良い奴だ――」
「けど、感謝の方はもっと気にして貰わないと」
「は?」
「だってそうでしょう。
SSランク冒険者が何でも言うこと聞くって言ってくれてる(何でもとは言ってない)のを君の為に使ったんだからありがとうの一言で終わらせられちゃあ困るよ」
「なっ、」
「だからって特に君にやって欲しいことは無いからね。
これは貸しだから」
「くそっ!お前性格悪くねぇか」
タダより怖いものはない、という言葉があるがその通りだと思う。
まあ貸す側だからこそ気楽で居れるが。
恩知らずからの債権はさっさと回収した方がいいが、獣人族は恩義を重んじる種族と聞いているから多分大丈夫だろう。
「話は終わり?
なら僕は行くから」
「なっ、どこ行くんだよ!」
「稽古しに」
「……今からか?」
バゼルからまで変人を見る目で見られた。
「怪我は治してもらったしね。
キミは……まだゆっくりしてた方がいいんじゃない?」
「なっ、うるせぇ!
俺も今から修行するところだったんだよ!」
「ふーん、そう?」
「じゃあな!」
スタスタスタ
スタスタスタ
「なんで付いてくんだよ!?」
「いや、どこで稽古するのかなと思って」
「あ、俺ら“餓虎”の訓練場だよ」
「へぇー、王国冒険者パーティー最強の一角のとなれば訓練場まで所有してるんだ」
スタスタスタスタ
スタスタスタスタ
「だからなんで付いてくんだよ!?」
「いや、いつもは騎士団の第二訓練場を使ってるんだけどクラウスさん居ないのに使うわけにも行かないじゃん?
だからってその辺の路地で剣をぶんぶん降ってたら近所迷惑だし」
「それとウチの訓練場が何の関係あるんだよ!」
「借りようと思って」
「はぁ!?
部外者を入れるわけ――」
「ああ、大丈夫大丈夫。
サイファーさんから訓練つけてもらうことになってるから部外者ではないし」
「兄貴から!?」
「ということで行こうか」
「うっせぇ!
付いてくんな!」
王都の夜道を走るバゼルと喋りながら付いていく。
「うっせぇーぞ!!何時だと思ってんだ!!」
民家から罵声を受けながら。
「ほらバゼルのせいで怒られた」
「っ!?」
ん? そういえばソフィアは魔法師団の訓練場を使いたがらない(っというか導師のところに行きたくない)し魔法の訓練もそこでやれば良くね。
「うぃーくしゅんっ!」
カイリがそんなことを考えていると、世間のエルフのイメージとはかけ離れた姿で腹を出して寝ている蒼エルフがくしゃみしていた。
「んあ?まだ夜じゃん。
……カイリも今日はいないし、とりあえず寝酒でもするか!」




