第77話 いつか言ってみたい言葉
遅くなりました。
本日、3話投稿予定です。
間に合わなかったらすみません。
「知らない天井だ」
取り敢えず使い古されたギャグを呟いてみた。
いや、ギャグではないけど。
でもいつか“この先は地獄だぞ”も言ってみたい。
そんな下らないことを考えながら周りを見渡すと本当に見たことのない部屋、それもやけに豪奢な壁や天井や魔道具による照明。
そして前世でも触ったことないようなふかふかのベッドの上だった。
確か気を失って……
肩を回し、拳を開いたり閉じたりして身体の調子を確かめると何処にも痛みや怪我はなく、唯一魔力欠乏による脱力感が残るのみだった。
「……?」
確かにあのとき右腕は折れて肩は脱臼していたし、他にも多数の負傷があったはずだ。
前世でもそれらの怪我はしたことがあるので間違えない。
ふむ?
考えてもわからないものはしょうがないので知っている者に聞くことにした。
先程からベッドの足元に上半身を臥せさせて眠る蒼髪エルフを起こす。
(心配、させたかな)
「師匠、起きてください。 師匠!」
細く柔らかい肩を揺すると前髪が揺れ動き、さらさらの髪に窓日が反射することで蒼空の色のように透けて輝いていた。
少女の面影を残す整った顔立ちに思わずじっと見てしまう。
「う~ん、んぅ」
いつもよりも眠りが浅かったのか起きる反応があった。
目元はうっすらと赤くなっており、それの意味を考える。
自分の遠征同行の意味を考えると心苦しくなる。
それでも変えれるモノと変えたくないモノがある。
寝ぼけ眼のソフィアの顔が徐々に上がると頬には雫が。
そして、雫は口許へと流れ、否。
口許から頬に架けてヨダレが糸をひいていた。
「汚っ!?」
よく見ると上質な毛布は無惨にもベトベトに。
「ん、あ、おはよう」
「お、おはようございます。 とりあえず顔」
水差しが置いてあるテーブルの上にあったタオルで顔を拭ってやる。
(あれ?よく見るとこれ雑巾だな……まあいいか)
「師匠ここは?」
「客間だよ」
「客間?」
「あれからカイリが気を失って治療院へ搬送するってなったんだけど、この部屋の持ち主が提供してくれたの」
「提供って、なんかやけに豪華な部屋ですけど」
前世から貧乏性だったことからあらためて認識すると何だかこの部屋は落ち着かない。
壁にも高そうな画が飾ってある。
とてもじゃないが平民の子供に貸すような部屋ではない。
「そりゃあこの国で一番偉い人間の建物だからね。
本来なら国外の賓客が使うような部屋だから」
「それって――」
コンコン
言いかけたところをノックに遮られ、反射で扉の外の人物に「どうぞ」と促す。
ガチャリと扉を開け入ってきたのは白、いやうっすらと淡い桃色を浮かべた髪の美少女だった。
この世界に来て赤やら金やら銀やら多様な色の髪の人を見てきたが、初めて見る髪色だ。
「ああ、よかった。 お目覚めになられたのですね」
その声は可愛らしくもどこか気品に溢れていた。
タイミング的にももしかして、
「お姫様?」
「まあ」
その言葉に軽く驚きながらもクスクスと笑い出す。
笑い方も淑やかで周りにはいないタイプの女の子だ。
「…………」
「ふふっ、お姫様、ふふっ――」
が、どこかツボに入ったのかいつまでも笑い止まない。
うーん?
困っているとソフィアが代わりに答えてくれた。
「この娘は“聖女”よ」
「聖女って、聖教国の?」
“聖教国”が信奉しているのがセラ教。
そのセラ教の法王と並んで有名なのが聖女の存在だ。
王国の国教もセラ教だがあくまで王族が中核を担う国の為、同じセラ教にあってもやや形式が違うようだ。
「ちなみにカイリの怪我を治してくれたのも彼女だよ」
「そうなんですか。
ありがとうございます」
頭を下げながらも疑問が思い浮かぶ。
(でも確か成長期における骨格に関わる怪我は安易に回復魔法での治療は良くなかったような……)
こちらの疑問を汲み取ったのかソフィアが教えてくれた。
「回復魔法に関してなら問題ないよ。
聖女の扱う治癒魔法は特別だから」
「なんでそんな人が俺なんかの治療を?」
疑問に思い聖女を見るとクスクスとまだ笑っていた。
いや、どんだけゲラなんだよ。
「ふふっ、すみません。
あのですね、私カイリ様の試合を観て感動したんです」
「試合?」
「はい。
私も国王陛下とご一緒に観覧していたのですがとても強い獣人の冒険者相手に引かずに戦う姿に感銘を受けたんです」
「はあどうも」
ぐいっと迫る勢いで力説する聖女に少し引くが彼女は構わず続ける。
「聞けばカイリ様は私と同い年というではないですか!
あんなに全身に怪我を負いながらも立ち上がるお姿に勇気を頂きました。
治療はそのお礼です」
俺的には一方的にボコられただけのような気がするのだが……。
「それにカイリ様も遠征に出られるとのことで、道中仲良くしていただけると嬉しいです」
「聖女様も参加するんですか?」
他国の重要人物がそんな危険な遠征に参加するというのが信じられなかった。
「本当は遠征途中で合流のはずだったんだけどね」
ソフィアが呆れ顔で聖女を見る。
「ふふっ、我が儘を言って王国へ遊びに来てしまいました」
「ババァが聖教国のお偉いさんとの調整に苦労したって愚痴ってたよ。
機嫌悪いからあたしにも当たり強いし」
導師がソフィアに当たり強いのは本人の責任だと思う。
「導師様にはご迷惑を掛けましたが無理言って来て良かったです。
こうしてカイリ様とお話しする機会も得ましたし、ずっとお会いしたかったソフィア様とも会えましたから」
「ん?師匠は聖女様と顔見知りなんですか?」
「んーん、今代の聖女とは初めて。
先代の聖女とは……まあ友達の友達だから一回だけ話したことあるけれど」
「えっ、師匠に友達いたんですか?」
「そこっ!?
友達くらい、い、いるし!」
「例えば?」
「ポコナとか、あと、あと……レイラちゃんとか!」
「…………」
二人目でレイラが入ってる時点で色々察した。
「ソフィア様のことは先代からよくお話しをお伺いしていました。
お会いしたらよろしく伝えるよう言伝てを預かっています」
「そう、あの娘元気にやってるの?」
「はい、あと……先代がアレがあるなら買い取りたいと言ってまして」
その言葉でソフィアの顔が引き吊る。
「あ、アレって?」
「ああ!失礼しました。
詳しくジャンルをお伝えした方が良いですよね。
ですが先代は開拓されて今はどのようなジャンルでも構わないと。
あえて指定するならば、最近ですと大人の女性が小さな男の子を「わーわー!!」のシチュエーションにハマっています」
ソフィアが聖女の言葉に奇声を上げて割って入る。
それを聖女は「?」と可愛らしく首を傾げている。
「あ!まさに今のソフィア様とカイリ様のよ「あーあーあー!!」」
ソフィアは再びゼェゼェと息を切らしながら言葉を重ねる。
「せ、先代、は、ハァ、ハァ、一体この娘に何を、ハァ、教えてるのよ……。
ちょと、その話はあとで、ね」
息を整えると何やら聖女に耳打ちする。
「……!、!……!
ありがとうございます!
先代も喜びます。
ああ、私ったらいけませんね、あまり長居しても良くないので私はこれで。
カイリ様も怪我は回復しても魔力欠乏は治っていないので無理はなさらないでくださいね」
聖女は美しい所作でお辞儀をすると退室していった。
「……師匠、聞きたい話があるんですけど」
「な、なんでもないよ? か、カイリにはまだ早い話だから!」
「? よくわからないですけど、トーナメントの事です」
「あ、ああ!そっちね!」
他に何がある?
「……ありがとうございます」
「……」
「最後まで信じてくれて」
顔を上げソフィアの眼を真っ直ぐ見る。
「うん、今度は止めなかったよ。
ポコナの時に、教えてもらったから。
まあ最初は思わず身体動いちゃったけど。
それに、カイリが王都に来て短期間の中どれだけ頑張って来たか知ってる。
……サイファーとの試合の結果、聞かないの?」
その問いに首を横に振った。
「ええ」
蒼炎の槍が当たる寸前、サイファーの周囲に赤いオーラ、闘気が見えた。
出来ればあれが出る前に決めたかったのだ。
それにやはり魔法の強化を重ねる場合、特に上級から超級へと昇華させるのに多少の間が出来てしまっていた。
「それに魔力操作の技術がまだまだですね」
「ふん! 最近ユハナと魔道具造りにかまけてあたしとの修行の時間減らすからだよ!」
うーん、どうやらユハナさんと魔道具作りに没頭していたのがバレていたようだ。
「はい、そうですね」
「次からはあたしとの時間が優先だからね!」
ソフィアが腰に手を当ててたいして無い胸を張って言い放つ。
「わかりました。
次からは夕飯後も修行をお願いします」
「あれ?そういう話じゃ」
「確かに魔力操作の時間物足りないと思ってたんですよ」
「いや、それじゃああたしの晩酌の時間が」
「やっぱり師弟の時間は大切で優先すべきですよね」
「うぅー」
コンコン
ソフィアが真剣に思い悩んでるところ、また新たなお客さんが来たようだ。




