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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期 ~王都編~
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第75話 特別試合の条件

「餓虎のメンバーのバゼルが負けた?」

「マジかよ……」

「何者なんだあのは子供は?」

「俺の賭け金(全財産)が……」

「やべぇ、すっからかんだ……母ちゃんにどやされるっ」


 会場は唖然としていた。

 そして次第にざわつきはカイリへの称賛とバゼルへの罵声へと変わる。


 そんな中、カイリの周囲を緑の光が忙しなく飛び回る。


「さすがご主人様です!」


「アウラもお疲れ。

 アウラのおかげで勝てたよ」


「そんな、僕なんて何もしていないです」


 精霊の女の子は謙遜しながらも嬉しさを隠せないのかモジモジしている。


「そんなことないよ。

 風纏の操作、だいぶ上手くなってたじゃないか」


「そ、そうですか!?」


 夜な夜な王都の屋根の上を走り回った甲斐があったというものだ。

 アウラは今までイジメられていたせいか、自分に自信がない。

 確かにアウラは攻撃魔法は使えないが、使えないなら使えないなりの闘い方がある。

 これを機にもっと自信をつけて欲しいと思う。


「っ…」


 二人のやり取りの後ろで仰向けから身を何とか起こす者がいた。


「一一くっ!」


 脳震盪の影響からかまだふらつく足どりで立ち上がると赤い滴がポタポタと石畳に斑点を描く。

 バゼルは頭から血を流しながらもカイリを睨み付ける。

 その眼光には戦う前以上の殺気が宿っていた。


「ひっ」


 アウラはビックリしてカイリの肩に身を寄せる。


「ご、ご主人様! とどめを!」


「いや、とどめとかそういう大会じゃないから。

 それにもう勝負は終わったし」


 アワアワするアウラを落ち着かせようと説明するもアウラの怯えはおさまらない。

 それもそのはずで既にバゼルは殺気と共に再び赤い闘気を纏い始めていた。


「何してるの?

 もう終わりだけど」


「終わってねぇ!

 俺がお前なんかに負けるわけがねぇ!」


 バゼルが闘気を纏った足で血の着いた石畳をスタンプすると爆発が起こる。

 その衝撃と音でそれまで騒いでいた観客達が不穏な空気に黙る。


 だがカイリはそんなバゼルを見てため息を吐いた。

 試合前と、逆だ。

 既にカイリはバゼルに興味を失っていた。

 その様子を、バゼルは正確に理解した。


「構えろ!」


「は?だから何でさ?

 君が幼児の様に地団駄を踏んで駄々を捏ねても勝負は俺の勝ちだし、これ以上やる意味がない。

 そんなこともわからないのかな?

 強く頭打ち過ぎた?」


「……殺す」


『やめなさいバゼル!

 もう勝負はついたんだ。

 リングから降りなさい!』


「うるせぇっ!

 俺は、俺は負けてねぇ!!」


 止める審判を突き飛ばすと爆炎とともに突進してきた。


 カイリとバゼルの距離はあっという間に3メートルを切る。

 が、その間に一つの大きな影が落ちる。

 カイリがその存在に気付いた時には既に目の前に降り立っていた。


「っ!」


 その()と目が合うとカイリの背筋から冷や汗が吹き出す。

 バゼルを迎え撃つつもりだった魔法をキャンセルして後方に跳ぶ。


 だが男は反転しこちらに背を向けるとそのままの勢いで裏拳を繰り出してバゼルの右頬に人を殴ったとは思えないような音が響いた。


 バゼルはゴムボールの様に吹き飛び外野の壁に激突する。

 壁には観客に万に一つも怪我がないようにと防護魔法の結界が張られていたが、それを薄氷のように撃ち抜いた。

 観客にはかろうじて当たらなかったようだが眼帯を着けた小汚ないおっさんが驚いて腰を抜かしていた。


「て、てめぇサイファー!

 わざと狙いやがったな!」


「るせぇ、文句言ってる暇あったら後ろ見た方がいいぞジジィ」


「誰がジジィだ!?

 おれぁまだピチピチの40代のおじ様だ!

 あっちの方だって現役バリバリのバッキバキだぞてめぇ!」


「現役バリバリなら多少……いえ、かなり仕事無茶しても、問題ないですね?」


 眼帯のおっさんが後ろを振り向くといつの間にかヨーゼンが肩を掴んで微笑んでいた。


「げっゼン坊」


 おっさんはヨーゼンに引き摺られて会場をあとにした。


「おし、これで両方大人しくなったな」


 サイファーは肩を回しながらバゼルへ歩み寄る寄るがピクリとも動かない。


 死んだ


 と思った。


「みっともねぇ真似してんじゃねぇぞ。

 仮にもうちのパーティーに籍を置いておきながら情けねぇ負け方した上に見苦しいんだよ」


「一一」


 バゼルは動かない。

 ただの屍のようだ。


 救護班が駆けつけて容態を診る。


「い、息あります!」

「よし、無理に動かさずにこの場で治療をするぞ!」


 生きていたようだ。

 しかしあれは……死んだと思った。

 つーかバゼルもほんと頑丈だな。

 まあ、それならよかったよかった。

 さあて、試合も終わったし控え室に戻ろ……。


「おい、どこ行く?」


 今の内にと気配を消して後退りしていると、背を向けたままの男に呼び止められる。


「……」


 ずりずり……


「……おい」


 ずりずりずり


「おい!」


 ずりピタッ

 リングをちょうど降りたところで男はこちらに振り返る。


「だからどこ行く気だお前は」


「控え室ですけど?」


「何しに?」


「休憩しに」


「疲れてねぇだろ?

 何せ中級魔法までしか使ってないんだからよ」


「いやいや、精霊召喚と併用したので疲れましたよ。

 でわ」


 実際のところ【身体強化】と精霊召喚魔法の併用はかなり神経を使う。

 精霊を召喚中は魔力を常時消費するので他魔法の構成が難しくなる。


「でわ、じゃねぇよ。

 グータラエルフと言い、師弟揃ってふざけた奴らだな」


 おっと、俺の前にソフィアがこの男をイラつかせていたようだ。

 運営席でちゃっかり観戦していたソフィアへ眼を向けると、見られていることに気付いたようで席を立ち上がり手を振ってくる。

 口に何かお菓子を詰め込んでいるのか、頬がリスのようになっていた。

 小さい子がやっていれば微笑ましくも思うが、見た目18才の美少女とはいえ中身○○才?のエルフがやってると思うと感じ方も変わってくる。


「……ぶっさいくだなぁ」


「!? んもぉ、いおうぇわあよカエリ!?」


「いえ、こっちは何言ってるかわかりませんし、口からポロポロなんかこぼれてますよ。

 ……アレと一緒は流石にないですよ」


 カイリとサイファーの間になんともいえない空気が流れる。


「まあ、なんだ。 そうだなすまん」


 男は以外にも素直に謝ってくれた。

 見た目は厳ついイケメンのあんちゃんだが、根は真面目なのかもしれない。


「はぁ、興が削がれた」


 男は頭をガシッガシッと掻く。


「なら、やめましょう」


「あ? 何をだ」


「いや、あなたの当初の目的を」


 するとその返答に興味を持ったのか口の端が上がる。


「言ってみろ」


「いや、言いませんよ」


 言ったらそのまま()()するのが目に見えている。

 男が乱入してきたときに目が合ったが、その眼はこちらを品定めしている眼だった。

 それはまるで猛獣が獲物を見つけた時のような。

 バゼルを止めたのは()()()だろう。


 カイリは今日彼が運営席にいた所を見ている。

 おそらくは冒険者、それでもって遠征関係者。

 良い予感はしない。


「ちっ、ガキのくせに妙に慎重な奴だな。

 うちのなんて考えなしのアホなのに」


 男は治癒魔法をかけられているバゼルを見る。


「なら、もう少し指導してくださいよ」


「まあ、これでも忙しくてな。

 しかも一回叩いただけじゃあ治らないヘソ曲がりだしよ」


「お疲れ様です」


 トンッ


 背を向けてそのまま去ろうとすると振り返ると、いつの間にか男はそこにいた。

 勘弁して欲しい。


「だから待てって。

 やろうぜ」


「すみません。

 僕、男ですし……子供ですよ?

 もしかしてそういう趣味の人ですか?」


 男は何を言われているのか分からなかったのか間を置いて理解したようだ。


「…………ちげぇよ!

 人をどっかの変態貴族みたいに言うんじゃねぇ!」


 えっ、貴族にはそういう特殊な方がいるんですか!?

 貴族マジ怖い。


「ったく、ガキのクセにどっからそんなこと知るんだよ。

 特別試合、相手してやるよ」

「結構です」


「即答かよ。

 お前は、あんなんでもうちの有力な若手を軽くあしらったんだ。

 そんな逃げ腰にならなくても良いんじゃねぇか?」


 よく言う。


「いやいや、あなたと彼じゃ比べ物にならないでしょ。

 そもそも特別試合は討伐本隊でなくて同行隊から選出されるはずですよね」


「お前、俺のこと知ってたのか?」


「いや、知りませんけど」


 そもそも、最初に目が合った時のプレッシャーがクラウス並みだった。

 差がありすぎてこちらの物差しで測れない程に。


「なるほど、慎重な理由はその洞察力か。

 別にこっちは無理矢理試合を組んでもいいんだぜ」


「何を無茶な、そんなのが通るわけ――」


 すると観客が再び騒ぎ出す。


「おい、あれ“餓虎”本人だろ!?」


「サイファーだ!?」


「SSランクのサイファーだ!!」


「きゃー!サイファーさまー!!」


「まさかサイファーがあの子供と特別試合やるのか!?」


「きっとそうだ。

 なんせ自分のパーティーメンバーがやられてるからな」


「Aランクの試合ですらめったに目にすることは出来ねぇのにSSランクの試合とか、一生に一度だってお目にかかることは出来ないぞ!」


「サイファーー!」


 さっきは自分がバゼルに使った手だが、まさか自分に帰ってくるとは思わなかった。


「そもそも特別試合も賭けの対象になってたは筈ですよね。

 賭けとしての――」


「安心しろ。

 特別試合は一口が高けぇからな。

 幼い女子供に賭けるようなフザけた買い方する奴はいねぇ。

 選考会勝者予想は別としても、そもそもお前に特別試合賭けた奴はいねぇだろ。

 問題ねぇ」


「はい!はい!あたしカイリに特別試合賭けてるからそんな試合認めませーん!

 選考会勝者の賭けの分も買わずに特別試合に全部ぶっこんだんだからふざけんじゃないわよ!?」


「まあ、アイツならノーカンだから問題ない」


「はあ!?ちょっと!――」


「はぁ、なんでそんなに特別試合やりたがるのかわかりませんけど。

 それに僕の場合は選考会に勝ち残る事じゃなくて特別試合に勝つことが遠征同行の条件なんで断ります」


「俺と戦って納得させられたら俺が推薦してやる。

 冒険者の代表者は俺だからそのくらいの権限は持ってる」


「いや、いらないです」


「?」


「そもそも、同行隊になら勝てますんで、その条件は僕にメリットありません」


「……言うじゃねぇか、ならどうする」


「あなたと試合をした時点で遠征行きの確約と、もしあなたにまともに一撃を入れられたら、遠征中に稽古つけてください。

 もちろん手が空いてるときで結構です」


「稽古?そんなんでいいのか?」


「はい」


「変わった野郎だな。

 よし、それでいい。

 やるか」


 当初とだいぶ予定は変わったが特別試合(エキシビションマッチ)が始まる。

 一人を除いて盛り上がる観客。


「ちょっと! 賭けは無効よね!? 払い戻しあるよね!?」


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